2020/08/08 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。
■マルレーネ > "懺悔、相談、愚痴、文句、何でもお聞きします"
いつも通りの看板を外に立てかけながら、修道院の中でうーん、と唸る修道服が一人。
夏らしいイベントも目白押し。
それらに割と参加するという充実した夏を過ごしてはいるのだけれども。
「………暑い。」
何時もの修道服に限界を感じているシスター。
■マルレーネ > 元々はあまり気にしないというか、暑さ寒さには我慢強い方。
黙って堪えて、黙って堪えて。それができる人間ではあったのだけれど。
「………ショッピングモールに………いやいや、買いたいものも無いのに行くのも。」
当たり前のように置いてある冷房というものに、すっかり毒されて我慢できなくなってきたのだった。
弱体化。
「………この日差しだと、外を歩いてここに来る人もいないかもしれませんねー。」
窓から空を見上げれば、抜けるような青空。
手を伸ばしたら日差しが痛いほど。
ご案内:「宗教施設群-修道院」にオダ・エルネストさんが現れました。
■オダ・エルネスト >
訪れるこの地は宗教施設立ち並ぶ中、照りつける日差しに目を細め、クソダサT透かしてやって来た。
こんな日差しの中、それでも人はやってくる。
来なくてもいい輩は、特に。
修道院の扉を開けて中に、知った姿を見かけると黒髪緑色の瞳の男が白い歯を輝かせるかのように笑顔をみせて声をかけた。
「やあ! しんどいほどいい天気だね!」
極めて爽やかさを意識してそうな青年だ。
「先日は、バイト中に時間をかけてしまってすまなかったねマリー」
先日、海の家でバイトを共にした仲。
日焼けの対策として治療をしていたが思った以上に時間をかけてしまい、彼女の休憩時間まで危うく使ってしまうところだったとこの男はちょっと気にしている。 そういうところだけは、気にしている。
というか治療途中で彼女が焦ったように動いたのはそういう勤務時間をとかそういうのを気にした現代的なムーブだと思っている。
■マルレーネ > 「ひっ!?」
来なくてもいい、とは流石に思わない。思わないけど来てほしいとも思っていない。
というか悩み無さそうですよね、というすさまじく失礼な言葉をなんとか飲み込んで。
「………本当にしんどいですよね。
この暑さだと、ここに来るまでにも大変だったんじゃないですか?
冷たいお茶、などでもよろしいです?」
とはいえ、表情がこわばったのも一瞬だけ。
相手がそれでもここまで来てくれたのはありがたい話。
穏やかに微笑みながら、どうぞどうぞ、と椅子をすすめて。
「気にしなくてもよいですよ。
バイト中の休憩時間、特に何もしてないですから。
あの日はまあ、特別疲れたので休みたかっただけでして。」
こほん、と一つ咳払い。 頬もちょっと赤い。
■オダ・エルネスト >
「おっと、驚かせてしまったか。
そんな気はなかったが、女性を驚かせてしまうとは英国人に笑われてしまうな」
自分の事を嘲るような事を口にしつつ入り口を丁寧に閉めてから少しだけ近づく。
道のりについて聞かれれば過去を見つめるように斜め上の天井を見て。
「ここまで来るのは、自転車で学園に通うよりは圧倒的に楽だったさ。
だが、好意をいただけるのなら一杯いただくよ」
などとつぶやいた。
憂いがあるように見えるが、きっと憂いなんてない。
進められるがまま椅子に座り、マリーが気にしなくてよいと言えばまるで罪が許されたかのように
その場で手を組み瞳を閉じた。
「ありがとう……その言葉だけで私は信じる神から赦しを得るより、確実に救われた」
そうオーバーに、
しかして確かにある感謝の気持を口にする。
■マルレーネ > 「いえいえ、大丈夫大丈夫。
少し気を抜いていただけです。これだけ暑いなら誰も来ないかな、って。」
ウィンクをしながらそんな軽口を叩いて。
麦茶を二人分、氷をたっぷり入れて用意して、お互いの前にことん、と置く。
「………あはは。
あの場では、正直………日焼け止めを忘れた私が悪かった、ですからねー。
ありがとうございました。」
てへ、と舌をだしつつ、冷たい麦茶を傾けて喉を潤して。
「……それで、今日はどうして修道院に?」
■オダ・エルネスト >
「ほう、あの海の家で最後には鉄板シスターと呼ばれた君が油断するとは、
私が悪人ならマリーを討ちとっていたかも知れないぞ?」
指で銃の形を作って狙いを定めてBANGと撃つ真似をする。
置かれた麦茶に口をつけて少し唇を湿らせた。
「そう、それで今回来た理由なのだが、
結局あの後は上手く時間を取れず、なんとか連絡先は聞けたが中途半端に片腕だけ治療したが、
もう片腕、大丈夫かと気になってしまった。
事前に電話の一本でも入れるべきかと思ったが……私は我慢弱く、落ち着きがない。
そして、女性の肌の手入れは昔から男が気にする百倍は気にしろとあの技の師匠から言われていてな。
動かずにはいられなかった。
その後、腕の日焼けは大丈夫だろうか?」
ぐいっと真剣な眼差しでマリーの碧い瞳を見つめて言葉にする。
左右で肌の色が違うとか、祖国でやったら鞭打ちとか蝋燭とか市中引き回しの刑だと内心思っている。
■マルレーネ > 「鉄板シスターって何か別の意味に聞こえますからね。
あの場所ではシスターらしいこと一つもしてませんからね。」
撃つ真似をされたら、自分の胸の前でぱしり、と掴む仕草を見せて、ぽい、と銃弾を捨てる所作。
子供と遊んでいるうちに慣れている様子。
「…………あ、ああ、いえ、大丈夫ですよ。
肌は強いですし、普段はこう長袖ですから目立ちませんからね。」
ほ、ほらほら、と自分の袖を見せて笑顔を一つ。
大丈夫、大丈夫と安心させようとする。
ちょっとだけ焦っているのが誤魔化しているように捉えられるかも、しれない。
■オダ・エルネスト > 「……別の意味。
恐らく言っていたのは普段の君を知っている者だったのかも知れないな」
二人は知らないが、その日雇われた三人の事を把握して知っていたのは雇い主だった人物一人で、
マリーを鉄板の前にずっと立たせようとしたのもその人物だ。
オダの知らないところで何らかの言葉で客引きをしてたかも知れないが、ここにいる二人は把握していないのかも知れない!
