2020/08/05 のログ
■鞘師華奈 > 10歳まで異邦人街。そこから5年を落第街で過ごしていればこうもなろうか。
学生街で暮らし始めてまだ3年――しかも、自分の格好に無頓着である。
流行には疎いし、今時の学生らしいファッションなんて完全に分からない。
要するに、常識を知らないのだ――少なくともファッション方面では。
「…それを聞いて安心したけどさ。…分かったよ、睡蓮がそう言うなら服装のレパートリーは少し気を使ってみる」
と、渋々ながら口にして。気を使うといっても、ファッションド素人な上に男物の服装が好み、という点で難儀だが。
まぁ、こうしてやっと自らの服装への認識に変化の兆しが出てきただけ小さくとも大きな進歩だろう。
むしろ、今まで周りが指摘してこなかった、というのもあるのだが。
「――へぇ、ここはメンズ系統のやつが多いのか。これなら私も安心して選べ…うん、そう水着」
と、睡蓮に相槌を打ちながらやってきた施設の一角。メンズ系やそれに近いユニセックスファッションを見て回ろうかと。
正直、完全に疎いのでどうしてもこういう場所は睡蓮が主体になってしまう。
とはいえ、そればかりでは”フェア”ではないので、女なりに考えてはいるが…。
「…ああ、日光に肌が弱い感じなのかな。私もそんな強い方じゃないけど――…いや、さっきの睡蓮の態度を見たら私だって反省はするさ」
プールに行く機会があれば、ちゃんと…少なくとも今くらいの格好にする、と約束しておく。
正直、次にこういうプライベートでスーツ姿をかましたら色々とまずい気がしてきたのだ。
「ただ、そうなるとやっぱり屋外より屋内のプール…レジャー施設になる感じかな。
あまりごった返すのは好きじゃないけど――まぁ、一度くらいは行きたいね君と」
と、素直に語りながら自分でも色々と見繕って見る。…が、どの組み合わせが自分に似合うのか、とかさっぱり分からない。ファッションド素人にはハードルが地味に高かった。
■群千鳥 睡蓮 > 「あたしお盆のあいだは島の外に帰るからさ。
その前か後かで……そうだね、行きたいね。
ああでも、泳ぐ隙間がないってのはヤだね、二人で泳げそうなとこない?」
どうやら判って頂けるらしい。であれば、彼女の好みにも合わせていきたい所存。
一緒に居て疲れる相手、にはなりたくない。
疲れるにしても心地よい疲れであってほしい。
「水着――はここ売ってるのかな、あとで回ろっか。
とりあえず色々買って合わせてくのが楽し……いや華奈さんはそれじゃダメだな」
選ぶ楽しみ、とか。そういうのを教えるのにはそれこそ年間計画になりそうだ。
"あたしが喜ぶような"――という傲慢さを口にできるほどの距離感では、まだない。
店員さんの攻撃は大丈夫でーすって躱しておいた。二人の時間だ。
「華奈さんこういうの履けると思う」
というわけでまずご提案したのはこちらスキニー。
細身のボトムだ。なぜこれを提案したかはおわかりだろう。
――自分が履ける類のものではない、からだ。太ももとかがその、ね。
すらりとした彼女の立ち姿が羨ましい。
「色とか素材とか色々あるけど これ軸に選んでいきたいかな」
絶対似合うな……羨ましい。細くてすらっとした脚。狡い。
舌打ちが出た。我慢しなきゃ。
■鞘師華奈 > 「――”外”か…うん、家族は大事にしないとね」
少し、間を置いてから小さく苦笑を浮かべて。家族も、仲間も自分にはもう誰も居ないのだから。
――いや、あかねや睡蓮、知り合った人達には勿論感謝している。そこを蔑ろにしてはならない、と今の自分は分かっているはずだ。
「――うーん、そうなると小さめのプールの貸切みたいな感じになりそうだけど」
常世渋谷はレジャー施設もそれなりにあるので、幾つかフィールドワークをしていた成果か候補は浮かぶけれど。
そもそも、二人のお肌の問題で海で泳ぐのは論外とあらば、選択肢は矢張り限られてしまうもの。
と、不意に睡蓮をじっと赤い瞳で見つめて。やや間を置いてから口を開く。
「――睡蓮、私の好みとかあればそっちに合わせようとか思ってないかい?
