2020/08/04 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。
マルレーネ > 何時も通り。

「よし、これで綺麗になりましたね。」

彼女は修道院の前で、掃き掃除をする。
夏は暑いが、それでも耐えきれないほどでもない。
"愚痴、文句、相談、懺悔、何でも聞きます"という看板は掲げてはいるが、特にやってくる人も多くはない。

ただただ静かに、彼女は掃き掃除をして、拭き掃除をして。
心を清める時間も大切にする。

マルレーネ > 夏は楽しい。
下手すると、ちょっとだけ。
シスターであることを忘れそうになる。

これは、人生で初の経験だ。
こんなに暑い季節を"楽しんだ"ことなんて無いから。


「だからこそ、しっかりしないとですね。」

頬をぱちん、っと強く叩く。 毎日やるべきことを忘れてはいけない。
例え来訪客は少なくとも! ………退屈はちょっとだけ感じる。

ご案内:「宗教施設群-修道院」に黒井結城さんが現れました。
黒井結城 > 木製の扉をノックします。
最近ではノックは2回がいいとか3回が良いとか意見が分かれるようですが、僕は2回派です。

「すいません、ここでは相談に乗ってもらえると聞いたのですが。」

扉の向こうのどなかたに向かい声をかけます。
事前のアポイントメントも取っていないので不在の場合もあるでしょう。
そうなると、最悪出直しになります。

う~ん、ドキドキしてきました。

マルレーネ > 「……? ああ、はいはい、どうぞどうぞ。
 相談に答えを出せるかどうかは分かりませんが、それでも口にすることで悩みとは方向性を持ってまとまっていきます。
 その手助けでよければ、この修道院でお聞きいたしますね。」

扉を開けてご挨拶をし、やってきた少年を迎え入れる。
金色の髪をした、はっきりと修道女と分かるシスター。
掃除中だからフード外していたので、髪はすっかり露わですが。

「……お茶を入れてきますから、座っていてくださいね。
 他の人に聞かれたくない話であれば、奥に部屋がございます。
 そちらで待っていてくださいね。」

黒井結城 > 「ありがとうございます。
身近では相談しづらい内容なので助かります。
あの、詰まらないものですがこれをどうぞ。」

僕は近くのお店で買ったクッキーの詰め合わせを手渡します。
ブロンドの髪が大層綺麗な年上の女性が出迎えてくれました。
なんだか学校かどこかで見たことある顔をしているような気もするのですが。
口に出すとナンパしてるみたいなので止めておきます。

「聞かれても問題ない内容ですので、ここで大丈夫です。
お茶、ありがとうございます。」

緊張して少し喉が乾燥していました。
お茶はとっても嬉しいです。
口元に笑みが浮かびます。

マルレーネ > 身近な人に相談しづらい………はっ。

彼女には苦手な相談が2つある。
1つ目は家族。 そしてもう1つは色恋沙汰だ。 相談内容としては割と多いそれである。
ど、どうしようー、と迷いながらも少しぬるめのお茶を入れれば、そっと2つ。

