2020/12/25 のログ
■迦具楽 >
「暗闇を照らす炎、か。
なんか、意味に負けちゃいそうだなあ」
むしろ、迦具楽は暗闇から生まれた炎の残滓だ。
それも邪神の系譜に連なるものである。
それでも――嬉しい事にはなんの変りもない。
「いいのいいの。
サヤは普段から遠慮しすぎなんだから、こういうときくらい色々させてよ!」
そしてカンザシを着ける彼女の姿を見れば、その姿にとても満足げに頷く。
自分の審美眼も捨てた物じゃない。
黒に浮き上がる白は、確かに普段の神子装束には華やかすぎるかもしれないが、彼女の雰囲気によくあっていると思える。
「似合わないわけないじゃん!
うん、ばっちりバッチリ!」
ぐっと親指を立てる。
彼女はどうにも謙遜しすぎる。
もうちょっと自信を持ってくれてもいいくらいだというのに。
「そうそう、だからちょっとびっくりしちゃった。
相性ねえ、良いといいなぁ」
少なくとも、気が合うところは多い――いや、お互いに相手に合わせる事が苦痛ではない。
嫌な事や困る事があっても、許し合える程度には相性はいいのだろう。
「そうだ、牡丹の花言葉って幾つかあるんだけど――『思いやり』とか『奥ゆかしさ』とか、サヤに似合うかなって思って」
もちろん『風格』なんかもいずれは身に着くかもしれないけれど。
牡丹にするか椿にするかで、最期まで迷ったのは秘密だ。
「あ、いけない、もう一つあるんだった。
こっちはその、結構作るのに時間かかっちゃってギリギリになっちゃった」
そうして、大きな、平べったい箱を取り出す。
これは桐で作られた箱だ。
「一応、作り損なってないかは確かめたけど、ちょっと自信ないかも。
どこか変だったらごめんね!」
そう言いながら、これも彼女の座る横にデン、と載せる。
中には、緑地に花がちりばめられた柄の振袖。
着物から帯、飾り紐や雪駄まで一式が揃えられている。
■サヤ > 「そんなこと、ありません。迦具楽さんは、私にとって、ずっと灯火です。私の人生を、照らしてくれた……。
わ、私は、その、あんまり、器量もよくないし、剣を振ることと、生きること以外知らない女ですし……ええと……あ、あんまり褒められると、照れてしまいます……。」
簪姿を褒められると、熱くなった頬を手で押さえて、背を曲げて縮こまってしまう。
「えへへ、嬉しい、です。きっと、相性、良いですよ。わ、悪かったら、一緒に暮らして…か、家族に、なんか、なれませんし……。
あの、ええと……花言葉、こっちではそう言うんですね。思いやり、奥ゆかしさ……えへへ、迦具楽さんは私をそう思ってるんですね。
嬉しいです、あの、それ、その……ど、どっちも、つ、妻に、必要なもの、じゃないですか……ええと……だから、えと……嬉しいです……。」
相性が良くて、妻に必要とされるものを満たしている、そして家族として一緒に暮らしている。それはもう、もうつまりそういうことではないか。
押さえた手の下で頬が緩み、にやけるのが止められない。
そして今度出てきたのは桐の大きな箱、横に座って静かに丁寧に開く。
華やかな柄の振り袖に着衣が一式。
迦具楽がサンタ姿で出てきた時より更に大きく目を見開き、震える手で蓋を置く。
一度大きく深呼吸して、佇まいを直す。
「あ、あの………これ………えと………あの、か、迦具楽、さん、あの、か、確認、なんですけど……。」
服を一式贈る、こちらでは少し高価なプレゼント程度の認識だろうが、サヤは異邦人である。違う常識の下で生きてきた。
この島での生活や、4年間の旅でその違いは何度も体験してきたし、一度先走って痛い目を見たことがある。
だから今回は何度も深呼吸をした末にその意味を確認することが出来た。
「こ、こ、ここ、これは、その、け、け、け、結婚、とは、無関係、ですよね……?」
身を包むものを一式贈ることは、サヤのいた世界では、婚姻の申し出と同義であった。
■迦具楽 >
「もー、サヤってば嬉しいのはわかるけど、どもりすぎ!