――勘違いならごめん。けど、一つ言わせて貰うなら…私は睡蓮が自由に自分の好きな格好で居てくれるほうが好きだよ。」
と、口にしてから小さく笑う。そりゃ、私だって好みは一応はある。
睡蓮にこういう格好をして欲しい!という気持ちだって勿論ある…無い訳がない。
ただ、だからといって――変に気遣われて合わせられるより、睡蓮は自由に自分の好きな格好を優先して欲しいものだ。
(――なーんて、言っておきながら好みに合わせて貰えたら嬉しい、なんて思ってる私は最低だね本当に)
本当、対人関係の不器用さと――3年の傍観者気取りの時間がここに来て足枷になる。
だけど、前に進むのだから悲観してはいられない。私の目の前の友達もそんなの望んでいないだろう。
「――水着、かぁ。…流石に…いや、まぁ我慢するしかない、か。うーーーん…。」
そう、水着は流石に男物なんて無理だしユニセックスも何も無い。つまり普通に女物。
ものすごい葛藤するような表情を浮かべていたが、ここは友人と泳ぐ為にも水着だけは例外にしておこう。
「――まぁ、私はこういうのは初心者だからね…自分で選ぶと、多分悲惨な事になるんじゃないかな」
そのくらいの自覚はある。店員さんのお奨め攻撃は二人で回避しつつ、睡蓮から薦められたのはスリムなボトムス…スキニーパンツだ。
成るほど、細身デザインだが自分は普通に着用できそうだ。
「―色は寒色系が私は好みかなぁ。黒、とか青、とか。…睡蓮の体型は私は好きだけどね?」
と、舌打ちに気付いたのかそちらをじっと見てから…首を緩く傾げて口にする。
彼女自身は納得しないかもしれないが、スタイルが良いのはむしろ睡蓮だろう。
ともあれ、試着室に一度移動してまずは下だけスキニーパンツに着替えてみよう。
最初は黒、次はベージュ、そして青。三種類ほど順番に履いてみつつ、その都度睡蓮に見せようと。
■群千鳥 睡蓮 > 「かっこいい友達ができたー、って自慢しとく」
微笑む。無用な気遣いはしない。
家族は大事にしている。盆は死者が還る季節。故に自分は外に帰る。
貴い土産を手に。さっき撮った写真もそうだ――彼女の環境は、聞いた話だけでも推し量れる。
深い同情がほしいなら、こういう場所でねだってはこない相手だとも、思っている。
「ん……?」
見つめられた。黄金の瞳を瞬かせてから、続いた問いかけには瞠目し。
続いて破顔した。
「――華奈さんの趣味がよっぽどじゃなきゃ、大丈夫じゃない?
あたしは言うほどそういうすききらいはないし――ああスカートはあんま履かないけど。
華奈さんに会うならこういうの着てこうってなれるから、たのしいとおもう。
……あとであたしのも選んでね?」
きょうだって選ぶのは楽しかったから、小首を傾げておいた。
共通するのはそう、"無理はしない"ということだ。
「だからって囚人服みたいな水着選ぶなよ……?
