2020/09/06 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」に松葉 雷覇さんが現れました。
マルレーネ > しとり、しとりと雨の降る日だった。
激しく叩きつけるようではなく、それでいて走ればなんとかなる、といったレベルのそれでもなく。
人が丁度外に出たくないなと思えるような、そんな雨。

「今日は流石に誰もいらっしゃいませんかね。」

窓を見ても灰色の世界で、自分の顔が映るばかり。
うーん、それはそれでまた退屈でもあり。

ああ、今日はそういう趣向の神の試練。成程。
バリエーション豊かぁ。

一人で掌を合わせて何かに納得して、箒を取り出して掃除を始めるシスター。


表には看板は掲げてはいるが、どうやら開店休業になるだろう。
少しばかり気を抜いて、ふぁあ、なんて欠伸を一つ。

松葉 雷覇 >  
欠伸を一つし終えたところでそれはやってきた。
しとりと降りしきる雨音とは別に、それはゆったりとした足音だった。
修道院へと訪れたのは、白い背広姿の男だった。
融和な笑顔を浮かべ、眼鏡のレンズの奥の青い瞳。
穏やかな眼差しがシスターを見据え、小さく頭を下げて会釈だ。

「どうも、シスター。生憎の雨ですが、ご機嫌は如何でしょうか?」

もし、其方の記憶力に自信があれば見覚えがあるかもしれない。
医療施設に、山本英治の見舞いに来た男。
退院直前にやってきた男だ。あの時もシスターに軽い会釈をしたはずだ。

「山本君のお世話をしていただき、感謝しています。
 そのお礼……と言う訳ではありませんが、どうでしょうか?
 私と少し、お話していただけませんか?」

その手に提げられているのは、バスケットに入ったフルーツの盛り合わせ。

マルレーネ > おや、と欠伸で開いた口を掌で押さえて。
目をぱちりぱちりと。

「ええ、少々暗くなってしまう天気ですけれど。
 外に出る用事もないので、少し退屈な程度ですかね。
 お久しぶりです。」

頭をぺこり、と下げる。
風紀の関係者か何かかな、なんて首を傾げながら。
いちいちあの通った人はどんな人ですか、なんて尋ねたりはしないので。

「ええ、勿論構いませんよ。
 お話を何でも聞くのがお仕事みたいなところ、ありますし。
 ええっと、風紀委員会の関係者の方でしょうか?

 今から、他の方のお見舞いですか?」

首を傾げて、思ったままのことを聞く。
ついでにフルーツは、どこかの病院への途中だと考える。

松葉 雷覇 >  
「いえいえ、それでもお時間を割いて頂きありがとうございます。
 お仕事とはいえ、人と直に関わり、その人なり事態を受け止めるともなれば
 その苦労はお察しいたします。それでいて、医療施設として人を受け入れる体勢。」

「貴女は立派な人間ですよ、シスター」

仕事といようとも、仕事と割り切ってやるにしろそこには善意が必要だ。
人と対面する仕事、人と関わる仕事。ビジネスだけの関係ではあるが
直接的にかかわる人間に善意なければ、長続きしないもの。
雷覇はそれを知っている。故に、シスターの善意には賞賛を惜しまない。

「退屈しているのであれば、私は運がいいですね。
 丁度、貴女とは腰を据えてお話をしたかった」

パチン、と指を慣らせば丸テーブルに二対の椅子。
左右に置かれた暖かな紅茶の入ったティーカップと
あっという間にそこはお茶会の空気。転移魔法のちょっとした応用だ。
バスケットを丸テーブルの中央に置けば、シスターへと向き直る。

「改めまして、私は松葉 雷覇(まつば らいは)と申します。
 異能学会に所属する科学者です。技術提供、と言う点では
 風紀委員会の方々のお手伝いもさせて頂いております」

