2020/10/15 のログ
ご案内:「常世島共同墓地」に日下 葵さんが現れました。
日下 葵 > 「……いやぁ、すみませんねえ。来るのが遅れちゃって。
 本当は7月末に来る予定だったんですが」

”嬉しいことに”仕事が忙しいもので。
なんてヘラヘラした独り言を言いながら、とある墓標の前で立ち止まった。
墓標には”糸杉 纒”の文字。
かつて違反部活動を掃討する作戦で殉職した風紀委員の名である。
そして私に戦い方を教え、私から恐怖という感情を奪った人間でもある。

「もっと暑い時期に来るはずでしたが、すっかり肌寒くなってしまいました」

海を見渡すことのできる小高い丘。
昼間であれば水平線が見えて、吹き抜ける潮風が心地よいが、
すっかり日が暮れてしまったこの時間では、
残念ながら水平線を眺めることはできない。

「やだなぁ、こんな時くらい正装しますよ。
 ――ナイフを手放すのは、ちょっと難しいですけど」

誰がいる訳でもない墓地で、まるで誰かと話をするかのように笑って見せた>

日下 葵 > 「……本当は慰霊祭の時期を避けたかったんですよ。
 どうにも、みんながみんな死んだ人間を思って墓参りしている時期に、
 私も一緒に先輩の墓参りをするの、気が引けてしまいまして。
 ゆっくりお話したいじゃないですか」

別に彼岸じゃなきゃお墓参りしちゃいけないなんて決まりはないわけですし?
そういって、墓の前でしゃがんだ。
誰かが手を入れた様子はない。
前に墓参りしたときに手向けた花は、墓地の管理者が方してしまったようだ。
よく管理された様子の墓地は、悪く言えばなんだか物足りない。

「どうですか、そっちは。
 そっちでも仕事ばっかりとかだったらさすがに指さして笑っちゃいますからね」

墓標に水をかけて、雑巾で拭いていく。
特別汚れているわけでもないが、昔ながらの墓参りの形に則ろうと思った。
10月も半ば、汲んできた水は随分と冷たくて、
この墓石のしたで眠る先輩が風邪でもひくんじゃないかと心配になる>

日下 葵 > 「さて、こんなものでしょうか。
 あまり気の利いたものは用意していませんが……」

墓の掃除を一通り終わらせると、用意してきた花束を墓標の両脇に手向ける。

「毎度思いますけど、先輩の墓に花は似合わないと思うんですよね。
 皮の手枷とか、注射器とかの方が先輩の墓にはお似合いだと思います」

――さすがに怒られるので冗談ですけど。
そんな、聞く人が聞いたら冗談に聞こえないジョークを飛ばせば、
スーツのポケットから煙草を取り出す。

「ま、さすがにそんな物騒なものは持ってきてませんけど、これくらいなら」

煙草を一本咥えて火をつけると、それを香炉に入れる。
そして改めてもう一本取り出すと、今度は自分の分の火をつける。

誰もいない墓地に、煙が二本。
自分がしゃべらなければ、浜風の抜ける音しかしない。
とても静かだ>