2020/09/16 のログ
■神樹椎苗 >
「――まあ、そんなところですね」
質問に質問で返されて、そのまま素直に答える。
ここまで話してしまえば隠す事でもない。
「そのヒトが非道を受けていたのに、助けに行けなかった。
今まさに苦しんでいるのに、なにも出来る事が無い。
無力さってやつを思い知ってるところです」
それに――。
「だから、大切にしてやりたい娘にすらなにもしてやれねーんです。
頼って、話して、甘えてくれてもいいのに。
結局、ご飯を作って待っててやるだけしか、してやれねーんですよ」
言いながら、顔がうつむいてまた膝に埋まる。
言葉にしてみたら、思っていたより落ち込んだ。
「くだらねー、悩みですよ。
ほんとう、あほらしい――」
言葉が途切れて、吐息が漏れた。
■クロロ >
「確かにな。やッぱガキだ」
くだらない悩みだ。"よくある悩み"だ。
フン、と鼻を鳴らし、腕を組んだ。
「ソイツが何されたか知らねェけど、死ンじゃいねェンだろ?
ソイツが助かるとかどーとか、ヒデェ目に合うとか、そう言う時もある。
そう言う時に、テメェがどうしよもなく遠い場所にいる時だッてあンだろ」
互いに手を取り合おうと、共に歩こうと、究極的には他人。
互いが互いにそれぞれの生活が存在する。
同棲をしていようが何処にいようが、それは変わらない。
その人が目の届かない内に何かが起こることだってあるだろう。
それはもう、どうしようもない事。仕方のない事。
ご無体かもしれないが、そう言い切るしかない。
「だから納得しろ。……とまでは言わねェ、オレ様も納得したくねェからな。
だが、ふざけた事にオレ様でもどうしようもねェ時はある。そンときゃキレるだろうな」
目を瞑り、思い返す。
"今の自分に大事なもの"。
脳裏に過る、彼女たちの影。
金色の目はゆっくり開く、少女の顔を覗き込んだ。
「だが、キレてもしょうがねェ。お礼参りだろうと何だろーと、何でもする。
そう、『何でも』だ。だから、まず、『何も出来ない』ッつーのを止めろ」
ずいっ、と顔を覗き込んだ。
「助けに行けなかッたから何だ?ソイツが死ンでねーなら、生きてるならやりようはあンだろ?
『何も出来る事が無い』じゃねェ、ガキならガキなりに『何か出来る事』を探せばいい。
テメェがソイツに会いてェなら会えばいいし、会ッてからのが『出来る事』ッつーのは思いつくモンだぜ」
命あっての物種と、人は言う。
寧ろ、ここからだ。その人がまだ"いる"と言うなら、幾らでもやりようはある。
ヘッ、と鼻で笑い飛ばせばクロロは立ち上がり、少女を見下ろした。
「ガキなンだから、ヘンに考えてもしょーがねェぜ。
テメェで考えて思いつかねェなら、テメェが『何をしたいか』が正解じゃねェか?」
「それとも、お前も口先だけかよ。今、お前の心はその娘とか、ソイツとかに『何をしたい』ンだ?」
煌々と輝く金が、問いかける。
子どもなどと、見下しもしない。クロロは何時だって、対等だ。
対等に見据えるから、問いかける。言葉をぶつける。発破を掛ける。
───────思い悩む位なら、何かあンだろ?それともガキらしく、悩んで泣いて終わりにするか?
金の瞳は、静かに語る。
■神樹椎苗 >
「なんでもする、なにをしたいか、ですか」
それは、椎苗の悩みを解決するような答えではない。
けれど。
「――お前、やっぱりバカで単純ですね」
ふっと、それまでと違うバカにしたようなものじゃない。
自然と漏れだした笑み。
「会ってからの方が、思いつくもんですか、そういうもんですかね。
会いたいなら会って、それからでいいんですかね。
自分がそうしたいから――それだけで動いていいんですかね」
言ってみれば。
案外、すとんと腑に落ちた。
結局、単純な悩みではあったのだ。
なら、答えだって単純なのだ。
単純なわかり切っている事を、考え過ぎて自ら難しくしているだけに過ぎない。
「はあ。
むかっ腹が立ちますね。
お前みたいなロリコンやろーに諭されるなんて」
むすっと、不愉快そうに顔を背けるが。
すぐに諦めたように、苦笑を浮かべた。
「――口先だけにはなりたくねーです。
しいもたまには、お前みたいに単純なバカになってみますよ」
そう、どこか吹っ切れたように。
少しばかり晴れやかな表情を見せるだろう。
■クロロ >
「おうよ、そうでなきゃ"スジ"が通らねェからな」
己の手の届く範囲に、己の近くで共に歩んでくれた。
どんな関係であれ、それが結ばれた縁であれば
『何かしなければ』"スジ"が通らない。
クロロは無法者だが、その"矜持"は守り続けている。
「ウルセェな、馬鹿で単純は余計だ。第一、お前まだガキだろうが。
そもそも、悩ンでどーにもなッてねェから落ち込ンでンだろ?