すっごいニヤけ顔になってるぞー?」
思った以上に喜んでもらえているのが、ひしひしと伝わってくる。
まだ自分が彼女の想いを受けるに相応しいのか、答えは出ていないが。
それでも、これが迦具楽から彼女への、正直な好意の形だった。
けれど。
「――あー。
あー、うん、そっか、サヤの世界では、そういう?」
『そっかぁー』と呟きながら、頬を掻いた。
異文化交流の弊害、つきもののアクシデントである。
この世界からすると、微妙に変わった風習の多いらしい彼女の世界の文化。
変わった意味合いに受け取られる可能性は考えていたが、しかし。
「これはその、この世界だと女の子は初詣、とか成人式、とか、振袖を着る機会があるからさ。
サヤってそう言うの持ってないだろうし、私が個人的に着物姿見たかったし、それでなんだけど。
そっかあ、結婚かあ」
はっきり言ってしまえば、この世界でも、べっ甲の簪に友禅の振袖一式なんて高価なプレゼントどころの話ではない。
素人の手作り品ではあるが、職人が作れば六から七桁の世界である。
相当に重いプレゼントなのは間違いないが――予想外に話が飛んでしまった。
「流石に、まだ、早いかなあ。
まだほら、恋人になる答えも、出来てないし、さ。
まあでも――いずれは、その、まあ、考えていけたら、とは」
頬を掻きながら、今度どもるのは迦具楽の方だった。
ただの衝動で答えて良いのなら、そんな未来を描いてみたいとは思っている。
けれど、それに相応しいだけの相手になれているか――そこに答えが出ない。
「――ああー、そうだそうだ!
石蒜にもプレゼントがあるんだ!
これも渡さないとね!」
もう一人の大切な友人のために用意したこれまた大きな箱を取り出して。
テーブルの横においたソレは、ヘッドギア型の仮想世界シミュレーター。
脳の信号を読み取って反映する、軍事演習用最新型の機器だ。
「これ、これがあれば思いっきり戦えるんだって!
これなら怪我する事もないし、石蒜も思いっきり遊べるんじゃないかなって思ってさ!
私の分もあるから、これでもうこの前みたいにはならないよ!」
と、顔を赤くしながら捲し立てる。
ちなみにこれも、一般流通品でなく軍事用なので、購入すれば八桁クラスの製品であるが。
金額なんて言わなければわからないのだ。
■サヤ > 「すみません、その、う、嬉しくて……。感情が昂ぶると舌、その、もつれちゃうし、言葉も、う、うまく出なくって。」
まるで自分が迦具楽の妻に相応しいと言われたようで、次に一歩進めるようで、喜びが溢れて来た。
「あ、え、えと、すみません、その、ええと……また私、先走っちゃって、えっと……その。
いずれ、ですね、い、いずれ、はい、あの、わ、私は、あの、い、いつでも、その、結構ですから。
か、迦具楽さんの準備が出来たら、いつでも……言っていただければ、その、はい……。」
いずれ考えていけたら、先延ばしであるが明確な拒否ではないその言葉に、さらなる期待を膨らませて、頬を押さえたまま膝をもじもじとすり合わせて飛び上がりそうになる体を抑え込む。
「は、はい、あ、えと、し、石蒜にもいただけるんですか?あの、あ、えっと、あの子全然そんな、お返しなんて用意してなくて、ええと……よ、よくわからないんですけど、あの、ありがとうございます。
えーっと……すみません、石蒜ふて寝しちゃってるみたいで……呼んでも起きないんです…。お礼とお返しをするように言っておきます。」
突然まくしたてられて、何が贈られたのかも理解出来ないままに石蒜を呼び出そうとするが、応答なし。
それは迦具楽の親友からの気遣いであるのだが、サヤはそれに気付くことなく、申し訳無さそうに頭を下げて、そっと奇っ怪な形の目隠しを桐の箱のそばに置いた。
「それじゃあ、あの、ええと……き、着替えたほうがいいですよね、せっかく簪と合わせていただいたものですし。
あの、えと………、ここっ……あ、いえ、あの……き、着替えてきます…!」
何か言いかけてから慌てて言い直し、桐の箱を抱えて足早に自分の寝室に向かった。
■迦具楽 >
「そ、そうそう!
