2022/08/15 のログ
ご案内:「常世島共同墓地」に紅龍さんが現れました。
ご案内:「常世島共同墓地」にノアさんが現れました。
■ノア > 広大な土地を有する共同墓地の隅。
何一つ刻まれていない巨大な御影石のその足元に、小さく黒いジャケットの影が揺れていた。
盆、正しくは盂蘭盆会だっけか。
正しい手順を踏むつもりもさらさら無いから、まぁそのあたりは良いだろ。
神仏習合、多元主義。都合の良い宗教要素のパッチワークだ。
神様なんざいねぇって言いながら御神籤なんかは楽しんで━━そんなもんでいい。
本島にいた頃からそうだったしな。
拝む先は合葬墓。
1つの墓石に一緒くたにして遺骨を埋葬する奴だ。
当然家族の遺骨なんてもんは手元に無いし、俺が勝手に拝んでるだけなんだが。
まぁ気持ちの問題だ、形から入れば気持ちも付いてくる。
「……久しぶり」
虚空に向かって呟く。
墓所だけあって真新しい死霊なんかが見えちゃいるけど、まぁ知ったこっちゃない。
望んだ姿がそこにないなら俺にとっちゃ虚空で相違ない。
今年はいっとう暑かったろう、寂しくは無かったか。
そんな取り留めのない事を、瞳を伏せて呟く。
「生きてりゃ蓮華も24か? ……想像つかねぇな」
二つ結びの黒髪を暴れさせていたお転婆が、大人しくなってどっかに勤めたりしたのだろうか。
親父は、おふくろはなにしてただろう。
温泉だとか旅行だとか、連れていってやりゃ喜んでくれたのかね。
そんな事を夢想する。覚醒した意識のままに、夢を見る。
手を合わせ、瞳を伏せたままに吹き付ける潮風を感じる。
じっとりとした夏の温度がそこにはあった。
■紅龍 >
中元節――いわゆる、お盆ってやつだ。
旧暦の七月ってのは鬼月と呼ばれ、霊が彷徨い出る季節とされている。
そのため、この季節に供養をするのが文化的に一般化した。
元は道教の教えだったかね――あんまり詳しくはねえが。
「――ま、線香くれえわな」
無縁仏が放り込まれた墓石の前で、一握りまとめた線香に火をつけて、投げころがす。
悪くない匂いが風に巻かれた。
「――よう、ぽんこつ探偵。
妙なところで会うもんだな」
それだけしてから、偶然にも居合わせる事になった顔見知りに声を掛けた。
しばらく見ねえうちに、随分と薄汚れたもんだ。
『種』と奇妙な具合に共生――と言うには穏やかじゃねえか。
ただまあ、寄生されたって情報は拾っている。
研究室は被験体として欲しがったが――。
■ノア > ふと聴こえた声。
久しぶりに聴く、太く響く男の音。
「――よう、おっさん。
あんたに墓参りなんて趣味はねぇと思ってたぜ」
死者を、あるいは死を思う。
んなもんわざわざ墓に向かって線香焚かなくたってできる奴だと、思っていた。
まぁ、俺がおっさんの何を知っているのかという話だ。
名前、経歴、その他諸々。調べた事で知った気になるのは、卒業した所だ。
ここ暫く動向を窺いこそすれど、顔を合わせる事の無かった男。
正しくは避けていたのだが。
腕の事と言い馬鹿な真似をした手前ばつが悪いってのと、
隠してこそいても『種』の痕跡が出歩いている状態ってのがおおまかな理由だ。
捕獲か、あるいは始末を命じられていても、不思議ではない。
まぁ、会っちまったからにはしょうがない。
幸い人気のない所とは言えここは"表"だ。
向かい合う為に瞳を開いて……おっさんの投げた煙が目に染みた。
「――久しぶりだな」
汚れを洗い流すために反射的に涙を零しながら、そう告げた。
死ぬほど不本意な涙だった。
■紅龍 >
「墓参りってのは、趣味でやるもんじゃねえだろ。
ま、この島で殺した奴らには、ここのやり方でってな」
郷に入れば郷に従う――だったか。
オレが殺したヤツは一人残らず頭に入ってる。
――が、行動として形にするのとは別問題だ。
「おう、久しぶりだなぁ、泣き虫わんちゃん」
へらっと笑いながら、『タバコ』を咥える。
自我の主導権は探偵にあるみてえだが。
『草刈り』をするはめになるかどうか――。
■ノア >
「さぁ、どうだろうな。俺は自己満足の為にやってるだけだ。
趣味か、そうでなきゃ気まぐれみたいなもんさ」
祈った所で、拝んだところで死者が救われる訳でも無い。
ましてや蘇るなんて訳もねぇ。んな事ぁみんな分かってる。
分かった上で、受け入れる為に儀式を行う。
死者が救われるようになんてのは建前で、救われたいのは結局のところ自分だ。
「っせぇ、禁煙中の身体に染みるんだよ。
煙も、炎も。嫌んなるくらいな」
どうせ知ってんだろ、そう言いながら安物のオイルライターを投げ渡す。
「見ての通り、今ん所はちゃんと『俺』だ。
左の、肩からこっち側はな?」
とんとん、と左の肩口を右手の指先で叩いて見せる。
