2021/11/24 のログ
ご案内:「常世島共同墓地」に追影切人さんが現れました。
追影切人 > 「共同墓地、共同墓地――…と。…ここか。」

風紀委員会警備部の制服に、左腕は指先まで黒布を巻き付けた目付きの悪い男が一人。
右手に普段は絶対縁が無いであろう花束を片手に共同墓地の前へと姿を見せる。

「……眺めは悪くなさそうだが、何つーか、辛気臭い気もするんなぁ…。」

辛気臭い、は言い過ぎだろうが墓地だから厳かで静かな空気なのは当然だろう。
それでも、墓地というものに縁が欠片も無かった男からすれば、変な空気という印象が先立つ。

勿論、わざわざそんな縁が無い場所に訪れた理由は一つだ。
――墓参りである。まぁ、訪れるのはこれが最初で最後になるかもしれないが。

(今更、わざわざ墓参りっつーのもよぉ…何か余計に場違いじゃねーか、これ。)

予め、その墓のある場所は聞いていたので敷地内に足を踏み入れれば、迷わずとある一角に。

少し歩けば、共同墓地の隅の区画。ひっそりと立つ簡素な墓石が一つ見えた。
確か、白と黒の二種類の石を使った変な墓だから意外と目立つ、とは聞いていたけれど。

「…うわ、隅っこにある癖に本当に遠目からでも分かるなありゃ…どういうセンスしてんだ。」

美的センスなんて欠片もない己でも分かる。この墓をデザインして立てた奴は多分馬鹿だ。
まぁ、目的の墓がソレなので少々呆れつつも墓前までゆっくりと足を運んで。

追影切人 > 共同墓地を管理している人…もしくは委員会?が、手入れをしてくれているお陰か。
雑草が生えていたり墓石が苔むしているという事もない。
墓石に刻まれた名前は――…


『追影■■』


その墓石の――名前の部分だけを意図的に誰かが削り取ったような有様を眺めて。
何処か苦笑じみた笑みを浮かべながら、よっこいせ…と、その場にヤンキー座りで腰を下ろす。

「あー…何だ。取り敢えず墓参りなんて柄でもねーけど、来てみたぜ。
まぁ、これが最初で最後になんだろーけど。…あれから4…5年だっけ?」

徐に語り掛けながら、墓参りの作法なんてこの馬鹿が知る訳もなく。
無造作に花束を墓前にドサッと置きながら、今度は煙草の箱を取り出して口に咥える。

「まぁ、何だかんだアンタから貰った苗字は使わせて貰ってるよ…一応な。
あと、他にもアンタが遺したモンも幾つか――って、まぁそりゃどうでもいいか。
…しっかしまぁ…名前も削られてるとか徹底してるよなぁ。」

片手を伸ばして名前の削られた部分を指先でなぞってから、罰当たりにも軽くデコピンをかまして。

「――アンタに昔一度だけ指摘されたけどさ。正直未だに『死』ってのがどういうモンかサッパリわかんねーわ。
いや、死ぬって事自体はまぁ当然分かるんだけどよー…それに対してあれこれ感情を持つ、って感覚が分からん。」

『死』への共感能力が著しく欠けている――”生前”の彼女が杞憂していたこの男の欠陥の一つ。
あれから数年が経過して、少しは人間らしくなった…が、未だにそれはさっぱり理解不能だ。

「死んだらどいつもこいつもただの肉の塊だろ?それに思いを馳せて…何か意味あんのか?」

死者に思いを馳せる、思いを受け継ぐ、その感覚がどうしても分からない。
とはいえ、今こうして語り掛けている相手は物言わぬ死人だ。それこそ意味が無い。

(つーか、返事もねーのにこうして語り掛けるのも我ながら意味があるとは思えねーんだよなぁ。)

心の整理か、望郷の念か、既に失われた”誰か”に対する未練か。――いや、どれもねぇなと切り捨てる。
ジッポライターで煙草の先端に火を点しながら、色違いの二色の瞳でそのモノクロカラーの墓石を見据え。

追影切人 > 「ま、分かんねー事をウダウダ考え込んでもしょうがねーしな。分かる時が来たらそん時考えるって事で。」

肩を竦めながら、煙草をもう1本抜き出して無造作に墓前へとそれを置いておく。火は点けない。

「んで、今の俺は…あー、第一級監視対象とかいう、まぁ厄介者の判子押されて『飼い殺し』されてるわ。
他にもこう、タチの悪い捻くれた女共が2人ばかり俺と同じような立場なんだけどよ…。
お陰で、自分じゃ気楽に落第街とかあっちにゃ自由に行けなくなっちまったわ…ま、そりゃそうだよな。」

独り言をつらつらと並べ立てる。死者に言葉は無い、そこには何も無い。

「おまけに、見ろよこれ…なーんか、色々あって左手から怪異になりかけてんだと!
今の所は…何だっけ?あー…んー…あ、そうそう祭祀局?っつー所からやべー封印の奴借りて押さえ込んでる。
とはいえ、怪異化を最小限に食い止めるのが精一杯なんだとよ。参るよなぁ。」

苦笑いを浮かべて、墓前へと煙草を蒸かしながら指先まで黒布が巻かれた左手をヒラヒラ振って
警備部の制服の裾などで隠れているが、如何にもやばそうな呪符も何枚も布に貼り付けられている。
そうでもしないと抑え付けられないのだ。本人は至って自然体ではあるが。