2020/10/07 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」に神樹椎苗さんが現れました。
マルレーネ >  

日もすっかり落ちて、周囲が朱に染まった中。
修道院は閉じていた。

看板は下ろされてはいるが、窓は開いている。
誰かがいることは間違いないが営業は終了。
そんな修道院。 中に入っても誰もいない。
よくよく探せば、裏庭に一人の影が見えるだろうか。



ぴん、と空気が張り詰める。

修道院の裏庭、芝生の上に正座するように座る女が一人。
長い棍を前に置いて、ただ静かに瞑想を続ける。

祈りをささげて、瞑想して。
また祈りをささげて、瞑想して。

今日は、一日中それを続けていた金髪の修道女。
 

神樹椎苗 >  
 姉と慕った彼女が退院してから、少し経った。
 本当ならすぐにでも退院祝いに駆けつけたいところだったが、身の回りで変化があったことも有り、タイミングを掴めず延び延びになってしまっていた。

 一先ず、面倒を見てる青年の怪我も最低限回復し、娘も──懸念はあるものの、一つの決着が着いたようで、後は見守る事にしようと。
 とりあえず、優先順位を入れ替えても良いだろうかと思うところになり。
 ようやく修道院に足を運ぶ事ができた。

「あの人は──居るみたいですか、ね」

 入院した娘の元に着替えと、普段ベッドの上に居る大きなネコマニャンぬいぐるみを届けて。
 その帰りに、終わりの時間を見計らってやってきた。
 しかし、戸を叩くでもなく、中に入るでもなく。

「──うぅ」

 とても、入り辛い。

 ただ甘え、守られるのではなく、支え合えるようになりたいと我儘をぶつけてしまって。
 気持ちが先走って、むしろ重いモノを背負わせてしまったんじゃないだろうかと。
 病人に話す事では無かったんじゃないかと、一人、自省していたのだが。

(ええい、うじうじしても仕方ねーのです!)

 ぶんぶんと首を振り、大きなネコマニャントートバッグを肩に掛け直して、力強くノックを。
 ――しても反応がない。

「────?」

 首を傾げながら、扉を開けて声を掛けてみるが、返事もない。
 鍵は開いているから人はいるようだけれど、と修道院の外を回る。
 そして、裏手に回ったときに人影を見て、頭だけだして覗き込んでみれば。

(瞑想中、でしょうか)

 真剣な様子で祈り、瞑想する彼女の姿。
 その姿は修道女のようでもあり、武人のようでもあった。
 どこか張り詰めた空気に、肌がぴりっとするような感覚を覚えた。

マルレーネ >  
何度祈っても、何度祈っても。
言葉は戻ってこない。何も感じられない。
それを何度も繰り返しながら、深く、深く考え。
考えの先に無になり。
そしてまた祈りを捧げ。

たっぷりと意識を集中させた女は、不意に。

「……あら。」

目を閉じていたはずなのに、何かに気が付いたように目を見開いて、椎苗の方を見た。


「来てたなら言ってくださいよー。 お待たせしちゃいました?」

いつも通りの明るい笑顔を浮かべながら、立ち上がろうとしてよろける。

「……っと、と。痺れちゃいました。」

ぺろ、っと舌を出して苦笑を浮かべて。
 

神樹椎苗 >  
「あ――っ」

 彼女の瞼が開き、視線が合うとドキリとする。
 普段と違う空気から、普段と同じような雰囲気に変わって。
 それでも知らない彼女の姿を一つ、見れたと思うと嬉しくもなる。