長袖で隠れて視えないから大丈夫。
「確かにそうだ……――失礼」
そう言ってマリーの治療をしていない方の腕を掴もうとするだろう。
■マルレーネ > 「……それはそれでありがたい話ですけどね。一人の神に仕える身として、少しばかりでも皆が神の存在を身近に感じてくれれば………。」
言いかけて、いやいや、と首を横に振る。
ここでの神はここでの神。
信仰を広める役割は終わったんだ、と改めて思いなおす。
「………っぁ。」
がしり、っと掴まれれば、え、ええーっと、と言葉を少しだけふらつかせて。
「……ちょ、っとだけ。そりゃあ、少しだけは差はありますけど………。」
見せる前に、素直に白状する。
■オダ・エルネスト >
「少しばかし身近になりすぎたのかも、な……」
≪大変容≫を経て起きたこの世界での出来事で、神のような存在とこの世界の人々は近くなりすぎた。
オダはそう考える。
「乙女の肌を見ようとする私のことは破廉恥だと罵ってくれてもいい」
そう言い大胆でありながらシワにならないように丁寧に袖をまくる。
やや焼けている肌を見て痛ましいものをみて悲しむような表情をみせる。
「それでも、(君の肌への)責任を取るのが男というものだ。
ここの神の前で頼みたい、私に責任を取らさせてくれ……!」
祈るように真剣な瞳と声で。
■マルレーネ > 「あはは、………不思議な世界だなあ、と思いますけど。
それはそれで、きっとこちらの世界の方も大変なんでしょうね。」
神のことについては、それだけを語って。
あまり異世界の神については、多くを語らず。
「………いえまあ、破廉恥とかそこまでは言いませんけど。
それくらいで言うなら、あの格好でビーチに行ってること自体怒られそうですし。」
苦笑しながらも、袖をまくられれば、ちょっとだけ日焼けした素肌。
他の場所が白いから、まあ目立つと言えば目立つかもしれない。
「………えー、っと。……魔法治療ですか? あれ、合わないかもしれない、とは思ったんですけど………」
一応遠回しに遠慮しようと回避を試みるシスター。
■オダ・エルネスト >
「いや、水着はそういうものでしょう。
可愛いなぁとか綺麗だなぁというのは普通でしょう。
女性の隠された肌を見ようとする私の行為ほど破廉恥なものはない……」
何故かそこはきっぱりと迷いなく。
魔法が合わないかもしれないという発言に、一瞬それならという表情をみせるが、
ハッとした表情に切り替わる。
「まさか、拒絶反応でも、出ましたか……?」
責任を取るのは別の意味でも取らないといけないか。
祖国を捨て学園の人間になり、ここで彼女の身に起きた異変が癒え、
その間に起きた不自由によって生じた不満を解消するまで自分は奴隷のように働かなくてはならないか。
自分がやってしまったこと―――などと可能性も考慮する。
「どうにか私の命一つで許して貰えないだろうか」
という意味不明な結論になる。
■マルレーネ > 「大丈夫です! 大丈夫です! ちょっと我慢できないくらいくすぐったかっただけですから!!」
命を差し出そうとする世界の人に、思わず驚いて大きな声を出してしまう。
ああ、この世界の人ってそういうこともあるのか、と異邦人らしく勘違いをして。
「………はい、はい、わかりました。腕だけですよ。 腕だけですからね。
アレ、本当にくすぐったいんですから。
この格好のままで大丈夫ですか?」
はー、っと溜息をつきながらも、大丈夫大丈夫、とオダさんの腕を撫でるようにぽんぽんと叩いて、微笑みかける。
■オダ・エルネスト > 「そうでしたか!」
一転してパーッと明るい笑顔になる。
これで計画通りとか黒い笑顔をされた方が殴り飛ばして拒否できてやったー!という感じだったに違いない。
「格好はそのままで大丈夫です。 楽な姿勢でリラックスしていただければ。
なんだか申し訳ない。
無理矢理やろうとするかのようになってしまった。
私はマリー(の肌)に綺麗であって欲しかっただけなんだ」
そう言いながら、先日見せた青白い光を放つ枠、『医療用の解析魔術』を自身の目の前に展開する。
■マルレーネ > 「……わかりました、本当にリラックスしてますからね。
いえ、ちょっとくすぐったいだけですから、我慢すれば何とか。」
魔術が展開されれば、むずむずとした感覚が思い出されるようで、息を吸い込んで、吐き出して。
ゆっくりと自らを落ち着かせて。
「………ま、まあ、肌が綺麗なのは、悪い気分はしませんしね。
では、その、………お願いします?
あ……あ、こっちで!!」
懺悔室まで移動を願おう。 誰かが入ってきたときに見られるのはよろしくない。
個室に移動して、それでは、と腕を差し出そう。
■オダ・エルネスト > 移動を促されれば素直に「了解した」と謎の敬礼までして応えた。
「はは、くすぐったいことに身構えてしまうなら
何か好きなものの事を思い出して考えてるとリラックス出来ると聞いた覚えがあるので試してみては?」
影なき、曇りなき晴天のような笑顔で青年はそう言う。
懺悔室という個室に入り、
いざ、治療を……というときに、この個室が所謂懺悔室というやつでは、
と気づいた青年は よし、それっぽいことを言って始めようと思いついた。
「では、シスター・マリー。
ここで私の罪を清めさせて下さい」
それだけ告げると手を翳した。青年の手からは青い光が。
光がマリーの肌の上に指先から襲いかかる。
今回は、日焼けしてから時間が経っている。
感じる感覚はあの日の鎖骨に受けた感覚や首に受けた感覚に近い!