ふたりなら気にならない……ってわけじゃないかー。
…………。 そりゃどーも。着替えた着替えた。ほら早く!」
"体型"をしっかり見たことがある相手に言われると、顔を赤くしてせっついた。
唇を指先で叩きながら審美する。かっこいい。
うーん、と考える。正直どれも似合う。似合うのだ。スキニーが似合う女なのだ。
すらっとした腿周りを見せつけやがって――そう。
デニムの上から自分の太ももを撫でる――見比べる。
履けねえ―――!スタイルが良い自信はある。"細く"はないのだ。腰くらいだ。
そんな葛藤のなか、青いデニムを履いた時、試着室のカーテンが空いた時に睡蓮はいない。
少しして戻って来る。タンクなりシャツなり、合わせやすそうなもの。
あまり冒険はさせない。彼女に必要なものは選択肢と。
「なんか一個赤いのがほしい」
と。レッドのスニーカーを試着室の足元に置く。
ベージュにはきついが黒と青には合わせられる。
これはもう買っておいた、と置いてある。試着中に足のサイズは見聞済みだ。
トップやボトムにはキツい色でも、靴になら許される。睡蓮が視る鞘師華奈は"赤"だ。
炎のような。
■鞘師華奈 > 「――待った、可愛いよりはマシだけど、そんなかっこいい所は私にあったかな?」
んーー?と、首を傾げて。少女はもう気付いているだろうが、この女、自己評価は基本的に低め安定だ。
自虐するほどではないが、かっこいいと評されてもピンと来ていない。気持ち的には無論嬉しいのだが。
「――よっぽどかどうかは正直ほかの人の趣味と比べた訳でもないから分からないけどさ。
うーん、スカートも似合いそうだけど睡蓮も割りとパンツルックが合うと思うな。
……うん、あのね?選びたいけど私ね?ド素人だからね?ハードルいきなり高くない?」
友達の服装を選ぶ!?…下手な公安のお仕事より困難なミッションが舞い込んできた気がする。
とはいえ――こういうのも慣れていかないと。”無理はしないように”、けれど”真剣に”選ぶつもりで。
「――流石の私もそこまでアレじゃないからね?…とはいえビキニとかは抵抗があるなぁ。
いや、睡蓮だけに見られるならまぁいいけどさ……とと、分かったってば」
彼女に急かされるように試着室に移動すれば、スキニーパンツだけをまずは試着していく訳で。
特にポーズとかは取る必要が無いので、そのまま睡蓮に見て貰うが…。
何か嫉妬的な空気を感じるのは気のせいだろうか?流石に体型はしょうがないと思うんだ。
と、最後の青いスキニーを試着してカーテンを開けば…睡蓮が居ない?いや、丁度戻ってきた。
そこから、今度はタンクトップやTシャツ…派手すぎない無難なものを合わせていこうとして。
「――赤いもの?まぁ、赤は好きだけど…って」
いつの間にかスニーカーが用意されていた。赤いヤツ。彼女の行動の迅速さに目を丸くする。
が、そうしていてもしょうがないので、一先ず黒と青に色は絞ってベージュは睡蓮に渡して元の場所に戻して貰おう。
で、タンクトップをまずは試着してから黒と青のスキニー、そして赤いスニーカーを合わせて睡蓮に改めてみせていく。
元々、胸のサイズはそこそこあるし身長は170超えと高めだ。すらりとした衣装はお手の物、である。彼女に自覚は無いが。
■群千鳥 睡蓮 > 「……いや、実際似合ってるんじゃない……?」
赤い靴。ちょっと冒険したかな、と思うが、存外。
真顔でじーっと見つめながら、審美。
基本、なに着せても似合うタイプなのだろうと思うが。
「……やっぱり、赤は欲しいかな」
あの時、みつめた瞳――その奥にあった色。
「タンクにさっきのジャケットでもー……そのまんまでも。
こっちのグレーのカットソー合わせてもいいな……でかいやつ。
――うん、ここらへん買おっか。 あんまりきせかえショーしたら怒られそうだし」
"遊び"始めると、彼女は気づくだろうから。
機嫌は損ねない。彼女なりに真剣に考えてくれてると思うから。
ちょいちょい、と背後の鏡を指差して、装い新たになった姿を示す。
さっきのも良い。スーツも良い。これも良いのだ。スマートなシルエットがより際立つ。
「"かわいい"よりは"かっこいい"っていわれたいでしょーに」
無論激写しておく。スマホをひらひらと動かして。
