2020/08/12 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に修世 光奈さんが現れました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」にジェレミア・メアリーさんが現れました。
修世 光奈 > 中央街から黒街に繋がる路地。
そんな、中途半端な場所…特に死角となる場所で、じ、と息を潜める光奈が居た。

あの連絡を見て、相手がどう思うか、どう動いてくれるかまでは予想できないけれど。
もう能動的に呼ぶ手段は、あれくらいしか思いつかなかった。

「―――――――……」

待ち合わせは海の時にもしたけれど。
これほど緊張はしなかったように思う。

(これで来なかったら…、ま、その時は、その時。
…もう一度、会える可能性があるなら…なんでもしたいしね)

この路地ならまだ、"悪者"に眼を付けられることもないだろう。
だから、のんびりと。壁に凭れて、人を待つ。

ジェレミア・メアリー >  
急ぐ。急ぐから走る。
息を切らして、肩を喘がせ、走り続けた。
携帯端末にあのメッセージが届いてから、自然と足が動いた。
放っておけばよかったのに、突き放したのは自分の方なのに。
なのに、自然と足が動いた。走らせた。
彼女を放っておけないと、言ったんだ。
何て自分勝手な話だ。それにあんなの、ハッタリに決まってる。

「……ッ。」

────けど、本当だったらどうする?

自分の知る限り、ただの一般生徒である光奈が
渋谷の黒街なんて言ったらどうなるかわかったものじゃない。
そう、"不安"は人を突き動かす。

「……ハァ……ハァ……。」

足を止め、膝に手を置いて呼吸を整えた。
少年は冷静とは言い難かった。
なんたって、"とにかく走り続けた"のだ。
無我夢中に、それこそ咥えていた煙草を落としてしまったことを忘れる位には夢中だった。
学園配布の冷符があるとはいえ、すっかり全身汗まみれだ。
額の汗を拭い、路地の先を見据える。
その先に在るのは、黒街。

「ッ……ふぅ……光奈……!」

息を整え、立ち上がる。
未だにろくでなしを演じる鋭い眼光。
ホルスターに右手添え、"待ち人"の存在も気づかずに歩き出した。

修世 光奈 > その足音を聞いた時、二つ、感情が渦巻いた。
もちろん、人違いの可能性も十二分にあるけれど。
来てくれたのなら…嬉しさと、罪悪感が光奈の中で生まれる。

来てくれると思っていた。"正義"を掲げてしまった彼なら。
だから、利用した。その"正義"を。
私のためなら来てくれる、なんて思い上がりにも近い考えと共に。
ただ、やはり彼は…来てくれた。
眼がいいはずの彼が、少し隠れているだけの光奈に気づかないほど、必死に

(……来て、くれたんだ)

そう、思うものの。
ここで逃してしまっては、呼んだ意味もない。
そっと路地から体を出し…歩き出した彼の後ろから、声をかけよう。
もちろん、彼の呟きも聞こえている。

「…あれからだね、光奈、って呼ぶの。ジェレミア」

朧げな記憶ではあるが。
前回、去り際にそう言われたことはぼんやりと覚えていた。

「……まず、ごめん。…あのメッセージは、嘘。
ここなら、来てくれるかなって…もう一度、話したかったから」

まずは…頬を掻いてから、軽く頭を下げて謝罪を。
彼の正義を弄んだから、怒られて…もしかしたら逃げられても仕方ないけれど。
ただ、謝罪だけではなく…ぱ、と飛びつくようにその逞しい腕を取ろうと。

ここは、彼岸と此岸の間。
ここなら…夢遊病患者と日常に生きる者も、会えるだろうと。

「……ごめん。わがまま、だけど。…逃げないで」

ジェレミア・メアリー >  
少年の気は張りつめていた。
多分、生涯で最も緊張していると言っても良い。
何がそこまで自分を駆り立てる。
そんなもの、わかっているはずだ。
黒街へと、一直線に駆け抜けようとした直後────。

「────!光奈ッ!」

声を張り上げて、振り返った。
彼女の姿を見て、先ず安堵したが
胸中は複雑な感情が入り混じる。
だって、突き放した。"別れを告げた"。
彼女と自分が、関わらない方が良い人種だ。
綯い交ぜあう感情の整理は付かず、帽子を目深に被って目を逸らした。

「……くだらねぇ、そんな用件で呼びやがったのか?」

煙草も無いのに、演じる。
煙草がない事にも、気づいていない。
冷静ではない、何を言っていいかも分からない。
非日常<ゆめ>と日常<げんじつ>の狭間の路地。
確かにそこに、取りつかれたような少年がいる。