テーブルに並べながら、向かい合うように座って。

「……私はマルレーネ。 マリー、とでもお呼びくださいね。
 では、何でもお聞きしますから、どうぞ。」

にっこり微笑んで、お茶を勧めて。

黒井結城 > テーブルに置かれたお茶から良い匂いがします。
お茶の種類はなんでしょうか。
温度は程よく温めで、直ぐにでも飲みたくなりそうな位です。

目の前のシスターが僕の発言で困られているとは露ほども気づきません。

「僕は黒井 結城 と言います。
黒井と呼んで下さい。

お茶、頂きます。」

先にお茶を一口味わって。
喉が渇いていたので、一口のつもりが半分ほど無くなってしまいました。

「あ、そうそう相談内容なんですが。」

こういう時のお約束として、僕は一度咳ばらいをします。

「えっと、修道院で相談して良い内容か分からないのですが…。」

やっぱり恥ずかしいですね。
2~3度深呼吸をしてから口を動かします。

「僕、もう少しリア充になりたいです。」

マルレーネ > 「黒井さんですね、良いお茶を頂いたんですよ、どうぞどうぞ。」

にっこり微笑んで。
多分きっと緑茶。 多分。 異邦人街で貰ったことを除けば100%緑茶。
美味しいは美味しいので大丈夫。

「はい、ここでは………解答が得られるかどうかはともかく、何でも聞いても構いませんよ。
 ええ、何でも。

 ………。」

相手の言葉に、一瞬硬直する。
危なかった。山本くんや輝さんと言ったこちらの言葉に詳しい人に出会っていなければこういった言葉への理解が遅れていた。

「………具体的に言うと?」

黒井結城 > 「凄くおいしいですね。
匂いもとっても良いです。」

香りや味から察するに緑茶の中でもかぶせ茶でしょうか。
後味が良いのでついつい飲み干しておかわり!とか言いたくなりそうです。
今日はお茶を頂きに来たわけではないのでしませんが。

「本当ですか!?
ありがとうございます。」

あまりの嬉しさに両手を合わせていました。
瞳に光が灯っていたことでしょう。

が、僕の相談内容が突飛だったのか。
何故かマリーさんは一瞬ですがフリーズしています。

「具体的に言いますと、僕は今学園の一年で通い始めなんですが。
僕の通っている学校ってすんごいリア充っぽい人が多いと言うか。
THE・青春!って感じの人たちが多くて。
僕って今までそう言ったことに縁がなかったんですけど。
今も全く縁が無くて。僕もTHE・青春!がしたいんですけど。
どうすればいいでしょうか?」

マルレーネ > 「………なるほど。」

腕を組みながら、うん、と頷くシスター。
真剣な相談であるからして、それが例え突拍子の無い相談であったとしても、真剣に答えるのが礼儀。
自分が他人のそういうことに、人生でほぼほぼ興味を持たなかったこともあって。
他人がそういう充実っぷりを見せていることには気が付かなかったけれども。

「まず、前提条件をおさらいしましょうか。」

「いわゆる青春っぽいことがしたい、ということですけれど。
 それって、具体的に言うと……どんなことでしょう。」
「毎日を楽しく過ごして勉強に運動に突き進むのも一つの形ではあるでしょうし。
 部活動、……スポーツで大成をするために動くのもまた、形でしょう。」

うん、と頷く。

黒井結城 > 「いかがでしょうか。」

僕は上目遣いでシスターを見上げます。
採点が終わったテストの答案を貰う時のように表情が硬くなるのを感じました。

「はい。」

首を小さく上下に動かします。

「そうですね…。
部活はやってますし、スポーツはともかく身体は動かしてますし。
今は浴衣を着た子と夏祭りに行きたいです。
僕の居るクラスはそんな空気が充満していますし、商店街もテレビでもそんなことを言ってます。
だから僕も無性に焦ってしまって。
でもどうしたらいいか分からないし。」

ずっと目を合わせるのは少しプレッシャーを感じますので。
シスターの額やブロンドの髪に視線を向けながら口を動かします。
シスターはとても美人ですし、恐らくこういったことにご経験があると思いました。
それに、女性側からの意見を貰うのは大事な気がします。

マルレーネ > 「なるほど。」

なるほど。 これは根深い悩みだ。
根深過ぎて私にはよく分からない。でも分からない、とも言えない。
大人の余裕を見せなければならない。 おっほん。

「………充実、という意味でなら。
 今からお願いして付き合ってもらうのもちょっと違うと言えば違いますよね。」

楽しく充実する。………どう考えても、相手も自分も楽しまなければ充実にはなるまい。

「………例えば、クラスの仲間、集団でお祭りに行く、というのはどうですか?
 お祭りに行きたいと思っている中間と、集団で一度行ってみるんです。
 お祭りというのですから、4人、5人、6人で行ってもきっと楽しいはず。

