2020/08/07 のログ
ご案内:「常世渋谷 常夜街」に御堂京一さんが現れました。
御堂京一 > 雑居ビルが立ち並ぶ常夜街。
その空中を一人の影が走っていた。
一瞬青い光のレールが空に刻まれ、影が触れた瞬間に打ち出されたかのように加速する。

「あーあー、馬鹿やったもんだなあ……」
眼下に見えるのは狭い路地を必死に走る原付きに乗った男。
ここ数日下見っぽいのが居るから盗ませた上でとっちめてくれと依頼があり張っていた対象だ。

計画段階からバレている。言い訳が出来ないように実行させてから捕まえろ。完全に詰みというやつだ。
俺が失敗しなければ。

御堂京一 > 流石に走って原付きに追い付く自信は……と考えるとやってみるかという気になりそうなので飲み込む。
仕事は確実性が大事。
ともかく土地勘は自分の方が上らしく対象が無駄なコース取りをする中直線距離で空を駆けていく。

ビルの屋上を一歩で蹴りつけ跳躍、空中で敷いたレールに足を乗せ打ち出させるように加速。
自身がレールトレーサーと名付けた能力は単純、加速だ。
流体の特性を付与できるプラーナを空中に展開、一見するとただの光のラインだがその実高速で流れており上に乗ったモノを流れにそって打ち出す。
加速の概念付与系でもなければ足場でもないそれは身体でしっかりと力を受け止めなければ信じられない勢いですっころぶ。
練習中何度もコントのような吹き飛び方をした過去を思い返し思わず笑みをこぼして。

「よし……追いついた」
こっちを撒いたとでも思ったのだろう、ミラーを睨みながら速度を落とした原付きの真上に飛び出し。

御堂京一 > 空中に刻むラインを緩やかにカーブさせ相手の移動先へと降下する軌道をとる。
深呼吸を一つ、呼吸により取り込まれたプラーナを練りこみ全身に行き渡らせると夜の闇の中にぼんやりと青い燐光が身体を包みこむ。
逃走中の男も気がついたようだがもう遅い。

腕にプラーナを……師匠のジジイいわく剄を螺旋に通し

御堂京一 > 「泰山詠天拳 破段の七 止水爆華」
御堂京一 > ドン!と衝撃が地面へと打ち込まれ、波紋状に広がりボロボロのアスファルトを波打たせる。
下から突き上げるような衝撃に原付きは浮き上がり、それを制御する腕も無ければ冷静に対処する胆力も持たなかった逃走犯は無防備な姿を晒し。

「ほい、終わりっと」
しなる回し蹴りを腹に叩きこみ、原付きから無理矢理に降ろしてやりそのまま優しく壁に叩き付けてやる。
思い切りズドンと音がしたがじゃぎじゃぎの地面で擦り下ろされるよりかはよっぽどいいだろう。
投げ出された手に持っていた皮袋を手にして確保完了。
中を確認すれば店主に教えられたとおり宝石のあしらわれた護符がちゃんと入っていた。
なるほどこりゃ目が眩むわ。

御堂京一 > 騒ぎを聞きつけたのだろう、にわかに騒がしい声がこちらに向かってくる。
まじない師の店主が根回ししてくれているはずだが絡まれては面倒くさい。
雑居ビルの壁にレールを敷くとそこに足を引っ掛け真上に打ち出されその場を離脱する。
二度三度と繰り返し夜の散歩を楽しめばもう自分を追う者は居ないだろう。

頭二つ分ほど高いビルの屋上にたどり着くとそのまま屋上の端っこに腰を降ろし、一息つく。
依頼の品はもう少し落ち着いてから返しに行けばいいだろう。

御堂京一 > ライターを取り出しキンっと音を立て蓋を跳ね開けると咥えたタバコに火をつける。
辺りに漂うのはニコチンのそれではなく濃い紅茶のような香り、ウィッチクラフトにより作られたハーブを紙巻にしたものだ。
排気ガスをいくらか吸い込んだせいか肺が僅かにチリチリとするが浄化されている証、慣れたものだとしばらく煙を夜風に溶かし続ける。

今日仕留めた場所はこの街でも比較的浅い場所、とっ捕まえに来た連中もまあまあ優しい方だろう。
盗みを犯した彼もちょっと社会勉強代わりに酷使された上で最終的に茶封筒に入った給料を渡され怖いお兄さんに頑張ったなと労われる。
ちょうきょ……更生完了である。

御堂京一 > この街は歓楽街ほど管理されていないが、落第街のように無法が法というような世界でもない。
だから半端者が多い、今日の男も自分の異能を悪事に使いちょっと美味しい目を見たかっただけだろう。
とはいえこの街にもそれなりの秩序はありそういう連中はあまり長続きしない。
長続きするような奴はもっと落第街に近い黒い区画に行くだろう。

「ま、人のこたぁ言えねえか」
学費を払い小賢しく単位を稼ぎながら卒業しなくていいように立ち回る小悪党。
客観的に見れば自分もそういったものだろう。
今日手に入る報酬も非合法に他人を蹴っ飛ばしていただく金だ。

どこにも属したくないからと棲みついた境界線の街。
昔から足を運び土地には慣れている、顔馴染みも多く世話になっている人も居る。
それでもまだ、自分はここに根を降ろしたという感覚も無い。

御堂京一 > 「……ん?」

ふと、声を漏らす。
何か今違和感があったような……。
甘い香りのする煙を肺一杯に吸い込み、渦巻く力を目に集め瞳に青い燐光を灯す。

そこから見えるのは見慣れた、雑多で賑やかな街の灯り。
夜など知らぬと言わんばかりに色とりどりの光で夜の闇を押しのけ。
そんな街並に一瞬、影がかぶさってみえた。
のっぺりと色の抜けた影法師の街が。

「裏……って奴か」
噂には聞いていた。
見たと言うやつも知っている。
神隠し系の怪異が大げさに伝わっていると思っていたが、今見えたのはその一端だろう。
それにしても規模がでかい、幽霊屋敷などといったものとは比べ物にならない。

曰く「新たな異能を授かる」曰く「願いが叶う」曰く「死者と再会できる」そして「恐ろしく危険」だとも。
好奇心が疼く。
かなえたい願いなどない、掴みとりたい渇望などない。
ただなんとなく、惹かれた。
そういう感覚は大事だぜ?と自分に教えてくれた顔が一瞬ちらつく。

御堂京一 > 「……探してみるか」

そこに行けば何かが手に入るなどという甘い事は考えてはいない。
けれど少なくとも、何か今までとは違う何かとは出会えるだろう。

ピンとタバコを指で弾くとひとまず今の仕事を終えようと立ち上がり、跳び去る。
投げ出されたタバコは一瞬輝くと空中で燃え尽き、灰だけが風の中に取り残された。

ご案内:「常世渋谷 常夜街」から御堂京一さんが去りました。