2020/08/17 のログ
ジャム > 「……そっか、古傷で」

追加で流麗な文字が追加され、ぽつりと呟く。
口が聞けないというのはどういう感覚で、どんなハンデを負うのだろう。
古傷と聞けば経緯まで聞かないものの気の毒で、少しだけ相手を伺う目つき。獣耳がゆっくりと垂れ。ぺたりと下がる。自分の言葉を反芻するようにメモに綴る様子を見守りながら、情報を渡していく。

無表情さ故に彼が何を考えているかはわからない。
ただ、半獣としての第六感として、何かしらの事が彼の中で決定したような様子が伺えると気もそぞろで。時々落ち着きなく視線をちらちら向け。

「うん。そうしなよ。
……あのさ。お兄さん。もしお兄さんがこのあたりの……、……このあたりの、そういうやばそうな連中のことに興味があるなら。僕がまた今度、色々教えてもいいよ。
僕、この近くで働いてるんだ。あまり人に言えるようなお店じゃないけど。
だけど、このあたりの噂話とか情報なら、知ってる」

ほっとしたように笑顔を見せるが。
何か訳ありで、古傷を持つ人の助力をしたい。
そんな半獣のお節介が必要かどうかわからないが、ぽつりぽつりと呟くように彼へ情報提供を申し出る。

「だから、お兄さんと連絡をつける方法教えて?
僕は、ジャムだよ」

ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」に狭間在処さんが現れました。
狭間在処 > 古傷――そう、古傷だ。実際には、過去の人体実験の後遺症、とも言える。他にも偏頭痛や貧血などが時と場所を選ばずに己を苛む。
――だが、それも全て些細な問題だ。代償に得た力で違反組織や部活を潰す――それが男の行動原理。
少女の様子を変わらぬ無表情で窺う――情報提供は助かるが、あまり他者を巻き込みたくは無い。

『情報提供は正直助かるが、そちらに余計な面倒が及ぶ事があるかもしれない。それは俺の望む所ではないんだが』

と、再びメモに書き加えてそちらへと見せる。落第街やスラムは兎も角、常世渋谷はまだあまり土地勘が無い。
何やら、怪異が跋扈する”裏”の世界に通じる場所や現象もあると聞くが、そちらはまた別の機会だ。
今は『黒旗』の殲滅と――そのほかの、この辺りで目ぼしい違反組織や部活の情報が欲しい。

特に、情報は武器であり鮮度が命だ。少女がこの近辺で働いているならば、そういう情報も耳が早そうではある。

(だが――…いや、好都合と割り切るべきか)

良心やら何やら、真っ当なものが残っているのを感謝するべきか、それとも嘆くべきか。
ややあってから、別のページに己の連絡先を書き連ねて。そのページを切り離して少女に渡そうと。
表向き、男は二級学生相当――連絡手段として、非合法の携帯を所持している。
正規のものではないので、通信場所は限られるが黒街の周囲ならぎりぎり許容範囲だろう。

ジャム > 「僕はこれでもよその世界で生きてきた異邦人だよ。
自分の身は自分で守れるから、大丈夫。
でもでも。……もし、僕に降りかかる面倒な事について、気になるようなら。――美味しいパフェでも奢ってよ!」

書きつけられたメモを見ると、ぱちぱちと睫毛を弾ませる。
彼はきっと悪い事を行う人なのだろう。
けれど、悪人では無いのだと思った。小さく笑顔を見せ。
自分だって、通報されては困るようなお店で働いているのだ。
ぽんと自分の胸に拳を当てつつ。語尾に冗句めいた事言う。
情報提供による自分の身の危険の見返りに、スイーツ奢れ。そんな暴利な冗談。

「これがお兄さんのIDだね。
後でここ宛てに僕の連絡先送っておくよ。
――それじゃ、お兄さん。僕はそろそろ家に戻るね。また!」

切り離されたページを眺めてからプリーツスカートのポケットに丁寧に仕舞い込む。
帰宅途中である事を思い出せば、1歩大通りのほうへと歩きながら片手をひらりと舞わせ。

「……気をつけてね!」

唐突に途中で振り返ってそう呼びかけたのは、どこか危うい彼と彼自身の存在へ向けての再びのお節介。
今度こそ、人混みにまぎれていき――。

ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」に狭間在処さんが現れました。
狭間在処 > 少女の言葉に、喋れない男は一度ゆっくりと頷く――金銭的には実は結構余裕はある。
何せ、自分が人体実験をされていた組織を根こそぎ潰した際に研究資金などを全て強奪したからだ。
とはいえ、稼ぎ口もそろそろ考えないといけないが――今は取り敢えず、目の前にある違反組織を潰さなければ。
情報提供の代償がパフェの1つや2つで済むなら安い買い物だろう、むしろ破格とも言える。

