2021/10/19 のログ
ご案内:「常世島共同墓地」に月夜見 真琴さんが現れました。
■月夜見 真琴 >
「良いものが誂えられなくてな。 これで満足してくれれば良いが――
まさか買いにもどれ、などとは言ってくれるなよ」
さして悪びれる素振りもない詫びとともに、時節外れのカルミアの束を墓前にそなえる。
十二分に手入れされた墓所ではあるが、それでも一応、最低限の体裁を造ろうように掃除はしておいた。
薄曇りの鈍色の空。
連日のような雨足はいつしか遠ざかっていたが、そのかわりに冬将軍の足音が遠くから響き出した。
今も吹き抜ける寒風に、しかし、墓前にしゃがみこみ、膝に頬杖をついた。
「うん。色々起こっているようだな。いつものことだが」
■月夜見 真琴 >
「――――」
目を瞑る。
墓前で寝転けるかのような有様だが、まぶたのうらにえがくのは、夢の世界ではなかった。
片方だけの紫に、あの時問われた過去への未練。
遠い昔の、青春の場所。
事件を追いかけ、夜を徹した、風紀委員会・刑事部の、ひとりの女生徒を思う。
たかだか二十年も生きていない小娘の過去を、
"昔"と形容していいかはさておくとして。
「もしも――」
■月夜見 真琴 >
「――――いや」
薄っすらと、銀色の瞳を開いた。
自分の現在は、"そこ"にはない。
闇の奥から、真実を探り当てるのは、自分の領分ではない。
埋葬した筈の熱を、ただ、蠢動する者どもの気配に、僅かばかり煽られただけ。
「いまさらだよ。何もかもな」
変わってしまった。
変わり続けることが正常なのだ。
自分も。風紀委員会も。落第街も。
見上げた空の雲が、気だるげながらも、動き続けているように。
■月夜見 真琴 >
溜め息がこぼれた。
「きっと良いものが見られた筈だ」
立ち上がりながら、うなるように。
「その確信があるからかな。なかなか効いてくる。
あれだけやらかした代償にしては、随分軽いと思ったものだが――
こうなることを予見されていたのかもしれないね。
やつがれにこの罰を架した、あの方々は」
そうでもないなと、力なく笑った。
だが、今の自分の居場所は"そこ"ではない。
うず高くデータが積もっていく資料室。表舞台。自分のアトリエ。
在るべき場所に在るだけだ。
そう在りたいと望んだのも確かなのだから。
「さて、そろそろ行くよ。
益体もない話に付き合ってくれてありがとう。
――いや、レイチェルには言えないからな。ふふ」
■月夜見 真琴 >
「花は散る――それが造花でないのなら。
せめて生家であってくれとは思うが、花の愛で方も、やつがれはなにひとつ遺せなかったわけだ。
とんだ笑い話だな。似合いの結末と考えてくれて構わないよ」
踵を返す。
進み続ける時間と同じ方向にむけて。
「それでは、さようなら。
またの時を、楽しみにしているよ」
ご案内:「常世島共同墓地」から月夜見 真琴さんが去りました。