「いえ、しいも今来たところで――わっ」

 ととと、と駆け寄って、よろける彼女に手を貸そうとする。

「えっと、修行中、とかでしたか?」

 そうしながら、先ほどの姿をたずねてみた。

マルレーネ > 小柄な体が心配そうに見つめていれば、いつもよりも明るい笑顔に。
いつもよりも明るい雰囲気を身にまとわせて。

「……あ、あはは、すみません。
 ちょっと長く座り過ぎました。」

苦笑交じりに、手を貸してくる彼女の手を握る。
座っていた芝生は、すっかりくったりと折れ曲がっていて。

「……あー、見てたんですか? ちょっと恥ずかしいですね。
 秘密ですよ?」

唇に人差し指をあてて、ウィンク一つ。

「………それに近いものですね。
 集中しないと、いい力は出せませんから。」

神樹椎苗 >  
「秘密ですか?」

 彼女のウィンクに、首を傾げつつも頷いて。

「そう言うモノなのですか。
 しいはそういう、武術? とかはよくわかんねーのです」

 しっかりと彼女の手を握り返したまま、少し不思議そうな顔。
 彼女の手をそっと支えながら、半歩。

「えっと、戻りますか?」

 そう、院の方と彼女を交互に見ながら。

マルレーネ >  
「あはは、ならよかった。 秘密ですからねー。」

指を立てて笑う。
本気で誰かと戦う想定があるから行われていた訓練であるのだけれど、おそらくそれについては感じ取れてはいないのだろう。
笑顔でごまかしながら、もちろん、と笑いかけて。

「ほら、行きますよー?」

リュックごと、椎苗を右の腕に抱きあげて、修道院の中へと戻っていく。
変わらないままの明るさとパワー。

むしろ、ちょっと明るくなったのか、明るくふるまっているのか。
 

神樹椎苗 >  
「はぁ、わかりました?」

 念押しされるほど秘密にしなければならないのだろうか。
 きょとん、として先ほどの張り詰めた空気を思い出し。
 どことなく腑に落ちないような様子で、首を傾げてはいるのだが。

「――わ、わっ」

 当たり前のように笑いながら抱えられると、じたばたしつつも抵抗できずに持っていかれてしまう。
 この点はどうしようもなく、体の小ささで敵わないところだった。

「もう、どうしてそう、力技なんですかぁ」

 軽々と抱えられ、されるがままになりつつも。
 ちょっとだけ、むすっとして唇を尖らせて見せる。
 もちろん、本当に拗ねてるわけでもないのだが、ちょっとじゃれ合って見せるように。

マルレーネ >  
「力技で今までずっとなんとかしてきたからですよ。」

にひ、と笑顔を向けながら、よいしょ、っとソファに座らせてあげて。
ぽふん、っとその隣に自分も座って。

「今日は何の御用です?
 相談とかは終了しましたけど、それでも何かあるなら聞きますよ?」

拗ねてもむくれても、力こそパワー。
隣に座らせて、よしよし、と頭を掌で撫でて。
自然と、そして強引に納得させる。
 

神樹椎苗 >  
 ぽん、とされるがままに坐らされて。
 唇をへの字にしたまま、隣に坐った彼女の脇腹を左手で突っつく。

「ゴリラですか、まったくもう」

 女性に言うには大概失礼な事を言いつつも。
 撫でられてしまえば、口がへの字になっていても、足がぱたぱたと揺れる。

「えっと、その、相談とかじゃねーのですが。
 退院祝いの一つも、したいと思ったので――その、遅くなっちまいましたけど」

 彼女の服を摘まみながら、もじもじと、はっきりしない様子を見せながら。
 それでも意を決したように、バッグから箱を一つ引っ張り出す。

「これ、作ってきたのです。
 一緒にたべませんか」

 と、箱を差し出す。
 中には少し大きめのチーズケーキが二切れ。
 

マルレーネ >  
「ひんっ!?」

脇腹をつつかれただけで、妙な声が出た。
くすぐったがりなシスターは、ゴリラと言われて唇を尖らせ。

「そんなことないですー。
 ちょっとだけ元気なだけですってば。」

ちょっとだけ。

「………あ、作ってきた……って、こんなの作れるんですか?
 わー、それじゃあ頂きましょう!
 紅茶でも入れてきますね、何か希望あります?

