2020/09/29 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」に松葉 雷覇さんが現れました。
■マルレーネ >
「はい、それじゃあ身体に気を付けてくださいね。」
手を振って、相談に来た老人を見送る。
オッダ神父のファンは最近は来なくなったけれども、逆に今まで以上に仕事が増える。
「………畑仕事はちゃんと終わりましたし、明日には施療院の様子、見に行けますかね。」
んー、っと背伸びをする修道女が一人、日差しの中で修道院の前に立つ。
いつも通りの"相談・懺悔・愚痴・文句、なんでも聞きます"の札を立てかけたまま。
あれから数日が経った。
まだまだ、気持ちが悪いことも、薬の症状も出ることはあるが。
それでも、目の障害と左腕の障害は、ほぼほぼ回復した。
今は、睡眠時間が少なくなってしまったこと以外は、身体は元通りだ。
■松葉 雷覇 >
ふと、空を覆う曇り空。残暑の熱も過ぎ去り
随分と過ごしやすい季節となった時期だ。
騒動こそあれど、"常世の"平穏は依然変わりない。
そう、何も変わりはしない。
「──────"お久しぶり"ですね、マルレーネさん」
穏やかな声音が、修道院に波紋となって広がった。
それは、何時からいたのだろう。白い背広姿の男性が、そこにいた。
融和な態度を醸し出し、穏やかな微笑みを浮かべながら
男性は何事もないように、マルレーネへと歩み寄る。
「お体の方は平気ですか?後遺症等は出ていないでしょうか?」
■マルレーネ >
「…………え?」
唐突。背中にかけられた言葉に、身体が硬直する。
振り向けば、何故か……心がざわつく。
記憶のどこを探っても、相手の記憶が出てこない。
「……どこかで、お会いしましたか?」
申し訳なさそうに笑って、えへへ、と手を後ろで組んで。
もやもやする。 けど、その気持ちに蓋をして。
「……あっ。……
その、風紀委員の関係者の方、でしょうか。
それとも、病院の……?」
尋ねる。後遺症のことについて知っているのは、風紀委員の限られた人間か、病院で診察に当たった人間くらいだ。
どちらだろう、と目を細めて見つめながら、問う。
■松葉 雷覇 >
男は静かに首を振る。合わせて揺れる、金糸の髪。
「いえ、ごく個人的なお付き合いをさせて頂いてます。
ええ、如何やらショック症状で記憶の一部に障害が出ているみたいですね」
穏やかな声音に嘘は無い。微笑みを崩すことなく、男は宣う。
閉ざした蓋に、手を伸ばすように、男もまたマルレーネへと手を伸ばす。
「ああ、どうかお気になさらずに。事は全てお聞きしています。
私の事を忘れてしまっていても、貴女もまたご友人と言う事には変わり有りません」
「本音を言えば、幾分か寂しいものですが……」
ほんの少し、眉を下げた。
微笑みにほんのりと苦味が混じる。
彼女の境遇を考えれば仕方のない事だ。それを責めるつもりは毛頭ない。
「学園関係者には違いありません。
私は異能学会に所属する科学者、松葉 雷覇と申します」
「改めて、お見知りおきを」
平然と自己紹介を述べた。
その態度は幾何も崩れない。
■マルレーネ >
「……そう、でしたか。
すみません、そういうことは今まで無かった、ので。
どのような、関係でしたでしょう、か。」
あれ、なんでだろう。
言葉が喉につっかえて。
うまく。
「………すみません。
私はマルレーネと申します。 マリー、とでもお呼びください。」
違和感をぐっと押さえつけたまま、にっこりと微笑みかける。
伸ばされた手を握っての握手をしかけて、身体がぎゅ、っと硬直する。
自分の身体が自分ではないように、お辞儀だけをする。
■松葉 雷覇 >
「言った通りですよ、"マリー"」
微笑みは、崩さない。
まさに対照的な空気がそこに重く、交差する。
「貴女のごく、個人的な"友人"です」
伸ばした手が、聖女の頬へと伸ばされた。
白い手袋を付けた手。その記憶は、決して蘇る事は無い。
水面に浮かぶ事のない記憶であるが、もし、その手と触れ合えば……。
「……とても皆さん、辛い思いをされたようでして。
私も心苦しいと思います。貴女の為に、多くの人間が動いてくれたそうですね?」
水底に沈んだ、二度と浮かぶ事のない映像。
「そればかりは、とても喜ばしい限りです」