■マルレーネ > 「好きなもの、好きなもの………
………何でしょうね?」
そういえば彼女には趣味が無い。ずっと働いて、疲れたら寝るといった日々だ。
好きなこと、何かを差し置いてでも優先したい事象は、全く思い当たらない。
「………わかりました。 オダさん。
貴方の罪をここで洗い流していきましょう。」
相手が真面目に言葉を発するなら、こちらも合わせるように目を閉じて言葉を返し………
「ぅんっ!?」
ぞく、っと震えた。腕がもぞもぞと毛でくすぐられているかのような感触。
それを、ぎゅ、っと唇を噛んで堪える。耐える。我慢我慢……。
■オダ・エルネスト > 「例えば、楽しかったことだとか、美味しかった食べ物、可愛いと思った動物なんかを思い浮かべてみては?
なんだったら、親友とも言える私のことでも構いませんよ」
なんと言っても同じ炎天下の中という地獄を過ごした戦友だ、とか嘯いた。
きっと中身がまともなら聖人君子のように輝かしい笑顔でそんな事を茶目っ気で言う。
マリーの言葉を受けて、神妙に頷いてみせると
『解析魔術』の内容を確認しつつ『魔法』を動かす。
「結構、大丈夫そうに視えて少し奥まで傷んでるな……」
流石に前回も耐えているだけある。 まだ、これくらいなら余裕があるみたいだ。
祖国の魔女ならヤメてと震えているところだ。
状態としては鉄板作業をしていた手だけあってダメージは腕部分よりも大きく見える。
つまりこの指先より先から手首までが今日の一番の地獄。
「マリー、辛かったら止めるから言ってくれよ」
そう言いつつなるべくハイペースを意識して五本すべての指の付け根まで無慈悲に青い光を走らせる。
今回の青い光はすぐに治癒が完了せず、ゆっくりと動くスライムのように一度指を包み込んだ。
■マルレーネ > 「あはは、………楽しかったことは、たくさんあり過ぎて。 どれが一番とは決められない………………。」
「ぃ、ぅ、んっ!?」
びく、っと震える。
腕のダメージは確かに他の場所に比べれば深い。
深いが、…………それどころではない。 腕全体がざわざわとした毛で、内側からくすぐられているような感覚。
ひぅ、ふぅ、ふぅ、っと、荒い吐息になってぎゅっと唇を噛む。
「………んぅううぅうううっ!!」
指を全て包み込まれてしまえば、ぞぞぞぞ、っと背筋を震わせて、ぎゅ、っと無事な方の腕の修道服の裾を噛んだ。
声をこらえながら、身体を震わせ、すぐに肌が赤くなっていく。
■オダ・エルネスト > (今、彼女が受けている擽ったさは想像することしか出来ない)
彼が他人からこの魔法を受けたのはかなり幼い頃で、
擽ったさしか彼は認識していない。 まさかこの『魔法』に快楽を同時与える効果があるなど気づいてすらいない。
(しかし、こうして彼女の気持ちを察し治療することが今の私に出来る全力……!)
「ここまで来たら止まれない。
もう少しだけ我慢してくれ、マリー」
囁くように優しげな声で応援をすることしか出来ない。
青い光を更に動かしてその腕を包んでいく。
きっと彼女自身の治癒能力のせいもあったのだろう。
下手に半端に回復し始めていた部分があったせいで光は腕全体に、あの日の一瞬で通り過ぎるのとは違い、しばらく残り続けてしまう。
「耐えて、受け入れてくれマリー!」
後少しで終わるから、とそう願いを込めて。
■マルレーネ > 「っ、ふぅ、ん、っ………!」
袖をぎゅう、っと噛みしめながら、くすぐったさと共に駆け上がってくる感覚から、身体を思いっきり固くして堪える。堪える。堪える………。
「………っ、ん、ふっ、ぅう、んんんっ!」
何度もうなずきながらも、腕に光がとどまってしまえば、ふー、ふー、っと吐息を荒くしながら、次第にソファにぐったりと横になりながら腕を差し出し続けて。
ぶるぶる、っと身体を震わせつつも、ここは彼女のホームである。 逃げ場はない。
っていうか懺悔室まで招いたことを後悔した。
■オダ・エルネスト > しばらくして、彼女腕からすーっと青い光は消えた。
治療は終わったのだ。
「お疲れ様、マリー
よく頑張った。 君のお陰で私の罪は消えたんだ」
そう、どこか優しげな今までの明るいだけの笑顔と違って感謝と尊敬が入り交じる表情でそう告げた。
我慢し続けてぐったり横になった彼女に胸ポケットから未だ本日未使用のハンカチを取り出し、
真っ赤になった顔の汗を拭こうとするだろう。
この場でなければ、これほどまでに清められた気持ちにはならなかっただろう、と青年は感謝した。
■マルレーネ > 「………お、おわり、まひぁ、か………」
呂律が回っていない。噛み過ぎてすっかり袖が湿ってしまった状態のまま、少しだけホッとした様子を見せる。
ふぇあ、ぁぅ、なんて、ちょっと意味が分からない言葉を漏らしながら、汗を拭かれて。
「……あ、あはは、もう大丈夫、もう、大丈夫です。
絶対日焼け止めクリームは使いますから、うん。」
今はもう腕がじんじんとして、服がこすれてもなんか変な声が出そうだ。
上体を起こしながら、安堵の吐息。
そう、戦いに勝った、生き抜いたのだ。
■オダ・エルネスト >
「終わったよ。
フフフ、すまない……ちょっと可愛いなと不覚にも思ってしまった」
よしよし、よく頑張ったねというように顔の汗を拭いたら必要以上には触ることはない。
それは破廉恥だからだ。
「日焼け止めを塗った方がいい。