「……もう、ケリはついたろ?
 大通りまでは送ってやる。黙ってついてこい。」

踵を返した。
だが、逃げる気配も動く気配も、ない。

修世 光奈 > 心臓が、早鐘のように鳴る。
ここで真っ直ぐ黒街に逃げられたら光奈にはどうしようもない。
けれど…

張り上げられた声に…相手が自分をどう思っているか。。
そんな小さなことに、嬉しくなってしまう。
彼は"突き放した"自分のことを、心配してくれているのだと。

「…くだらなくないよ。ジェレミアと、私のことでしょ」

く、と少し…力を入れて彼の腕を引く。

「それに…ケリなんてついてない。
本当についてたら、ジェレミアはここに来てない。違う?」

自分を盾にする。
ここまで追って来てくれる相手なら…それで止まってくれるだろうと。
卑怯だと思う。とても、ズルいと思う。
けれど、それくらいしないと…気持ちを伝えるなんてできない。
よくよく見れば…光奈が軽くメイク…気合を入れるためのそれをしていることも、わかるか。
眼を合わせられれば、だが。

「話、しよ。私が満足しないと…ここから動いてあげないから。
ジェレミアが勝手に帰ったら…本当に、行くからね」

どこに、とは言うまでもないだろう。

「……あの時は、落ち着いて話せなかったから。
ほら、も・た・れ・て!」

今いるのはただの裏路地だ。
赤色は、どこにもない。
だから、光奈もいつもの調子で…壁に凭れて、横並びの状態で話そうとぐいぐい、少年の腕を引っ張る

ジェレミア・メアリー >  
今更、何の権利があるんだ。
彼女にも、自分にも。
終わった話を蒸し返す事に成るだけだ。

「……そもそも、誰だい?ソイツは。俺は……。」

そこまで言って、気が付いた。
口元の違和感。執行者としての
"キッド"としてのトレードマークが何処にもない。
思わず目を丸くし、慌てて煙草を取り出そうとした腕が
光奈の細腕に捕まった。
鍛えあげた丸太のように太い腕。
人種差を考えても、16歳には太すぎる腕だ。
だからこそ、振りほどくのは簡単だった。
簡単な、はずだった。

「…………。」

"それ"を言われると、弱い。
落ち着かない状況だったのは確かだ。
一方的だったのは間違いない。
相変わらず、目を合わせようとはしない。
だが、観念したかのように溜息を吐いた。

「……それ、脅迫ですよ?光奈先輩……。」

抑揚のない"少年"の声が、呆れたように答えた。
それこそ、本当に放っておくなら勝手に帰ればいいし
彼女がどうなろうと、知った事じゃない。
こんな場所に来るはずないのは、自分が良く分かっている。
奥歯を噛み締め、言われるままに壁へともたれかかって、横並び。

「……今更、こんな呼び出し方して、何を話すんですか?
 此の前分かったばかりじゃないですか、僕の"本性"は。
 ……放っておいてくれませんか?光奈先輩。」

抑揚も感情も消して、冷たい声音でとにかく突き放そうとする。
徹底して、視線は合わせない。
"光奈を見ようとはしない"。

修世 光奈 > タバコのことは、気が付いてはいた。
だから、キッド、と呼ばず…ずっとジェレミアと呼んでいた。
それに、遅れて気づいたらしい彼にくす、と笑って。
振り解かれないことも、利用する。
何でも使って、とりあえずは…話をしようとする。

「うん。脅迫。先輩は時に、後輩に対しては横暴になるものだよ?」

知らない?と努めて、明るく大仰に言って。
横並びになれば…じぃ、と横から彼を見上げる。
やっぱり、大きいし筋肉もすごいし…普通なら怖いと思う。
けれど…今、そんな彼が横に居るのが嬉しかった。

「何を…って、それはジェレミアの事だよ。
可愛い後輩が悩んでるのに…放っておけ、ってさ。……そんなの、できないよ」

中央街からは、騒がしい明るい音が。
黒街の方からは、淀んだ空気が流れ込み、交じり合っていく。

「言ったよね。ジェレミア。…私の記憶違いなら、ごめんだけど…
――――――許されない、戻れないって。それで、私の必死に出した言葉、聞くだけ聞いてどこか行ったよね?」

端的に、わざと掘り起こす。
本性もわかっていて尚、言いたいことがあるのだと。
今は見てくれないだろうが、わざとらしく頬を膨らませて、言う。

「先輩とはこれまで、とか言われて。寂しかった。だから、会いたかった。これが一番大きな気持ち。
次は―――」

「やっぱり、心配だったから。
…また、……その、殺し、て。……ジェレミアが、傷ついてないかな、って。
……死のうと、してないかな、って」

それほど、切羽詰まっているように見えたから。まずは会えてよかった、と。
表情を戻して、優しく。
タバコが無い事で…制限時間もあるかもしれないから、お互いに話ができるうちに伝えたいことを伝える。