 そこでこう、一緒に行けそうな子に、今度二人で、と。」

おっ、これは我ながらいい案だ。 一切異性とそういうところに行ったことが無いにしては良い案だ。 自画自賛。 むふーん。

黒井結城 > 「分かって頂けましたか。」

目の前にパァっと光が差し込んできたような気がします。
マリーさんならきっと、天啓を授けて頂けそうです。
あぁ、ここに来てよかった。

「そうなんですよ! お願いして付き合ってもらっても絶対リア充の人たちが醸し出す空気には
なれないですよね。」

コクコクと首を何度も縦に振ります。
やはりシスターは何でも分かって頂けそうです。

「あ……えっと、その……。」

僕は次の返答に窮し、人差し指をお互いにツンツンと突き合いながら目を泳がせてしまいます。
数秒ほど表情が目まぐるしく変わっていたことでしょう。

「僕、その……お誘いできるような友達がいないんですよね。」

マルレーネ > 「それキツくないです?」

困った顔になる。ううむ、これは難しい気がする。
相手の言葉を耳にしながら腕を組む。
修道女として、なんとか解決策を考えねばなるまい。

「では、………男のご友人に、大勢で行こうー、って誘ってもらって、それに乗る、というのはどうでしょう?
 声をかけられるくらいにまで親しくなるように、夏の前にしておかないと難しいのは難しい話、ではありますし………。

 それ以外なら、もうお祭りの会場で知り合いを探してみるとか、でしょうか。」

むむむ、と思い切り悩む。

黒井結城 > 「やっぱりキツイですか…。」

今度は一気に目の前が真っ暗になってきました。
ちょっと前にやったゲームのゲームオーバー画面を思い出します。
迷える子羊を導くシスターの苦悩の表情が突き刺さります。

「えっと、今って夏休みですよね?
リア充の人って…ひょっとしてお互いの連絡先とか持ってるんですか?

お祭り会場で知り合いを探すってのはありかも知れませんね…。
いや、多分他に手段がないですよねきっと。」

ああ、なんでしょうこの感じ。
シスターのおかげで一歩一歩前に進んでいる感じはするのですが。
ゴールは更に遥か遠くに行っているような気がしてきます。
ううん、僕が色々と知らな過ぎたのでしょうが。

マルレーネ > 「そう……ですね。
 おそらくはそうじゃないでしょうか。 一緒に遊ぶ約束、とかは取り付けているでしょうし。」

そういえばスマホを持て、と言われていたなあ。
頬をぽりぽりと掻いて。おそらく……おそらく……。

「そうですね、学校で補習などがあれば、そこで声をかけることはできるかもしれませんけど。

 あ、でも、それこそそういった男性の友人に声をかけて協力してもらう、のもありでは?

 お祭り会場で偶然出会う、となれば、きっと一緒に回るくらいは……OKなんじゃないですかね……?」

うーんうーんと、一緒に悩みながら、いろいろと案を出していき。

黒井結城 > 「そう…ですよね……やっぱり皆さんそれくらいは先にされてますよね……。」

これが布石という奴でしょうか。
僕は特段何もそう言った事前準備が出来ていません。
これではリア充になるなど夢のまた夢でしょうか。

「補習ですか…………こんなことなら敢えて点数を落としておくべきでした。
それって……お祭り会場でお友達を探して声を掛けて一緒に周るってことですよね?
その、いきなり当日で親しくない人が一緒に周ろうって言ってきたら向こうは気まずくないでしょうか。
あちらは既にお約束を取り付けて皆で来られてるんですよね?」

盤面が見えてくるに連れ、僕が自分が絶望的な場所に立っている気がしてきます。
シスターは既に何度も唸られています。
僕と言うと、なんだか目の前で星が回り出しそうな程に気が遠くなりそうでした。

マルレーネ > 「そう、ですね。 それくらいは先にしている、かもしれませんね。
 本来であるなら、今焦って何かするよりも、そういった方とお話になった時に尽きぬ話題を持てるように、努力する夏と位置付けるのも悪いことでは無いと思うんですよね。」

「当日いきなり、も。 男女一人ずつでいるなら避けた方が無難ですが、それ以外ならいいんじゃ、ないでしょうか。
 皆で来ているなら、それこそ人が増えて嫌がる方はいないでしょうし。」