いずれは、いずれ、うん、努力します」
完全に自分の都合で答えを待たせているのだ。
そう思うと少しどころでなく、申し訳なさを感じてしまうが。
かと言って、今の中途半端な自分が、彼女の想いに応えて良いのかと、堂々巡りだ。
「そりゃあね、石蒜だって大事な友達だしさ。
お返しなんていいから、今度めいっぱい遊ぼうって伝えてあげて!」
彼女の事だから、お礼をしようと考えたら物の価値くらいは調べてしまう気がする。
そうなると、それでまたひと騒ぎ起きてしまいそうだった。
それに、そもそも渡したくてプレゼントしてるだけなのだから、お返しなんて、喜んでもらえればそれで充分なのだ。
「え、着替えって、流石に今は――ってああ、行っちゃった」
料理もあるし、食べてからでもいいんじゃないかと思ったが。
すぐに着たくなるくらい喜んでもらえたのだと思っておこう。
そして、残された迦具楽は、テーブルの前に座って、死んだ目をするトコヨシャケをつついた。
「ねー、結婚だってさ。
こんな、ナニともすらわからない私と、結婚だって。
いつどうなるか――明日もここに居られるかすら、わからないのに。
いいのかなあ、私、サヤの事、悲しませるだけじゃないのかなあ」
『どう思うよー?』なんて、シャケに語り掛けながら。
一人で食べ始めるわけにもいかず、手を出すのを我慢しながら、彼女が戻るのを待った。
■サヤ > わかりましたー!と扉の向こうから返事をして。
ここで、と言わなくてよかった。絶対に困らせていた。一度部屋を出たのはそんな思考を断ち切るためもあった。
どうしてこんなにはしたない考えばかり浮かんでしまうのだろうか。
自分はいやらしい女なのだろうか、と桐の箱を抱きしめながら、内から湧き上がる情欲の念を鎮める。
精神を落ち着ける。部屋の隅の影を敵に見立てて、一瞬だけ臨戦状態へ入る。
どれほど乱れた精神でもこれで落ち着けることが出来る。殺気を放つことになるので人前で出来ないのが難点だが、一人きりなら使いみちがある。
頬の紅潮が引き、指先の震えも収まった。念の為もう一度だけ深呼吸してから、手早く着替え始める。
きっとあんなご馳走を前に我慢しているはずだ。一人で食べていても構わないのに、義理堅い同居人にして恋人候補、そして、きっと未来の旦那様。
その相手から贈られた服に身を包んでいくと、自分が染められていくようでどうしても心が躍る。
「お待たせしました。ただいま戻りました。」
出ていく時の慌ただしさとは打って変わって、足取りは軽いが落ち着いた様子。袖を広げながら、くるりとその場で回ってみせた。
「どう、ですか?似合ってますか?」
微笑みながら、問いかける。
■迦具楽 >
シャケ相手に、しばらくうじうじとした独り言をしていると、戻ってくる彼女の匂い。
簪と振袖を作りながら、何度も思い描いた姿を思い出して、深呼吸。
そして扉を開けて入ってきた姿を見る。
「――――」
似合う事はわかっていた。
彼女の雰囲気に合う生地や柄を選んだし、簪に合わせたから引き立て合うのは当然。
胸が大きくても違和感が出ないように、彼女のサイズに合わせて仕立てたのだから、着崩れの心配もない。
しかし、それでも本人を目の前にすると、一瞬、呼吸が止まるようだった。
「――うん、すごくきれい」
微笑む彼女に、それだけ答えるのが精いっぱいだった。
そう言葉に詰まるくらい、衣装を変えた彼女は新鮮で、可憐で、美しいと思ったのだ。
視線が吸い込まれるのを感じる。
自分の眼が釘付けになっているのが分かった。
「あ、え、そう、そのままだとほら、気軽に食べられないし、着替えといで!
