2020/12/17 のログ
雨見風菜 > 結局の所、何事も起こらず。
この日も過ぎていくのであった。

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ご案内:「宗教施設群 迦具楽の家」に迦具楽さんが現れました。
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迦具楽 >  
 十二月も折り返しを過ぎて、本格的に寒くなり始めた頃。
 迦具楽の外出が露骨に減り、暖房の効いた部屋に引きこもる季節だ。
 今年も、だらけた部屋着一枚でソファに座っている。

 しかし、今日は珍しく前髪ごと髪をまとめて、頭の上で丸めて大きな団子にしている。
 テーブルの上には色とりどりの石と、いくつもの工具が広がり、時折カンコンと石を削る音が響く。
 首を傾げたり、唸ったりしつつ、作業のために手元に集中していた。

「――んーぁー。
 やっぱり加工は難しいなぁ」

 手を止めて、目頭を押さえながらソファに凭れた。
 随分と集中していたのか、目の周りをほぐすようにぐりぐりと指を押し込んで。
 テーブルの上には削られたり、割られたりした石が幾つも転がっていた。
 

サヤ > 木枯らしが吹き荒ぶ冬、寒さに弱い同居人はめったに外出しなくなり、一日中暖房を付けっぱなしで過ごしている。
サヤはそんな迦具楽の手間が少しでも減るように洗濯干しや買い出しを積極的に買って出て、毎日のように出かけている。

それとは別に鍛錬のために庭先を出るのも毎日だ。素振りや型、演武など一通りもやれば寒風の中でも汗をかくほどの運動になる。
シャワーを浴びて汗を落としてリビングに戻れば、珍しく何事か作業に熱を入れているのが見えた。鍛錬の前からやっていたから中々時間が経っているはずである。

「お疲れ様です、大分根を詰めていらっしゃるようですね、肩を揉みましょうか?」
静々と隣に正座して声をかける。肩が凝るのは振るうのが剣でも工具でも一緒だ、それを解すやり方は心得ていた。

「それにしても、その、失礼ですが珍しく熱中していらっしゃいますね、一体何を作ってらっしゃるんですか?」
見た限りでは色彩鮮やかな石がいくつも転がるばかり、どれもこれも迦具楽の手が入っているが、それからは目指す全体像が想像できず、首をかしげる。

迦具楽 >  
 同居人のおかげで、外出の頻度が減ったからか余計に引きこもりが加速している。
 『仕事』や『練習』以外での外出は、精々が趣味の畑弄りくらいだ。
 すでに同居人無しでは生きられなくなりつつあった。

「んー、おねがーい。
 サヤのマッサージ気持ちいからなぁ」

 すっかり同居人の好意に甘えるのが当然になりつつある。
 手を組んで背伸びをすれば、首や肩が軋むような感じがした。

「あー、まあ、やっぱり珍しく見える?
 たしかに、畑弄ってるか、エアースイムの時以外はあまりやんないかもなあ」

 迦具楽は基本的に、物事に習熟するのは早い。
 その分、早く『成果』を出せてしまうために、こうして熱を入れて何かをするというのも少ないのだ。
 だからこそ、こうして苦戦している様子は珍しくも見えるのかもしれない。

「んー、なにっていうと、アクセサリーかなあ?。
 売り物も調べたんだけど、いまいちイメージ通りのモノがなくて。
 最初からイメージ通りのモノ作っちゃえばいいんだけど、折角だから手作業でやってみたくて」

 と、テーブルの上の石を、無造作に転がした。
 多少、宝飾品を見た覚えがあれば、その石が全て宝石類だというのが分かるだろう。
 トパーズ、ルビー、サファイア、エメラルド、ダイアモンド、等など。
 おそらく、テーブルの上で割られたり削られたりしているモノだけで、ひと財産出来てしまうだろう。

「まあだいぶコツは掴めてきたから、あと何日かやれば作れるんじゃないかな。
 研磨機とかはちゃんと作らないとダメそうだけど」

 迦具楽の知識にあるのは、かなり古い時代の加工技術だ。
 それを模倣してやってみたものの、やはり近代技術と機材がある方がよほど効率がよさそうだった。
 と、そこまで目の前の事にばかり思考を巡らせていたが、ふと、同居人がやってきた事で意識が彼女に向いた。