相手の言葉を少しずつかみ砕きながら、うーん………首をひねる。

「問題があるとすれば。
 先ほども言いましたけど、二人になってのお話など、あるんです?」

首をこて、と傾げて。

黒井結城 > 「あぁぁぁぁ、僕は準備が悪いですね。
でも、シスターのおかげで少し方針が見えてきたのでなんとかなりそうです。

そうですね、グループならひょっとしたら入れてくれるかも知れません。」

オロオロしたり、拳を作って喜んだり。
僕は短い間で気持ちが乱気流の様に上がったり下がったりしています。
ただ、やるべきことが見えてきたことは収穫かも知れません。

「話題ですよね?
そうですね、天気の話に食べ物の話、学校の話は用意してるんですが。
他にどんな話がいいですか?
その、女性の立場からでお願いします。」

デッキ構築はそれなりに頑張ってきたつもりです。
ただ、いざ口にすると3つしかカードがありません…。

マルレーネ > 「そうですね、本来ならゆっくりと………友人関係から積み上げていくものですからね。
 ええ、まずはそこから始めていくことが大切です。

 何より、そうやって声をかけようと努力することが一番大事ですからね。
 そして同時に、どんな話題を欲しがっているか考えることもまた、同じくらい大切です。」


「………まあ、食べ物の話題と学校の話題があれば何とかなる、とは思いますけど。
 後はファッションとか………。髪型とか………。

 最近で言うとショッピングモールとか、渋谷の話題とか………。」

最も彼女が苦手な女性受けのする話題。
それを、両手をろくろを回すような形にしながら、必死に紡ぎ出していく。うぉぉおぉ……。

黒井結城 > 「なるほど、踏み出す勇気が大切ということですね!」

僕はまたウンウンと頷いていました。
シスターのお話は学校の授業並みに頭に入っていきます。

「ファッションに髪型ですか…確かに大事かも知れませんね。
あとは渋谷ですか……島の外の街ですよね?」

行ったことが無い場所が出てきました。
そもそも僕みたいな立場の人間は島の外には出れなかったはずです。
ううん、となると図書館やネットで調べるしかないでしょうか。

「わかりました。
後は自分でも調べながらやっていきます。
今日はありがとうございました。
またお時間ある時にお話しさせて下さい。」

僕は立ち上がると、深々とシスターにお辞儀をします。
それから、修道院を後にしました。
抱えこんでいた悩みがある程度解消できたので、帰りは足が軽かったです。

マルレーネ > 「いえ、渋谷は……この島にも似たような場所があって、常世渋谷と言われている、とか聞いたことがありますからね。
 そういった場所についてよく知っている、ということもまた話題の幅に広がるかな、と思いまして。」

何とかかんとかフォローもしながら、がんばってくださいね! と拳を握って応援する。

うん、少年の悩みを一つなんとか………いや、解決までには遠いけれど、お話することができた。
いやはや、そういった悩みもあるんだなあ、なんて、改めて自分の見識の浅さを再確認した時間でした。

ご案内:「宗教施設群-修道院」から黒井結城さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」に伊都波 凛霞さんが現れました。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
共同墓地、その一角にある墓前に献花を終えて、手を合わせ黙祷する

それはトゥルーバイツ…例の一件での死者達を弔った場所

──こんなことをしてもただの自己満足。
犠牲者が報われるわけでも、帰ってくるわけでもない
それをわかっていつつも、人がこういった行動を取るのは…

自責、悔い…そういった行動の、精算なのだろう

紫陽花 剱菊 >  
二度目、三度目か。
此処に足を運んだのは。
死者に足引かれる、等と縁起でもない話なのだが
己に限っては一概にそうとも言い切れない。
そうならない、と言い聞かせ、弔い、重さに声無き喘ぎを零す。

「……凛霞……。」

静かな足取りで、当て所なく歩いていた最中
見覚えのある背を見据え、名を呼んだ。

伊都波 凛霞 >  
手を合わせ、俯き気味に目を閉じる姿
黒い葬列用のドレスも相まって、妙な憂いを感じさせる──

「……──あ」

声をかけられ、ゆっくりと眼を開けて
視線を向ければ見知った顔
あの時、学校での屋上で話して以来かな、と笑顔を作って

「こんにちわ」

飾り気のない、挨拶を返した

紫陽花 剱菊 >  
「……どうも。」

二本指を立て、一礼。会釈。
あえかな表情を浮かべていたと思えば
己を見れば麗しい笑顔。
成るべく其れに合わせるように、此方も少しばかり表情を緩ませた。
仏頂面から、少しばかり穏やかな表情へ。

