2020/09/16 のログ
神樹椎苗 >  
「――まあ、そんなところですね」

 質問に質問で返されて、そのまま素直に答える。
 ここまで話してしまえば隠す事でもない。

「そのヒトが非道を受けていたのに、助けに行けなかった。
 今まさに苦しんでいるのに、なにも出来る事が無い。
 無力さってやつを思い知ってるところです」

 それに――。

「だから、大切にしてやりたい娘にすらなにもしてやれねーんです。
 頼って、話して、甘えてくれてもいいのに。
 結局、ご飯を作って待っててやるだけしか、してやれねーんですよ」

 言いながら、顔がうつむいてまた膝に埋まる。
 言葉にしてみたら、思っていたより落ち込んだ。

「くだらねー、悩みですよ。
 ほんとう、あほらしい――」

 言葉が途切れて、吐息が漏れた。
 

クロロ >  
「確かにな。やッぱガキだ」

くだらない悩みだ。"よくある悩み"だ。
フン、と鼻を鳴らし、腕を組んだ。

「ソイツが何されたか知らねェけど、死ンじゃいねェンだろ?
 ソイツが助かるとかどーとか、ヒデェ目に合うとか、そう言う時もある。
 そう言う時に、テメェがどうしよもなく遠い場所にいる時だッてあンだろ」

互いに手を取り合おうと、共に歩こうと、究極的には他人。
互いが互いにそれぞれの生活が存在する。
同棲をしていようが何処にいようが、それは変わらない。
その人が目の届かない内に何かが起こることだってあるだろう。
それはもう、どうしようもない事。仕方のない事。
ご無体かもしれないが、そう言い切るしかない。

「だから納得しろ。……とまでは言わねェ、オレ様も納得したくねェからな。
 だが、ふざけた事にオレ様でもどうしようもねェ時はある。そンときゃキレるだろうな」

目を瞑り、思い返す。
"今の自分に大事なもの"。
脳裏に過る、彼女たちの影。
金色の目はゆっくり開く、少女の顔を覗き込んだ。

「だが、キレてもしょうがねェ。お礼参りだろうと何だろーと、何でもする。
 そう、『何でも』だ。だから、まず、『何も出来ない』ッつーのを止めろ」

ずいっ、と顔を覗き込んだ。

「助けに行けなかッたから何だ?ソイツが死ンでねーなら、生きてるならやりようはあンだろ?
 『何も出来る事が無い』じゃねェ、ガキならガキなりに『何か出来る事』を探せばいい。
 テメェがソイツに会いてェなら会えばいいし、会ッてからのが『出来る事』ッつーのは思いつくモンだぜ」

命あっての物種と、人は言う。
寧ろ、ここからだ。その人がまだ"いる"と言うなら、幾らでもやりようはある。
ヘッ、と鼻で笑い飛ばせばクロロは立ち上がり、少女を見下ろした。

「ガキなンだから、ヘンに考えてもしょーがねェぜ。
 テメェで考えて思いつかねェなら、テメェが『何をしたいか』が正解じゃねェか?」

「それとも、お前も口先だけかよ。今、お前の心はその娘とか、ソイツとかに『何をしたい』ンだ?」

煌々と輝く金が、問いかける。
子どもなどと、見下しもしない。クロロは何時だって、対等だ。
対等に見据えるから、問いかける。言葉をぶつける。発破を掛ける。



───────思い悩む位なら、何かあンだろ?それともガキらしく、悩んで泣いて終わりにするか?



金の瞳は、静かに語る。

神樹椎苗 >  
「なんでもする、なにをしたいか、ですか」

 それは、椎苗の悩みを解決するような答えではない。
 けれど。

「――お前、やっぱりバカで単純ですね」

 ふっと、それまでと違うバカにしたようなものじゃない。
 自然と漏れだした笑み。

「会ってからの方が、思いつくもんですか、そういうもんですかね。
 会いたいなら会って、それからでいいんですかね。
 自分がそうしたいから――それだけで動いていいんですかね」

 言ってみれば。
 案外、すとんと腑に落ちた。

 結局、単純な悩みではあったのだ。
 なら、答えだって単純なのだ。
 単純なわかり切っている事を、考え過ぎて自ら難しくしているだけに過ぎない。

「はあ。
 むかっ腹が立ちますね。
 お前みたいなロリコンやろーに諭されるなんて」

 むすっと、不愉快そうに顔を背けるが。
 すぐに諦めたように、苦笑を浮かべた。

「――口先だけにはなりたくねーです。
 しいもたまには、お前みたいに単純なバカになってみますよ」

 そう、どこか吹っ切れたように。
 少しばかり晴れやかな表情を見せるだろう。

クロロ >  
「おうよ、そうでなきゃ"スジ"が通らねェからな」

己の手の届く範囲に、己の近くで共に歩んでくれた。
どんな関係であれ、それが結ばれた縁であれば
『何かしなければ』"スジ"が通らない。
クロロは無法者だが、その"矜持"は守り続けている。