初めは肘から先だったってのに、ちょいと怪我すりゃ好き勝手に根を張ってこのザマだ。
■紅龍 >
「――へえ、そうかい」
まあ趣味だろうが気まぐれだろうが、自己満足に変わりはない。
死んだ奴にとって、生者が何しようと意味はない。
死に意味を見出すのは――いつだって生きてるやつだ。
「わーってる。
お前じゃなきゃ、とっくに『刈って』るっての」
少なくとも、現状は共生。
とはいえ、時間制限付きか。
「どうするよ、今の状態なら『まだ』なんとかなるぜ。
お前の事を調べたいって研究室は言ってるしな。
その条件として、寄生体の除去くらいは喜んで受け入れるだろ」
ついでに、正規の身分を手に入れる事も難しくない。
前科があろうと、経歴が胡散臭くとも、研究協力と銘打てば、ある程度は無視できる。
そこがこの、研究実験都市の楽な所だ。
■ノア >
「そいつぁありがてぇこって」
クックッと喉奥で笑い、目元を拭う。
問答無用って訳じゃあねぇらしい。本当にありがてぇこった。
「『まだ』か。確かにその内全身持ってかれるだろうとは思っちゃいるが。
こいつら露骨に脳狙って根を伸ばしてるだろ」
感覚的には全身の二割程度が既に自分の物では無くなっている。
むやみやたらに根を伸ばすような素振りが無いのは、そうなった時に俺がどうするかが分かってるって事かも知れない。
宿主が死ねばこいつ等も死ぬ。
無理やり生かそうとはするだろうが、そこはうまく死ぬ程度の事はしよう。
「――正規の身分ね。貰ったところで何するかって話なんだがな」
非正規に身分を用意するような仕事をしてきた己が何を今更と、思う。
何かを為すために必死に金を積んだ連中と違って、目的らしき物もおおよそ終えた後だ。
幸いおっさんの妹が無事だったって事で、今ん所はそこそこ満足はしてる。
そんな満足の内に灰になる、そんな事を考えてわざわざ不似合いな盆巡りなんざしてるってのに。
■紅龍 >
「そりゃあそうだ。
そいつらは、宿主の肉体が目的だからな。
制御するための脳を乗っ取るのは当然だろ」
まだ脳まで達していないのは、寄生部位の運が良かったのと、李華の抗体が効いてるのが幸いしたってとこか。
寄生体が弱った分、猶予が出来て、疑似的な共生関係が産まれただけだ。
それも、抗体が効いている間だけだろう。
効かなくなれば――すぐに喰われる。
「相変わらず察しはいいな。
身分に関しちゃ、おまけみてえなもんだ。
ま。
お前が自我のあるうちに始末をつけるってんなら、好きにしな」
煙を吐きながら、すでに肉じゃなくなってるだろう左腕に視線を向けた。
ここでさっくり、切り落としたって構いはしないが――。
「――どうせお前、李華の事で頭突っ込んできたんだろ。
あいつは今、元気に研究しながら教師生活してるよ。
お前のおかげ、って事もねえがな」
こいつがいようが、いまいが、李華が助かるのは既定路線だ。
まあオレが死に損なった点に関しちゃ――あんな穴蔵に首を突っ込んだバカ共が、思いのほか多かったおかげかもしれねえが。
「オレの方は、まあ、部活を建ちあげたとこだ。
あの街にしか居場所がねえ連中ってのも、存外多いもんだからな。
しってるか、『裏切りの黒』って連中。
あそこの『お姫様』とも約束してね。
あの街の連中を守るため、生きるためにやってくつもりだ」
オレとしても、李華を表に出してやれた以上、死んだってかまわないと思ってたんだがな。
――意外と、死ねない理由ってもんはすぐに出来ちまうらしい。
「つーわけで、オレは部員どもを鍛えて、養っていかなきゃならん。
が、今は致命的に人手が足らん。
稼いで育てて、使えるようにするにも時間が掛かる。
オレが蟠桃会で育てた奴らも、今は部費を稼ぐので手一杯でな。
これが、そこそこ鼻の利いて、自由に動ける犬でも飼えりゃあ、多少効率よく稼げるんだがなあ」
煙をふかしながら、包み紙に残っていた線香の束に、まとめてジェットライターで火をつける。
気前よく墓石の前に備えてやれば、大層、馬鹿の目には染みる事だろう。
■ノア > 「さぁな、散歩してたら気に食わねぇのがいたから噛み付いただけだっての」
紅李華。紅龍の妹にして、首を突っ込んだ救出作戦の主目標。
その無事を兄から聞かされれば、天を仰いで言葉を濁す。
言葉にしなかった心残りの一つを口にされて、気恥ずかしさを誤魔化した。
「まぁ、貰えるもんなら貰っておくさ」
久々に海岸で褐色の少女に名乗った響きを思い出す。
埃をかぶったままの、忘れ形見。
今更真っ当に生きれる器量なんざないが、こっちに居るなら無駄になる事も無い。
「始末をつけるならてめぇの手で、って思っちゃいたんだが――
最近色々と仕事を抱えたままでな」
最近会った連中の事を思い出すと、心残りが無いとも言えない。
「不殺の用心棒……だろ?