『気をつけて帰れ』

彼女が立ち去る間際、メモに一言そう書いてそちらに見せながら、緩く片手を挙げてその姿を見送ろう。

(そういえば名乗り損ねたな――いや、まぁいい)

そう名乗るものでもないだろう。自分みたいなくだらない自己満足に心血を注ぐ男に過度に関わるべきではない。
ちらり、と路地裏の先に視線を向ける――ブラックフラッグ…現代の海賊を気取る人工人魚を作り出そうとする違反組織。

(――いいだろう、せいぜい海賊を気取っておけ。…一人たりとも逃さんがな)

そう、静かに宣戦布告を告げながら今は情報収集と土地の把握を優先だ。
そのまま、踵を返した男の姿はまた別の路地裏へと密かに消えて行き。

ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」から狭間在処さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」からジャムさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」にさんが現れました。
> 常世渋谷、中央街。
最新モードを地で行く常世渋谷の街並み。
街灯やネオンライトが爛々の輝く夜の街並みは
昼間にも負けない輝きを見せてくれる夜の太陽。
その下を行きかう老若男女も十人十色。
強いて言うなれば、此の街は何処となく"浮かれた空気"を持っている。

「夏場の熱、だけじゃないかぁ」

なんて、楽しげにぼやいた女。
忠犬ロク公像の前で、緑のドリンクが入ったカップを片手に人々を眺めている。
待ち合わせの様に見えるが、誰も待っていない。
ただ、暇だから行きかう人々を見ているだけ。

>  
片や向こうでは、随分と奇抜な格好の男が
浮かれた格好をした女をナンパしている。
向こうでは腕章を付けた風紀委員が目を光らせている。
スクリーンの向こうじゃ、チープな内容のテレビCM。
騒がしいったりゃありゃしない。
四方八方、"音"が鳴りやむことは無い。

「……♪」

だが、女はこの喧騒は嫌いでは無かった。
"街並み"とは人々の活気。
ともすれば、これはそれだけこの地区が生き生きしていると言う事。
それを眺めるのは、嫌いでは無かった。
自身も"浮かれた"気分でドリンクのストローを咥えて吸い上げる。
伸びあがるとろとろのジュース。急降下するテンション。
思わず顔をしかめた。

「ドラゴンフルーツ味マッズ……」

>  
いやそりゃまぁ浮かれました。
なんかそりゃ親近感を覚える名前だったわけですよ。
ドラゴンフルーツドリンク。緑色だし、龍だし。
ちょっと興味を持つわけじゃん。
ウッキウキで買った訳じゃん。
死ぬ程甘くない。なんか冷たいドロっとした何かを飲んだ気分だ。
というか、冷静に考えるとドラゴンフルーツって赤じゃないか?
せめて中身の白よ。緑ってなんだ?何入れたんだコレ?

「…………」

でも買ったものはしょうがないからとりあえずちびちび飲む。
拙い。何というか味がしない。無だ。
ドロドロの触感しかしない冷たい何かを飲まされている。
新手の拷問か?このままではドラゴニック涅槃へ辿り着きそうだ。
女は虚無を体現したような何とも言えない表情でドリンクを飲んでいく。

>  
まぁいい、これも授業料だと考えておこう。
この街には違法スレスレの営業を行う店だってある。
よくわからんお店だってある。何でもある。
欲望というものを形にするのであれば
この街はまさにそのようだ。