「"かっこいい"よ。華奈さんは――ここらへん買おっか。
あ、お願いします、いま着てるヤツはここで」
店員さんに、華奈が試着したものの決済を頼みながら。
結構な値段にはなるが――まあいいだろう。こちらは今羽振りが良い。
「水着とか、あとなんか上着――薄いカーディガンでも買おうかと思ってたから。
それ見てもらおうかなと思ってたけど、そのまえに。
いいとこ見つけたんだ。付き合ってくれる?」
少し上機嫌になっていた。靴を見に行った時になにかを見つけたのだ。
■鞘師華奈 > 「――そうかい?まぁ、睡蓮の”目利き”は信頼しているけど」
信用、ではなく信頼だ。些細なようでこの違いは大きい。
彼女の目はよく分からないが色々と普通には見えない何かを見ていると思わせて。
それは気のせいかもしれないけれど、なんとなく思うのだ――。
――群千鳥睡蓮は、私には見えない何かを見ているのだと。
「……それって、やっぱり私は赤が似合うって事でいいのかな?」
赤の色はまぁ、自分でも気に入っているが同時に自身に関わる大事な色彩でもある。
――炎の色。未だ再燃したばかりでまだ弱いけれど。鞘師華奈は”炎”だから。
「――タンクトップにテーラードジャケット…もしくは、そっちのカットソーシャツ、か。
――うん、じゃあ会計を済ませようか…あと、睡蓮は信頼してるから別に怒らないってば」
と、言いつつもちょいと示されて後ろの姿見を見つめる。
――成るほど、こういう感じになるのか。スーツ姿以外は我ながら本当に新鮮だ。
――悪くない、と思えるのは自惚れではないだろう。友人が選んでくれたものだから。
「――まぁ、可愛い女子よりはかっこいい女子でありたいね…って、こらこら」
激写されてしまった事に気付くも苦笑いで済ませておく辺り、本気で咎める気は全く無い。
問題は、会計を済ませようとしたら支払いが全部友人だった事だ――いや、流石に自分で支払うつもりだったんだけど。
「睡蓮、流石に自分の衣服代くらいは自分で払うつもりだったんだけど――はい?」
どこか上機嫌の睡蓮の様子。何かを見つけたのだろう、というのはおぼろげに理解するけれど。
首を傾げつつも、一先ずは購入した衣類やスニーカーが入った紙袋を手に彼女に付いていこうかと。
■群千鳥 睡蓮 > 「まぁこの時期だと、メインにするにはちょーっと勇気要る色かなー」
似合う、というのは勿論肯定しておく。
鮮やかな赤も。燃え上がるような橙色も。
――あとはこう、小物から入っておけば。
黒ずくめに終始することもないだろうという布石だ。
それは胸に秘めておく。
「いーのいーの。華奈さんが選んでくれたヤツは華奈さんが奢ってくれれば。
……奢ってくれたら好きな水着も着ちゃうかな」
苦笑しつつ。そこには信頼がある。あんまりなものは――選ぶまい。
選ばないだろう。選ばないよな……?視線を向けた。
考えすぎるのはよくないことだとわかったので、まとめてくれた紙袋をお互い分散。
「大荷物だなー。映画とかはちょっと無理かも。
このあとなんか食べて帰ろっか――あ、こっちこっち」
今度は手を引かない。
歩いて向かうのは、小物類だ。勿論可愛らしい、なんてものはない。
牛やら何やら――"何か"の革だとか。
上機嫌に棚の合間を進み、手を伸ばす。
「これ」
くるくると指に引っ掛けて回したのは。
――レザーのチョーカーだ。
少し細身で、値も張るが、汗にも水にも強いらしい。
この時期ならなおのこと手入れは欠かせないが。
「どーかな、華奈さんに」
■鞘師華奈 > 「――ああ、いや。正直私は気に入れば周りの目は特に気にしないから、そこはいいんだけどね?」
実際、堂々と早着替えやらかしたりしているので嘘ではない。
ともあれ、彼女の審美眼は信頼しているから抵抗も疑問もさしてない。
ちなみに、小物あれこれの秘めた今後の布石は勿論気付いてはおらず。
「――そう言われるとイエス、としか言えなくなるんだけどね…。
――いや、睡蓮?別に際どいのは選ばないからね?ビキニくらいは着て欲しいけどさ」
露出過多というか痴女レベルのは勿論回避するが、ビキニくらいの露出はやっぱり見たいものである。
むしろ、こちらも色々我慢してビキニ着るから睡蓮にも着て貰いたい――着て貰おう。