 そんなに種類があるわけじゃないですけど。」

ケーキを見せられれば、わ、っと驚いた顔を見せてから、慌てて立ち上がって。
 

神樹椎苗 >  
 変な声が上がれば、つい笑みが漏れてしまう。

「ふふ――なら、そんな元気なシスターが、必要以上に元気に見せなくて済むように。
 安心させられるようになりたい、ですね」

 恥ずかしそうに言いながら、ちらちらと横目で彼女を覗き見る。

「え、はい――お任せします。
 その、料理とお菓子作りを教わってまして。
 料理はまだまだですが、お菓子の方はそれなりに美味しく作れるようになりました」

 驚いた顔を見れて、また嬉しくなる。
 慌てて立ち上がる姿を見送りながら、頬が緩むのは隠せなかった。

マルレーネ >  
「何言ってるんですか。
 もうすっかり元気ですからね。

 お料理とお菓子作りですかー。
 お料理だけならやらなくもないんですけど、大味なんですよね、私の料理。

 他にもいろいろできるようになったんです?」

相手に尋ねながら、二人分の紅茶をそっとカップに入れて。


「…あ、せっかくですからこっちにどうぞ。お部屋で頂きましょうか。」

なんて、奥へ招き入れる。

質素、……とはいえないまでも、特に何も装飾物のない寝室。
少し大きめのベッドに、小さなテーブル。そして書机が一つ。

そのテーブルに二人分の紅茶を並べながら、ベッドが椅子替わり。
 

神樹椎苗 >  
「何言ってるんですか、元気過ぎて不自然なのです。
 まあ――それを悪いとは言わないですが」

 努めて元気に見せているように見える――が、それは周りのためなのだろうとわかるから。
 自分を安心させようとしてくれてるのが分かるから、とやかく言うのは筋違いなのだろう。

「んー、料理はこう曖昧な匙加減が難しいですから。
 決まった分量を決まったように調理するだけでいいから、お菓子の方が簡単な気がしますよ。
 ――大味な料理ってのも、食べてみたいですけど」

 普段は食欲というモノが欠けている椎苗だが、それでも彼女の料理なら食べてみたいと思った。

「他にはこれと云って。
 やる事は、いつの間にか増えましたけど」

 答えながら、ソファから立ち上がる。
 奥へ呼ばれれば、喜んでいる様子を隠しもせず、素直に返事をして着いていく。
 とてもシンプルな私室を見れば、ちょっとだけ、うーんと唸る。

「もう少し何か、あってもいいんじゃねーでしょうか」

 年頃の女性の部屋として、どうなのだろうか。
 なんて、以前の自分の部屋を思い出すと、ますます唸ってしまう。

「――んふふ」

 彼女の隣にぴったりくっついて座ると、嬉しそうな笑みがこぼれた。
 

マルレーネ >  
「それこそ、何言ってるんですか。
 久しぶりに遊びに来てもらったのに、テンション変わらずに「来たんですね」なんて言ったら、ちょっと冷たくありません?」

首をかしげて、ちょっと意地悪にウィンクして。

「……そうですねー? またいつか機会があれば?」

視線をそらした。
思いっきりそらした。

ここで彼女の力作を紹介しよう。

①魔獣を仕留めます。
②岩塩で周りを囲みます
③焼きます。
④完成! おいしい!

夏にバーベキューをしたのは、料理が楽だからという観点である。
カレーは作れます。


「んー、まあ、旅人でしたからね。
 いろいろ持ちすぎると、旅に出られなかったんです。」

ぴったりとくっついてくるなら、腕を回してよしよし、っと軽く抱っこするように。
 

神樹椎苗 >  
「んんん、それもそうですね。
 嬉しそうにしてもらえるのは、嬉しいです」

 そして視線を逸らす彼女に、またこてん、と首を傾げた。
 まさか料理も力技だとは、思ってもいないようだ。

「旅ですか。
 ずっと一人旅だったのですか?」

 抱っこされれば、素直にくっついて甘えるように体を寄せる。
 やはり、彼女と居るときの安心感と幸福感は特別に想えた。

「あ、ケーキ食べましょう。
 紅茶冷めちゃうのももったいねーですし、ね」

 左手を伸ばして箱からチーズケーキを出して。
 彼女の前に出しながら。

「無事に退院してくれてよかったです。
 その、一時はどうなるかって、思いましたから」

 