なにせ、そう思って日焼けした肌を惜しいと思うくらいには
君を美しいと私は思っている」
だから、クリームを使うという発言に安心するとも呟いて。
改めてマリーの顔を見て、
「私のせいで君の美しさが損なわれるという罪を
消させてくれてありがとう。 嬉しいよ」
そう照れくさそうに笑った。
■マルレーネ > 「……………は、……はぁ………。」
ようやく、ようやくやっと、一息がつける。
ひゅーひゅーと何か空気が通り抜ける音が響きながら、相手の言葉にそれでも、頬を赤くして。
前から赤いと言えば赤いけど。
「………ふ、ふふ。 ………変に褒めないでくださいよ。」
あんなにくすぐったくて、逃げようとしていたわけだけれど。
ちょっとだけ、涙目ながら笑った。
ご案内:「宗教施設群-修道院」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」からオダ・エルネストさんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 休憩所」にシュルヴェステルさんが現れました。
■シュルヴェステル >
慰霊祭の話を異邦人街で聞いたのは、ここ最近のことだ。
そういう催しがあり、人間という種は過去に思いを馳せるということも、
シュルヴェステルもこの常世島である程度の知恵をつけ、それをなぞることはできた。
だから、ただ人の中でもとりわけ「人らしい」者がここにいるだろう、と。
ある種、人探しの延長線上でもあるのだが……何の偶然か、やってきた。
炎天下の常世島で、あらゆるものを隠すための服装にも苛まれながら。
どうやら人が少ないらしいこの休憩所ということになっている東屋で、
緩やかに流れる時間と蝉の声の中、パーカーとフードを被ったまま、静かに佇む。
「人は」
簸川旭青年の姿を探した。
約束もしていないのに、運良く出会えるはずもない。
七夕の夜のように、あらゆる偶然が連続するわけもなし。
彼のような男であらば、このような催しには足を運ぶと思ったのだが。
「なぜ、死を想う」
ぼそりと呟いてから、宙を仰いだ。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 休憩所」に松葉 牡丹さんが現れました。
■松葉 牡丹 >
「暑いなァ……。」
炎天下の日差しが容赦なく照り付ける。
学園から配布された冷符や車椅子の冷却装置で
ひんやりとした空気が少女の周りを取り巻くも
此の油照りするような日差しばかりは敵わない。
普通の人よりは何倍もマシだろうが
今頃何もなければこの車椅子の上で干物になってるんじゃないかって思う。
はぁ、とじんわり汗ばむ体を軽くよじらせながら
思うままに車椅子のレバーが独りでに回って徨っていく。
丁度自分の目的を済ませた少女は、偶然見かけた東屋へと車輪を走らせた。
余り体力はない方だから、どうせなら帰る前に涼んでおこう。
そんな、なんてことの無い考えだ。
「……あ。」
ジャリジャリと車輪が地面を鳴らして動く中、先客の姿があった。
フードを被った人影、初めて見る人だ。
宙を仰ぐ様を見れば小首をかしげつつも
ゆったりと車椅子を動かしてその人へと近づいていく。
「こんにちは。えっと、何か考え事の最中ですか?」
人懐っこい笑みを浮かべて、少女をは尋ねた。
■シュルヴェステル >
いっとき、瞼を落としていた。
人の足音と異なる物音に、ああ、この街の清掃用のなにかかだろう、と
意識を向けることはなく、うだるような暑さに茹で上げられていた。
……のだが。掛けられた声はどうにも合成音声らしくはなく。
その上で機械的な「清掃の邪魔です」というような塩梅でもなく。
訝しげに眉を寄せながら、ぱち、と目を開いて視線を音のほうへと向ける。
「……ああ、こんにちは」
人がいた。
なるほど、こういう人間もいるのかと静かに思考を揺らし。
君にそれを問われれば、青年はフードをまた目深に被り直した。
長く伸ばされた白髪が小さく揺れる。
「人を探していた。
考え……は、してはいたが、そう大した話ではない。……貴殿は、一体何用か」
柔らかに微笑む少女とは対照的に、青年の言葉は冷ややかだった。
■松葉 牡丹 >
軽くレバーを曲げれば車椅子は直ぐ停止した。
程よい距離、日陰の下に凹凸の影二つ。
車椅子から僅かに漏れる冷却用の空気が
青年の周りにも僅かにひんやり、おすそ分け。
揺れる白髪を一瞥し、小さく頷いた。
「人探し、ですか?お友達と一緒に来てた、とか
……とは、ちょっと違いますかねぇ……?」
知り合いと慰霊の黙とうを捧げていたようには見えない。
見たままの所感を言えば、上の空。
何方かと言うと、ぼんやりと誰かを待っていたようにも見えた。
冷ややかな言葉を向けられても少女は笑みを絶やさず、青年を見上げている。
「何か用ってわけじゃないですけど、世間話位どうかなーって。
人とお話するの、嫌ですか?……あ、私は松葉 牡丹(まつば ぼたん)って言います!」
片腕をぐっと曲げて自己紹介。
何処となくマイペースな少女だ。
■シュルヴェステル >
「……ああ、構わないが。
構わないが、……私は、世間話は得意ではない」
既視感があった。
この世界の、女の異能者。それだけで、少しだけ身が強張る。