「ウルセェな、馬鹿で単純は余計だ。第一、お前まだガキだろうが。
 そもそも、悩ンでどーにもなッてねェから落ち込ンでンだろ?
 じゃァ、動けばいいだろ。そうでなきゃ、どーにもなンねーだろ」

悩んでダメなら、動くだけ。
至極単純だ。そもそも、子どもが考える事でも無い。

「ガキならガキらしく、それでいいだろ?やりてーようにやりゃァ
 お前の周りがちゃンと受け止めてくれる。テメェが思い悩むぐれェの連中なンだろ?
 立場が逆なら、同じように心配ぐれェはしてくれるだろうぜ。だから、いいだろ。好きにしても」

例えどれだけの勢いだろうと、そこに受け止めてくれる縁があるなら
きっとそれは間違いじゃないだろう。縁とは、そういうものだ。
子ども一人で思い悩むことにしては、本当によくあることだ。
フ、と口元が緩めば肩を竦めた。

「だから、オレ様はバカじゃねェよ。無理にオレ様になりきろうとせずとも
 お前はお前、オレ様はオレ様だ。それに、お前は背伸びしたがりだからな……アー、まァ、そうだな」

後頭部を掻いて、一息。

クロロ >  
「迷ッた時は、心に従え。お前の感情が正しいか間違いかは、後からわかる」
≪迷った時は、心に従え。貴様の感情が正しいか否か、後々わかる事だ≫

「正しいならそれでいいし、間違ッてンならごめンなさいで終わりだろ?」
≪正しいならそれで終わりだ。間違っていたなら素直に謝れ≫

「そーゆーモンだろ?お前等の関係ッて。人間関係なンて存外、馬鹿になる位が丁度─────……、……?」
≪そう言うものだ。貴様らの関係などその程度だ。人間関係なぞ、難しく考える方がどうか─────……≫

「まァ、いいか。とりあえず、そーゆーモンだ」

また、誰かの声が脳裏に過った。
これが誰の声かは思い出せない。"受け売り"だ。
自分の言葉では無かったが、きっとそれは間違いでは無かったはず。
後頭部を掻きながら、目をパチクリ。

「そいや、さッきの質問な。オレ様もいるぜ、そう言うの」

クロロ >  
「不愛想なクソガキ」

感情を殺されたと言う、儚い少女。

「よーわからン、フーキイイン」

燃える瞳に静寂を宿す少年。

「覚えてやらねェといけねェ、ヘナチョコ」

怪異と共にいる、引っ込み思案な少女。

「……後、アホ。オレ様が目をかけてやらねェとしょうがねェ、水ガキ」

笑顔の裏に何かを隠す、朱髪の少女。

「ンで、お前」

人差し指で、椎苗を指した。

「たッた今出来た縁だけどな。ソイツをひッくるめて、全員オレ様の大切な奴だ。
 オレ様、"キオクソーシツ"ッて奴らしいからな。会ッた回数とかそういうンじゃねェ。
 記憶はソイツを形成する上で大切なモンだ。だから、"オレ様"ッて土台を作ッてくれる奴等を、大切に思わねェはずがねェ」

白紙の上、指標無き空白の砂漠。
途方も無い道だが、生きている以上歩き続けるしかない。
自らの元の記憶に頓着があるわけでは無いが、無いからこそ、その大切さを理解しているつもりだ。
だからこそ、クロロにとって結ばれる縁は、この空白を埋めてくれる存在は、ずっと大切にしている。
そうでなきゃ──────……。