マルレーネ >  
「ええ、ずっと一人旅。
 誰かと協力することもありましたけど、基本的には一人旅。」

甘えてくる姿は、見たままの少女にしか見えない。
穏やかに微笑みながらその頭を撫でて。


「ええ、食べましょうか。
 退院直後じゃなくてよかったかもしれませんね。
 退院直後は、本当にほとんど食べられなかったんですから。

 あはは、………そうですね。
 私もどうなるかと思いました。」

少しだけ目を細めて、紅茶のカップを軽く合わせる。
 

神樹椎苗 >  
「一人旅――気楽そうに聞こえますけど、すごく大変そうですね。
 何が起きても、助けてくれる人がいないって事ですしね」

 少し想像してみようにも、思い浮かばない。
 ある程度の保護下で独りでいるのと、独りで旅をするのとではわけが違うだろうと。

「むう、そう言う意味では間が良かったんでしょうか。
 でもそう言うときにこそ、傍に居たかったような気もしますが――むぅ」

 少し複雑そうな顔をするものの、それはそれとして。
 カップを軽く合わせれば、ほっとしたような笑みが浮かぶ。

「本当ですよ。
 本当に――気が気じゃなかったのです」

 ケーキをフォークで小さくしながら、気を落とすように表情が陰った。

「それでも、その。
 お見舞いの時は、気が急ぎ過ぎていたのです。
 弱っている相手に、話すような事じゃありませんでした」

 ただ重荷を押し付けてしまっただけに感じていて。
 だから、ずっとそのことが気にかかっていたのだ。
 

マルレーネ >  
「運がよかったんでしょうね。
 偶然生き残って、偶然ここに来た。

 そういう時でも、今でも。 どちらでもうれしいものですよ。」

なんて、頭を撫でる。
心の底から、そう思っている。


「………。」

お見舞いの時。

あの時は、確かに心が軋んだ。
元々、本当に弱っていたところだ。
体調が万全であったとしても、まともな対応ができたか怪しい。

「………そうですね。 他の人には、順番にゆっくり伝えていきましょうね。
 一気に、全て分かってもらうことは、どんな人でも難しいことです。」

ゆったりと、かみ砕くように相手に言葉を伝える。
その言葉は、変わらず温かいまま。
 

神樹椎苗 >  
「運が良くて、良かったです。
 そうじゃなかったら、会えなかったのですから。
 ――ん」

 嬉しいと言ってくれる彼女の言葉は、本心なのだろう。
 そういうヒトなのだ。
 そういう温かさのあるヒトだから、あの時は甘えすぎてしまった。

「――ごめんなさい。
 余計に、苦しませてしまっただけでした。
 それでも、きっと、あの時でもなければ、何も話せなかったと思います」

 あの時、あのタイミングだから、彼女にさらけ出す事が出来たのだろう。
 そうでなければ――表面の優しさに甘えるだけで満足していただろうから。

「でも、はい。
 その通りなのです。
 だから、改めてちゃんと、一つずつ話せたらって。
 今ならその、焦らないで話せると思いますから」

 と、チーズケーキの切れ端をフォークで転がしながら。

「でも、えっと、嫌じゃなければですが。
 なんて、何から話すべきかも、わかってないんですが」

 えへへ、と気弱そうに、困ったように苦笑を浮かべる。

マルレーネ >  
「であれば、………良かったんでしょう。
 なあに、私は大人です。

 私の聞けるタイミングではなくて、椎苗ちゃんの話せるタイミングで話していいんですよ。」

ころころと笑った。
苦しんでいない、とは言わない。
嘘はつく女ではあるが、それでも自分の気持ちをなんでもかんでも、隠したいというわけではないから。

「………何、思いついたことから。
 その場で話すべきだと思ったことから、順番に話していけばいいんです。」


「それより。
 そうやって、話せる相手は何人いるんでしょう。
 全部話すことができる人は、ほかにいるんですか?」

まずは、そこが気になった。
 

神樹椎苗 >  
「大人って、なんかずるいのです。
 まあ、いいですけど」