「……黙祷の邪魔をしてしまったか……?
 格好も、特別なもののようだが……。」

先の背中の雰囲気、間違いなく弔いのものだった。
誰に対しての弔いは。友か、或いは……。
水底のように暗い黒い瞳が、じっと凛霞を見据える。

伊都波 凛霞 >  
「あはは、大丈夫です。邪魔なんてそんな。
 …格好は、気分みたいなモノで」

足元の献花───名前のない墓石
その前で、はにかむ少女

「色々と気持ちの整理もついたので、
 お墓参りくらいはしておこうかなって…」

「そうだ。約束、守ってくれてありがとうございました。紫陽花さん」

屋上での約束
彼と、彼女は帰ってきた──彼は成し遂げたのだと、思った
素直に、そのことについてお礼を言うと、頭を下げる

紫陽花 剱菊 >  
「其れなら良かったが……気分……。」

剱菊のいた世界に喪服等と言う文化は無い。
死者を弔う事は在れど、其れは"日常茶飯事"で在り
仰々しく弔ったりする事は無かった。
個人を想い弔う事は在れど、喪に服すこと等無かった。
相応に此の世界に馴染んできたが、其のはにかみ笑顔と
名前の無い墓石、此の場の雰囲気で其の"気分"は理解する。

「……此方の世界での黒は、斯様な意味が在ったか……。」

生命とは本来、こうして尊まれるべきで在る。
其の扱いの正しさに、付近しながら少しばかり感動を覚えた。

「……否、私一人では成し得なかった……其方と、数多の縁が
 あまねく意志が、彼女を救った。最後の一手が、私だけだったという話……。」

あれらの騒動はまさに知る人ぞ知り、それらの意志が連なった結果。
有体に言えば、"美味しい所どり"に過ぎない。
謙遜でも無く、頭を振った。黒絃の様な髪が細かく揺れる。

「……ともすれば、其方に言いそびれた事も在る……。」

「……『ただいま』、凛霞。」

自分を待ってくれていた縁の一つ。
穏やかな陽の、朗らかな微笑みを浮かべて遅れた挨拶を一つ。

「其方も、思う所在り……と言う事か。
 其の墓は、もしや……"彼等"の……?」

伊都波 凛霞 >  
「そ。気分です。死者を思い、憂いに身を沈める…そんな気分に浸れる…みたいな?」

服装には、そういった効果…というよりは、そういう役割がある
場の空気を乱さない、雰囲気に調和する…
輪、ひいては、和に迎合するための文化の一つだ

「──そうですね。
 皆で必死に手を伸ばして…ちゃんとそれが届いた」

彼の言う通り、でも、それでも"立役者"というものがある
自分はあの時彼の背中を押しただけ、とも言える
言い換えれば、彼に"預けた"のだ
楽をしたつもりはないけれど、それでもお礼を言う必要は、やっぱりあるのだと思っていた

「あ!そういえば聞いてなかったですね、ふふ!」

その言葉を聞けば、心底嬉しそうに少女は笑う
そして「おかえりなさい!」と、親しげにそう言葉を返していた

それから、彼の言葉を聞きながら、自らがした献花の一つへと視線を向ける

「──手が届かなかった、間に合わなかった犠牲は多かったみたいです」

彼らを可哀想、だとは思ってはいけない
でもこうやって、その死を厭うことくらいは…人として、してはいけないことではないと思った

紫陽花 剱菊 >  
「……追悼の意を居住まいで示す……成る程……。」

大袈裟だとは思わない。
即ち此れは調和とも成れば、口無き死者も報われる気もする。
……尤も、剱菊にとって其れ即ち"死"へと近づくともなれば
己が今真っ先に杞憂とする死者への誘いに引っ張られないか、という点は気になった。