「そう言えばさ、サヤってクリスマスはどうするの?」

 そもそも、文化的に知っているのだろうか。
 異邦人であれば、知らなくてもおかしくないだろうが。
 

サヤ > 「そう言って頂けるとやり甲斐がありますね、では失礼して。」
何か頼ってもらえるのは心地よい、それが愛する人ならばなおさらだ。
軽く背中に手を添えて迦具楽の上半身を起こしてからソファとの間に身を滑りこませて、肩を揉み始める。
肩の筋肉に指を押し込みながら凝っている筋を探り、そこに力を込めてほぐして行く。

「迦具楽さんは要領が良いですからね、こんなに苦戦していらっしゃるのは珍しい。
 アクセサリー…あ、装身具ですか、元々が小さなものに更に細工がしてありますから、中々難しいですね、それで石で練習を……?」
そこで気付く、ただの色付きの石にしては透明度があり、その破片が輝いていることに。
目利きに自信があるわけではないが、それがガラス玉の類ではないことぐらいサヤでも分かった。驚いて、肩甲骨を剥がすように押していた指に力が入りすぎる。ミシッ、と音がした。

「あ、あ、あ!す、すみません!大丈夫ですか!?いや、あの、これ、ぜ、全部、宝石ですよね…?どこで買われたんですか…っ?
 確かに金遣いが荒いとは仰ってましたが、これほどなんて……クリスマスどころじゃないですよ!と、年越せますか…?あの、私の蓄えならいくらでも使っていただいて構いませんから……!!」
流石にお互いの財布までは把握していない、自分が出かけている間に宝石を買い集めたのだろうか、こんなに割ったり削ったりしてしまっては売ることも出来そうにない、とんでもない出費だ。

迦具楽 >  
「んあぁぁ、そこそこ、うひぃ、きくぅ」

 適度な加減で、しっかりと凝りを捉えられると、ついつい声が漏れる。
 情けない変な声を漏らしながら、体を任せてもまれていく。

「そうそう、大体の事は割とすぐできるようになるんだけど、こう細かいとね。
 力加減も難しいし――いぎっ!?」

 突然、肩から変な音がして、無理やり筋膜が引きはがされるような痛みが走った。

「あだ、あだだだだ――だ、だいじょうぶ、だけど、ぉぉぉ」

 肩を押さえながら、ぴくぴくと震えている。
 肉体的には怪我になるほどじゃないにせよ、突然の痛みによるショックが強かった。

「へ、へいき、へいき。
 これ、全部私から作ったのだから、ほら、こうして」

 震えながら手をテーブルの上に伸ばすと、指先から黒い液体がにじみ出て、それが形と色を変えると、ゴトンとテーブルに落ちる。
 そこには、非常に透明度の高いルビーが転がっていた。

「構造が複雑じゃない、からさ、すぐ作れるんだ。
 まあ売り物にはならないみたいなんだけど」

 以前、お金に困って試してみたら、異能や魔術による複製品じゃないかと疑われて大変だったのだ。
 当然、色々検査されれば、少なからず自然物とは違う力の残滓が検出されてしまうため、金にはならないのだった。
 

サヤ > 「すみませんすみません!今痛みを鎮めます!」
慌てて両の肩甲骨の間に手のひらを当てて魔術を使う。回復ではなく痛覚を鈍らせる魔術で肉体ではなく精神に作用するものである。

「しばらく触れないでおきますね、その間こっちを。」
手を上へずらして肩に置いて、僧帽筋を揉み始める。

「ほわぁ……すごい……。そういうわけでしたか、すみません勝手に、その、年越しの心配までして、驚いてしまって……恥ずかしい……。」
柔らかく指で凝りをもみほぐしながら顔を赤くしてうつむく。
話題を変えるように、先に聞かれた質問を思い出して。

