2020/08/13 のログ
ジェレミア・メアリー >  
少年にとっての人生とは
掛け違ったままのボタンだ。
誰も、このボタンのかけ直し方を教えてくれなかった。
教えてくれるはずの両親は、自分自身が殺してしまった。
頼れる大人はいなかった。自分で生きるしかなかった。
ずっと、子どものままに、自分を"罰する"方法を考えていた。
鼻で笑われるような演技<キッド>も、全部その為に……。
そんな自分自身に、ついに疑問を持ち始めてしまった。
自分自身のみっともない幕引きを考えるのも仕方のない事だ。

……自分から、呪われたくせに。

そうだ。初めから"煙に巻かない"少年の言葉は、"甘え"だ。
16歳が取りこぼしてきた思春期の複雑な感情をずっとぶつけ来た。
本音のSOS。甘やかされたかった。『間違ってる』と言われたかった。
抜け落ちた思春期に差し掛かった光奈<ヒカリ>をきっかけに
多くの、色んな人間に甘えてしまった。
……こんなのは、自分<キッド>じゃない。
ああ、なんてみっともないんだ。
今まで、そんな風に生きて来たじゃないか。
今更、一回くらいつまづいたから何だって言うんだ。
こんな光奈<ヒカリ>はやっぱり、非日常<ユメ>にいらない。
過激派風紀委員。悪人を自らの法で裁くろくでなしのクソガキ。
もう、"それでいいじゃないか"。
諦めだと言われても、初めからそのつもりでいた。
ああ、そうだ。彼女と初めて会った時は上手く行ってたんだ。
何も、何も──────。


くすんだ碧眼が、瞬きもせずに光奈を見上げている。
少し、彼女には"喋りすぎた"。"何時も通りでいいじゃないか"。
俯き、胸ポケットから、煙草を取り出そうとした最中
ポケットの上から押し潰す様に押し付けられた、小さな拳。

「……えっ」

自分でも大層、間の抜けた声が出たのを自覚した。
思わず目を見開いて、見上げてしまった。
そして、明るい声音に更に表情が訝しげに強張る。

「い、いや、何を言って……そう言う冗談はやめてください……。」

そりゃもう困惑した。自分<キッド>をボコボコにした?
一体何を言っているんだ、この人は。
もしかして、此の前のは言い過ぎたのか?
ショックで頭おかしくなったんじゃないか、この人。
胸中、割と本気気味の心配をしていた最中

「わっ」

頭が抱きしめられた。
暖かな、人の香り。
優しい温もり。
自分<キッド>にはいらないもの。
だからすぐに、"それだけ"はと突飛ばそうとしたが……。

「───────……ッ。」


<頑張ったよ、ジェレミアは。>


そうだよ、頑張ってきたんだ。
自分なりにずっとずっと、"子どもの考える事"ってわかってても
ずっとそうやってきたんだ。したくもない人殺しを続けることでしか
もう自分を、"自分と他人を傷つけて生きていく"しか、ないじゃないか。
そんなの『間違ってる』に決まってる。だけど
殺人<マチガイ>を犯してしまったら、後戻りは──────……。

目頭が、熱くなった。
その言葉は一番──────。


「────利いたような事を────」

ありったけの感情をぶつけようとした最中、かき乱すファンファーレの音。

ジェレミア・メアリー > 「─────────……。」
ジェレミア・メアリー > 「……え、あ、あ……。」
ジェレミア・メアリー > 「なんでわざわざ初恋って言ったのまで覚えてるんですか!?」
ジェレミア・メアリー >  
そんな事を言われたせいで、思考が一気に乱れた。
文句を、ありったけの文句<あまえ>をぶつけるつもりだったのに
完全に出鼻をくじかれた。おまけに、自爆付き。
何だかもう、色々と羞恥心に塗りたくってしまった。
ばつの悪い表情が、赤く、ほんのり紅潮する。
もう突き飛ばす所の話ではない。高鳴る胸を、思わず自分の胸を押さえてしまった。
鼓動が早くなる。……あれ、そう言えば……。

「化粧……エッ……!?」

気づいて、しまった。
わざわざ、もっと"綺麗にしてきてる"。
それがどういう意味か分からない程、朴念仁な少年ではない。
彼女はきっと、"最初からそのつもりだったんだ"。