詰められた距離感を、半歩分ずらしてようやっと返事をした。
「友達……ではない。
友と呼ぶような仲でも、連れ合いというわけでもない。
……もしかしたらここに来ているのではないかと思っただけだ。
私の見る限りではここにはいなかった。それだけだ」
視線は合わせることはなかった。
遠巻きをぼんやりと眺めながら、松葉牡丹を視界から外し。
彼女の調子に巻き込まれるまいという距離感を常に保ちながら。
「シュルヴェステル、と。……この世界では、そう聞こえるらしい」
■松葉 牡丹 >
距離を取られた。何処となく堅い人だとは思うし
牡丹もそれを否定するわけでもない。
ただ、本当にただ堅い人、と言うよりは
なんだか意図的に"壁"を作っているような
或いは自分が感じているだけなのかわからない。
「あはは……ごめんなさい。じゃぁ、少しだけ付き合ってくださいね?」
ちょっとだけ、笑顔に苦味が混じった。
それでも彼は"構わない"と言った。
だったら、それに甘えるだけ。
軽く半身を下げて会釈し、その顔を見上げる。
「何だか聞くだけだと不思議な関係ですねぇ。
友達ってわけでもないけど……気になるって言うと、気が合うとか?」
んー、と小さく唸りながら頬に人差し指を添えて尋ねた。
連絡先を知っている、と言う訳でも無さそうだ。
偶然の出会い、合縁奇縁。なんだか不思議な関係だと牡丹は思う。
「シュルヴェステルさん?……えっと……。」
ああ、成る程。『この世界』と言う事は、この人は異邦人なのか。
感じる壁の正体を何となく理解する。
同じ地球人でも文化の違いとかで"ズレ"を感じる事もある。
そうともなれば、この感じる"壁"の正体は……。
牡丹は困ったように、取られた距離を一瞥し
自分の乗っている車椅子を一瞥し
シュルベステルの視界の外で、再び見上げる。
「もしかして、ちょっと涼しいのが苦手な人だったり……?
車椅子のえっと、冷気。ちょっと漏れてます、よね……?」
でも牡丹は、知らないなりに歩み寄ろうとする。
本当に他愛のない所から、彼の事を知ろうと言葉を重ねていく。
おずおずと、小首をかしげて尋ねてみた。
■シュルヴェステル >
傍らに置かれたペットボトルのミネラルウォーターの蓋を回す。
赤色の視線をちらりと向けてから、それを肯定も否定もしなかった。
「同じ苦痛を味わいながら生きているだけだ。
友人のような気安いものじゃない。知人ほど知らぬ仲でもない。
……言うなればはらからとでも」
人は、関係に名前をつけたがる。
……というよりも、そうだったほうがわかりやすいのかもしれないが。
それすらも全くの異文化。相手がいて、自分がいる。
それだけでしかなく、それ以上でもないことを解されることは多くない。
その関係の名前で、誰かと誰かを繋いで見るのだろうか。
軽く首を振ってから、暑さで少しばかり気が立っているのを自覚する。
「ああ、いや。そういうわけではない。
決して。ただ、私が苦手なのは、……ただ、」
嘘をついても仕方ない、と。
溜息を小さくついてから、正直に目線を彼女に向けてから一言。
「この世界が苦手なだけだ。気にしないで貰って構わない」
■松葉 牡丹 >
「同じ苦痛……。」
彼は苦痛と言った。その同胞と呼ぶ人と感じる同じ苦痛。
きっとそれが自分の中で感じる"壁"の正体な気がする。
そして、それを同じと思う人種がいる。
なら確かにそれは、一言で片づけられない同胞だ。
続く言葉で、漸く腑に落ちた気がする。
「…………。」
"この世界が苦手"だ。
彼は異邦人。どんな経緯でこの世界にきたかは分からない、知らない。
元の世界がどんなものかはわからない、見当も付かない。
少なくとも、彼にとっては、同胞の人にとっても
この世界はきっと、"馴染めないもの"なんだ。
この世界に生まれ落ちて、体以外は普通な少女には
なんとも難しい話だ。困ったように眉を下げ
どうすればいいのか、と押し黙ってしまう。
……少しの間だけ、だ。
「……それって、『気にしてください』って言ってるようなものですよ。」
「って、いうと、可愛げがないですかね?」
それでも、牡丹は彼から視線を逸らさなかった。
知らないなら、知らないなりに歩み寄る。
彼女なりの、人との接し方。
わからないから、知ろうとする。歩み寄ろうとする。
成るべく、鬱陶しくない様に、冗談めかしに言って
べ、と舌を出して笑ってみせた。わざとらしく、可愛げをアピールしてみせた。
「本当にごめんなさい、急に。ただ、やっぱりそう言われると気になっちゃうから。
偽善っぽく聞こえるかも知れないですけど、苦しいと思うならほんのちょっとでも
……ほんのちょっとでも、楽になれたらいいなって、私は思いますから。」
「私なんて、"こんな体"ですよ?異能が無いと、科学が無いと生きていくのも"苦痛"になっちゃいますし……。」
片腕を広げて、ありありと体を見せつけてみせた。
小さくて、脆弱で、微動だにしない下半身に欠損した片腕。
彼のいた世界から見ればその体は、どう映るだろうか?
「……なんだか、憐れみっぽく聞こえちゃいますかね?
そう思うのって、"貴方から見たら"おかしくみえますか?」
問いかける。松葉 牡丹の、ともすれば"善意"が異邦人<アナタ>にどう見えるか、問いかける。
■シュルヴェステル >
「……では、『気にしないでほしい』ときは何を言えばいい?