その優しさ/恐怖とデジャブする────。
■マルレーネ >
「………………。」
どうしても思い出せない。
思い出せない。 思い出せない。
「………そう、ですね。
皆さんに、迷惑をかけて、しまい………………。」
そっと頬に手袋が触れれば、ぞ、くりと身体が震える。
ダン、っと地面を蹴る音が響いて、手の届かぬ範囲にまでバックステップ。
只の修道女ではない。
争いを。殺し合いを経験している動き。
その場に踏みとどまれば、ふーっ、ふーっ、と荒い吐息をつきながら。
自分の行動を信じられない、といった表情を浮かべながら、全身から汗を溢れさせ。
野生動物と似たような防衛本能が、思考よりも先に身体を動かした。
「……………ダメですよ、まだちょっと。
触れられるのは怖くて。」
嘘だ。
何にも気にせず、膝枕でも何でもしてきたではないか。
むしろ、輝と温泉にまで行っている。
でも、そうとでも言わないと、自分の行動に説明がつかない。
あは、はは、と乾いた笑顔を浮かべながら。
じ、っと相手を見る。
この人は、なんだ。
■松葉 雷覇 >
距離を取られた。傍から見ても強烈な警戒が見て取れる。
獣の本能。それほどまでの危機感。
感じて当然だ。"それほどの事をされてきた"。
それでも彼女は二度と、気づく事は無いのだろう。
未踏の深海には、己さえも潜る事は出来やしない。
「それでも、あれは貴女が愛されていた証明とも言えます。
神の信徒でもなく、偶像(カミ)でもなく、マルレーネと言う個を彼等は尊重しました」
「実に喜ばしく、素晴らしい事だと思います」
己を殺し生きてきた"シスター・マルレーネ"。
勿論、その姿も慈しむべきものだったのだろう。
だが、男にとっては何よりも、この島の生徒が、住人がこの様に動いたことが"喜ばしい"。
男の、雷覇の言葉に全て、偽りはない。
距離を取られようと、遠慮なく、静かで、丁寧な足取りでまた距離を詰められる。
「マリー」
鼓膜を揺らす、優しい声音。
春先のような穏やかさの一方。
「──────……怖いですか?私が……」
聖女の双眸を覗き込むその深い青は、何処まで深く、深く、さながら深淵のようだった────…。
■マルレーネ >
「………そうですね。
私は、………そんな世界だからこそ、もっとお役に立ちたいと思っています。
この世界の。………ここに住む皆さんの。」
壊れるほどにすり潰されて、出てきた結論は"それ"だった。
絶望を味わったからこそ、今に感謝を捧げる。
手を組んで、祈るような所作を示す。
彼女の壊れた先は、信仰と感謝だった。
壊された心を優しく抱いたまま、溢れんばかりの愛を周囲にまき散らす。
彼女は、変わらなかった。
「………い、いえ。
怖いなんて、そんな。」
壁に背中がついた。
今まで、どんな荒くれ者を相手にしても。
数多くの野盗やらを相手にしても。
見上げるほどの巨体を持った魔獣を相手にしても。
壁に自然と背中がつくようなことは、一度も無かった。
怖がっている。
その事実を受け入れきれぬまま、じ、っと見つめ返す。
■松葉 雷覇 >
聖女の口元に静かに立てられる人差し指。
それ以上、言ってはいけない。
その言葉を遮るように、その恐怖心が本当なら
指先だけで"威圧感"を感じてしまうかもしれない。
「……貴女は相変わらずですね、"シスター"」
何処となく困ったように、小首を傾げた。
「その中には、貴女自身もいないと、皆さんは喜びはしないでしょう。
"マリー"。多くの痛みと傷を抱えた、か弱い女性……痛ましく思う一方で
私は貴女に多くの感謝を抱いています。貴女の慈愛を、貴女自身を……」
「ですので、これ以上ご自身に無理をなさらずに。
強がり過ぎても、体に悪いだけですよ?」
男は、彼女の事を知っていた。
彼女が如何なる心持か、知っていた。
だからこそ、その声音は何処までも優しく
それこそ慈悲と慈愛、慈しみに溢れていた。
彼女を救いたい、救われて欲しい。
そんな一心だ。そこに嘘、偽りも無い。
……だと言うのに、その構図はさながら獲物を追い詰める狩人のようだった。
壁に追い詰められた聖女に迫る姿。敵意も無い、殺意も無い。
"人ではない何か"の優しさがそこに歩いている。
逃げ場などない、その押し込めた気持ちの蓋の淵をなぞる様に。