「~~~~~~~~ッ!!」

思考がまとまらない。
頭のなか、乱れっぱなしだ。
彼女の問いに関しても、まともに返答が出来ない。
少し離れた途端、直ぐに両手で顔を覆った。
こんなみっともない顔、見せれない。
見せれるはずも無い。
声にもならない声を上げて、"初恋相手"の前で悶絶する。

……いつものように、動悸が乱れる姿は見れない。
それも、そうだ。だってずっと、光奈に一番、甘えていた。
それはきっと、誤魔化すよりもずっと安心できる効果があった。

ジェレミア・メアリー > ──────"胸ポケットの煙草は、か弱い拳に箱ごと全部折れてしまった"。
修世 光奈 > 本当には、彼の痛みをわかってあげることなんてできない。
それを言うのは、傲慢だ。
けれど、少しくらい傲慢で、強引じゃないと…凝り固まったモノは解せない。
それは、大切な友人に教えてもらった事。

繰り返しだけで、納得してくれれば。
こんな気持ちをさらけ出すまでは、時間がかかったのだろうけど。
言いたい気持ちは、あったのだ。
…化粧は、武器だった。二重の意味で、気合を入れる為の。



だって。
カッコいい人に、優しくされて、カッコよく助けられて。
…危険なところを"魅"せられて
…それなのに…自分の前で、弱さを曝け出されて文句<あまえ>を言われて。

……普通の女の子は、そういうのに、弱いのだ。





「…覚えてるに、決まってるでしょ。あんなこと言われたら」

彼が大声を上げた時、ぱ、と離れた光奈は。
そっぽを向きながら…自分の短い髪をくるくると弄り始める。
意識は朦朧としていたけれど。
それでも、聞こえたのだ。
聞こえたからには…それを、蔑ろには出来ない。
それに………

「それに…そう、じゃなかったら。……こんなに構わない、し。…ふつー…」

ああ、顔が熱い。
今にも燃えてしまいそうだ。
逃げ出すつもり何てなかったのに、脚が勝手に逃げ出そうとしてしまう。
つい、憎まれ口のような語調になってしまう。
でも、聞くまでは。


「そ、それより。……ど、どーなの。ジェレミア。
………………私、で、いいの。…支えるの。キッドはもう、倒したから。
…ジェレミアの、言葉…聞かせてよ」

声が震え、顔が熱くなる。けれど、もやもやするのは性に合わない。
もう言質は取ったようなものだけれど。
ただ、聞きたいのだ。
ジェレミア自身の、言葉を。
しゃがんで、…ふわりと、甘い香水の香りを漂わせながら、聞いてみよう。

ジェレミア・メアリー >  
近い。
そりゃさっきまで抱きしめられてたんだから近いに決まってる。
顔が熱い。自分でもわかるぞ。
今、間違いなく真っ赤だ。そりゃもう、みっともない位。
思考を落ち着かせろ。落ち着け、落ち着け。
まずは彼女の言葉を────。

「……ッ!」

甘い匂いが、鼻腔を擽る。
普段の彼女はこんな匂いつけていたか?
付けていなかった気がする。いや、わからない。嗅いだことないし。
……女の人を嗅ぐって、それこそ変態じゃないか……?
いや、でも、ちょっとこの匂いエロ……僕は何を考えてるんだ……!?

自己嫌悪と羞恥で、落ち着けようとした思考がまた乱れた。
何を言おうが本来思春期を迎える頃合いの年頃。
"そこまで"人の心を捨てて居たら、"ジェレミア"事態そこにはいなかっただろう。

とにかく、返事をしなきゃいけない。
呼吸を一回、二回、三回……。
よし、落ち着いた。だけど、顔の熱は引かない。
多分、まだ赤いままだ。
気恥ずかしげに、色のついた碧眼が光奈を見上げる。

「……まぁ、そう、です、ね。わざわざ、"あんな"文章で呼び寄せたし……。」

そうとも、とれなくはない。
いや、自分の気持ちを知ってるからこそかもしれないが
とりあえず、彼女が言うからにはそうなんだろう。
おずおずとした、声音だ。
……自分の、"本音"は……。

「嬉しくない訳ないでしょう……。そりゃ、その、嬉しい、ですけど……。」

ばつが悪そうに、間を置いた。

「……両親だけじゃない。僕は、『犯罪者』と言うだけで、多くの人を撃った。
 殺した人もいます。……僕自身が迷ってるけど、"そう言う人間"です。
 ……"ジェレミア"がいれば、"キッド"もいる。……本音を言えば……」