どう言えば、『気にしない』でもらえる? そこにあるだけとしてもらえる?」
もし、それを言って「気にされてきた」のならば。
もし、それが原因で「気にかけてあげようと思われていた」のならば。
もし、それのせいで「自分の苦痛が増していた」のならば。
それには、薬が必要だ。
これを治すために出来ることがあるのならば、それを手に入れらねばならない。
気にしないでほしいと伝えているのに気にされてしまうのならば、
自分は一体何を言えばよかったのだろうか、と。青年は静かに言葉を告げる。
青年にはわからずとも。
きっと彼女も「似たようなもの」だろう。
気にしないでほしい、と告げたところで、その四肢では「気にしない」など無理な話。
それを「甘んじて受け入れろ」と言われるならばそれまで。
冗談めかして笑う彼女には、相変わらず向けられる言葉も視線も温度は低い。
「貴殿は」
“こんな身体”。“苦痛”。
自分にもわかるような「わかりやすい」言葉をわざわざ選んでいる。
これ即ち、なるほど結論は出る。彼女が示唆的に告げた理由は“それ”か、と。
「貴殿は、私に憐れんでほしいのか?」
答えはわかる。
きっと、「可哀想」だと告げるのが正解なのだろう。
だが、少しも可哀想には見えない。……見えるのなら、どちらかといえば。
「……毒婦のように」
そう見える、と。
弱さを武器に振る舞い、こうして自分に問いかけるさまは。
いつだかカフェテラスで出会った婦女と同じように。自分の故郷を奪った女のように。
そう見える、と告げた。
青年にとっては、その欠損は言及するほどではなく。
オーク種にとっては「生」と「死」のみがそこにあり、その生に貴賤はない。
故に、“目に見える”武器を振り回しているようにしか、思えなかったのだ。
■松葉 牡丹 >
その言葉の意味をなんとなく、理解してしまった。
自分もきっと、同じような事を考えた事があったから
見当違いだったら、きっと今言う事は、全部鼻で笑われる。
それならそれで、良いと思った。
少女は視線を逸らす事は無く、微笑んだ。
酷く、寂しそうに。
「私、今からきっと残酷な事を言います。
気に障ったら叩いてもらっても、怒鳴って頂いてもいいです。」
「けど、『殺さないで』くださいね。"命乞い"とは、違います。
……これ以上、貴方に『生きづらくなって欲しくない』からです。」
牡丹は、当然彼の文化も生き方もわからない。
ただ、どうしてもこの世界と"ソリが合わない"から、苦手なんだと思った。
この世界においても、この島においても、如何なる理由があっても
『生命を奪う』事は、この世界にとっては罪なのだ。
ただ、世界が苦手なだけな人に、罪なんか与えたくない。
だから、知ってるかどうかわからないから、先ずは『この世界の常識を説く』
この期に及んでの、変な気遣い。……我ながら、大層な事を言ってのけたと思う。
"それ"を自覚してしまったら、少しだけ、笑みが強張った。
何をしようにも、『ただの少女』
自分の言った事の恐ろしさを自覚すれば、少しばかり額が汗ばんだ。
彼が怖いからじゃない。彼を、傷つけてしまう事だから。
一度、二度、三度。深く、深く、深呼吸し
■松葉 牡丹 >
「──────多分、無理だと思います。」
■松葉 牡丹 >
静かに、牡丹は告げた。
目を逸らさず、真っ直ぐにシュルベステルを見上げたまま
淀んだ藍色が血色の眼を見上げている。
「……気に、なっちゃいますよ。
『可哀想』とか『善意』とか、『物珍しさ』とか『悪意』とか、
そう言うの諸々ひっくるめて皆、シュルヴェステルさんの事を見ると思います。
私だってそうです。きっと、貴方にとっては嫌な事だと、思います。」
「『気に掛けちゃいます』よ。この世界の人って、皆が皆そうじゃないですけど……。
そんな、思い悩んでるような顔してる人、放っておけないですよ。私だって、そうです。」
言うなればきっと、"人並みの善意"と言うものだ。
悪い言い方をしてしまえば"好奇心"とも言える。
「……シュルヴェステルさんのいた世界では、どうかわかんないです。
けど、私の知る限り、そういう人のがきっと多いから。
地球人<わたしたち>同士でさえ、些細な事で『気にする』んです。」
善意、悪意、興味。
どんなことであれ、『放っておけ』と言うのは無理がある。
同じ人種同士でさえ、性別の違い、肌の色の違い、文化の違い
様々な事で『気にする』のだ。程度の違いはあれど
ましてや、異邦人とくれば難しい話だ。だって……。
「私も、『気にして欲しくない』から。『放っておいて欲しい』」
他ならぬ、自分自身がそう思ってるから。
だから、彼が思っている"答え"に示す様に
人差し指で空にバッテンを描いてみせた。
「……たまたま事故で、腕がなくなって、下半身が動かなくなっただけで
『可哀想』だなんて、思われたくないですよ。自分で言うのもなんですけど
私、『普通の女の子』なんですよ?」
「他の女の子と同じ、流行りのオシャレの話をしたり、スイーツの話をしたり……
私たちにとっての『普通』を話したいだけなんです。」
「シュルヴェステルさんの世界じゃ、どうか知らないですけど。」
「女の子に『毒婦』なんて、普通に傷つきますよ?」
めっ、です。
とわざとらしく人差し指を相手の口に向けて、ウインクしてみせた。
茶目っ気を出して、牡丹は"微笑んだ"。
「……だから、『気にして欲しくない』なら、『大丈夫』に見えるように、振舞うしかないんです。
どれだけ世界が嫌で、苦手で、周りの目が気になっても、『私は大丈夫』だって、振舞うしかないんです。」
「そうすれば、誰も『そんな目』では見ないから……
ふふ、『笑顔』って、こういう時に便利ですよ?」
誰も笑ってる人を、憐れんだりしないから。
彼女はそう言って、"笑顔を絶やさない"。
これが、松葉 牡丹なりの処世術だ。
偶然欠落してしまった少女が、奇異の目で人々に見られたくないから
最初から最後まで『強がり』続けるしかなかった。