「ま、もしソイツの怒られる時は、しょうがねェからオレ様も怒られてやる。
 お前を慰めたのはオレ様だからな。そうじゃなきゃ──────……。」

「────……"スジ"、通ンねェだろ?」

ニヤリと、口角がつり上がった。

神樹椎苗 >  
「心に、従う」

 繰り返す。
 言葉にして笑う。

「単純なのに難しい事を、言うじゃねーですか」

 それで実際に動けるのなら苦労はしない。
 けれど、答えもまたそこにしかないのだろう。

「――随分沢山いるじゃねえですか。
 そんなところにしいを加えていいんですか?」

 何とも懐の深い事だ。
 自分を形作ってくれる縁をすべて大切にする。
 そんなことをはっきり口にできる人間が、どれだけいるだろう。

「まったく、恥ずかしい事をよく喋る口ですね。
 スジを通す――簡単じゃねーですよ。
 まあ、わかっていってるみてーですが」

 自然と表情が和らぐ。
 この青年にはしっかりと一つ『芯』が通っている。
 だから、その言葉はしっかりと重みを伴って届いてくるのだ。

「仕方ねーですね。
 ロリコンやろーに誑かされるのは不本意ですが。
 その台詞に、踊らされてやるとしますよ」

 ふふ、と目を細めて楽し気に笑う。
 膝に手を置いて、ゆっくりと腰を上げた。

「一応、感謝はしといてやります。
 お前のおかげで、少しばかりすっきりしました」

 立ち上がって、キャスケットを被りなおす。
 まだ迷いが晴れたわけではないが、気持ちは随分と軽くなった気がした。

クロロ >  
「カカカ、オレ様頭いいからな」

難しい事位余裕だ、そう宣ってみせる。

「いいンだよ、オレ様は強ェーからな。どンだけこようが、全員受け入れる」

何人だろうと、誰だろうと関係ない。
彼等が自分を受け入れてくれる限り、クロロもまた同じだ。
"スジ"を通し、彼等を受け入れ、時には対立する。
クロロなりの、"スジ"の通し方だ。
楽しげに語るからこそ、その大事さを良く表している。

「オレ様なら余裕だ。お前こそ、随分と回るクチだな。
 つーか、一々よくそンな悪口出てくンな。悪口から生まれたンか?」

余程凄い家庭環境だったのか、なんだったのか。
その辺りは割とどうでもいい事なのかもしれない。
クロロは隠し事が出来るほど、器用では無い。
"スジ"を通すからこそ、一本気を、『芯』を通すつもりだ。

「ロリコンロリコンウルセーよ、オレ様はロリコンじゃねェ。クロロだ」

ケ、と吐き捨てるように名乗るが、口元は緩んだままだ。

「そーか、ンじゃァ、後は頑張れよ。オレ様が言えるのはそンぐれェだ。
 ……で、これからどこに行くンだ?一人で行けるか?」

神樹椎苗 >  
「しいも頭がいいですからね。
 お前の一億倍くらいは言葉も知識もありますよ」

 ふふん、と自信満々に笑って見せる。

「しらねーですよ。
 ロリコンやろーはロリコンやろーで十分です」

 べ、っと青年に舌を出して。
 子供のような事をしてるなと思い、変な笑いが漏れた。

「ぷ、ふふ、まあそうですね。
 一人で行けますが、今から行っても仕方ないところですから。
 もう少し、会ってどうしたいか、何をしたいか、考えてから行くことにします」

 とす、とす、と軽く微かな足音を立てながら、青年の横を抜けて歩き出す。
 ここに来た時と比べて、ずっと身体が軽く感じられた。

「お前、いい男ですよ。
 お前も慕ってくれるヤツは大事にしやがれ。
 単純でバカで目つきも口も悪いロリコンやろー」

 どこか楽しそうに笑いながら。
 悪態を吐くだけ吐いて、青年の横をすれ違っていくだろう。

クロロ >  
「それならオレ様は百億倍頭がいいな」

それこそ頭の悪い言葉だったが、本気でそう言ってのけた。

「アァ?人様の名前くらいちゃンと覚えとけ、クソガキ。
 ……ッたく、これだからガキは仕方ねェ。手間がかかる」

エルもアストロも、大概手を焼かすような存在だ。
また手を焼かす存在が増えたと考えると、心なしか楽しくなってくる。
そう、"あの時"と同じだ。こうやって周りに、大勢の人間が──────。


……あの時……?


「…………?」

"あの時"とは、何時の事だ。
何かがフラッシュバックした気もする。
それも、一瞬の事だ。何が出てきたのかはわからない。
大切な事のような気がするが、元々頓着の無いクロロは直ぐに気にしない事にした。
横切る椎苗をしり目に、軽く自身の首を撫でる。

「ヘッ、知ッてるよクソガキ。お前に言われるまでもねェ。
 テメェも精々、夜道には気を付けな」

それだけ言えれば、十分だ。
振り返る事も無く、少女の無事を祈り
暗がりの方向。自らの居場所たる場所へと、自然と足を運ばせるのだった。

ご案内:「宗教施設群-修道院」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」からクロロさんが去りました。