マルレーネ > 「あはは、そんなことありませんよ。
 逆にできないことも多くて。 毎日勉強勉強です。」

ストレートに褒められれば、視線を少しだけ彷徨わせる。
頬をちょびっと染めて、頬をぽりぽり。

「あら、そうなんですか?
 お話ならなんでも。 雑談から相談、愚痴まで聞くって言っちゃってますからね。

 ……っと!?」

指を慣らされてすぐに表れる椅子とテーブル。
慣れていないのか分かりやすく驚いて一歩後ろに下がって。

「あ、ああ、すみません。 マルレーネ、と申します。
 ……学者さんですか。 異能というものがあまりにも厄介であることは、しばらく過ごしただけでよくわかりました。
 きっと、大変なんでしょう。」

複数人の姿を思い出す。 どの子の能力も、唐突に持たされるにしては重いものだ。

松葉 雷覇 >  
「勤勉であるというのは、それだけで素晴らしい姿勢だと思います。
 シスター、勉強とは"理解"を深める事です。学問そのもの、ではなく
 私は知識を高める行為は、人と対話するために必要なものだと思っております」

「同じ土俵に立つ、視線に立つ、と言うのではなく
 その人が何を求めるのかを的確に答える事の出来る。
 それだけで、人は"安心"するでしょう」

「勿論、それだけではいけません。貴女のように、善意溢れる人間が持ってこそでしょう」

時にそれは、悪意を持つものに悪用されることもあるだろう。
仰々しい、大袈裟。そんな言い回しにも聞こえるかもしれないが
知の探究者としては、正しく"知識"の意味合いを、"人"として理解しなければいけない。
例え謙遜であろうと、シスターの態度は雷覇にとって大変好感が持てた。

「ああ、驚かせて申し訳ございません。転移魔術をご存じですか?
 指定した物体を特定の場所まで転移させる魔術。その応用です」

詳細は秘密ですけどね、と人差し指を自身の口元に立てて小首を傾げた。
金色の髪が僅かに揺れる。

「シスター・マルレーネ、ご丁寧にありがとうございます。」

どうぞ、レディーファーストです。と、まずは座る事を促した。
言葉通り、マルレーネが腰を下ろせば雷覇も対面に腰を下ろすだろう。

「成る程……」

マルレーネの口ぶりから何かを理解したらしく、顎に指を添えて彼女から視線を離さない。
視線は何処までも穏やかで、温和な微笑みは崩れる事はない。

「シスター、貴女から見て"異能"とは、なんと見えますか?
 ええ、所感で構いません。貴女の御意見をお聞きしたい」

マルレーネ > 「そう、かもしれません。
 善意が溢れているかは、正直、自信はありませんが。」

少しだけ、困った顔で笑う。
彼女が努力を続けているのは、ただただ善意ももちろんある。ないわけじゃない。
ただ、そう"あるべき"だと考えて、その自分の思う理想に殉じている側面もある。
いわゆる、究極な自己満足だ。

だからこそ、最善を尽くしている側面もある。
素直にその言葉を受け止めることはできずに、椅子に座ったシスターはちょびっとばかり困り顔。

「そう、なんですね。 魔法に関しては知っていますが、これだけのサイズの転移となると、私の知っている魔術では、魔法陣を描いたりといった準備が必要でしたから。」

………

「何と見えるか、ですか。
 ………正直、まだ何も知らないですし、何も分からないのですが。
 朝起きたら唐突に、自分の手が鋼鉄になっていたかのような。

 与えられた、……押し付けられたと言ってもいい。
 不意な天稟。」

それは一つの側面から見れば明らかな才能だろう。
子供だけで島が運営できていることからも、それは分かる。

でも、それは歪みだ。

松葉 雷覇 >  
雷覇は微笑みを崩さない。
その深い青は何処までもマルレーネを見ている。

「────世の為、人の為、因果応報。善意も悪意も、最後は己に結果をもたらすもの。」

「貴女の行いに、間違いではありませんよ。シスター」


──────何処までも"底"を見透かすような、深い青だ。


「成る程、つまりは"歪み"とも捉えていると。
 中々良い"眼"をお持ちの様だ」

ほう、と感心の声が漏れた。
雷覇の笑みがまた、深まる。

「事実、この異能を"病気"として見る場合もあります。
 我々は、これを『異能疾患』と呼んでいます。
 あるものは『あらゆる音を失い』、あるものは『己の見る真実と結果が逆しまへと変わる』
 シスター、貴女の言うように"日常"を過ごす上での妨げへと成り得るでしょう」