ともあれ、想定より荷物が嵩んでしまった。後で睡蓮の服も買い込まないといけないが平気かな、と思いつつ。
「そうだね――食事を済ませて少しのんびりしてから帰るのがいいかも。
まぁ、またお互い時間が合えば来てもいいし。次への期待にもなるからね」
ともあれ、睡蓮の案内で訪れたのは小物のコーナーだ。
この辺りは小物といっても可愛らしいものではなく、もっと大人びた――というかレザー系のものばかり。
そして、睡蓮が手に取って指でくるくる回しているそれを見て目を丸くして。
「革製の――チョーカー?また、変り種を見つけたね…いや、珍しくは無いのかな?」
が、革製は値段が相応に高いのは女でも分かる。繁々とそれを眺めていたが。
「まぁ、私に似合うなら――正直、小物とかアクセサリーは苦手なんだけどね」
ただ、それだと一方的だ。こっちからもお返ししないとフェアじゃないだろう。
なので、ざっと視線を巡らせてからこちらも一つのチョーカーを手に取る。
レザー製だが色は黒。ただ、中央部分に金色の猫のワンポイントの飾りが付いており。
「――これなんか睡蓮に似合いそうな気がするんだけど。
折角だから、お互いにプレゼントって事でどうかな?」
■群千鳥 睡蓮 > 「……ふふ」
鈍感。あるいは、あえてなのか。
チョーカーを眺める様子に苦笑した。いつか、"じつは"を語る時が来るだろう。
「そーだね、じゃあ。
……『私はどうせ、一回死にかけてるから』とか。
無茶しそうなひとに首輪かけとく、ってコトで」
これも一幅の事実である。
ねえ?とチョーカーを引っ掛けた指で華奈を指差して悪戯っぽく笑った。
自分が"無理"をする局面が来るなら、華奈が無茶をした時がまずひとつ。
「――お。 先輩らしくなってきましたね。
にゃんこじゃん。……あたし、猫? ――まあ、」
"鳥"よりは、はるかにマシ。
こちらもチョーカーを覗き込みながら、そう考えると。
それじゃあ、と軽く上をむいて、首筋を指でとんとん、と。
「それ、つけてよ」
白い首筋。彼女に捧げるように。
■鞘師華奈 > 実際の所”その意味”に気付いているかは女の態度からは分かり辛いだろう。
気付いてはいないかもしれないし、気付きながら惚けているのかもしれない。
「――おや、睡蓮が私の”飼い主”かい?
まぁ、そうだね――戒めとして受け取らせて貰おうかな」
戒め。無茶をしないように――とはいえ、ごく自然に無茶をしそうな困った女だが。
だが、そのチョーカーはきっと…意味のある物になるだろう。それだけは間違いなくて。
「…睡蓮はほら、猫みたいに気まぐれな所がちらほら見えるしさ。
あと、金色なのは睡蓮の目の色からね。…私は睡蓮の目が好きなんだよ」
だから、その二つを合わせて金色の猫のアクセントがついたチョーカーをチョイスした。
正直、こういう選ぶセンスは全く無いのだが。それは”猫”というよりもっと野生的でしなやかな…”山猫”であったけれど。
「――いいのかい?じゃあ…お言葉に甘えて」
白い首筋を晒して、とんとんと指で叩く睡蓮に頷いて。
黒いレザーチョーカーを改めて手に持てば、そっと両手で彼女の首へとチョーカーを嵌めていくだろう。
慣れていないので若干手つきがぎこちないが、それでもしっかりと彼女の首にチョーカーを付けてから手を引っ込めて。
「―――うん、よく似合ってるかも」
少し、背徳的というかぞくり、としたものを感じるのは自分だけだろうか?
そういう性癖でもあったのかな、と自分に呆れながらも今度はこちらが首筋を晒して。
「――じゃあ、次は睡蓮が私に付けてほしいかな」
■群千鳥 睡蓮 > 「――美しいものを」
少しだけ。
嬉しそうに眼を細めてから、瞬かせた。
「視るために、この瞳は在るんだ」
在ってみせる、と静かに告げてから、
「ありがとう」
微笑んで。
かちりと金属音がする。後ろ手にあげていた髪を下ろす。
サイズはピッタリだ。首とチョーカーの間に指を通してみる。
窮屈さも感じない。そうしていると、視線を彼女のほうに向けて。
「あたしの場合はなんか……"売約済み"って感じしない?コレ」
照れくさいな、と少し顔を赤くして苦笑しつつ。
「はーい、はい、おかえしします……なんかいま変なこと考えなかった?