「……"幸せに出来る自信がない"ですよ。僕自身、"幸せになるべき人間じゃない"から……。」

彼女を幸せにしてしまえば、自分もきっと幸せになってしまう。
そんな事、今までの自分<キッド>が許さない。
そう簡単に、許されてはいけない事をした。


だから、『さよなら』したんだ。

あの時、夢の入り口で、『初恋』に。


……けど、現実はうまくいかなくて、結局向こうから見つけられてしまった。
どうしてこうなったのか。頭を抱えながら、軽く首を振った。

修世 光奈 > これで、揺らいでくれているから。
自分には、それだけの価値があるのだと思える。
少しくらいは、食いこませてくれる、価値が。

確かに、いつもは香水を付けていない。
買い物の時も、海の時も、初めて会った時も。
だから、特別な気合を入れるためなのだと。
それからじっと答えを聞いて。

「……………ばーか」

…直接、言えた。
風紀委員前で虚空に放っていた言葉だ。
率直で、これ以上ない罵倒の後。
光奈も、ふ、と何度か浅い呼吸を繰り返して。

ああ、やっぱり。カッコいいなあ、なんて思いながら。

「私が幸せになるかどうか、をジェレミアが決めないでよ」

きっぱりと、そう言う。
そうして…でこぴんをかまそうと指を伸ばして、ぱちん、と。

「そんなの、ジェレミアでも、キッドでもわからないよ
もしかしたら明日、私は交通事故にあって死んじゃうかもしれない。
その時、私は不幸?…それも、ジェレミアが幸せにできなかったせい?…違う」

「きっとそうなっても、私は幸せだよ。だって、…ジェレミアが嬉しいって言ってくれたから
人を撃った、なんて今更。…もう、見てるし」

恥ずかしい、恥ずかしい。
滅茶苦茶恥ずかしい事を言っている。
後で自分の部屋で思い返したら、光奈愛用の枕はその役目を終えるだろう。

「…そ、それに。…す……………、すき、なんだから、さ。
……ジェレミアの、こと。
両想いに、なれたら、それは、……さいこーに、その時点で、幸せ、でしょ」

光奈は、普通だ。
恋に恋する乙女。愛なんてわかってない。

けれど、好きだと。
抱えている事情何て…相手に比べれば小さなものだろう。
それでも、好きな人と両想いになれる、なんて。
…学生の少女にとってはとっても、幸せな事だろう。


例え、自信がないなんて言っても、逃がしてあげない。
だってもう、既に…光奈の心の中は輝いているんだから。
この輝きを、感じてほしい。


「あああもう!だから、その、どうなの!はっきり、言ってよ…!」

真っ赤になりながら、光奈は声を上げる。
すっかり、重たい雰囲気は吹き飛んでいるか。
ただ。じぃ、と…光奈は、整理した感情をぶつけ。
返答を、待っている。

ジェレミア・メアリー >  
「…………。」

馬鹿。本当に馬鹿な事をしてると思う。
何もかも、そう。彼女の事も。
……そりゃぁ、だって、すっかり目が離せない。
『初恋』相手だもの。
目がいいから、本当にじっくり、一挙一動見える。
……光奈も恥ずかしいんだって、興奮してるんだって。
なんだかちょっと、意地らしい。

少しばかり目を逸らして、頬を掻いた。

「……そっか……。」

自分が決める事じゃないなら、何も言えない。
ほんの少しだけ、頬が緩んだ。
うん、落ち着いてきた。

「…………。」

しっかりと目を見た。
じっと見てくる光奈の目を、キャップの奥の碧眼が見ている。

「……正直な事を言うと、気持ちの整理は付けれてないよ。
 キッド<ぼく>の事も、風紀の事も、全部……。
 だからきっと、いっぱい"光奈"に甘えちゃうかもしれない、けど……。」

「……その、あー、そう言う面、というか。恋愛、あの……
 したことない、けど……えっと……、……。」

結局ちょっと落ち着かないから、格好がつかない。
それでも、はっきり、ハッキリと応えよう。
ジェレミアだって、恋に恋する位にはきっと恋愛が分からない。
それでも、この恋が"許される"なら……。

「……光奈以外、嫌だよ……傍に、いてほしいのは、こっ、こ……うな、だけ、だし……。」

結局恥ずかしくて、また顔を覆ってしまった。
……本当に、格好がつかない。けど、彼女の前なら、それ位いいかな……。

修世 光奈 > 恥ずかしくて体は揺れるし、顔は真っ赤なまま。
心臓はばくばく言っているし、言葉は…前とは違った意味で震えたまま。
それでも、伝えることはできた。
光奈なりの…普通なりの、覚悟と、想いを。