彼女の返事に、小さく頷き、名も無き墓石を一瞥した。
其の下に仏は居るのか、恐らくは無いかもしれない。
唯、世界に少しだけ嫌われてしまった無辜の民草。
零れ落ちた。嗚呼、多く零れ落ちた。
今でも覚えてる。只管島中を駆け巡り
見つけ、手を伸ばし、刃を振るい────取りこぼした。
憂いに、眉を顰めた。

「綯交ぜ、激動の様な状況だった……然れど、其方の活躍は耳にしている。
 島を駆け、救えるだけを救えたと聞いた……。」

風の噂程度だ。首謀者以外は皆、程なくして補習を終えて日常へと戻る、と。
だとすれば、其れは大変な功績だと思えた。何よりも……

「─────済まなんだ。息巻いても、私が救えたのは一つばかり。」

「あえかな生命を手にしては、零れ落ち……なかんずく、一入の愚者成れば……」

「……責められるべきも、恨まれるべきも私だろう……。」

そう、だからこそ"美味しい所どり"なのだ。
きっと、力ずくで止めれば多くの生命を助ける事は出来た。
尤も、如何程其れが"無為"な行為か知っていた為、出来なかった。
刃も声も、届きはせず、唯一つの我儘は彼女のみ。
誰の責任か。巡り巡って己だと、剱菊は言う。詭弁と言えば、其れ迄の事。
其れほどの責任を感じているのだ。
静かに、凛霞に、名も無き墓石、深々と頭を下げた。

伊都波 凛霞 >  
「ううん。みんな己の我儘を通そうとしただけですよ。
 私もそう、紫陽花さんもそう。きっとあかねさんも。このお墓の人達も…」

頭を下げる青年にそう言葉をかけ、自らもまた視線を墓石へと移す
当然、我儘なので通らないこともある
我儘が相反すれば、どちらかが譲ることもある
その逆も、また然り

けれど大義名分だけでは救えない命が、確実にそこにはあった……

「紫陽花さんは、責められたり、恨まれたり……それをされないと、気が済みませんか?」

自らの責任を口にする彼へと、やや首を傾げつつそう言葉を向ける

紫陽花 剱菊 >  
「──────……。」

其の通りだった。
故に、返す言葉も無い。
今回は偶々、本当に僅かな僅差で此方が押し通した。
同時に其れは、叶ったかもしれない『可能性』を踏みにじった事。
其れが如何様な事はわかっている。
だが、其れに関しては『其れで良い』と彼女に言った、あかねに笑った。
彼女にだけは……。


──────なら、其れ以外は?


灯篭を流し、弔った。
生命の火を流した。
背負うと、決めた。
……体の良い、自己満足。
そして、此れもまた、然り。
憂いを帯びた表情のまま、凛霞の青を見やる水底。

「…………其れで、誰かの気が済むので在れば…………。」

「あの時の同じように『門』に流されるのも厭わない……。」

伊都波 凛霞 >  
「それは──『駄目』だと思います」

真っ直ぐに視線を向け直して、言葉を紡ぐ

「いくら紫陽花さんを責めたって、恨んだって、誰の気も晴れません。
 例えその先に断罪があっても、追放があっても……」

「だから一つ我儘を通したのなら、その後の責任の取り方も我儘でいいんです。
 ここでは自分のやりたいようにやった、だから責められてもいいし恨まれても良い…
 それで納得する人はいないし、きっと何をしても、結果が覆られない以上は何も変わらなくて」

風が吹き、少し乱れた献花を手を伸ばして直しながら、言葉を続けてゆく

「本当に責任を持つのなら、我儘──なんて言い方は悪いかもしれないけど、
 自分が正しいと思う道を信じて、ブレずに邁進するのが、答えじゃないかな…。
 そうじゃないと『もしかしたら間違っていたかもしれない行動』で犠牲になった人が報われない…」