私、まってるからさ!」
そう言って、慌てて背中を向けて。
途端、思い出したように、胸が脈を打ち始めた。
顔がとても熱を持っているのが分かる。
自分がどうしてこんなに動揺しているのか、思考が追いつかなかった。
■サヤ > 「うふふ、ありがとうございます。じゃあお待たせしました、早速……」
髪を纏め、振り袖に身を包んだ姿は、普段慎ましく飾り気のないようにしているのを見慣れているせいで余計際立って美しく見えたことだろう。
そんなことは露知らず、いただきましょう、と席につこうとした瞬間、また着替えることになり目を白黒させる。
「え、あ、はい。わ、わかりました。」
何故か背を向けてしまった迦具楽に訝しみながらも、汚すつもりはないが万が一食事の際に汚してしまっては事だ。
大人しく従って、別室で着慣れたいつもの巫女装束に着替える。脱いだ振り袖は丁寧に畳んで桐の箱へ戻し、簪も白木の箱へ戻した。
「すみません、お待たせしました。お腹空きましたよね、冷めてしまう前にいただきましょう。」
髪を下ろし、いつもの服装に戻ったサヤならば、迦具楽も落ち着いて対応出来るだろうか。
■迦具楽 >
彼女が再びリビングを出て着替えに行くと、ようやく少し落ち着いた。
彼女の振り袖姿は、連日イメージし続けていても動揺を禁じ得ないほどのモノだったのだ。
心の底から、用意してよかったと、まだ熱い頬を叩きながら思う。
「あーもう、ああいう無自覚なところ!
自分の可愛いとか綺麗なとことか、全然、わかってないんだから!」
ソファに突っ伏して、もーっ! と声を上げる。
しばらくじたばたとして、何とか彼女が戻ってくる頃には落ち着くだろう。
「うんうん、食べよう食べよう――っとその前に」
白い袋の中から、最期の一つを取り出す。
ラッピングされた、ワインボトル。
鮮やかな赤さのソレを開けると、二つのグラスに注いで。
「ほら、サヤもこれ持って」
その手にグラスを持たせると、自分の分のグラスも手に取った。
「――メリークリスマス」
そう微笑みながら。
軽く、グラス同士を触れ合わせた。
■サヤ > 戻った時には迦具楽はもう落ち着いていたようで、こちらも安心して隣に座る。
「あ、ま、まだあるんですか。」
これ以上贈られては返しきれない、場合によっては固辞しようかと思ったが。渡されたのは薄く透明なガラスでできた足の高い器。
チン、と軽く高い音が部屋に響く。奇しくもその行為の意味はサヤの世界と同じだった。
迦具楽の笑みに、こちらも微笑んで返す。
「メリークリスマス、迦具楽さん。」
グラスから溢れる香りを楽しみながら、少し傾けて一口。
「これは、ぶどう酒ですか、それも結構、強いですね。飲みすぎないようにしませんと。」
一度グラスを置いて、まだフォークとナイフに不慣れなため、箸を手に取り。
「では迦具楽さん、どれから食べたいですか?」
何故か迦具楽の選択を促す。
■迦具楽 >
「葡萄酒でいいのかな。
ワインって言うんだけど、去年試飲会ってのに行って、美味しかったやつ頼んでたんだ。
大丈夫大丈夫、家の中なんだし、多少酔ったって平気だよ」
そう言いながら、迦具楽は平気そうに軽く一口で飲み切ってしまう。
熱量を糧に生きるだけあって、アルコールにはかなり強いらしい。
「んえ、私?