酷く、優しい手つきで、"あの時の同じ"ように頬に手が添えられようとしていた。
■マルレーネ >
「……私は。
こんな私でも、受け入れてくれて。
必死に救いあげてくれた皆さんに、感謝を……。
ここにいていい、と。
そう言って、くれたことに……。」
身体を硬直させたまま、唇を開く。
心の底から感謝を述べる女には嘘はない。
強がりだと、本心から思っていないことが彼女の根の深さではあるが。
ひび割れていることに、彼女は気が付いていない。
だって、彼女は自分を見ないから。
「………私は、ここにいられるだけで。」
全てを否定して、全てに否定されて。
だからこそ、今"ある"というその事実だけで、喜んでいた。
「……っ、ぁ、ああ……。」
頬に触れられる。
それを払いのけることはできず。
撫でられるだけで、忘れたい記憶が駆け巡る。
注射器。 針。 液体。
痛い。 熱い。 切ない。 苦しい。
息が。 息が。 息が。
呼吸が次第に早く、弱くなり。
見つめているその瞳の焦点が合わなくなる。
「………離れて、ください。」
過去の記憶に炙られながら、……それでも、次に口から零れ落ちたのは、意思ある言葉。
■松葉 雷覇 >
「…………」
不意に、その口は閉ざされた。言葉なく笑みを浮かべる口元。
悪意など一欠けらも無い、実に温和な雰囲気を纏っている。
「────……ええ、間違いありませんね。貴女は前も、そう言っていた」
「ただ、穏やかにご友人と過ごしたいだけだ、と」
シスターではない、ただ一人の女性のなんてことの無い願い。
同時に彼女は、自分自身を見ても居なかった。
それが、当の友人たちの願いを無視する結果であったとしても、彼女は省みなかった。
「……だから、"貴女自身"と向き合わないといけませんよ、マリー」
聖女ではなく、マルレーネと言うただ一人の女性。
余りにも多くの過酷を潜り抜け、酷く傷ついてしまった自分自身。
男は、自らの喉を、軽くなぞった。
■松葉 雷覇 >
「……ええ、失礼致しました。年甲斐もなく、女性に恥をかかせてしまいましたかね?」
申し訳なさそうな男の声と共に、その手は静かに離れた。
■マルレーネ >
「……私自身と。」
その言葉に、表情が、顔色が変わる。
今まで、ずうっとずっと見なかった自分自身。
擦れて消えてしまったと思っていた自分自身。
「………ぁ。」
耳に届く言葉は、幻聴か何かのよう。
ずっと、もうこの場所にいるだけで満足だと思っていた。
もう血に塗れたその手は、いくら汚しても誤差だと。
捧げたはずのこの身は、いつ朽ちても本望だと。
そう思っていた心に、優しさと希望が染み渡り。
それはそのまま、恐怖へと裏返る。
「………………
ぁ、ああ、あ………。」
言葉には、答えられない。
情けないほど青い顔で震えて、その場にへたりこみそうになるのをこらえきれない。
ずる、ずるずる、っとその場に尻もちをつくように座り込んで。
涙すら浮かべて、見上げる。
■松葉 雷覇 >
崩れ落ちた、聖女の姿。最早そこに、"聖女"の取り繕いは存在しない。
そんな彼女の姿を見ても、依然と男は態度を崩すことは無い。
見上げる視線こそ、哀願のように見上げている。
さながら、救いを求めるような、か弱き少女。
「マリー」
何処までも優しい声音。
視線を合わせるために、男は静かに膝を付く。
「どうか、怖がらないでください。"貴女は、皆さんにそう望まれている"」
見過ごせるはずも無い、ある種の真実。周りの願い。
深く、深く、深海のように深い青が恐怖に揺れる瞳を覗き込む。
「貴女自身のまま、幸せにならないといけません。
そうで無ければきっと、皆さんは悲しまれるでしょう」
これは、乗り越えねばいけない事だ。
何処までも優しく、何処までも残酷に……。
「────どうか、"ご自愛ください"」
確実に、突きつけてくる。
男は柔く、微笑み、さながら自らの妹をあやすかのように。
優しく、優しく、"彼女なら乗り越えてくれる"と言う絶対の信頼を向け
優しく、優しく、慈しみのまま、穏やかな手つきで女性の金糸を撫でた。
■マルレーネ >
「………私自身のまま、に。」
わからない。
私は生まれてこれまで、ずっと。
この生き方しか、知らないのに。
「………幸せに。」
幸せに。 幸せって?