 叱ってくれてもいいのに、なんて思いつつも。
 完全に子ども扱いなのはちょっと嫌だったが。

「思いついた事――難しいですね。
 色々、その、関わり合ってる事が多いですから」

 しかし、いざ話せる相手がいるのかと言われると、しばし考え込んでしまう。

「――いない、わけではないですけど。
 しいの事情を知っているだけなら、一人、二人でしょうか。
 死なない事、しいの信仰を知ってるだけなら何人か。

 でも、全部話せる相手となると――ああ。
 しいを好きと言ってるロリコンバカはいますが、そいつになら、まあ。
 でも今、しいが全部を話して、傷痕を見せられたのは一人だけです」

 と、考えながら彼女の方を見て正直に話した。

マルレーネ >  
「どうでしょう? 私だけがズルいのかもしれませんよ?」

ころり、と笑って目を細める。
ズルいオトナである自覚はある。
大人になるまでの階段は、なんだか無理やり上らされた気はするけれども。

「………なるほど。
 フフ、そういう意味で好いてくれている人はいるんですね。

 ………わかりました。
 外から来た、どこの人間かもわからない私でよければ。
 いつでも、言ってくださいね。

 ですけれど。
 私以外の人も、もっとゆっくり見極める必要はありますけれど。
 少しずつ、少しずつ、話していきましょうね。」

ゆったりと。
自分が受け入れるだけが是でないことを、優しく伝えていく。

自分がずっといられる保証もまた、無いのだ。
 

神樹椎苗 >  
「そうみてーです。
 でも恋とか愛とか、よくわからねーですけど、悪い気分じゃないです。
 まあ、いきなりキスされたのには驚きましたが」

 うーん、と首を傾げながら。
 彼女の言葉には首を振る。

「どこの誰ともわからないのは、しいも一緒ですから。
 他の誰かだったら、きっと話せなかったのです。
 思い出すのも――怖いから」

 彼女の服を、悪魔に怯える幼子のように掴んで。
 彼女の言葉には小さく頷く。

「それは、はい、少しずつ。
 しいのために一生懸命になってくれるヒトが、いつの間にか出来ちまいましたから。
 そんなヒトたちには、ちゃんと、真摯でいたいです」

 それにはまだ、乗り越えなくてはいけない傷が大きすぎたが。
 それでも、自分へと向けられる想いには、ちゃんと応えていきたかった。

 しかし、それはそれとして。
 彼女の言葉に、言い知れぬ寂しさを感じもした。

「――また、いなくなったりしないですよね?
 今度は帰ってこないとか、そんな事は、ないですよね?」

 一度失いかけた大切なヒト。
 そんなヒトが今度こそいなくなるかもしれないと、そう思うと、とても不安だった。

マルレーネ >  

キス………。

キスかぁ………。

なぜか遠い目をするシスター。
まあいろいろ色恋っぽいことは無いわけでも無かったが、それなりに長い旅路の中、好きだと言われてキスをした・された記憶は………いやー。

無いなぁ。

「……私でよければ……。」

私なんぞでよければ……って顔になってしまうのも仕方ないこと。
うーん、いろいろな意味で先輩だった。


「………ゆっくりでいいんですよ。
 ゆっくりで。 そんなに急いで話すことができるわけないんですから。」

相手を元気づけるように肩をぽん、と触れながら。
でも、次の言葉には困ってしまった。

「………私が決められるなら、当然戻ってきますよ。
 ただ、そうですね。
 ずーっと旅をしていたから。 絶対に、なんて口にできなくなってしまって。

 でも、戻ってこようと思っていますよ。」

怖がらせないように言葉を選んで。
 

神樹椎苗 >  
「ん、はい?」

 複雑そうな顔になる彼女に返事しつつ、不思議そうな顔。

「そう、ですね。
 ゆっくり、やっていければいいと思います」

 自分がずっと停滞している事は、どこか自覚がある。
 けれど、もうそのまま停滞し続けるわけには、きっといかないのだ。
 ゆっくりでも、少しずつでも、歩み寄っていく必要があるのだろう、と。

