2021/10/19 のログ
ご案内:「常世島共同墓地」に月夜見 真琴さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
「良いものが誂えられなくてな。 これで満足してくれれば良いが――
 まさか買いにもどれ、などとは言ってくれるなよ」

さして悪びれる素振りもない詫びとともに、時節外れのカルミアの束を墓前にそなえる。
十二分に手入れされた墓所ではあるが、それでも一応、最低限の体裁を造ろうように掃除はしておいた。

薄曇りの鈍色の空。
連日のような雨足はいつしか遠ざかっていたが、そのかわりに冬将軍の足音が遠くから響き出した。
今も吹き抜ける寒風に、しかし、墓前にしゃがみこみ、膝に頬杖をついた。

「うん。色々起こっているようだな。いつものことだが」

月夜見 真琴 >  
「――――」

目を瞑る。
墓前で寝転けるかのような有様だが、まぶたのうらにえがくのは、夢の世界ではなかった。

片方だけの紫に、あの時問われた過去への未練。
遠い昔の、青春の場所。
事件を追いかけ、夜を徹した、風紀委員会・刑事部の、ひとりの女生徒を思う。

たかだか二十年も生きていない小娘の過去を、
"昔"と形容していいかはさておくとして。

「もしも――」

月夜見 真琴 >  
「――――いや」

薄っすらと、銀色の瞳を開いた。
自分の現在は、"そこ"にはない。

闇の奥から、真実を探り当てるのは、自分の領分ではない。
埋葬した筈の熱を、ただ、蠢動する者どもの気配に、僅かばかり煽られただけ。

「いまさらだよ。何もかもな」

変わってしまった。
変わり続けることが正常なのだ。
自分も。風紀委員会も。落第街も。

見上げた空の雲が、気だるげながらも、動き続けているように。

月夜見 真琴 >  
溜め息がこぼれた。

「きっと良いものが見られた筈だ」

立ち上がりながら、うなるように。

「その確信があるからかな。なかなか効いてくる。
 あれだけやらかした代償にしては、随分軽いと思ったものだが――
 こうなることを予見されていたのかもしれないね。
 やつがれにこの罰を架した、あの方々は」

そうでもないなと、力なく笑った。
だが、今の自分の居場所は"そこ"ではない。
うず高くデータが積もっていく資料室。表舞台。自分のアトリエ。
在るべき場所に在るだけだ。
そう在りたいと望んだのも確かなのだから。

「さて、そろそろ行くよ。
 益体もない話に付き合ってくれてありがとう。
 ――いや、レイチェルには言えないからな。ふふ」

月夜見 真琴 >  
「花は散る――それが造花でないのなら。
 せめて生家であってくれとは思うが、花の愛で方も、やつがれはなにひとつ遺せなかったわけだ。
 とんだ笑い話だな。似合いの結末と考えてくれて構わないよ」

踵を返す。
進み続ける時間と同じ方向にむけて。

「それでは、さようなら。
 またの時を、楽しみにしているよ」 

ご案内:「常世島共同墓地」から月夜見 真琴さんが去りました。