気のせいならいいんだけどさ――よっと」
荷物を降ろし両腕を回す。お互いタグはついたままだ。お会計してもらわなきゃ。
両腕を伸ばし、金具を手繰る。指先は綺麗なようだ。
外そうと思えばたやすく外せる戒めを、こちらもまた音を立てて。
「頸も細いよね、華奈は―――……はい、できた……うん、いいね」
一歩、二歩引いて見てみる。そしてうん、と頷いた。
お互いブラックレザーだ。こっちもなんかあしらったやつつけてあげればよかったな。
「気まぐれに裏切ったりは、しないよ――だいじょうぶ。
飼い主なんて柄じゃないけど、華奈がうっかりしないように、ってお守り。
なんかやらかしそうな時は、触って思い出してよ――お会計っ、おねがいしまーすッ」
振り仰いで店員さんを呼んだ。――変な目で見られやしないだろうか。
■鞘師華奈 > 「――じゃあ、もっと…沢山の”美しいもの”を君の目は見ないと、ね」
この島は、この世界は美しいものばかりでは勿論無いけれど。
それでも、君のその黄金の双眸が――美しいものを見続けられるように。
静かに告げられるその言葉に、ああ――きっと、それが彼女の物語なのかなぁ、とぼんやりと思いながら。
「どういたしまして――って、いきなり凄い事を言うね君は…。
じゃあ、そういう事にしておこう。睡蓮は私が”売約済みに”しましたってね」
冗談めかして笑う。全く、少しどきり、としてしまった。この友人はするりと大胆な事を言ったりする。
どっちがどっちに翻弄されているのか分かったものではない。いや、…お互い様、か。
「変な事?――強いて言うなら、お互いしっかり”戒め”が効くといいなぁってね」
我ながら何を言っているのやら。容易く千切れる儚いソレ。でもだからこそ固く強靭なもの。
彼女の白い指先をふと眺めつつも、こちらよりもスムーズに彼女がこちらの首に黒いレザーチョーカーを付ける。
アクセサリーの類はほぼ付けて来なかった為、慣れないのもあり軽くて指でチョーカーに触れつつ。
「――似合ってるならいいんだけどね。うん、お互いこれは中々目を引くね」
睡蓮のチョーカーを改めて眺めつつ。しかし、まさか自分がこうしてアクセサリーを付ける日が来るとは。
戒め、お守り、そして――…。
ともあれ、睡蓮が店員さんを呼んでくれたので、そのまま会計を済ませてしまおうか。
勿論、流石に今回はお金は支払った。睡蓮に贈った分を。タグはその後に外すとしよう。
ちなみに、店員さんから何と言うか、生暖かい視線を送られたがあれはどういう意味なんだろう?
■群千鳥 睡蓮 > 「……じっさい、声かけられた時の断る文句に断ってたんだぁ。
そういうことなら有り難いなー、ってさ」
ぐいっと伸びをして、売約済みの印があればー、なんて主張してみる。
相手の反応を見て少しやらかしたかな、と思って誤魔化してはみた。今更だが。
会計が済んでいよいよタグが外されれば意味を持ってしまった戒めに。
適当な鏡を見て具合を確かめる。
「――……うん」
売約済みの札がついた。
こんなやつでいいのかな、とはおもうのだが。
未だお互い知らないことだらけ。
いつか自分の過去も弱さも打ち明ける時がくるのかな。
――なんだかんだ受け止めてくれそう、なんて期待を持ってることに、
少しだけ自嘲気味に、溜息。
「似合ってるって。 そりゃ"飼い主"は評価が甘くなりますけど。
ちゃんと視えてるよ――だいじょうぶ」
そっと自分の顔を手のひらで覆い、細指の隙間からじーっと観察。
似合っている。そして脚が細い。あとは――やはりどっかで無茶しそう。
「――あ、水着3階だって。あたしの上着見たら行こ行こ。
どんなものでも甘んじますとも、そもそもあの時付き合ってもらったお礼もしてないし。
そのぶん、ふたりで泳げそうなトコ。華奈には探してもらうから――あれ」
そうして通路の交差に出て、案内板を指差しつつ。
楽しい買い物はもう少し。そうして食事でデートは締めくくられる。
筈のところで、ふと立ち止まり、きょろきょろと周囲を伺った。
■鞘師華奈 > 「――睡蓮、結構ナンパとかされてそうだしねぇ」
緩い苦笑を浮かべて。まぁ、そういうナンパ避けになるなら少しは貢献出来るだろうか。
会計を済ませて、タグを外して、彼女と同じくこちらも鏡で首もとのチョーカーを確かめる。
これで無茶はそうそう出来ない――けど、自分はやってしまうのだろうなぁ、という確信もある。
ただ、このチョーカーは普段から身に付けることにしよう。唯一のアクセサリーとして。
――睡蓮も何かを抱え、背負っている事は分かる。彼女がそれを打ち明けてくれる時は来るだろうか?
