2020/08/16 のログ
ご案内:「常世渋谷 底下通り」にジャムさんが現れました。
■ジャム > 異邦人の手には、よく冷やされたクレープがある。
イチゴと砕かれたクッキー、板チョコを冷たいクリームで覆った常世の味である。
露天に屋台が立ち並ぶ猥雑な通り、昼に近づいて薄着の人通りが増えていく中で適当に設えられた簡素な椅子に座って。
先ほどスタンドで買ったばかりのクレープを見つめて半獣人が瞳をきらめかせている。
「ほんと美味しそう……!
僕の元居た世界じゃ絶対味わえない食べ物だよー。
飛ばされてきて良かったー!いただきまー……!」
いただきま、……の後のすも発音する前にクレープに小さな歯型が刻まれた。
むに、むに、むに。
咀嚼するたびに口腔広がる甘味と涼しみ。
ほわわわ。頬紅染めながらとろんと落ちる眼尻。
良き。これはまったく良き。
1人クレープを味わう、夏の食べ歩きの異邦人。
■ジャム > いつの間にかクレープは半獣人のおなかの中にすっかりすっぽり収まっていた。
途中で人差し指についたクリームの端切れ、ペロリと舐めたら視線の先にはまだまだ続く露天市。
鉄板に脂が焦げる匂いに、
冷蔵庫に透き通った氷のブロックが投入される音。
ヘラや食器同士が触れ合って、キンっ、と涼しげに響く。
お散歩のつもりで訪れたけれど、ここでこのままお昼まで済ませてしまおう。
そんな心持ちで椅子から立ち上がると、尻尾ゆらゆら、
スタンドや屋台、のぼりと値段の張られたグルメ写真の真っ只中を歩いていき――
ご案内:「常世渋谷 底下通り」からジャムさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」に狭間在処さんが現れました。
■狭間在処 > 常世渋谷――歓楽街と落第街の間、とも言える面と賑わいを見せる区画。
その中でも、落第街に面したこの黒街(ブラック・ストリート)と呼ばれる一角は治安はよろしくはない。
健全な学生はまず立ち入らないし、落第街に面しているからか違反部活や違反組織の影もちらほらと見受けられる。
その一角を、ゆるゆると一人歩きながら周囲をそれとなく見渡す。この辺りの違反部活や違反組織は、流石に落第街に比べたら活動はまだ水面下だが。
「………。」
いずれにしろ潰す事に変わりは無い。とはいえ、無闇矢鱈に潰して回れば風紀に目を付けられ易い。
何故なら、常世渋谷には風紀の分署が存在している。ここいらにもそれとなく目を光らせているだろう。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」にジャムさんが現れました。
■狭間在処 > 時々、ふらりと路地裏に入り込んでは暫くして別の路地から出てくる。落第街やスラムに比べたこちらはあまり足を運ばない。
まだ地理の把握が完全でない故に、こうして己の足で虱潰しに地理を頭に叩き込む必要がある。
目的は単純明快――この辺りの違反部活や組織を潰す事だ。別に正義感でも何でもなく。
ありきたりな復讐心で、ただの私怨で、そしてつまらない憂さ晴らしに過ぎない。
だが――人間というものは、そんなものでも行動の原動力になるものなのだ。
自分自身がそうだから、よく身に染みている。時々、往来に目を向けては人の流れや個々の仕草を観察する。
己は喋る事が出来ない――だから、コミュニケーションで相手を探るという事が不得手だ。
故に、こうして足を使って周囲を観察する必要があるのだ。
■ジャム > 健全な学生なら立ち入らないはずの場所に立ち入っている学生が居れば、それは不健全な学生ということ。
落第街でのお仕事を終えて、ブラックストリートの大通りにまぎれて真面目な学生街へ向かう私鉄に乗り込もうと歩む中、奇妙な動きを見せる人影をみつけて獣耳をピンと立てる。
くすんだ銀髪に緑瞳。はっきりとした道をたどるわけでもなく、ただ時間を明かしに渋谷表を歩く様子でもない。その目つきが、油断なく人の顔や足元を見ている。
気になったが、そのまま立ち去ろうとして。
ある事に気づいて、やっぱり声をかける事にする。
別の路地裏へ向かおうとする相手の前にゆっくりと回り。
片手を上げながら、自分に注意を引こうとし。
「……ねえ!お兄さん。その奥は危ないよ。