そうでもしなければ、皆『憐れんでくる』から。
勿論、彼に全てが当てはまるとは思わない。
少なくとも、自分はこうだ、と言っただけな部分もある。
だから、牡丹は"笑う"。自分は、『こんな体でも笑える位普通だ』と示すために。
「そうやって、『馴染んでる』ようにみせないと、みーんな気にすると思います。
……そういう世界だと、思いますから。放っておいて欲しいって言っても」
「皆、みーんな。『気にしてくる』んです。」
それが、弱さと言う武器を振り回しているように見えるなら
ある意味それは、正解だ。
そう言うのを『強がって』振り回していかないと
この『優しい世界』は、何処までも彼女を憐れんでくるからだ。
「……もう一度聞きます。そう思うのって、"貴方から見たら"おかしくみえますか?」
■シュルヴェステル > ああ、きっと。
彼女とはわかりあえないのだろうと確信した。動物めいた直感。
彼女の言葉は、はじめから終わりまで、あらゆる形でどうしようもないほどに矛盾している。
だから、きっと彼女と言葉を使って意思を交わすことは難しい。
「……はは」
短く、珍しく自嘲するような笑いを漏らす。『殺さないで』と言われてしまえば。
常世島関係物故者慰霊祭/こんな場所 に来ているのに、そんなことを言われたのならば。
とんだ腫れ物扱いだ。今まで自分が明確に自覚していなかっただけかもしれないが。
どうして、『殺さないで』なんて言われなければならないのか。
……自分は、そこまで浅慮に見えるのだろうか。
この島にやってきた異邦人が、『そんなこと』すら教わっていないと思っているのだろうか。
――いまここで、被害者の席に座ることが許されるのは貴殿ではない。
その言葉は飲み込んだ。これ以上言葉で理解しあうことはできないだろうから。
言っても意味のない言葉は言わないに限る。言葉があるからこそ、相互に傷つかねばならない。
自分の言葉で傷ついた少女が、また同じ刃で自分を傷つける。
こんなにも、後ろ向きな『世界』のことを、どうして好きになれようものか。
■シュルヴェステル >
(こうまで言われなければならない理由は、一体どこにある)
■シュルヴェステル >
「それは欺瞞にすぎない」
青年は、静かにそう言葉を落としてから。
本来、言葉など使わない世界にいたはずの男が。
この言葉や会話すべてが「この世界」のために習得したものである男が。
暴力でもなく、怒号でもなく。……ただただ、平坦な声色をそのままに続けた。
どう見えるか、と。自分に意見を求めたのならばと、淡々と言葉を選んでいく。
「『そういうもの』でしか他人と関われないのか」
『可哀想』。『善意』。『物珍しさ』。『悪意』。
そんな、安っぽいラベリングをした感情でしか、他人と関わる理由を持てないのか。
一緒にいたなら気が休まる。少しだけ穏やかに眠れる気がする。一人ではないと確認できる。
繋がりとは、そういうものでは、……ないのだろうか。そこに名前は、必要なのか。言葉は。
そして彼女は、「地球人」を語るのか。
何を知っている。自分と同じだけの絶望を抱えた男だって「地球人」だ。
そのことも知らずに、どうして偉そうにそうして全てを知ったような口を叩ける?
地球人全てが「そう」だと言わんばかりに、自分に絶望だけを見せつけてくる?
「この世界の『普通の女の子』は、初対面の相手に『殺さないで』と言うのだな」
鼻で笑う。少女ぶるんじゃない。
『普通』を振りかざして、自分の気に入らないものを変えようとするんじゃない。
自分の『当たり前』と『やり方』を押し付けるんじゃない。……どう言おうが。
松葉牡丹は、『普通の女の子』ではない。
楽しくもないのに笑うのはただの嘘だ。武器でしかない。
自分は、この島にやってきて『見えない武器』のおそろしさをよく知った。
異能にも魔術にも親しみはない。故に、『笑顔』も『異能』も区別しない。
……だからこそ、その『笑顔』の使い方は、『武器』の使い方と同じに見える。
相手に何も言わせないようにするのは、武器を振り回しているだけだ。
真摯に相手に向き合ってなどいない。暖かな欺瞞にその身を浸しているだけの、女だ。
「おかしいだろう。
本当にわかりあえるかもしれない相手をも、その『笑顔』で遠ざける。
最初から世界に対して諦めたまま、自分の気持ちにも嘘をつくなど、どこが正しい?」
笑う女と笑わない男。
五体不満足の女と五体満足の男。
彼女の『持たないもの』を持ち合わせている男は、傲慢にそう言い切ってから。
「私は言葉を改めはしない。
私は、この世界を好きになることを諦めはしない。
だからこそ、私は。……絶対に貴殿のようにはなりやしない。ならないとも。
どれだけ憐れまれようが、どれだけ情を掛けられようが。あるはずもないものを探し続ける。
……一人はいた。もう一人がいない理由がどこにある」
ペットボトルのキャップを強くしめてから、レジ袋を下げる。
フードの下のキャップも深く被ってから、パーカーのフードも下げる。
「『馴染めない』異物に『それ』を押し付けるのは。……人殺しと、一体何が違う?」
青年は、返事も待たずに踵を返す。
うだるような炎天下へと、また一歩を踏み出して。
涼やかな少女を置いていくようにして、振り返ることは決してしない。
(――言葉は、人間にも“すぎた”ものだな)
言葉と夏だけがただ、少女の目の前に置いていかれた。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 休憩所」からシュルヴェステルさんが去りました。
■松葉 牡丹 >
「──────……。」
欺瞞だと、嘲笑された。
薄っぺらい価値観だと、言われた。
そう言うものでしか他人と関われないのか。
言葉が胸に、心に突き刺さる。
それでも少女は、『笑っていた』
「…………そう、ですか。」
ただ残念そうに、眉を下げて返した。
それだけだ。追いかけもしない。
夏の陽炎のように、炎天下へと消えていく背中を見送って