事実、それに苦しめられた者たちがいた。
現代技術ではどうしようもなく、己の『生』を求めて
あらゆる者へと手を伸ばした。
その先が例え『禁忌』であれど、手を伸ばさなければ『生』は無い。
だからこそ、手を伸ばす。雷覇はそれを否定しない。

「私は、"異能"を『才能』、或いは人間が持つべき『器官』
 "進化の過程"とも捉えていますが……如何にも、此れが難しく
 世間的にも、評価は著しくありません。
 この学園でも、異能一つで多くの問題が存在しています」

「シスター、貴女ならご存じかも知れませんがね」

それを才能としようにも、才能に苦しめられる。
或いは、才能の有無で人間関係に"溝"が生まれる。
此れもまた歪みだろう。人間、人より『変わっている』というのは
大多数にとっては、マイナス印象のようだ。
雷覇は苦い笑みを浮かべ、肩を竦めた。

「私はこれらを、科学の力で何とかしてあげたい。
 私の持つべき力で、人々に安心を与えたい。
 それが私の、科学者である理由です。全ての人間に、『安心』を与えたい……」

「それは、勿論。"異世界"から来たものでもです。────シスター」

マルレーネ > 「そんなに分かりやすいです?」

頬に手を当てて、ちょっと恥ずかしそうにする。
うーん、そんなつもりは無かったんだけれど。
とはいえ、そういった人も見てきたのだろう、と推測する。

彼女自身が、様々な人を見た結果の経験則に頼っている。だからこそ、相手が見透かすようなことを言っても、同様に納得してしまう。

こちらの青い瞳も、じ、っとその青を見つめる。


「………それは分かる気がします。
 疾患として、分かりやすい影響を及ぼすのならもちろんです。」

うん、と頷きながらも、まだ少しばかり迷うような声。


「もし………、空を飛べるなり、人より速く走れるなり。
 一般的に見てプラスの作用であっても、普通できないことが突然できるようになってしまうということは、人間の形成に大きな影響が出る、ような気がします。

 進化と言っても、その進化はあまりにも不意で。
 その子は、まだそれを受け入れるほど成熟していない。

 他人にできないことができる、は才能です。
 でも、"果物ナイフ"で指を切った経験も無いまま、"名剣"を握らされても、それは使い手を殺してしまう。」

穏やかに語る。
ずっと感じていたこの島の歪み。 異能を持つ人間の歪み。 この島の歪み。
たくさん、たくさん感じてきた。

「………科学の力、というものが正直よく分からないんですけれど。
 そういう目的は、とても大切で、必要だと思います。」

「……っていっても、私は困ってないですけどね。 とっても良くしてもらってますし。」

えへへ、と頬を掻く。

松葉 雷覇 >  
マルレーネの言葉に静かに首を横に振った。

「大よそは勘です。私も職業柄、多くの人間と接するので」

本当に心を見透かせているわけではない。
それを口に出すことは無いが、ただ端々に自信の無さ。
謂わば"ナイーブ"な雰囲気を感じれただけに過ぎない。
そこから推察されて出された言葉。言葉遊び気分だ。
的を射ても外そうとも、雷覇は笑って対応する。

「…………」

そして、黙ってシスターの言葉に耳を傾けた。
見てきたものに対する解釈、その感じ方。
雷覇にとっては実に、似たような考えを持っていた。
穏やかな声音が実に耳に心地良い。