あんまり大きな声じゃ言えないけど……。
「ブラックフラッグ」って悪い人たちのテリトリーだから」
長身相手、見上げて首を左右に振る。
落第街で働いているうちに得られた情報だ。
彼の目的がそんな違反組織にあるとは知らず、彼の行く先にある危険を知らせようと。
■狭間在処 > それなりに荒事を潜り抜けてはきているものの、所詮は孤立無援で専門的な訓練を受けた訳でもない。
落第街やスラムの暮らしでそれとなく周囲に溶け込むことには慣れてはいるが、分かる者にはすぐ分かるだろう。
そして、また別の路地裏に足を向けようとして――ふと、視界の片隅に映る人物。そちらに無表情を向ける。
「………?」
僅かに「何か用か?」と、いう風に小首を傾げてみせるが、少女の言葉に緑の双眸を細める。
好都合だ――己が潰したいのは、主に人体実験の類に加担している組織や部活だ。
だが、そうでなくとも目障りなら躊躇無く潰す気でいる…ならば、そのブラックフラッグ、とやらも潰すべきだろう。
とはいえ、少女と意思の疎通を取るにもこちらは喋れないし、手話やジェスチャーでは限界がある。
なので、懐から使い古したメモ帳とペンを取り出してサラサラと速筆。
『そのブラックフラッグとやらはどんな連中なんだ?』
と、メモに書いた文面をそちらに見せておこう。会話が出来ないのでどうしてもこちらは筆談にならざるを得ない。
■ジャム > こちらに顔を向けた相手の顔は、冷徹な処刑人が被るマスクを連想させられた。明らかに1年生や2年生といった括りで生きてきた人では無さそうで、少し背を緊張に強張らせる。
「えっ、わ、……すごいペンさばき。
お兄さんは無口なのかな。僕の声は聞こえてるんだよね」
その相手が口を開くのを待っていると、メモ帳にしたためられた返答。手慣れた様子は、彼が何かの理由で長らく口を聞けないという証拠なのだろう。どちらにせよ、自分は声を使っても良さそうなのがわかると会話を続け。
「身体のどこかに、黒旗を背景に人魚の入れ墨をいれた連中だよ。……うわさじゃ、人魚を人工的に作ってしまおうっていう怖い実験事をしてるんだって。海の先駆者気取りで、現代の海賊気取り。だから黒旗、ブラックフラッグって名乗ってる」
大きな声で話すと、どこに聞き耳があるかわからない。
それとなく周囲を確認してから、声をひそめて。耳の近くでそう告げる。人を海に無理やり適応させてしまおうとする人体実験を目論む組織をかいつまんで説明し。
■狭間在処 > 無表情は男の常だ。表情を読ませない、感情を読ませない、そうしていれば少なくとも駆け引き下手な己でも体裁は保てる。
彼なりに編み出した処世術の一環だ――だからこそ、その仮面は相応にしっかりしている。
『声は聞こえている。昔の古傷で俺のほうが喋れないだけだ』
と、追加でサラサラとまた速筆でメモをしたためてからそちらに文面を見せる。
聊か手間が掛かりはするが、少なくともこうしてきちんと書けば相手に意図などは伝わり易いだろう。
ともあれ、少女からの説明を無表情で聞きながら、その特徴などをメモの別のページに書き込んでいく。
体の何処かに黒旗を背景にした人魚の刺青――それがブラックフラッグの構成員の特徴。
内容は――”人工的な”人魚の作成。…成程。これは確定だ――潰すしかない。
この瞬間、男の次の標的は『黒旗』という組織と構成員に定まった。
現代の海賊気取り、という事は――まぁ、どうせロクでもない連中だろう、己と同じように。
(――だったら皆殺しにしても問題は無いな)
少女には決して悟られてはいけない心情。周囲の様子を窺いながら小声で囁いてくる彼女に、こちらもやや身を屈めてその話を聞く。
とはいえ、今から突入しようにもこの少女まで巻き込みかねない。それは流石に己の意に反する。
付いてこられたら面倒だし、仮に己一人で行こうとも察した彼女が風紀に通報などをしたら余計に面倒だ。
(――仕方ない、今日は情報収集だけにするか)
自分のくだらない自己満足に無関係な少女を巻き込まない。その程度の理性と良心くらいはある。
少女の掻い摘んだ説明が済めば、サラサラとまたメモを書いてそちらに見せる。
『情報は助かった。確かにやばそうな連中だ…この先には迂闊に近寄らないようにする』