2021/12/27 のログ
ご案内:「常世島共同墓地」にノアさんが現れました。
ノア >  
「さっむ」

冬の夜風が肌に刺さる夜の墓地。
小高い丘のその上、遠くに聞こえる波音と共に届くのは潮の香り。

敷地の隅にバイクを停め、ハンドル部分に引っ掛けて来た花束と供え物を片手に桶などを借りて行く。

「……綺麗にされてんな」

己の家名とは別の、1つの墓を前で歩みを止める。

ノア >  
……何も考えずに来ちまったから道具もねぇな。
手に持った荷物を墓石の側に置き、道中を引き返して共用倉庫へ。

「さすがにお湯とか出てくれねぇか」

倉庫の側の蛇口を捻り、木桶に水を。
なみなみ注いだ桶に柄杓を突っ込み、雑巾を淵にかける。

何の気も無く見渡せど、他に誰かの姿が見えるでも無く
静かに波の音と風の吹く音だけが聴こえていた。

ノア >  
手土産と花を濡れぬ位置に除けて、桶を手に。
墓石の一番上から水をかけていく。

手がかじかみ、水に触れた端から赤くなっていくが、
絞って水を切った雑巾で拭っていく。

冬ともなれば夏と比べれば少し花の持ちが良いとは言え、
花立ての中の花々は少しずつ疲れを見せており、最後に誰かが来てからの日数を推し量れた。

「寒ぃかもしれねぇけど、まぁ我慢な。
 ……蓮司の奴、元気にしてっかな」

墓石に向けて、語る声音は穏やかに。
見知らぬ少女の幻影と共に、教師となった友の無事を案じながら。

「まぁ、表行ったのにくたばるもなんもねぇか」

小さく、口の端を上げて笑う。

ノア >  
一通り拭き終えて、一息。
紙袋を漁り、行きがけに買ってきたお供えを取り出す。

「……何か他にもっとあった気がすんな」

個包装の塩饅頭、年頃の女の子に備えるのには渋すぎた気がしないでもない。
まぁ、良いか。もしかしたら好きかも知んねぇし。

少し傷んだ花だけを除いて、残っていた花束に持ち込んだ物を足す。

「……どうしたもんかね」

違法入島者の自分がまっとうにお悩み相談などに顔を出せるわけも無く。
教会に懺悔する程に信心深くも無く。
整理の付けられない思いの切れ端を吐き出し、ため息を一つ。

答えを求めるでもなく嘆くがゆえに、こんな所へ足が向かったのか。

ノア >  
過去は変えられない、犯した罪が無かったことにはなり得ない。
それでも風紀の審問を受けて後、教師となった男がいる。

「何が、変わったんだろな」

金貸しをしていた頃の、風紀への復讐心に駆られていた彼と、
真摯に生徒と向き合う教師としての彼。
怒りにまかせて本島を飛び出し、彼の変化に感化されて矛を収めてしまった己。

人は変われると、月並みながらにそう思う。

「……くそ、線香一瞬で消えるな」

ノア >  
何度か落ちてしまった灰を見、火をつぎ足す。
足す度、時が経つ度に長さは失われていく。

線香立ての淵に隠れるまでを見届けて、手を合わせる。

「……食い終わったかい?」

返事は聞こえないけれど、烏に散らかされるのも不本意なので、
供えた塩饅頭を紙袋に戻して、腰を上げる。

ノア > 立ち消えた煙を見上げれば、日暮れの空には厚い雲が昇っていた。

「さって……そろそろお暇しとくか」

陽が落ち始めれば、吹く風はより一層寒さは増して。
木桶に柄杓と雑巾を突っ込む。

「クリスマス、ねぇ」

遠巻きに見ても、街はすっかりクリスマスから年の瀬に向けての陽気な色に彩られていた。
街灯も少ない丘道に、大型のバイクのエンジン音を響かせる。

「変わった事っつったら寿司食ったくらいか?
 代わり映えしねぇや」

まだ数か月も経っていないが、友人の近況報告も気になる所。

……うまくやってっかな。

黒のヘルメットを目深にかぶり、眩い街の景色を置き去りにして風になる。
向かうは歓楽街。いつものねぐらに、駆けていく。

ご案内:「常世島共同墓地」からノアさんが去りました。