「……にしても、だからってこれで650円はぼりすぎでしょ」

好奇心で払う方も払う方なんだけどね、と自分に呆れてしまった。
今からお店までリターンしようかな。
でももう買ったしなぁ、変にイチャモンつけるのは筋が通らない。
思い出すだけでちょっと腹が立つようになってきた。
次見かけたら一発位は殴っておこう。
とにかく、口の中に虚無を流し込んでいく。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に日下 葵さんが現れました。
日下 葵 > ありがとうございます、では続ける形でロールを書くので、少々お待ちを!
日下 葵 > 夜の常世渋谷。
眠らない街なんて呼ばれている(呼ばれている?)この場所は、
太陽が落ちても視界に困らないほどに煌々と明かりが灯っている。
今日は非番であったため、午後から薬の補充に新しい服の買い物と、
大変充実した一日を過ごしていた。

「いやー、すっかり遅くなってしまいました。
 もう適当なところでご飯食べていきますかね……おや?」

ロク公前を通れば、人ごみでも目につく人物を見つけた。
バーベキューの時に拳法でテレパシーを送ってきたトンデモな人。
何やら緑色のドリンクを見つめて残念そうな表情をしている。

「えっと、龍さんでしたっけ。
 バーベキューに参加していた。
 こんなところでそんな残念そうな顔してどうしました?」

何となく、声をかけてしまった>

>  
漸く謎の緑色が半分なくなったぞ。
というか、まだ半分もあるのか。
もしかして、これって嫌がらせか?
ドラゴニック苦行だと言うのか、これは。

「私は七難八苦を求めるタイプじゃないんだけどなぁ~。……ん?」

ふと、何処かで聞いたような女性の声だ。
ストローから口を離し、艶やかな唇に人差し指を添えて思案。
はて、誰だったか。視線を向けた先にはどこかで見たような顔。

「確か君は……」

>  
「テレパシーしてた子!」

────全ての責任を押し付けに行った!

>  
「……と言う冗談はおいといて、こんばんは。
 奇遇だね?買い物帰りとか?女の子の欲しいものも
 ここじゃ割と揃ってるからねぇ……ああ」

「飲めばわかるよ」

はにかみ笑顔を浮かべて差し出した、緑のドロドロが入った虚無ドリンク。

日下 葵 > 「あっ、私はほら、バーベキューに参加してた風紀委員の日下――」

『テレパシーしてた子!』

「拳法とやらは私のナイフも止められるんですかねえ?」

思い出すようなしぐさを見せた彼女に、慌てて自己紹介をしようとする。
あの時は水着だったし、今は私服だし、
キャップを被っているから分からなくても当然……と思ったが。

思考を先読みでもしていたのかと思わせるような、
次の一言が出てきたころには彼女の目の前に迫って太もものナイフに手をかけていた。
と、いう冗談を一通り終えると、彼女の持つ緑色のドリンクを見る。

「えぇー……
 もう不味いのが目に見えてて飲むなんて嫌ですよ……」

差し出されたそれを怪訝そうに見つめるが、
しぶしぶといった風に受け取って一口。

「まぁ、何ですか。
 飲めなくはないですね」

むしろ普通に飲んでいる。
と、いうのも、いろいろな事情で味音痴な部分が否めない>

>  
「呵々、そんなにかっかしないでよぉ。
 可愛い顔が台無しだよ?ジョークだよ。
 君は日下……なんだって?私は龍<ラオ>だよ」

あっけからんとわらびれた様子もなく右手をひらひら。
緩やかに口元を緩めて、薄い笑みのままに自己紹介。

「やだなぁ、怖い。街中で喧嘩なんて、風紀委員に怒られるよ?
 …って、君がそうか。この場合は取り調べになるのかな?勘弁してよ」

これだけ賑やかで"浮かれている"街だ。
喧嘩の一つや二つは怒るのは何度も目撃した。
他愛ない若者同士の戯れだ。
だからこそ、戯れには戯れを。
困ったように眉を下げるも、龍は微塵も驚きも畏怖も感じておらず
何時もの様に冗談めかしに帰した。

さて、それはそれとしてドラゴニック認定失格ドリンクを飲んだ日下。
なんと、普通に飲んでいる。これには、龍も目を丸くした。

「マジ?君凄いね。もしかして、テレパシーの代償で味覚なくなっちゃった?」

ナチュラルドラゴニック煽り。

日下 葵 > 「おっとこれはこれはすみません。
 ちょっとばかり血の気が多いものでして。
 ……結局名前覚えてないじゃないですか。
 葵です。”あおい”と書いて”まもる”です」