「あ、ええと、クリスマス、でしたね。知ってますよ、良い子の所にはサンタさんという方がやってきて贈り物をくれるとか。
 どうする、と言われましても、私と石蒜はもう大人ですからもらえないみたいです。迦具楽さんは今のうちに何が欲しいかお手紙を出しておいたほうがいいんじゃないですか?」
純度100%、サンタの実在を疑いすらしないクリスマス観である。そこには恋人同士が過ごす特別な日という考えは微塵も含まれていない。

迦具楽 >  
「うぅ、ありがとう」

 痛みが鈍くなって、気だるい鈍痛のようなものに変わる。
 回復に関しては、怪異相応に人間に比べれば早いので、しばらくすれば痛みも引くだろう。

「うん、まあ、普通は驚くよね、ごめんごめん。
 これがなあ、お金になれば何も苦労しないで遊んで暮らせるんだけどな」

 とはいえ、魔術の触媒としては一部に売れるのだが、自然物じゃないと知られたら安く買いたたかれてしまった。
 そうすると今度はエネルギーの消費がわりに合わないために、採算が合わないのだ。
 それはそうと、今は同居人の返答の方が大事である。

「え、っと――サンタさん、ね。
 私はー、ほら、悪い子だからなあ。
 去年もサンタさん来なかったし、今年も来ないんじゃないかなあ」

 反射的にその存在を否定しそうになって、言葉を飲み込みながら遠くを見た。
 同居人はどうも本当に純真なようだった。
 これは迂闊な事をすると夢を壊してしまうかもしれない。
 いや、サンタさん『のような怪異』の噂は存在するのだけれど、それはきっと彼女の思い描くサンタさんとはちょっと違うだろう。

「サンタさんもそうだけどさ、クリスマスっていえばイベント事でしょ。
 予定がないならさ、一緒にケーキ食べたりしてのんびりしない?
 ああ、どこか出かけるのもいいなぁ。
 美味しい物食べに行ったりとか――ああでも、もうどこも予約でいっぱいかな」

 と、サンタさんの話から、クリスマスという祝祭をどう過ごそうか、という話に持っていこうとする。
 

サヤ > 「いえ、こちらの不手際ですから、すみません、本当に。」
肩を揉む手は二の腕の方にうつってそちらの凝りをほぐしていく。人によってはくすぐったく感じるかもしれない。

「遊んで暮らすなんて不健全ですよ、『泡を立てるように稼いだ金は泡のように消える』と私の世界では言うんです、きちんと働いて稼いだお金で暮らしましょうよ。
 そうでなくても今の暮らしはとっても便利じゃないですか、そこからお仕事もしなくなったらどんどん堕落してしまいますよ。」
洗濯も炊事も、風呂を沸かすのすらスイッチ一つで出来る今の暮らしはサヤにとっては便利すぎるほどだ。
迦具楽が自堕落な生活をしているのも電化製品が便利すぎるせいだと睨んでいる。その上更に遊んで暮らすなどしたら、考えるだに恐ろしい。

「まぁ、そうなんですか?迦具楽さんは良い子だと思いますけれど、サンタさんの判断基準はどうなっているんでしょう?」
見た目こそ15、サヤの世界での成人を超えているが、迦具楽の実年齢はそれより若い、良い子の基準を満たしているはずなのだが、とまた首をかしげる。

二の腕を揉み終わると、仕上げとして軽く握った拳で肩をたたき始める、振動がほぐした筋肉に浸透していき、心地よい衝撃が与えられるだろう。
「迦具楽さんが行きたいならどこへでもお供しますよ、私はてっきりプレゼントをもらえるだけかと思っていたのですが、人と一緒に過ごす日なんですね。
 予約、うぅーん、クリスマスって地球の風習なんですよね?異邦人街なら馴染みがない方も多いから、もしかしたら空いているかもしれませんよ。
 確か私の働いているお寿司屋さんも特に予約が入っていなかったと思いますし。」
4年をこの世界で過ごしたが、海外、それも途上国を中心に回ってきたサヤにとってはクリスマスが祝祭という意識も薄い。
静かにその日生誕した救世主に祈る日であって、騒ぎ立てるようなイベントではなかったのだ。