何も、解決はしていない。
過去が無くなるわけじゃない。
それでも、笑って、照らしてあげるくらいは…好きな人のために、してあげたい。

「……うん。甘えて、ジェレミア。…私も、そのー…色々、甘えるから、さ」

すっかり口に出すまま喋っていたから。
ふと、その碧眼を見て…真っ直ぐ答えを貰うと。
更に熱が増してくる。どうしよう、この空気。

「な、なんでそっちが…照れてるの…うぅー……っ」

言った。言ってしまったんだ。
そして彼も…それを受け入れてくれた。
光奈だって、顔を覆いたいが…負けた気がして、少し体を揺らすだけ。
格好つけなくたっていい。恰好悪いところも見て、好きだと思ったのだから。
けれど、ここぐらいは男らしさを見せてほしいと思うのは、やはり乙女心だった。

「……あーもう、喉乾いた!いこ。ジェレミア。……それとも…その、恋人らしく…、ジェー君、とかがいい?」

その熱さを、発散させるために。
中央街の方へと…その腕を取って、引っ張ろう。
途中、少し悪戯な笑みを浮かべながら。
お互い、恋愛は初めてだ。探り探り、色々やっていこう。
勿論、けんかしたりもするだろう。
けれど、それでも幸せだと。
…これからが、始まりだ。


―――悪夢を見ていた男の子を、まずは光の元へ連れ出していこう

ジェレミア・メアリー >  
「あ、はい……。」

凄いなんというかこう、間違いなくこの返事微妙だな。
多分違うな。いや、嬉しいのは間違いない。
ただ、"甘えられる"経験何てないから……。
それこそ、ずっと前見てた西部劇の主人公みたいなことを……
……いや、あれは多分間違いだな、やめておこう。
育ちのいいジェレミアは賢かった。

「いや、それは、…普通に照れるでしょ…。」

逆に照れないと思ったのか。
勘弁してくれ、寧ろそっちこそ年上だろ。
と、思ったが口には出さないでおく。
男らしさとは実は結構無縁のジェレミア。
何とも言えない表情のまま、引っ張られるように立ち上がる。

「え、あ、は、はい。……えっ、いや、えっと、光奈の好きな様に……。」

ジェー君はちょっとどうなんだろうと、思ったけど。
ジェレミアって、呼びづらいかなぁ。
そんなこんな、初めての恋人に引っ張られながら
彼氏の方は何とも情けない表情をしていたけど
彼女の明るい笑顔を見れば、自然とはにかんでしまった。


きっと、此れは転機だ。


ジェレミアとキッド。
役者と役。
僕の舞台の幕引きへ。


嗚呼───でも、こんなに暖かい光なら、少しだけ、眠りから覚めるのも悪くない。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」からジェレミア・メアリーさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から修世 光奈さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 底下通り」に織機 雪兎さんが現れました。
織機 雪兎 >  
「まままっまままてまてまてまってまって! 落ち着け、話せばわかる!!」

底下通りの一角で情けない声。
人通りの少ない通りで、二人の女子に詰め寄る如何にもな不良が三人。

「ぼぼぼぼ僕はアレだぞ、風紀委員だぞ! だからほら、乱暴はやめよう! 話し合おう!!」

足をがっくんがっくん残像が見えるほどに震わせながら、それでも女子の前に立って不良から守ろうとしている。
守れてる???
大丈夫????

「あの、なんだ、ほら――ウワーなんだやめろ手を伸ばすな横から!! せめて正面から伸ばやめろやめて伸ばさないで!! 手を出さないで!! 僕はともかくこの子にごめんやめて僕にもやめて!!」

とても情けない声。

織機 雪兎 >  
おかしい。
非番に常世渋谷に遊びに来ていたはずだった。
一人で。
そしたら道に迷っていつの間にかこんな怪しげなエリアに来てしまっていた。
戻ろうとしたら気弱そうな女子が不良――悪質なキャッチっぽい感じの三人に囲まれていたので、思わず飛び出して彼女の手を握って逃げたのだが。