んー、やっぱりここはチキ――いや、シャケ、かな」
クリスマスと言えばチキン、と安直に食べようと思ったのだが。
なぜか、シャケを食べなければいけないような気持ちになった。
■サヤ > 「でも私、酔うと正体無くすらしくて……、以前、こちらの世界に来る前ですが、酔った時それは酷い有様だったらしくて……。」
以来気をつけているんです、と一息に飲み切る迦具楽を驚嘆の目で見つめる。
「ふふ、シャケからですね。魚を解すのは得意なんです。では、どうぞ。あーん。」
器用に箸を使って骨を取り除き、解した身を摘むと、手を添えて迦具楽の口元に差し出した。
「少しでもお礼をさせてください。それに、やってみたかったんです、その、好きな人に、こうするの……。」
■迦具楽 >
「おおう、なるほど。
さすがにそれは、ほどほどにしてもらった方がいいかな?」
一体どんな酔い方をしたのだろう。
見て見たいような、見たくないような。
なんて怖い物見たさで、飲ませてみようかなんて思っていたところに。
そっと寄せられる箸。
「ん、あーん」
それをパクっと食べて、やってみたかったという可愛らしい願望に頬が緩む。
「じゃあ、今度は私がしてあげよっか?」
言いながら、ほぐれた身を摘まんで、彼女の前に差し出す。
「ほら、あーん」
■サヤ > 「暴れたり絡んだりするようだったら迷惑ですし、そうします。それに、私、あなたと一緒の時の記憶失くしたりしたくありません。」
一瞬一瞬を大事に覚えておきたいのに、一晩記憶を失くして翌朝頭痛とともに起きるなんてまっぴらごめんだ。
ぱくん、と餌を寄せられたひな鳥のような食べっぷりにクスクスと笑う。
そして今度は自分が受ける側になると。
「あう、その、される方はちょっと、恥ずかしいですね……。あ、あーん。」
遠慮がちに身を口に含む。
「ん…おいひいです。」
よく噛んでから飲み込むと
「お返しです、はい、あーん。」
とまた鮭の身を摘む。
甘い甘い食べさせ合いの時間は、料理がすっかりなくなるまで続くことだろう。
■迦具楽 >
「もう、サヤってば、たまにそういう恥ずかしい事言うんだからなあ」
まったく油断ならない。
そんな不意打ちをされれば、にやけてしまうのも仕方がないというもの。
「もう、お返しなんて言ってるとキリがないよー?
あー、ん!」
そう言いながらも、そのやり取りがそもそも楽しくて。
当然ながら、巨大なケーキも、大量のチキンも、なぜか鎮座していたシャケも。
その大部分が迦具楽の胃に納まるわけで、食べさせられた回数は迦具楽の方が圧倒的に多かったが。
「――はー、食べた食べたー!
んー、でももっとあってもよかったかなぁ?」
なんて言いながら、すっかり平らげたテーブルの上を眺めつつ。
グラスのワインをちびちびと飲んで、空にして。
「サヤも足りた?