「……素晴らしい」

故に、自然と口から賞賛が漏れた。

「シスター・マルレーネ。貴女は想像以上に素晴らしい人だ。
 山本君が貴女を慕う理由がよくわかる……。」

実によく、物を見ている。
それでいて慈悲深い。神の信徒であればこそ、とは言わない。
これが彼女の人柄なのだろう。故に、素直に賞賛し
雨音を上書きするように、ゆっくりと、大きめの拍手が送られた。

「素晴らしい、シスター。貴女の憂いも、私の考えるものと似ています。
 ええ、ええ。その通り。だからこそ私は、この島にいる。
 己の領分で、"世界"を助けたい。そう思っています」

だからこそ技術の集まる、異能の集まるこの島に来た。
雷覇もまた、善性に富み人々を助けたい慈悲を以て此処にいる。
此処迄の言葉に一切の偽りはない。
笑うマルレーネの姿に、言葉に、小首を傾げた。

「成る程、シスター。お困りはない、と……」

「そうでしょうか?地球<コチラ>にきて、何かと不便と思う所もないですか?」

マルレーネ > 「あは、あはは、そうですよね。
 そんなに顔に出てるかなーって少し心配になっちゃって。」

頬を赤くしながら手で押さえて、へへ、と少し恥ずかしそうに笑う。
おおよそ思っていた通りの答えだからこそ、特に考えずに納得をして。


「………えー、っと。流石にちょっとくすぐったいですよ。
 そんなことはありません、まだまだきたばかりですから分からないことが多くて。
 それだからこそ、粗が見えないだけですよ。」

頬を抑えながら、照れる。
もー、やめてください。 なんて笑って見せて。

「なるほど………ええと、松葉さん、とお呼びすればよいでしょうか。
 私はそういった力に関して、人を助けるようなものは持ち合わせていません。
 そんな自分にできること、を、ちょっとだけ考えてはいます、けど。」

「不便に思うこと、でしょうか。」

相手の言葉に、少しだけ考える。

「ええと、そうですね。
 こちらの世界に技術にはまだまだ疎いですけど、それは友人が教えてくれますし。」

「まあ。
 ………今まで当たり前だった神が、こちらの世界では名前すら無いものだから。
 何処に向かって祈ればいいのか、時々分からなくなることが、ちょっとだけ困ります、かね。」

頬をぽり、とかいて。
何処に向かって、が、単なる方角の問題ではないことは、すぐに伝わるだろう。

松葉 雷覇 >  
「分かりやすい人物と言う意味では、何方かと言えばそうと私は答えますけどね」

「恥ずかしがる貴女も、照れる貴女も可愛らしいですよ。シスター」

くすり、楽しげに、冗談めかしに言ってのけた。
そう言った冗談を言える位の人間性はあるようだ。

「いいえ、シスター。未熟ならば未熟なりに学ぼうとし
 そして、人と成り、隣人として親身に寄り添う姿勢。
 貴女は素晴らしい人物ですよ、シスター」

「山本君も、『227番』も、浦原さんも、そして、貴女も。
 私は、多くの人間と縁を無全て感動しています」

その心底はかくも、賞賛に値するからこそ口にしただけの事。
雷覇は決して、嘘は吐かない。彼の言動の全ては
端々から溢れる善意で成り立っている。だからこそ、嘘を吐く事はない。

「お気軽に雷覇、とお呼びください。人によっては博士、と呼びます。
 其方の世界に存在するかは知りませんが、その分野の先達者の称号です」

お好きな様にどうぞ、と雷覇は静かに立ち上がる。
彼女は、信徒だ。雷覇は宗教は門外漢だ。
だが、"理解"はしている。だからこそ、彼女に聞きたかった。

「……それは……」

しとりと滴る雨音に合わせるような足音だ。
静かに、ゆっくり、マルレーネへと近づいてくる。

「──────今、地球<コチラ>側にあるものでは、埋めれないものでしょうか?」

友人、物、思い出。
人を成り立たせるあらゆる要素を彼女も知っているはずだ。
時にそれは、人の不足たる部分を補う事は出来る。
彼女にとっての"神"とは如何なるものか。
その顔を覗き込み、訪ねた。