「アァーッ!!女の子に触れないでくださいお客様やめてください触れないでいけませんお客様アァーッいけませんだめです触れないでお客さまアァーッ!!」

女の子の脚力では屈強な不良からは逃げられない。
あっという間に追いつかれ、こうして壁際に追い詰められてしまったのだ。
こちらの反応を面白がって次々伸ばされる手をもぐらたたきの様に撃ち落としていく。
自分一人なら財布でもなんでも渡して土下座でもなんでもしてさっさと解放してもらうのだが、後ろの彼女がいるのでそう言うわけにもいかない。
逃げ出したい気持ちを必死で抑え込みながら両手をぶんぶん振る。
おいやめろ笑うな。

ご案内:「常世渋谷 底下通り」に日下 葵さんが現れました。
日下 葵 > 夏休み。
学校がないため出歩く学生が増え、それに伴ってトラブルも増える時期。
警備を強化すると通達が来たものの、休暇を取る風紀委員も多い。
すると必然的に自分のシフトが増える。
そんなある日、見回りをしていれば聞き覚えのある声が聞こえた。

「そこ、君たち。
 野郎三人で女の子二人を囲んでどうしたんですか?
 もし人数合わせが必要なら私も混ぜていただきたいのですが」

悪質なキャッチに捕まっていた後輩と女子生徒、両者の間に割って入るように声をかける>

織機 雪兎 >  
声。
そちらを今にも泣きそうな顔で振り向く。

「ウワーまもまもせんぱいいいいいいいいいいいい!!!!!」

叫びながら女の子の手を引いてしゃばだばと駆け寄り、その後ろに隠れるように。

「お、おまえらー! あやまるならいまだぞ!! まもまも先輩は僕みたいなポンコツじゃないからな!! 容赦ないからな!!! ほんと謝るなら今だしマジで謝って!! 僕こんな街中の往来で吐くようなことになりたくない!!!」

頼りになる先輩の後ろで叫ぶ。
後半は割とガチのトーンだ。
この先輩がガチになるようなことがあったらマジで吐く自身がある。
今も思い出してちょっと吐きそう。

日下 葵 > 「あの、非番とは言えもう少しなんですか、
 威厳というものを持ってほしいというのが先輩としての願いなんですが……」

すかさず自身の後ろに隠れる後輩に、ちょっと呆れ気味にため息……
なんてことをしていると、不良三人がオラついて迫ってくる。

「まぁまぁ、そんなに怖い顔しないでください。
 そんなんだとくるお客さんも来なくなってしまいますよ?」

あくまで穏便に。
オフだったらちょっと過激なことをして遊ぼうかとも思うが、今は仕事中だ。>

織機 雪兎 >  
「無理です!!!!!!! だって僕ケンカ出来ないし丸腰だし!!!!!!」

泣き叫ぶ。
今まで守っていた女の子もドン引きの顔でこっちを見てくる。
だってしょうがないだろ、出来ないものは出来ない。

「いやマジでホント早く謝ってください! まもまも先輩には冗談きかない! 僕は絶望的な光景は見たくないです必死に逃げてもとんずらされて後ろからえげつない音聞きたくないです! はやくあやまっテ!!」

黄金の鉄の塊で出来たナニカみたいなことを必死で叫ぶ。
本当にこの通りがスプラッタなことになる前にマジで早く。
必死 オブ 必死。

不良 > 1「んだとォ?
 いいから後ろのチビは黙ってろ!」

2「何、ねぇちゃんうちの店来てくれんの?」

3「三人で来てくれるんだったらちょっとサービスして良いことしてやってもいいぜ?」

日下 葵 > 「雪兎さん、私をなんだと思っているんですか……」

背後から聞こえてくる言葉がもはや不良集団を心配する内容なのが納得いかない。
口々にしゃべる不良どもは総じて下世話か声が大きいか。
暖かくなって変な輩もわいてくるようになったのかと少し頭を抱える

「お店に行くのは遠慮願いたいですが、
 あなた方を病院か留置所にお送りすることはできますよ?」

このあおり言葉に激昂した不良の一人が私の胸倉をつかんだ。
まだ、まだこちらからは手を出さない>

織機 雪兎 >  
「あああああああああ!!!」

叫び、思わず彼女と不良の間に割って入る。
めっちゃ怖いが余計な流血沙汰は勘弁してほしい。

「や、やめよう! ね! やめよう!!! まもまも先輩も挑発するのやめよう!! すぐ暴力に訴えるのはよくない!! 平和がいちばん!!!」

めっっっっっっっっっちゃこわい。
怖いけどこの事態を放置した末に行きつくであろう未来の方がもっと怖い。
なので必死に不良たちと先輩の間に両手を広げて立ちふさがる。