人の幸せを願って祈りを捧げる女は、一番身近な物を見失ってしまって。
子供に戻ってしまったかのように、大人しくなってしまった女。
頭をそっと撫でられ、怯えたまま。
「………………。」
「………私は。」
「幸せ、です。」
それでも、彼女は震える唇で、"今度は"しっかりと言葉を選んだ。
暴風の中で立つような、いつ折れるか分からないような震え方。
「でも。 もっと幸せになれるって。」
「教えてもらいました、から。」
折れない。
恐怖に震えながらも、抵抗する。
「ありがとうございます。」
ぎこちなく微笑みながら、言い放った。
■松葉 雷覇 >
「……ええ」
女の言葉に、男は静かに頷いた。
そう言ってくれる、そうしてくれるものがいるなら、安心だ。
やはり彼女は恵まれている。この世界がきっと、安寧の地になると男は信じている。
彼女の友達なら、自分の課した"試練"よりも大きなものを乗り越えられるだろう。
元より、男の行為は全て、善意でしか起こり得ない。
全ては、彼女の幸せを心から願ってるからこそ、行える。
だから……。
「 」
■松葉 雷覇 >
「……マリー」
善意に満ちた、男の声が名だけを呼んだ。
たった、それだけ。
■マルレーネ >
「………」
ぽろ、ぽろと涙が零れ落ちた。
ひび割れた自分を自覚する。
ずたずたにされた心を自覚する。
トラウマになったものを、ある意味"信仰"の力で押さえつけていただけ。
それが涙と共に溢れて落ちる。
何をされたのかを、一つずつ思い出して。
それで心のどの部分が抉られたのかを、思い出す。
抉られた心はどこに行ったのかも茫洋として知れず。
ただ、質量だけが減った心が揺れる。
毎日、削られて、抉られて。
自分の心が、とうの昔に削りクズのようになっていることを自覚する。
「………なん、で………。」
ぽろ、ぽろと涙を零して。
その場にうずくまって、動けない。
明るく照らしてくれた。
見たくなかった、本人も忘れていた傷跡を。
■松葉 雷覇 >
涙を零す彼女をただ、慰めるように優しい手つきが金糸を撫でる。
「どうか、無理をなさらずに。もう、貴女を傷つける人はいません。
私も、他のご友人も、そんな貴女を心配し、癒してあげたかっただけなんですよ」
彼女自身、逃れようのない自分を、聖女ではない彼女と向き合うために
きっと彼等は命を賭したのだろう。とても、素晴らしい事だ。
だから、どうか、どうか。泣かないで。"減ったものはまた、幸せで埋めればいい"。
男の善意に、一切の嘘は無い。そして、彼女が体験した幸せも、何れも虚偽は無い。
ただ、その心には届かなかっただけ。自覚した今、思い返せば恐らくは……────。
「ほんの少し、今は傍に居させて頂けますか?
私としても、今の貴女を放っては置けない」
ただそこに、ひび割れた貴女に寄り添い、優しき温もりを。
■マルレーネ >
「………は、ぃ。」
彼女は、ゆっくりと頷いた。
もう、何も考えられない。
「………もう、いないんですか。」
本当は、傷つきたくない。
本当は、悲しみたくない。
本当は、苦しみたくない。
本当は、立派な聖女なんかじゃない。
ただ、田舎から出てきて、他人より幸運だったから生き延びただけの、村娘。
「………はい。」
傍にいることを許容する。
柔らかい言葉に包まれて、全身から力が抜けて。
心が解ける。
■松葉 雷覇 >
「はい」
男の言葉に、嘘は無い。
"今は"もう、彼女を傷つける悪意ある人間はいない。
此処にいるのは彼女を愛し、守護する友達以外、いるはずもない。
"今"この瞬間、一切の嘘は無い。
解氷する心の傷を優しく、癒すように、男はただ寄り添う。
「……どうか、貴女のお好きな様に。今は、貴女の要望に応えましょう」
今だけは、その傷を、向き合った痛みを一人の友人として癒える迄そこに居よう。
表の札も、何もかも忘れて、今はこの温かみに、"自分自身"に従うといい。
曇りけのない、暖かな善意がそこにある。
曇天は晴れず、日中の夜更けが訪れた───────。
■マルレーネ >
これはある意味必然だったのかもしれない。
彼女は、ずっと自分を見なかった。
ずっと見ないまま、その心はどこぞへと転がって行ってしまった。
だから、そんなぽっかりとあいた隙間は。
中身は、とても柔らかく。
「………………。」
彼女は、ただ黙って、じっと撫でられていた。
何度も泣きながら、じっと。
自身に対する希望は、自分のどこを探しても見つからなかった。
善意の中に包まれて、彼女は己の心を、ずっと、ずっと見つめていた。
ご案内:「宗教施設群-修道院」から松葉 雷覇さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」からマルレーネさんが去りました。