「その上で、言うよ。……私の考えは、やっぱり変わらない。
……ジェレミアと…もっと色々…買い物とかさ、この前みたいに海とか、プールとか
…そんなところに行って遊んだりしながら。…また、"キッド"が殺し、たら。…違うよ、殺すのは、だめだよって言い続けたい」

それは、言葉の焼き直し。
あれだけ彼が拒絶しても、諦めないという意思表示。
その気持ちは、変わらない。それは、光奈の、わがままだ。
ジェレミアの事情を知りながら、押し通そうとする、言葉。

「キミを、支え続けたい。……だめ?……目を見て、返事、聞かせてほしいな」

くい、と袖を引っ張って。
まだ少し、こうして会いながら…光奈も、気持ちを整理している中での、素直な言葉を繰り返す。

ジェレミア・メアリー >  
「…………。」

今、確実に笑われたな。
そんな感じがする。
見てなくても何となくわかる。
彼女の事は、よく見て来たから。
だから、意識せずとも"安心"してしまう。
その腕にくっつく彼女の体温に。

「光奈先輩がそう言う人だとは、思わなかったな……。」

だから、何処までも"言葉"で突き放そうとする。
彼女との"会話"に付き合ってしまう。
早く、帰ってしまえばいいのに。
……それが出来ないのは、多分彼女も自分も、わかってるから。
目深に被ったままの帽子の奥。碧眼はずっと地面を見下ろしたままだ。

「…………。」

何気なく、自分の手のひらに手を落とした。
手袋のつけられた手。醜い手を隠すためのもの。
脱臼と骨折を繰り返して歪んだそれは、少年の手ではない。

「……"だから、何なんですか"?
 もう一度会いたいからって、遊びたいからって
 それって、ただの我儘じゃないですか。僕は、関係ない……。」

歪な拳を握りしめ、声を絞り上げた。

「……光奈先輩と"別れた"後、風紀委員の慰安会があったんですよ。
 温泉って。気まぐれだった。キッド<ぼく>は、周りの……
 まぁ、ある先輩はあまり興味なかったし、……いや、そうじゃないな……。」

軽く首を振って、肩を竦めた。

「"あてられたん"ですよ。光奈先輩に。
 キッド<ぼく>にはもう、日常なんてオマケみたいなもので
 犯罪者を裁くキッド<ぼく>が本来の自分のつもりだった。」

「……けど、"楽しかった"んですよ。光奈先輩といるの。
 本当に他愛ない事でしたけど、楽しかった。だから……
 あんな事しておいてって言うかもしれないけど、気まぐれで足を運んだ。」

今でも脳裏に、あの光景が蘇る。
それを振り払うように、首を振った。

「……"馴染めなかった"。」

嫌悪感を、吐き捨てた。

「風紀委員なのに、犯罪者を人間と同等に扱って、和気藹々する彼等がわからなかった。
 同じように過激派と謳われていた委員の人が、当たり前のように日常を謳歌している。」

「……『風紀』が、わからなくなった。僕の事が、正しいとは思っちゃいない。」

「その後で、先生にもキッド<ぼく>が間違ってるみたいなことを、言われたんです。
 ……きっと、完全には否定してないだろうけど、先生の言う事が、正しい……。」

思いの内を、つらつらと無機質に述べた。
初めからそれらと"適当"に付き合う為の仮面だったのに
最近じゃ、すっかりはがれやすいや。
ああ、そう。あんな"眩しい"光に出会ったら
"影"なんて簡単にくすんでしまうんだ。
単純な、話だ。もう、煙に巻くものさえない。
力なく、己を嘲笑った。逞しい体にはあり得ない程
まるで、糸が切れた人形のように壁にもたれて
地面へと崩れるように、座り込んだ。

「……けど、『間違ってるなら、初めから』だ。
 わかってますよ……きっと、皆のが正しい。
 わかってるからこそ、キッド<ぼく>と言う憎まれ役のつもりだったのに……。」

「……ジェレミア<ぼく>が、『日常』に憧れてしまった。『殺人者』の、僕が……。」

咎人には許されない、日の光。
憧れて、しまったんだ。
そんなものにまで憧れてしまったら
この夢<キッド>から覚めてしまう。
それは、赦されない。
"ろくでなしのクソガキ"であるからこそ
咎人は、此の学園に居る事を許されるはずなんだ。