車椅子の背もたれに思いきりもたれかかった。
ひんやりとした感触が、気持ちがいい。
「……同じだと思ったんだけどなぁ……。」
思わずそう、ぼやいてしまった。
自分を憐れむ世界が苦手だと、思っていた。
読み違えた。彼は、思ったよりも『前向き』だった。
果たして、自分の『普通』はおかしかっただろうか。
既に笑顔は消えていた。脂汗塗れの、疲れ切った顔。
てっきり、傷のなめ合い位は出来ると思った。
そうとも、『後ろ向き』だ。『こんな姿』で、前を向けるのか。
<最初から世界に対して諦めたまま、自分の気持ちにも嘘をつくなど、どこが正しい?>
「……そうでもしなきゃ、生きてもいけないよ……。」
もういない相手に、吐き捨てた。
「羨ましいな……。」
見下ろせてそう言える貴方が。
今まで生きてきた中で、一番言われたくない言葉だったかもしれない。
自分が歪んでる自覚は多少なりともあった。けど……。
「"無理"とかは、言い過ぎたかな……?」
自分に焦点を置き過ぎたのは、間違いない。
人殺しと何が違うと言われれば、自分勝手と言う点では何も変わりはしないだろう。
「……今度あったら、謝ろう。」
会えるかどうかは、わからないけど。
通じるかどうかも、わからないけど。
はぁ、と溜息交じりに放った言葉。
夏の日差しに溶けて消えて、ただ、何も考えず
車椅子のAIに設定された帰路のままに、その場から消えていく。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 休憩所」から松葉 牡丹さんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」に御堂京一さんが現れました。
■御堂京一 > 喪服に身を包むでもなく、花を持つでもなく、タバコを口に咥えストリートファッション姿の青年はただふらりと立ち寄っただけのようにも見える。
ただ一つ否定するのは目の前の墓石。
簡素な日本式のそこに刻まれているのは「御堂」の二文字。
「結局、こんな時期になっちまったか」
常世島に住まい命を落とした人たちに向けた慰霊祭。
両親が死んだのはもう何年も前の事だがここで命を落とした以上はあの二人も対象に含まれている。
けど、式典に顔を出す気にはなれず、けれど無視する事も出来ず。
結局もう明日には終わろうかというこんなタイミングになってようやく足を運んでいた。
■御堂京一 > 両親が居なくなったのはもうずいぶん前のことに思える。
けれどきっと両親と働いていた「大人」達はついこの間の事と言うのだろう。
事故の内容は機密だからと教えてくれない、死体も損壊が酷くて見せられないと言われてしまった。
だから自分の記憶の中では死という区切りは刻んでもらえず。
ある朝見送った両親がそのまま帰って来なかった。そんな宙に放り出されるような結末が突きつけられ。
そして大人になったらどうしようかという少年らしい悩みはいつかの未来ではなく目の前に突きつけられ。
決める事が出来なかった。
■御堂京一 > 「……タバコ、怒んだろうなあ」
何かを燃やし煙を出すという行為は様々な魔術的、宗教的意味を持つ。
タバコはシャーマンが使ったなどと言われ、異能の研究にどんな影響があるかわからないと神経質なところのある両親は口にする事はおろか煙を浴びるような事も嫌っていた。
だから子供ながらタバコは悪い物だという意識があって。
宙ぶらりんに学園にしがみつく半端者になった時にはタバコを咥え不良を気取っていた。
今思えば子供っぽくて笑えてくる。
もっともそんな自分を見かねた常世渋谷のジジイ、一人での生き方や戦うやり方を教えてくれた師匠にとっ捕まった時に無理矢理やめさせられた。
せっかくの内功がボロボロだ、内臓腐らせる気かバカヤロウ、と。
■御堂京一 > 今咥えているものはそんなジジイがいつまでも幼女をやっている若作りのババアから貰ってきたもの。
そんなに煙吸いたいならこいつでも吸ってろ、と渡され。
なんの警戒もせずに吸い込みぶっ倒れた。
肺を清浄に保ち穢れを祓うウィッチクラフトによるハーブで作られたタバコ。
それは肺にこびり付いたタールをそれはもう綺麗に浄化してくれた。
焼け付くような痛みとともに。
死ぬかと思うような修行をぶつけられ。
飯だ家事だと目の回るような仕事を押し付けられ。
毎日記憶が飛ぶほど疲れてベッドに沈み込む毎日。
辛くて苦しくて……両親の居ない孤独の渦中はいつしか過去へと押し流されていた。
荒療治に過ぎる虐待じみた扱いに絶対に礼は言ってやらないが、心の中で感謝する程度には恩に来ている。
そんな事を物言わぬただの石の前でつらつらと、煙と共に吐き出して。
■御堂京一 > 「……また、来るよ」
霊は存在する。こんな仕事をしていれば死にきれない亡霊といった怪異に遭遇する事も多い。
ならあの世はあるのだろうか、両親に声は届くのだろうか。
今の自分はまだ、虚空に言葉を吐き出し自分の気持ちを整理しているだけのようにしか思えない。
背を向けながらすっかり短くなったタバコを宙に弾けば空中で赤く燃え尽き、残る煙が墓石に絡み付き天へと登っていった。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」から御堂京一さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。
■マルレーネ > "懺悔・愚痴・相談・文句 何でも伺います"
いつも通りの看板(毎日自筆ですよ)を掲げながらの修道院。
汗を拭って洗濯物を干し終われば、あー、と情けない声を出して腰を伸ばす女が一人。
「………凄く暑いから乾くと言えば乾くんですが、まあ、それでも干す作業だけで汗だくになりますね、これ。」
熱線とでもいうべき日光照射を浴びて、汗を拭う。
洗濯物を干すたびに洗濯物が増えていく矛盾を感じながらも、小さく一つ吐息をついて。