じゃァ、動けばいいだろ。そうでなきゃ、どーにもなンねーだろ」
悩んでダメなら、動くだけ。
至極単純だ。そもそも、子どもが考える事でも無い。
「ガキならガキらしく、それでいいだろ?やりてーようにやりゃァ
お前の周りがちゃンと受け止めてくれる。テメェが思い悩むぐれェの連中なンだろ?
立場が逆なら、同じように心配ぐれェはしてくれるだろうぜ。だから、いいだろ。好きにしても」
例えどれだけの勢いだろうと、そこに受け止めてくれる縁があるなら
きっとそれは間違いじゃないだろう。縁とは、そういうものだ。
子ども一人で思い悩むことにしては、本当によくあることだ。
フ、と口元が緩めば肩を竦めた。
「だから、オレ様はバカじゃねェよ。無理にオレ様になりきろうとせずとも
お前はお前、オレ様はオレ様だ。それに、お前は背伸びしたがりだからな……アー、まァ、そうだな」
後頭部を掻いて、一息。
■クロロ >
「迷ッた時は、心に従え。お前の感情が正しいか間違いかは、後からわかる」
≪迷った時は、心に従え。貴様の感情が正しいか否か、後々わかる事だ≫
「正しいならそれでいいし、間違ッてンならごめンなさいで終わりだろ?」
≪正しいならそれで終わりだ。間違っていたなら素直に謝れ≫
「そーゆーモンだろ?お前等の関係ッて。人間関係なンて存外、馬鹿になる位が丁度─────……、……?」
≪そう言うものだ。貴様らの関係などその程度だ。人間関係なぞ、難しく考える方がどうか─────……≫
「まァ、いいか。とりあえず、そーゆーモンだ」
また、誰かの声が脳裏に過った。
これが誰の声かは思い出せない。"受け売り"だ。
自分の言葉では無かったが、きっとそれは間違いでは無かったはず。
後頭部を掻きながら、目をパチクリ。
「そいや、さッきの質問な。オレ様もいるぜ、そう言うの」
■クロロ >
「不愛想なクソガキ」
感情を殺されたと言う、儚い少女。
「よーわからン、フーキイイン」
燃える瞳に静寂を宿す少年。
「覚えてやらねェといけねェ、ヘナチョコ」
怪異と共にいる、引っ込み思案な少女。
「……後、アホ。オレ様が目をかけてやらねェとしょうがねェ、水ガキ」
笑顔の裏に何かを隠す、朱髪の少女。
「ンで、お前」
人差し指で、椎苗を指した。
「たッた今出来た縁だけどな。ソイツをひッくるめて、全員オレ様の大切な奴だ。
オレ様、"キオクソーシツ"ッて奴らしいからな。会ッた回数とかそういうンじゃねェ。
記憶はソイツを形成する上で大切なモンだ。だから、"オレ様"ッて土台を作ッてくれる奴等を、大切に思わねェはずがねェ」
白紙の上、指標無き空白の砂漠。
途方も無い道だが、生きている以上歩き続けるしかない。
自らの元の記憶に頓着があるわけでは無いが、無いからこそ、その大切さを理解しているつもりだ。
だからこそ、クロロにとって結ばれる縁は、この空白を埋めてくれる存在は、ずっと大切にしている。
そうでなきゃ──────……。
「ま、もしソイツの怒られる時は、しょうがねェからオレ様も怒られてやる。
お前を慰めたのはオレ様だからな。そうじゃなきゃ──────……。」
「────……"スジ"、通ンねェだろ?」
ニヤリと、口角がつり上がった。
■神樹椎苗 >
「心に、従う」
繰り返す。
言葉にして笑う。
「単純なのに難しい事を、言うじゃねーですか」
それで実際に動けるのなら苦労はしない。
けれど、答えもまたそこにしかないのだろう。
「――随分沢山いるじゃねえですか。
そんなところにしいを加えていいんですか?」
何とも懐の深い事だ。
自分を形作ってくれる縁をすべて大切にする。
そんなことをはっきり口にできる人間が、どれだけいるだろう。
「まったく、恥ずかしい事をよく喋る口ですね。
スジを通す――簡単じゃねーですよ。
まあ、わかっていってるみてーですが」
自然と表情が和らぐ。