「…と、私は思うな。……むぅ、なんかお説教くさくなっちゃった」

そんなつもりはないんだけどー、と。少しくだけた笑みを浮かべて

紫陽花 剱菊 >  
「──────……其れは……、……。」

其のような心算では、と言った言葉を呑み込んだ。
……翌々考えれば済む話だ。
彼女の憂いが此の程度で晴れるはずも無い。
彼女の為を、と言っても結果として己の為に返る様に嘯いた事に成る。
だから、"返す言葉"も無く、押し黙った。
だが、"たられば"を口にしても許されるなら……

「……凛霞……私はな、彼女を……あかねの生命を助けた事に
 一切の後悔は無い……結果として、彼女も最後に変われた気もする。」

「然れど、未だ空言に悔恨を添えれば……そう……。」

「『如何様に、つづがなく事を運べた』のではないか、と今でも思う……。」

もっと上手く、やれたのではないか。
もう、既に結果は出てしまっている。
成る様にしか成らなかった、と人は言う。
己の力を過信した訳でも無い。
だが、あの時ああしていれば、或いは、或いは……────。
向き合った生命の重みが、未だ耳元で囁いてくるようだ。
こめかみを指先で抑え、視線を空へと泳がせた。

……今更過ぎる後悔だ。

「……否、私こそ済まなんだ……如何せん、昨日の事のように思えてしまう……。」

「……吹っ切れたとは言うまいが、私は『平気』だ。」

視線を戻し、はにかんで見せた。
せめて、強がっておかねば、と。

伊都波 凛霞 >  
「紫陽花さんの"それ"は……」

「次に活かせる、コト」

献花を整え終われば、風に長い髪を揺らしながら、体ごと向き直る

「だからこそ、いなくなっちゃうのは誰も得しない結果だと思うなあ」

見れば胸が締め付けられるような、強がった笑顔を浮かべる剱菊
平気だ…と言葉にする彼だからこそ、余計にそれが苦しい顔に見えて…

「"想うべき"は昨日ではなく、
 "私達"が繋ぐことが出来た。一握りの明日じゃないでしょうか」

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

端無く、図星を突かれた。
"想うべき"は昨日ではない。
確かに、己の刃常に未来の為にと振るわれた。
唯只管、己の我儘を通すために我武者羅に駆け巡った。
多くの縁を頼りに、唯只管に……結果としては、重畳だが……

この、有様。

思わず、笑みに苦味が混じった。
己を嘲笑う、自嘲の意。
嗚呼、そうか。そうだな。
何とも、本質的な事を忘れかけていた。

「……済まない、凛霞。追憶の浸り過ぎたな……否、嗚呼……そうだな……。」

ある意味"急ぎ過ぎた"事は己もわかっている。
其の上で彼女と、己なりに向き合った。
そして、あれほどのまでの事件が
『初めて紫陽花剱菊個人、即ち人』として関わった出来事であり
多く、多くの衝撃を本当に齎した。
だからこそ、今でもずっと其れは、剱菊にとって昨日の出来事と相違ない。
だが、明日を見据えねば進めもせず、報われもしない。

「……あかねが見ていたら、彼奴も笑いそうだ……。」

其れ所か、呆れられそうだ。
思わず、肩を竦めてしまった。

「……相違無い。案ずるな、凛霞……。」

言うは易し。
然れど、必ず其れ等は、背負った重みと共に飲み下す。
だから今は、"強がらせてくれ"。
薄らとはにかんだ陽の笑みも、何と儚く脆いもの。
男の強がりにしては、やや気弱か。

伊都波 凛霞 >  
「追悼、って…悲しみや悔いを忘れないようにすることと…そうやって前向きに切り替えるための儀式みたいなものかなって想うんです」

そう言って、にっこりと満面の笑みを向ける
自分が今日ここに訪れたのも、同じなのだ
言ってしまえば、自分の中での『ケジメ』
犠牲という現実から目を逸らさず、明日へ踏み出す強さを求めての行為──