名前も決まってねぇ部活にスカウトか?」
笑いながら目をやるのは眼前で焚かれた線香の束。
立ち昇る煙は目を焼き、灰色になった先端が合わさり火柱と化す。
包帯の奥の左腕が発する危険信号を無理やり抑え込み、
胸元の名刺ケースの中身をその火柱にくべる。
「――――いいぜおっさん。その話、乗った。
腕の事に関しちゃアンタの伝手に頼るしかねぇし、
そこの代金はアンタのツケって事にしておけよ?」
素直に言う事聞く程賢い犬かは知らねぇけどな。
煙にむせながら、からからと笑う。
■紅龍 >
「哈哈哈!
飼い犬の世話くらいはしねえとな?
研究室には連絡しといてやる。
身分の方も研究協力者として登録されるだろうよ。
まあ――職員になるか学生になるかはしらねえが、教員ってこたあ、あるめえ」
いずれにせよ。
表も動けて裏にも鼻が利くとなれば。
ウチとしちゃあ、大いに助かる。
「そんじゃ、李華にも伝えておいてやるよ。
哥哥のダチが行くから、好きなだけ実験していいぞ、ってな。
たっぷり全身弄られて、まともな腕に付け替えてこい」
駄犬のジャケットに、オレの新しい名刺を突っ込んで、さっさと踵を返す。
墓石の前で長々と手を合わせるのはオレのやり方じゃない。
あくまで、義理立てでしかないからな。
「しばらく向こうで養生してこい。
あんま、こっちの騒ぎに顔出すんじゃねえぞ。
止めはしねえが――うちは、殺さず、死なない。
生きるのが大前提だからな」
背中を向けて、駄犬に手を振る。
さて――いよいよ、真面目に看板出さねえとな。
あーあ、部活名、どうすっかねぇ。
■ノア >
「研究協力者ね。まぁ名前だけ買ってる今のよりよっぽど健全か。
教員なんて頼まれてもやんねぇよ、適当な所の職員枠にでも放り込んでおいてくれ」
学生なんかにされてダチの教える教壇の前にでも座って見ろ。
気まずさで相手も教鞭が振るえなくなるだろう。
「あぁ、折角だからアンタの妹さんを拝んでおくさ。
カミサマだとか盆だとかより、よっぽどありがたいもんだしな」
ジャケットの中に突っ込まれた名刺を見やる。
名前と連絡先程度の事しか書いちゃあいない。
フリーランスの俺よりヒデェ。マジで決まってねぇのな組織名。
中の仕組みなんかは仕上がりつつあるって話なのに何してんだ。
「あー、まぁ生きんのは得意だから、任せろ」
大嘘だった。死ぬのが下手なだけだ。
まぁ、そんで良い。似たようなもんだろ。
背中を向けて去る背中に続いて腰を上げ、燃え尽きた名刺に思いを馳せる。
暫くぶりの闇医者以外の治療施設だとさ。大人しく過ごすとしよう。
どうせ探偵稼業の方は引き継いだ連中に任せてる分だけで十分に回る。
さて、身分登録すんのに名前が要るんだが……
キョウドウアキオミ、漢字で書くのなんざ何年振りだっけね。
ご案内:「常世島共同墓地」からノアさんが去りました。
ご案内:「常世島共同墓地」から紅龍さんが去りました。