この青年にはしっかりと一つ『芯』が通っている。
だから、その言葉はしっかりと重みを伴って届いてくるのだ。
「仕方ねーですね。
ロリコンやろーに誑かされるのは不本意ですが。
その台詞に、踊らされてやるとしますよ」
ふふ、と目を細めて楽し気に笑う。
膝に手を置いて、ゆっくりと腰を上げた。
「一応、感謝はしといてやります。
お前のおかげで、少しばかりすっきりしました」
立ち上がって、キャスケットを被りなおす。
まだ迷いが晴れたわけではないが、気持ちは随分と軽くなった気がした。
■クロロ >
「カカカ、オレ様頭いいからな」
難しい事位余裕だ、そう宣ってみせる。
「いいンだよ、オレ様は強ェーからな。どンだけこようが、全員受け入れる」
何人だろうと、誰だろうと関係ない。
彼等が自分を受け入れてくれる限り、クロロもまた同じだ。
"スジ"を通し、彼等を受け入れ、時には対立する。
クロロなりの、"スジ"の通し方だ。
楽しげに語るからこそ、その大事さを良く表している。
「オレ様なら余裕だ。お前こそ、随分と回るクチだな。
つーか、一々よくそンな悪口出てくンな。悪口から生まれたンか?」
余程凄い家庭環境だったのか、なんだったのか。
その辺りは割とどうでもいい事なのかもしれない。
クロロは隠し事が出来るほど、器用では無い。
"スジ"を通すからこそ、一本気を、『芯』を通すつもりだ。
「ロリコンロリコンウルセーよ、オレ様はロリコンじゃねェ。クロロだ」
ケ、と吐き捨てるように名乗るが、口元は緩んだままだ。
「そーか、ンじゃァ、後は頑張れよ。オレ様が言えるのはそンぐれェだ。
……で、これからどこに行くンだ?一人で行けるか?」
■神樹椎苗 >
「しいも頭がいいですからね。
お前の一億倍くらいは言葉も知識もありますよ」
ふふん、と自信満々に笑って見せる。
「しらねーですよ。
ロリコンやろーはロリコンやろーで十分です」
べ、っと青年に舌を出して。
子供のような事をしてるなと思い、変な笑いが漏れた。
「ぷ、ふふ、まあそうですね。
一人で行けますが、今から行っても仕方ないところですから。
もう少し、会ってどうしたいか、何をしたいか、考えてから行くことにします」
とす、とす、と軽く微かな足音を立てながら、青年の横を抜けて歩き出す。
ここに来た時と比べて、ずっと身体が軽く感じられた。
「お前、いい男ですよ。
お前も慕ってくれるヤツは大事にしやがれ。
単純でバカで目つきも口も悪いロリコンやろー」
どこか楽しそうに笑いながら。
悪態を吐くだけ吐いて、青年の横をすれ違っていくだろう。
■クロロ >
「それならオレ様は百億倍頭がいいな」
それこそ頭の悪い言葉だったが、本気でそう言ってのけた。
「アァ?人様の名前くらいちゃンと覚えとけ、クソガキ。
……ッたく、これだからガキは仕方ねェ。手間がかかる」
エルもアストロも、大概手を焼かすような存在だ。
また手を焼かす存在が増えたと考えると、心なしか楽しくなってくる。
そう、"あの時"と同じだ。こうやって周りに、大勢の人間が──────。
……あの時……?
「…………?」
"あの時"とは、何時の事だ。
何かがフラッシュバックした気もする。
それも、一瞬の事だ。何が出てきたのかはわからない。
大切な事のような気がするが、元々頓着の無いクロロは直ぐに気にしない事にした。
横切る椎苗をしり目に、軽く自身の首を撫でる。
「ヘッ、知ッてるよクソガキ。お前に言われるまでもねェ。
テメェも精々、夜道には気を付けな」
それだけ言えれば、十分だ。
振り返る事も無く、少女の無事を祈り
暗がりの方向。自らの居場所たる場所へと、自然と足を運ばせるのだった。
ご案内:「宗教施設群-修道院」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」からクロロさんが去りました。