マルレーネ > 「もー。 わかりやすいとか言わないでくださいよ。
 褒めたってなーんにも出ませんよ。」

もう、と少しばかり困った顔で怒る仕草を見せて。

「雷覇博士、ですね。
 いえ、なんとなく伝わります。 学者様の中で、似たような敬称を聞いたことがあります。」

縁か。
縁に関しては感謝はしているし、とても幸せを感じている。
もちろん………。それを口にはしない。 彼女はどこに飛んでいくか分からない異邦人。

相手が立ち上がるのを眺め、少しだけ首を傾げて。


「………私が今まで見た中では、特には。
 それでも、他の方とたくさんお話して、たくさん関わり合って。
 自分が必要とされているんだ、って感じられれば、少しだけ………埋める、ではないですけれど、救われている部分は、ありますね。」

求められることが、僅かな救い。 そう言って微笑んだ。

松葉 雷覇 >  
「貴女の可愛い姿、褒めれば出てきますとも」

クスクス。動じることなく、からかう事を止めはしない。

「そうですか。是非とも交流してみたいですね?
 貴女の世界の、学者の方々と……」

雷覇は知識に貴賤を持たない。
異界の知識であろうと何であろうと
それを学びたい姿勢は何時でも持っている。
何時でも雷覇は、先達者であり、挑戦者である。

「……成る程」

マルレーネの言葉を聞き、目を細めた。
深く、青く、慈しむ眼差し。

「ええ、多くの人々が貴女自身の人柄に頼り、惚れ込み、頼りに来る。
 貴女は必要とさせるべき事をされている。……ただ……」

「貴女自身は、"救われていない"……と、言い切るのは
 貴女自身の言葉も加味すれば、言い過ぎですね。失礼しました」

少なくとも、縁に救われている部分なのは確かなのだろう。
彼女の弁を借りれば、そう言う事になる。
雷覇は、微笑みを崩さない。その声音は、何処までも穏やかで……。

「────……ですが、貴女自身の"孤独"は埋めらるには至らない、と?」

その深い青は何処までもマルレーネを見ている────。

マルレーネ > もう、と頬を膨らませながら見上げて。

「ああ、………博士のような方もいらっしゃったような気もします。
 とても高い理想を持って、それだけを見て全力を尽くしているかのような。」

「あはは、そこまで言われるとそんなことないっていうか………。
 この島の環境が、こういう場所を求めているのかな、と思ったりします、よ?
 相談したり、困った人が困ったことを口にできる、そんな場所が欲しい、だけで。」

自分の力ではないと思うんですが、と、自分の指を合わせて。


「………ええ、救われていないというわけではないですし。
 何より、私は今は大丈夫ですから。」

穏やかな言葉を受け止めながら、目を少しだけ細めて。


「………。私は、いつの間にかこちらの世界に来ていた異邦人。
 この島にある穴が原因であれば、この島の人も次々と他の世界へと消えていくはずです。

 でも、0ではないにしろ、そうはなっていません。人は増えていく方が多い。」

「それは即ち、穴に引き込まれやすい人と、そうではない人がいる、ということではないかな、って思ってます。」

「そうなると、私だって、明日にどこにいってしまうか分からないじゃないですか。」


孤独について言及すれば、穏やかに微笑んだままそう答える。


「ですから、特にまあ、埋めなければいけないものではないのかな、って。」

寂しい内容を、優しい声で告げる。

松葉 雷覇 >  
「そう言って下さるのならば、光栄です。理想に届くにはまだまですが
 いずれ、皆さんの手助けに成れればいい、と思っています」

何処までもそこに妥協はない。
高い理想と言うのも、間違いではない。
困ったように眉を下げ、静かに首を振った。
 
「…………それは」

松葉 雷覇 >  
 
        「──────本当に、真に"大丈夫"と、思った上での言葉ですか?」
 
 