――もし、その時が来たら。自分は受け止めようと思う。何故?――”私がそうしたいと思った”からだ。
溜息を零す睡蓮をじっと見つめつつ、一度だけ何も言わずに睡蓮の頭を軽く撫でてみようと。
「――まぁ、甘いのはお互い様なんじゃないかな。…うん、ちゃんと”視えてる”ならそれでいいさ」
こちらを”観察”する黄金の視線を、静かに真紅の視線で見返して。うん、彼女の瞳はやっぱり好きだ。
「了解。確かさっき上着とかカーディガンとか言ってたっけ?
まぁ、普通にビキニくらいは着て貰おうかなぁ、と。私も着る事になるけどさ…。
――ああ、そっちは私がリサーチしておく……ん?どうしたんだい睡蓮?」
ふと、いきなり立ち止まって周囲を見渡し始める睡蓮に女は不思議そうに同じく足を止めて問い掛ける。
■群千鳥 睡蓮 > 「……………………」
撫でられた。
視線の高さはほとんど同じだ。じっと見つめる。
「………………逆じゃない? そうでもないか」
どっちが飼い主なんだ、と不機嫌にならずに苦笑した。
何かを見透かされたらしい。ことは、素直に認めておく。
こっちもお互い様だ。"そのとき"は、すきにやらせてもらうから。
「――ああ、ね。 そこ、なんか」
問われたものは。
通路の交差点。壁。いま通り過ぎようとしたところ。
片手でぺたぺたと触る。案内板があったり、ポスターが貼られていたり。
なんの変哲もないところを怪訝に見つめたりするけれども。
「道が、あったような――気のせい、かな……気のせいだ」
そもそも交差点、この壁に道があったところで、どこに繋がっているのか。
眼を軽くこすって、ちゃんと寝たんだけどな、と肩竦めた。
空調はよく効いてて、蜃気楼ってわけでもなさそうだけど。
「隠し売り場、なんてのがあったりしてねー」
戯けるようにした。
不思議はいっぱいある。いま観ていたいものがそれではないというだけだ。
脚を進めた。きょうはきっと、まだ楽しい時間。
「ごめんごめん、へんなこと言って。
最近怪談とか流行ってるらしいじゃん?夜に灯篭流したら誰かに会えるー、とかさ。
それの流れで――水着見たらさー。あれ食べたい!
ハンバーグ。じゅーってやつ。鉄板の!
寮じゃ鉄はねー、ハネるし片付けめんどいしー」
行こー!と再び先導して、昔とあまり仕組みが変わっていないエスカレーターのほうへ。
猫のチャームが歩のたびに揺れる。お気に入りだ。
――あっさり大変なことをしてしまった気が、寮に帰ってからじわじわ効いてきたのだが、
良い一日だったことは、間違いなかった。
■鞘師華奈 > 睡蓮の頭は撫で心地がいいなぁ、とぼんやりそんな事を思う。あまり撫ですぎてもアレなので、程々で手を引っ込めつつ。
「――逆とかそういうのじゃないよ。私たちは対等の友人同士。つまり”お互い様”だよ」
そんな言葉を返してフッと笑みを見せる。見透かしたとしても今はそれも些細な事だ。
”その時”が来たのならば、彼女は彼女の思うままに、私は私が思うままに振舞うのみ。
「――んん?」
睡蓮の言葉と共に、交差点の辺り――今しがた通り過ぎよようとした一角を見やる。
生憎とこちらは気が付かなかったが、睡蓮が壁やポスターをぺたぺた触るのを見守りつつ。
「隠し売り場、かぁ。そういうのが合っても案外おかしくはないけれど、ね」
結局、気のせいという感じで改めて睡蓮と共に再び歩き出そうと。
そう、またデートの時間は続いている。最後まで楽しくきっちりやりたいもの。
「怪談か――そういえば、常世渋谷は色々と噂もあるみたいだし、案外本当に何かあるのかもね。
…って、あー鉄板ハンバーグの事かな?じゃあ、それにしようか」
そうして、再び彼女に先導されて改めて歩き出そうと。
その後は、彼女の衣類を買ったり水着を選んだり――そして、鉄板ハンバーグを平らげたり、と楽しい時間をすごしただろう。
帰宅後、チョーカーに触れながら「もしかしてお互いとんでもなく大胆な事をしたのでは?」と、悶えそうになったのは別の話で。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から鞘師華奈さんが去りました。