まったくもって悪びれる様子のない彼女だが、まぁ良いだろう。

「ええ、私が今この場において”最寄りの”風紀委員です。
 でも残念ながら今日は私、非番なもので」

わかりやすく作った営業スマイル。
非番であるためここで喧嘩をすれば同僚に連れていかれてしまう。
だからこれ以上あまり派手なことはしないが。

「喧嘩売ってるんですか?
 テレパシーのせいで味覚がなくなったなら貴女に慰謝料を請求したいものです。
 私はもともと好き嫌いが少ないんですよ」

もちろん異能の訓練のおかげ。
普通に味覚はあるし、おいしいものは人並みにおいしく食べられる。
ただ、およそ美味しくないモノにも耐性があるだけだ。
つまり――このドリンクは決して美味しくない>

>  
「いやいや、血の気が多いのは悪い事でもないでしょ?
 武闘派だのなんだの外野が煩いかも知れないけどさ。
 君は、私が見る限り"節度"は護れてるし、良い事だよ。
 ある程度、喧嘩早い人がいた方が、君達風紀委員って
 早く話が進んでありがたいことってあるでしょう?」

謝る事でも無いよ、と相変わらず右手はひらひら。
彼女の血の気の多さを否定することなく肯定する。
勿論、荒事に進まずに平和的に事件が解決するなら
それに越した事は無いが、此処は世界の最先端常世島。
人間所か"外部"の齟齬やらなにやら、色々を複雑な問題も多い。
結局、最終的に"力"で解決する事になる事も在るだろう。
ままならない事だが、悔恨が残ろうが解決に至るのであればそれは風紀の手腕だ。
龍は薄い笑みを浮かべたまま、軽く小首を傾げた。

「葵か。良い名前だね。葵君。
 …成る程、非番じゃなければしょっ引かれてたかぁ。
 君のシフト表とか盗み見した方が、私の学生ライフは明るいかな?なんてね」

営業スマイルとは対照的な実に楽しげな笑み。
こうは言うものの、喧嘩自体に拒否感は覚えていないようだ。

「おや、私の喧嘩は高いよ?」

御覧の通り。
わざとらしく肩を竦めてみせた。

「…ジョークだよ、ジョーク。いやね
 私にとって非常に、いみじくも、死ぬ程マズかった650円を
 そうやって何事もなく飲めるのは素直に感心してしまったよ」

650円の味をしかと噛み締めろ。
その味は……────虚無だ!
値段と比べると余計に虚無感が増してくる…!

日下 葵 > 「血の気の多い風紀委員は煙たがられるんですよ。
 組織にランボーはいらないですから。
 まぁ、確かに取り締まりの対象が喧嘩っ早い分には、
 諸々の手続きをすっ飛ばせるのでいろいろ楽ですけど」

そう、現行犯なら手っ取り早い。
そうじゃない時は事前に裏を取ったり、許可を取ったり、通達したり。
必要な手続きが多く面倒なのは確かだった。

「いい名前ですか。それはそれはどうも。
 私からすると大変に皮肉の効いた面白可笑しい名前なんですけどね。
 その減らず口を減らすか、私のシフトを盗み見するか、
 どちらがいいかは貴女にお任せしますよ」

「おや、私はむしろ喧嘩を安売りするためのクーポン券みたいなものでして。
 ちぎってはポイされる存在だったりします」

これは皮肉ではなく本当。
死にづらいので現場に投入されて犯人たちに一発殺されて、
現行犯逮捕の口実を作る役割とかをやらせられている。
名実共にクーポン券である。

「逆に舌が肥えていると不便ですねえ。
 私なんてお腹さえ壊さなければなんでも食べますけど」

なあんて言って見せるが、不味いものはマズいので、
同じ金額を支払うならおいしいものを飲み食いしたいというのは間違いない。
少なくとも、彼女の様に650円を支払って虚無を感じることはない。
もう一口、二口飲み下せば、カップを彼女に返そう>

>  
「いや、"必要"だ。私の考えだけどね?君のおかげで『大事に至らない』事も多かったんじゃないかな?
 煙たがられるのは、連中の嫉妬みたいなものさ。勿論、"節度"は必要だけどね。
 いいじゃない、"クーポン券"。お得だし、少なくとも感謝してる人はいるんじゃないかな?
 例えば、私。こう見えて、こういう他愛ない日常が好きなんだよね。
 葵君たちのおかげで守られているなら、これ幸いと言う訳だ。ありがとう」