あー、むしろ、食べさせ過ぎなかった?」
と、調子に乗って食べさせ過ぎなかっただろうかと。
食事量が大きく違う彼女の事を気に掛ける。
■サヤ > 「事実です。私、迦具楽さんとの事はなんでも覚えておきたいんです。色々、恥ずかしい事とかもありましたけど、あなたと過ごした時間は全部大事な思い出なんです。」
にやける迦具楽に、柔らかい笑みを浮かべて。
食べさせ合いはしばらくすればサヤは満腹となって、後は一方的に食べさせる側に周り。
「ちょっと、食べすぎたかもです。ふぅ……。」
それでも差し出してくれるのが嬉しくて断るのが遅れて普段より多く食べることとなってしまった。
「えへへ、でも、幸せです……。」
珍しく正座を崩して、迦具楽にもたれかかる。
■迦具楽 >
甘えるように凭れてくれる彼女に、迦具楽からも肩を寄せて。
「んふふ、私もー」
頭が触れ合って、すっかり慣れ親しんだ匂いに安心を覚える。
こうして彼女と過ごせること、それがとても心地よかった。
「――こんなふうに、普通の人間みたいにさ。
静かで、穏やかに過ごせるなんて。
あの頃はちっとも考えてなかったな」
路地裏で人を喰らい、影に潜むように生きて。
ただ生きる事に執着していた。
ずっと、そうやって死なないために生きるんだと思っていた。
けれど、今はこうして、大事なヒトに寄り添ってもらえている。
それもこれも、この『居場所』をくれた親友のおかげだろうか。
きっと、あの気まぐれな親友は、今の自分を見たらさぞ驚く事だろう。
「サヤ、ありがと。
今日、私の隣に居てくれて」
ただそのことが嬉しい。
自分を想って、求めて、寄り添ってくれる。
そんな相手が居てくれる事が、なによりも嬉しかった。
■サヤ > 「私もあの頃は、石蒜として、あの邪仙鳴鳴と共に破滅する定めだと思っていました。
その後も、4年間逃げて、逃げて、それでも諦めきれず帰ってきて、こんなに暖かく迎えてくれるとは思ってませんでした。」
身に宿した渾沌のままに生きていた頃、公安の走狗として使われていた頃、そして世界を巡った旅路、いずれも心休まる時などなかった。
身も心を落ち着ける場所を見つけ、愛しい人に寄り添ってくつろげる、そんな時間が来るなんて思ってもいなかった。
あの時、連れ戻してくれた友人達ともう一度逢えたら、喜んでくれるだろうか。
「ありがとうございます、迦具楽さん。
私を傍に置いてくれて。」
想いを寄せることを許してくれる、慕うことを受け入れてくれる。
ただそれだけで幸せ。牛のような歩みでも、その想いを受け取ってくれるようになっていくのが、何よりの幸福だ。
少し回ったアルコールが口を軽くさせる。
「愛してます…。」
■迦具楽 >
――愛してます。
彼女の言葉が、耳にくすぐったい。
「ふふ、私も――好きだよ」
寄り添いあった彼女に、顔を向けて。
愛してる――恋人のように囁くにはまだ、少しだけ憚られたけれど。
■サヤ > ぶつけたのは精一杯の言葉なのに、返ってきたのは、期待より一歩足りないもの。
「んぅー……。」
唇を尖らせて、不満そうに唸る。腹立ち紛れに、まだ残っていたグラスのワインを一気に呷った。
潤んだ瞳で、アルコール臭のする艶っぽい息を吐きながら
「ねぇ、迦具楽さん……もう一つ……プレゼント、残ってますよね…。」
さらに体重をかけていく、まるでのしかかるように。
■迦具楽 >
「んぇ、それは、うん」
寄りかかっていた彼女が、ゆっくりと体重をかけてくる。
抵抗できないわけでは無かったが、なんとなく、気圧されるように。
「――え、っと」
ソファの上に押し倒されて、困ったように彼女を見上げる。
プレゼントの事はもちろん覚えている。
しかし、どうしたらいいものやら、わからない。
そのまま頬を掻いて、艶のある視線を向ける彼女の瞳に目を合わせた。
そっと右手を伸ばす。
「ん、いいよ」
彼女の頬に触れながら、そう呟いた。
■サヤ > 「……嫌なことあったら、言ってくださいね…。」
肩の傍に手を置いて、見下ろす。サヤの体が照明を塞いで、影を作る。
伸ばした手がふれる頬は熱く、それがアルコールのせいか、今からしようとしていることのせいかは、サヤ自身にもわからない。
「愛してるんです…迦具楽さん…。」
体を支える腕を曲げていき、足から順に体が密着していく…。
そして、最後に唇が重なり……。
ご案内:「宗教施設群 迦具楽の家」から迦具楽さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群 迦具楽の家」からサヤさんが去りました。