「笑われないように、後ろ指差されないように、我々の犠牲はなんだったんだ、なんて言われないように…」

「我儘を通した者同士、これからが正念場ですよ。紫陽花さん」

元気づけるような、明るい笑顔
この場所や雰囲気…服装にはややそぐわないそんな表情を向けていた

それから、あっと何かを思い出したような顔をして

「──あ、そうだ…。
 これ最近色んな人にぶつけてるんですけど、私とお友達になりませんか?」

紫陽花 剱菊 >  
「……成る程、な。」

……死者を大々的に弔う意味を、幾何か理解した気がした。
慰霊祭等と実用を兼ねてやる意味も
誰しもが抱える辛さを、皆で共有して
皆が皆、『明日』へと踏み出せるようにするための『区切り』なのだ、と。
人は一人では生きていけない。
だからこそ、他人で在れ、友で在れ、共に支え
辛さを分かち合い、歩んでいく。

「(…ヨキ殿の言っていたのは、此れか……。)」

理解していた心算では在ったが、また嘯いてしまったな。
今度会ったらまた、礼を言わねばなるまい。
誰かに辛さを味合わせたくない等と宣うのではなく
文字通り支え合えるようにしていくのが、
此の世界の文化なのだ、と。

「……嗚呼、其れだけは誰にも言わせん。……大丈夫だ、凛霞……。」

後ろ指など、笑わせ等するものか。
何とも明るい少女の笑顔だろうか。
彼女もそうやって、『明日』に進むんだ。
なら、己も『進まない』訳には行くまい。
元より、民草の為の刃成れば、必定。
小さく頷けば、次なる言葉に小首を傾け、少しばかり、頭を振った。

「……私は当に、友垣の心算だったがな。
 そうでなければ、待ち人等任せんよ。……なんて、な。」

冗談一つ言って、微笑んだ。
其れ位は言えるから、私は大丈夫だ、という意思表示でもある。

「……如くも無き男では在るがね。しかし、やはり其方は笑顔が似合うよ……。」

「其方も、少しは……嗚呼、否……そうでは無かったな。」

島を駆ける前日、少しばかり冗談めいていったが
彼女が見せた、あの地平を見るような眼差しは、今でも気になっていた。

「……何か、そう。待ち人か?」

等と、おずおずと聞いてみた。

伊都波 凛霞 >  
「ふふ、だったら改めて…ということで!」

もう友人のつもりだった、という言葉にはにかむ
言葉に出す意味合いも、きっと大きい
これで二人は掛け値なし、友人同士なのだとはっきり認識することができる
それは、きっと大事な"確認"だ

それから続いた彼の言葉に、ああちゃんと覚えていてくれてるんだ、と苦笑して
やや遠慮した聞き方をする彼へと、静かに口を開く

「うん。待ってる人がいる。幼馴染なんだけど…
 剱菊さんみたいに、その人は帰ってこれなかった」

「泣いて、諦めて、自分はもう大丈夫…みたいな時になって、帰ってきた。
 ……人では、なくなっていたけど」

視線は外して、あの日のように空へと向ける
雲は切れ切れ、青く深い、夏空へと

「だから今は、彼が人を取り戻すのを、待ってます。
 …帰ってこない人を待ち続けるよりは、ずっと気が楽」

そう言って口元を少しだけ、微笑ませる

紫陽花 剱菊 >  
「ご随意にどうぞ……。」

冗談めかしに、一つ。
友垣の絆をまた会得した事に
此の胸に残る熱が、また熱くなった気がする。

「…………。」

黙って、真剣に彼女の話を聞いた。
……成る程、彼女が思いを馳せる人物。
彼女が待つべき、きっと抱えているもの。

「……人では無い、とな……?」

文字通りか、或いは心を亡くした悪鬼羅刹か。
今一引っかかる物言いだ。
一瞥した夏空は此処まで澄んでいると言うのに
如何許りか、彼女の笑顔の裏は
ずっと、曇天な気がした。
杞憂成らば、其れで良い。
其れに越した事は無い。

「……然れど、辛かろう……気持ちがわかる、とは言うまい……。
 私の待ち人は、何れ時を経てまた現れる。私が言うには、余りに女々しい……。」

だからこそ、此れは同情ではない。
そんな安いものではない。
唯、敢えて"辛い"のではないか、と口にした。

「……其方の待ち人は何処に……?未だ、此の島にいる、と……?」