不良 > 「このアマ、一回痛い目見ないとわかんねぇか?
 なぁ?アンタらがこうやって俺たちのことおちょくってる間にでた損失、
 お前が補填してくれんのか?アァッ!?」

「いーんでね?
 むしろこのねーちゃんに”補填”してもらおうやなぁ?」

「まぁ俺たちはネーちゃん”中に補填”する側だけどな!」

「「「ぎゃははは」」」

日下 葵 > 「挑発……うーむ、警告のつもりでしたが、
 逆効果だったようですねえ」

胸倉を掴まれたまま、背後から私と不良の間に割って入る後輩に笑う。
この後輩、何もできなくてもこうして助けに入るのか。
やさしさと行動力だけは一人前である。

「あまり時間を取られるのも嫌ですから、そろそろお引き取り願いますか」

そう言って胸倉を掴む不良の手、の親指を握ると、軽く外側にひねる。
人間の指はその方向には曲がらないので
  ―――不良が悲鳴を上げてひねった方向に上体をそらした>

織機 雪兎 >  
「あぁ、ああぁ」

だめだ。
もうおしまいだ。
もう自分には止められない。

「に、にげ、にげて、はやく」

だったらせめて女の子には見せられない。
彼女らを止めることを諦め、女の子を無理矢理振り向かせて背中をぐいぐい押す。

「ひ、ひめいとかきこえてもぜったいふりかえらないで! にげて、はやくにげて!!」

その直後、悲鳴が聞こえた。
女の子もこれから何が起こるのかを察したらしく、青い顔で振り向いて駆けだした。
自分の身体で隠すようにしていたので、見えていない――筈。
その子が角を曲がったのを確認し、恐る恐る振り向いた。

不良 > 「痛ッてえええ」

「んだこのアマ、こっちが手ェ出さなきゃ良い気になりやがって」

「おめえ本気で犯すからなッ」

日下 葵 > 親指からパキっと軽快な音が鳴る。
すると彼の右親指があらぬ方向に曲がっていた。

「先に女の子を囲って恐喝して、胸倉を掴んだのはそちらですよ?」

そう言って一人には鼻先に掌底、もう一人には腹に肘撃ち。
一瞬うめき声が聞こえて、あっという間に静かになってしまった。
成人男性の盛り合わせの完成である。

「あら、女子生徒は”避難”させたんですね。
 いい判断だと思いますよ」

振り返るとそこには後輩が一人、
諸々を察して親指をグッと立てて称賛する>

織機 雪兎 >  
「あぅ、あぅあぅあ、うああううあうあ……」

地獄絵図である。
いやまぁ戦闘要員の風紀委員からすれば地獄でもなんでもない日常なのかもしれないが、どちらかと言えば事務要員である自分からすれば十分に地獄である。

「な、なん、そん、そこまでする必要、あり、ありありあ、あります……?」

なんかパキッて音がした。
乾いたものを折るような、ちょっと湿ったような音。
怖くて先輩が握ってた男の指を直視できない。
なんか変な方向に曲がってる気がするが、気のせいだ。
絶対気のせいだ。

日下 葵 > 「大丈夫ですよ、折ってませんから。
 鼻の骨は微妙ですけど、柔らかい骨ですしあとからどうにでもなります。
 肋骨は折れましたね。
 でももともと折れて内臓を守るための骨ですから、大丈夫でしょう」

転がっている男たちを一瞥すれば、問題ない問題ないといって気にも留めなかった。

「こうするのが手っ取り早いですし、
 それこそ”痛い目見ないと分からない”人達ですから。
 骨や関節の一つで済むなら安いもんでしょう」

そう言ってさっさとどこかに行くように言って軽く蹴飛ばせば、
逃げるように(いや、実際に逃げて)どこかへ行ってしまった。

「ところで、雪兎さんは大丈夫ですか?
 怪我とか、乱暴されたりとか」>

織機 雪兎 >  
「う、わぁ……」

聞いているだけで痛い。
骨折るって割と重症な気がするんだけど。
一体どこまでが問題ないのだろう。
気になったけど怖いので聞かないでおく。

「う、うん、僕は、別に……」

そもそもどちらかと言えば反応を面白がられて遊ばれていたようなものだ。
乱暴もされていないし、怪我もない。

日下 葵 > 「さすがに仕事中ですし、
 こないだみたいに脳天ぶち抜いて脅かすなんてことはしませんよ」

あっ、仕事じゃなくてもやりませんよ?
とってつけたような言い訳はいまいち信用が薄いが、
最近はやってない。
本当にやってない。

「怪我とかがないなら安心です。
 ていうか、何でこんなところに?」

普通の人は立ち入らないような場所である。
なんで彼女のような人間が?そんな疑問を>

織機 雪兎 >  
「う、うん……」

いやまぁそこまでは、いや正直しかねないとは思っていた。
それを考えればまだ平和――平和ではないな???