キッドが初めて、光奈を見た。
キャップの奥から見上げる、濁った碧眼。

「……正直、"死のう"としましたよ。
 味気ない、拳銃自殺。けど、出来なかった。
 馬鹿ですよね、憧れの先輩に預けたせいで、出来なかった。」

「いい、笑い話だ……。」

幕引きさえ引けない、覚めない悪夢<ユメ>。
死ぬまで解けない夢幻の旅路。
嗚呼、でも、そうだな。やっぱり、そう
この悪夢に差し込む『光』は……。

「──────綺麗ですよね、やっぱり。」

あの海の思い出から、初めて会った時から、ずっとそう思ってた。

修世 光奈 > もう、わかっている。
"キッド"を演じる間も、そうでなくても、彼は…酷く臆病なのだと
そう考えれば、拒絶の言葉も…殴られたら死んでしまいそうな太い体も。
怖くは、無い。

「――――――……関係なく………、」

ないよ、と言いかけた所に彼が話し始めたから。
口を噤んで、話を聞く。
風紀委員に張り出されていたお知らせ。
それは、目にしたから。
むしろ…それに参加してくれたことを、光奈は嬉しく思ったが。
その"日常"は、彼にとって…彼を更に追い詰めるものだったのだろう。

彼が床に座り込めば、自然…光奈は見下ろす形になり。
話が終わるまでは、そのまま。

自殺しようとした、というところでは息を呑んだが。
すぐに…出来なかった、と聞けば…目の前にいるとわかっていてもほ、と息を吐く。
…その先輩には、お礼を言わないと、と。少し思考を逸らしたのも、束の間。

「………もう………」

話が終わり。碧眼に見つめられて。
少年の目に映るのは、少し着飾った、先輩だ。

ただ…脈絡なく…綺麗だ、と言われれば。今度は光奈がぷい、と目を逸らし。
少し、眼を閉じてから…再び、見下ろす。

(覚悟、決まったよ、キリちゃん)


気持ちが溢れそうなのは、光奈も一緒だから。


そして、唐突に。
妙に堂の入ったファイティングポーズを取り。
これもまた、妙にキレイなフォームで、右ストレートを繰り出す。
…ただ、力は全く入っていない。
見つめてくる彼のキャップ部分を何度か、小突く程度だ。

そして、満足気に胸を張る。

「…今、私は…"キッド"をぼこぼこにした!だから……しばらくは、起き上がってこない!
…弱ってたからね!少なくとも、私の前にはびくびくして出てこない!」

謎の宣言をした後、恥ずかしくなったのか。頬を掻いて。
これも、押し付けだ。…光奈が居る限りは…無理に、キッドにならなくていい、という再びのメッセージ。
受け取ってもらえるかは、わからないけれど。

「……で、えと。…笑わないよ。死ななくて、よかった。………ほんとに、よかった。
…殺人者でも私は、ジェレミアが、生きててくれて、良かった、自分を殺さなくて、よかった、って…そう、思うよ
後…いーい?これは、"キッド"を倒した先輩から。」

理由はどうあれ…死ななくてよかった、と繰り返す。
露骨に、綺麗だと言われたことから話を逸らしたかと思えば。
上から、ぎゅ、と少年の頭を抱いて

「………頑張ったよ、ジェレミアは。だから、もう。自分の事…殺人者なんて言わなくて、良い。
ジェレミア自身が、許せなくても…誰がダメだって言っても、私が…良いって、ずっと、言い続けるから。
風紀なんて、何が"正義"かなんて、私もわからないけどさ。一人よりは、いいでしょ。
日常になじめるようになるまで、…先輩が、面倒みるから」


「…また、キッドが出てきたら、必殺のストレートでまた沈めてあげる。何回でも。…怒りながら」

言うことは同じだ。
肯定し続けると共に、否定し続ける。
"影"が起ち上ってきても、また殴ってあげる、と。
"光"が照らし続けてあげる、と
それを、宣言してから、少しもじもじした後…。
ふ、と息を溜めて。彼の耳元に、口を寄せる。




「あ、あと、それと、ね……」



瞬間。
中央街で、何かのイベントか。
けたたましいファンファーレが鳴り―――


『                 』

修世 光奈 > 一時、彼ら以外に聞かれることを、阻害してから。



「……。…もう、ぜーったい離れてあげないから。
そもそも…あっち、こっち、なんて。
そんなの、私が危なかったら…キミが守ってくれればどっちでも一緒、でしょ?…もう全部、知ったからね。
…それでも、傍にいるよ、ジェレミア……、それで、いい?」

いくらジェレミアに関わったことによって…光奈も、もしも黒い世界に関わったとしても。
一緒なら、大丈夫でしょ?、と。少し、紅い顔で。
不安なのは、光奈も同じだ。
少し、顔を離して。聞いてみる。