松葉 雷覇 > ────……優しさの音色を包むような、穏やかさが、問いかける。
マルレーネ > 「そうそう簡単に届かないから理想なんです。
 いずれ。 ………もっと遠い先の話に、実現できれば良いですよね。」

相手の言葉を聞きながら、目を細めた。



「………悲しみの多寡で言うならば、悲しい、とは思いますよ。
 悲しいことを一つも許容できないのならば、それは"大丈夫ではない"と言えるでしょう。
 でも、そうなるものだと思っていれば、大丈夫。」

「むしろ、この島の人たち………私の友人の方が、幾許か心配が強いですね。

 疲れていたり、困っていたり、縋る人がまだ必要だったり。
 そんな人たちがいるので、まだしばらくはここにいたいな、って。
 私が何とかできる、というわけではないんですけれど、助けにはなるかなって。」

ふふ、と少しばかり目を細めて笑う。
目の裏に浮かぶ友人らは、誰もがまだまだ心配の残る人ばかり。

問いかけに答える最中で己が消えていく。

松葉 雷覇 >  
白い手袋を身に着けた右手が伸ばされた。
抵抗しなければその頬に添えられることになるだろう。
何処までも優しく、どうしようもなく暖かな、一個人。
人としての温もりを持った、ありふれた人間の手。

「……いけませんよ、"マルレーネ"さん」

雷覇の穏やかさは、何処までも変わりはしない。

「貴女は自分から、"明日には何処かへ行ってしまう旅人"だと言いました。
 異邦人の方々はきっと、同じ悩みを抱えているのでしょう。或いは
 地球<コチラ>側に未だ馴染むことなく、唯々、喪失を嘆き、世界を呪う事を厭わないでしょう」

今でも根強く残る問題だ。この島では今でもよく問題に上がる。
哀しみの隣人。高き理想のうちには、それさえどうにか出来ないものかと思い悩む。
彼女の言うように、簡単に届かないから理想と言うのは間違いではない。
己の口元に人差し指を立て、しぃ、と静かに息を吐いた。

「だが、ただ許容すればいいというものではありませんよ。
 確かに、貴女が寄り添ってきたご友人の方々は
 貴女が受け入れてくれたからこそ、"今"があるのでしょう」

「ですが、受け入れたものは何時か自らの中で乗り越えるか、思い出に変えなければならない。
 どれだけ許容しようと、"悲しみ"は"悲しみ"のままです。それでは、何時までも涙は枯れないでしょう。」

「"大丈夫"と言えるのであれば、私としてはそこで"大丈夫"だと思います」

「マルレーネさん。貴女の志はとても慈しみに溢れ、気高い志と言えるでしょう。
 誰かの助けになりたい、と言うのは簡単です。ですが、実際に助けになるのは難しい。
 それは、シスターと言う"役割"に縋る方もいるかもしれません。ですが……」

「貴女と言う個人に、縋り、助けを求める事もあるでしょう。
 そしてそれは、逆もあります。マルレーネさん」

「貴女が人を救うように、貴女自身が救われて欲しいと願う人がいる。
 私もまた、その一人……。無論、貴女の"孤独"は簡単な問題ではないでしょう」

「ですから、どうか。他人の為に己を押しつぶすのはしないでください。それは、感心できませんね?」

雷覇もまた、多くの人間を救うために行動している。
そして、その技術力に救われた人間もいるだろう。
だが、雷覇自身も語らない苦悩もあるだろう。
それを許容するだけでなく、彼なりに昇華をしたからこそ、今を、前を見ている。
故に、シスターではなく、マルレーネ個人として彼女を諫めた。
その温もりは、消え行く女性を僅かでも繋ぎとめようとする。
ほんの少しの、人としての我儘だ。