此の世に"いらない"なんてものはないと、龍は説く。
確かに荒事屋は煙たがられるだろう。自信も覚えがある。
だが、裏を返せばそれは力なき者の嫉妬だ。
龍はそう解釈する。ひらひらさせた右手で己を指差し
明るい満面の笑みで感謝を述べた。

「まぁ、こう言う事言っちゃうと身も蓋もないけどさぁ。
 "組織"ってそう言うものだったしね。我慢も必要だし
 どうせ"義務"ではないから、『嫌ならやめる』位は考えておいた方がいいよってアドバイス。
 ふふ、此の前も風紀委員に同じ事言ったかな?結局、"代役"って言うのは何時でも誰かがいるしね?」

組織。人が集まれば何処かに必ずしわ寄せは起きる。
それが、たまたま彼女と言うだけだが
どういう経緯かはさておき、余程の理由が無ければ
隷属する理由は無いはずだ。彼女が"余程"の理由なら
まぁ、それはそれ。くつくつと喉を鳴らし、龍は笑う。笑う。

「ま、そう言う意味では"葵君"って名前は、お似合いじゃないかな?
 …ああ、皮肉じゃないよ?全部、今までの。私なりに、知らないままに
 感じるままにの感想。こういう前向きな感想は嫌いかな?」

「お粗末様。いやぁ、でも650円で虚無はいらないでしょー。」

問題はやっぱりそこ。
カップを受け取ればはぁー、と深い溜息を吐いた。

日下 葵 > 「……まぁ、馬鹿とハサミは使いよう、といいますか。
 組織の多様性は担保したい気持ちはわかります。
 多様性はそのまま柔軟性につながりますから。
 ただ、ランボーみたいな人間が組織の上に就くのは考え物です」

私のようなクーポン券も、
ランボーのような切れすぎるナイフも、
適材適所ということだろう。

「代役がいることは大事です。
 じゃなきゃ私の休暇が永遠に来なくなってしまいますから」

そう、オンリーワンにはなりたくない。
そんな大それた存在にはなりたくない。
痛みには耐えられても、責任には耐えられないだろうから。

「たまにはお金を払って虚無を買うのもいいんじゃないですか。
 虚無があるから詰め込めるわけですし、
 不味いものがあるからおいしいものに価値が生まれるんだとおもいますよ」

そして意外と虚無は手に入らないものである。
何も予定の入っていない一日も、
まっさらなノートも、手に入れるのは意外と対価が必要だったりする>

>  
龍は笑みを絶やさない。
ずっと、笑っている。

「とどのつまり、そう言う事だねぇ。
 あはは、確かに考え物だ。けどまぁ……
 "そうなったら"、時代が望んだ、って事になるんじゃない?
 過去の歴史がそうだしね。結果として、気に入らなければクーデターとか起きるけど」

人間のやる事。つまるところ、そう言う事。
そうなっても龍は困らない。
龍は笑っている。笑顔の笑みは、龍自身が知っている。

「そう言う事だからさ、そんな気難しい顔しないでよぉ
 ほら、葵君も可愛いんだからさ、スマイル!」

両手の人差し指をピッ、と伸ばして相手の口角を吊り上げにきたぞ!

「そう?ああ、そう言う考えかぁ。生憎、あのドリンクには
 ドラゴンフルーツ以外詰め込めないけどね。
 そういう葵君はどう?『詰め込める』程、今が楽しい?」

「私は楽しいよ。葵君とこうやって話せてね」

クスクスと、本当に楽しそうに笑っている。

日下 葵 > 「今が望んでも、未来が望むとは限りません。
 私たちは過去に学んで、未来に責任を持つ必要がある」

特に風紀委員なんてやっていればなおさら。
クーデターは未然に防がなければならない。
時代の変化に、人の命を犠牲にするようではいけない。
皆誰もが、私や、他の一部の風紀委員のように不死身に近いわけではないのだから。

「おや、そんな難しそうな顔をしていましたか?
 普段は真面目にやれって言われるくらいには笑っているつもりでしたが。
 あと、可愛いって言葉を安売りしすぎです。
 私をほめても何も出ませんよ」