「え、っと、ホントは常世渋谷に居たんだけど、迷ってこっちの方に……で、あの女の子が囲まれてるの見かけたら」

助けに入ったと告げる。
助けになってたかどうかわからないけれど。

日下 葵 > 「さすがに弾ももったいないですからね」

私に限れば弾より命の方が安い。
いや、やらない理由はほかにもいろいろあるけれど。

「あー、なるほど。なるほど?
 いや、常世渋谷からここまで結構ありません?」

一瞬納得しかけるが……
もしかしてこの後輩、方向音痴なのだろうか。

「いや、非番なのによく頑張りました。
 本当はかっこよく女子生徒を守れればいいんでしょうけど、
 結果オーライですよ」

時間を稼ぐくらいのことはやっただろうし、それで十分だろう>

織機 雪兎 >  
「いや先輩の命の方をもったいぶってください」

死なないとは言え。
弾代がもったいなくなかったら死んでいた、と言うことだし。

「えー、とちょっと、逃げ回ったもんで……」

割とすぐ掴まったけど、今思えば逃げる方角を誘導されていたような気もする。
くそっ、性質の悪い不良め。
でもザマァミロとは思えない。
だってこっちは怪我してないのだから。

「あ、や、でも結局まもまも先輩に助けられたし、随分情けなかったし……。多分、僕が何かしなくてもまもまも先輩が見付けて助けてたと思うし」

どれほど彼女を助ける力になったのかはわからない。
と言うか多分何の力にもなっていないと思う、と言うのが自己評価なところだ。

日下 葵 > 「いやぁ、長いことこのスタイルで風紀委員をやっているものですから、
 努力はしますが……」

そう、死んでなんぼの身体なのだ。
死ななくていいように他の特技を身に着けるべきなのかもしれない。

「まぁ、今回雪兎さんが一番助けたのはあの不良たちでしょうね。
 貴女がいなければ私が何してたかわかりませんし」

銃は出てなくとも、ナイフで軽く刻むくらいはするつもりだったので、
今回の彼らは驚くほど軽傷だ。
これは間違いなく彼女が途中で割り込んだおかげだろう>

織機 雪兎 >  
「んじゃあ、一緒にいる人と言うか、主に僕の精神と胃袋と直前に食べたごはんを守るためにもったいぶってください」

会うたびに吐いていたらきりがない。
いや別にあいさつ代わりに頭ぶっ飛ばすような人じゃないけど。
――やっぱそうかもしれない。

「いやまぁ、だって、ねえ。ムカつきはしましたけど、それでも別に僕とあの子が怪我させられたわけじゃないし、怖い思いはしたけど……」

正直さっきのだってやりすぎだと思うくらいだ。
自分が怪我するのも痛いけれど、誰かが怪我するのも見ていて痛いし。
誰だって痛いのは嫌だろう。
後頭部をガシガシと掻きながら。

日下 葵 > 「あなたや、さっきの女子生徒が怖い思いをしたのなら、
 それは怪我をしたのと同じなんですよ。
 心も体と同じで傷を負います」

――だからこそ、
身体を傷つけない拷問なんてものが存在するのだが、今の彼女には関係のない話である。

「それに、あんまり怖い思いをして外を出歩けなくなったら、
 それは身体に障害を負うのと同じです。
 血を流すのだけが暴力じゃない」

つまりさっきの男たちは私が来た時にはもうすでに暴力をふるっていたに等しい。

「あれくらいの怪我ならちょっと不自由な日常を送るだけですし、
 治りますから。大丈夫大丈夫」

なんとも楽天的である>

織機 雪兎 >  
「いやまぁ、それはわかりますけども」

少なくとも自分はトラウマになるほどの恐怖はなかったし、女の子だって逃がすときが一番青い顔をしていた気がする。

「て言うか僕まもまも先輩が頭吹っ飛ばした時が今まで生きてきて一番怖い思いしたんですけど????」

未だにたまに夢で見る。
先輩が頭吹っ飛ばして、首からまた先輩の頭が生えてきて、またふっ飛ばして、の無限ループの夢。
その理屈だとこの先輩は自分に今までで一番酷い暴力を振るっていることになるのだが。