 そして彼女の返答には、少しほっとするものの。
 もう少しだけ、強く言葉に出来るくらい、思ってほしい。

「――じゃあ、その。
 いなくならないで、とは言いません。
 ですが、『必ず戻ってくる』って約束してほしいです。
 元の世界の事とか、しいはまだわかりませんが、それでも。
 今はここに、ちゃんと居場所があるのですから」

 そう、懇願するように伝えて――左手の、小さな小指を差し出す。
 意味は伝わるだろうか。
 

マルレーネ >  
「ええ、ゆっくりと。
 ………生きていれば傷つきます。 傷つくのは怖いから、動かなくなってしまいます。
 でも、動かないとそれはそれで、楽しくは無いんです。

 ゆっくりと、疲れない程度に動きましょうね。」

囁きながら、相手の言葉に少しだけ微笑んで。


「………わかりました。
 必ず戻ってくると、約束、します。」

小指をそっと絡めて、表情は変わらないまま。
それでも、瞳は少しばかり細められて、伏せられて。


ああ、ズルいオトナになりたくはないなあ。

心がまた一つ、ギシギシと音を立てる。
 

神樹椎苗 >  
「はい、ゆっくり、動いてみます」

 そして、静かに微笑み返した。

「――約束です。
 嘘にしないで、くださいね」

 指を絡めたら、一度その体に頭を預け願いを込める。
 ささやかな祈りでも、彼女が帰ってくる道しるべになれば、と。
 けれどそれは――きっと呪いめいた祈りなのだろう。

「ああ――また、我儘を言ってしまいましたね。
 今日はその、退院祝いにきたのに」

 と、困ったように苦笑して。
 そうだ、と何かを思い出したように。

「あの、連絡先とか持っていますか?
 気休めかもしれませんが、連絡を取り合えるものがあれば、少しは」

 自分のポシェットから、いつからか持ち続けている携帯端末を取り出して、彼女に聞いてみる。
 

マルレーネ >  
「いいんですよ。
 嘘にしないように、がんばりますから。」

鎖がまた一つ。
それでも、ズルいオトナなのだから、それくらいは背負わないといけない。


「………ふふー、ケーキがおいしいから許します!」

申し訳なさそうにする相手に、自信満々、胸を張って言い切って。
まだよくわからないんですけどね、と言いながら携帯電話を取り出して渡すだろうか。

とはいえ、入力したり、メールしたりはできるようになっているのだけれど。
 

神樹椎苗 >  
「――んふー、それなら、また今度作ってきます。
 今度は何がいいですか?」

 リクエストは受け付けます、と少しだけ自慢げに言って。
 携帯を受け取れば、少し確認してから、じゃあ、と自分の連絡先を入力して。

「これがしいの連絡先と、あとこっちが寮の方です。
 話したい事が出来たら――あ、いえ、その。
 ちょっとしたことでも、連絡したりしても、いいですか?」

 そう携帯を返しつつ、上目に伺いを立てるように聞く。

マルレーネ >  
「ちょっとしたこと、なんでも。
 いつだって電話してきて、いいですからね。」

不安そうにする相手の頭を、ぽふん、と抱きしめて。
安心させるように、しっかり包み込む。


「………できるだけ、電話にしてくださいね。
 メールはまだ、届いたことが分からずに寝ちゃうので。」

優しく、背中を撫でる。
ゆっくり、ゆっくり。 きっと心の底から安心できることは無いだろうけれど。
それでも、安心できるまで。 不安が溶けてなくなってしまうまで。
  

神樹椎苗 >  
「わかりました、それじゃあ――時々、電話しますね」

 抱きしめられると、腕の中にすっぽり収まってしまう。
 やっぱり彼女の腕の中は温かくて、安心できる。
 だからこそ、どうしても、失う事が怖くなってしまうのだけれど。

「またこうしてお茶会、したいです。
 そうしたらまた少しずつ、話を聞いてください。
 しいも、いろんな話を聞きたいです」

 そう、腕の中で温もりに身を預けながら。
 また一つお願いを重ねていく。
 

ご案内:「宗教施設群-修道院」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」から神樹椎苗さんが去りました。