そう言っていつものヘラヘラした表情に切り替えようとしたとき、
彼女の指が私の両頬にあてがわれ、くいっと口角を持ち上げてきた。

「私は良いように言いくるめられてたのしくないですねえ。
 私は普段人をからかう側ですから。
 その立場を取られてしまってはメンツが丸つぶれです」

口角を持ち上げられたまま、そんな冗談を言って見せる。
あれ?でも最近他人を虐める機会があまりないような……
虐められることもないし。仕事をしすぎただろうか>

>  
「ふふ、御尤も。特に、この島には『泣く子も消す生徒会』が牛耳るような島だ。
 そんな連中が風紀委員の上に立つことは、万一にないんじゃないかなぁ?
 言っといてなんだけどね。葵君ちゃんの言う事は正しいよ。」

命は尊いものなのは間違いない。
しかし、失われる事が在ればそれは必然なのだろう。
龍はそれすらも"良し"とする。
『悪性』とも言うべきそれさえ、彼女は肯定する。

「可愛いものは可愛い。可愛げはないけどね?
 それも愛嬌って事で、私はからかい甲斐があって楽しかったし
 少なくとも、『女王様気どりの面子』を潰した、という功績は出たようだね」

悪びれた素振りもなくあっけからんと言ってのけた。
普段どう言う事をしていたかは知らないが
"私には勝てないよ"、と言わんばかりに笑みが勝ち誇っている。フフン。

「ま、人の趣味にとやかくは言わないけど、程々にしておいてね。
 私が言うのもなんだけど、"人を虐める"って、風紀が言う事じゃないでしょう?」

指先を離せば一歩後退、困ったように小首を傾げた。

「私は、もうちょっと葵君と遊びたいしねぇ。この島で。
 ……ま、今回はそろそろ暇乞いかな?」

両腕の袖を合わせて一礼、会釈だ。

「楽しかったよ、葵君。今度は何処かで遊ぼうか?
 遊ぶ場所には困らないし……ああ、武を競う合うのも歓迎。
 君の"血の気の多さ"を見るのも一興だ。……けど……」

金色の目を細めた。
鋭く冷たい、龍のような威圧感のある視線が確かに"一瞬"、そこにはあった。

「"手合わせ以上"の事はせん。"儂"は心苦しいが
 互いにそれ以上に面倒のが多かろう?
 呼び出しで在ればいつでも応じてやる。何時でも呼ぶがいい」

指先が空をなぞれば、浮かび上がるのはホログラフモニター。
モニターをタッチすれば、相手の携帯端末に龍の連絡先が届くだろう。
メールアドレスにもドラゴニックが入ってる。
これぞドラゴニックメール。
そのまま目を閉じて、龍はにこやかに笑った。

「それじゃ、またね。葵君」

踵を返し、振り返ることなく人込みに消えていく。
ネオンライトが今日も輝き、夜更けをより一層照らしていくだろう────。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」からさんが去りました。
日下 葵 > 「逆に、この島はもう箱庭なのかもしれませんねえ」

泣く子も消す生徒会か。
私なんかが生徒会様に、
もしくは他の組織に直々に始末されることなんて万に一つだってありはしないだろうが。

「おやおや、虐めるといえば聞こえが悪いですが、
 ”可愛がり”ですよ。
 私は虐めることが大好きですが、殺しは好きじゃないです」

同僚にはひどく残虐だなんて言われるが、
彼女――龍には私と違った残虐さがあるように思えた。
彼女の寛容さは一周まわって残虐といっていいかもしれない。

「可愛げですか。
 私はかわいがる方が好きですから、可愛げは確かに無いかもしれませんねえ」

ささやかな抵抗をして見せるが、
ここまで言いくるめられてしまってはもはや滑稽さすらあるだろう。
まったくもって苦手なタイプの女である。

「そうですねえ、
 私としては手合わせするにしても全力でやっていただきたいものですが、
 龍さんは風紀委員というわけでもないですから、
 こちらの”本気”の手合わせに付き合わせるのも迷惑でしょう」

それでも、手合わせは一度お願いしたいものです。
そういうと、彼女から連絡先が送られてくる。


いや、テレパシーは使わないんかい!


なんて突っ込みを入れる間もなく、彼女は人ごみに溶けて消えてしまった。

「さて、私も帰りますか」

そういえって、こちらもネオンライトがきらめく雑踏の中に溶けていくのであった>

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から日下 葵さんが去りました。