「治るからいい、ってのは、違う気はする……」

根本的には彼女が死なないから身体を大事にしないのと一緒だと思う。
治るからと言って、怪我は痛いのだ。
自分が恐怖を感じたように。

日下 葵 > 「おやおや、じゃあ私が今のところ貴女の”一番”ですか」

なんでか嬉しそうである。
少なくとも、この人間は仕事を作業としてこなしているだけで、
はなっから倫理観など頭からぶっ飛ばしてしまっているのだ。

「まぁ、程度の問題だと思いますよ。
 ほんとに死んじゃったら痛いもくそもありませんし。
 私は痛がっているうちが花だと思います」

本当に死んだ人間というのはなんとも不気味である。
形は一緒なのにピクリとも動かないのだから。
その不気味さを、彼女、織機雪兎は知っているだろう。

「でも助けなかったらそれはそれで大変だったでしょう?」

それとも、遠くから様子見してればよかったです?
なんて聞いてみる。とても意地悪な質問だ。
意地悪だとわかっていて質問した>

織機 雪兎 >  
「うえぇ、そんな一番はやだなぁ……」

もっとこう、心ときめくような一番がいい。

「痛くないのが一番ですよ。怪我も何もなく、穏便に済ませられるのが一番です」

一応、色々なやり取りからそう言うわけにいかないと言うのは嫌と言うほどわかった。
わかったが、それとこれとは話が別だ。
そうはいかないからと言って、妥協するのはちょっと違う、ような気もする。

「――それは、まぁ、そうですケド――、え、アレ……?」

あのままだったらどうなっていたことか。
今更ながらに恐怖が膝に来て、がくがくと震えだした。
へにゃり、と脚から力が抜け、先輩に縋り付くようにもたれかかる。

日下 葵 > 「もっと別の一番は他の適任に委ねますよ」

私がもらう一番なんてそんなもんでいいのだ。

「”治るからいいというのは違う”っていうのはもっともですし、
 たぶんそれが正解なんでしょうけど、
 いつでも正解できるからといわれたらちょっと難しい時もあります。
 そういう時は最善を選ぶしかありませんから」

正解と最善は残念ながらいつも一致するとは限らない。

「だからこそ、貴女みたいな人には倫理観を大事にしてもらいたいものです」

最善かどうか、そういう打算的な考えしかできない自分にとっては、
うらやましく思う時もある。

「……大事にしてもらいたいものですけど、
 想像で歩けなくなるのは改善が必要かなぁ……」

もたれかかってくる後輩の肩を、
落ち着かせるようにポンポンと軽くたたく>

織機 雪兎 >  
「あ、あは、さっきの、思った以上に怖かったみたいで……」

へらへらと笑うも、その表情は若干ひきつっていて。
あのまま誰も助けに来なくて酷い目に遭っていたら、と。
本当に先輩が来てくれてよかった。

「あ。あの、肩、貸してもらって、いいですか……?」

若干ひきつった笑みで縋り付いたまま。
足に力が入らない。

日下 葵 > 「別に構いませんけど……
 いや、ほんと、戦闘とかは二の次でいいから、
 こういう荒事には早く慣れたほうがいいかもしれませんね」

慣れというより、適応というべきだろうか。
彼女の腕を肩にまわして身体を支えてやれば、常世渋谷にゆっくりと歩いていく。

「いやー、せっかくの休日なのに不運でしたね。このまま送りますよ?」

そう言って、身体も表情もひきつった後輩を支えてこの場所を後にするのであった>

織機 雪兎 >  
「こ、こわいの、にがてなもんで……ヘヘ……」

身体を支えられて情けなく笑う。
いや全くおっしゃる通りなのだが、どうしても生来の怖がりが克服できない。
人を守る風紀委員になると誓ったばかりなのに、どうしようもないな、と。

「あ、常世渋谷までで大丈夫です……多分、そこまで行けば歩けるようにはなるので……」

肩を借りて底下通りを歩く。
煙草の臭いはするけれど、同時に女の子らしい匂いもして。
しばらく歩けば情けない笑いはちょっといやらしい笑いに変わるだろう。
その頃には一人で歩けるようになっているだろうから、そうしたら改めてお礼を言って買い物を再開するだろうか――

ご案内:「常世渋谷 底下通り」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 底下通り」から織機 雪兎さんが去りました。