2020/08/20 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に羽月 柊さんが現れました。
■羽月 柊 >
『どういう風の吹き回しかしら…と言いたかったけれど、
まぁ、貴方が首を縦に振ってくれる日を待ってたわ。』
街灯スクリーンを見上げながら、1人の男が通話をしている。
魔術装飾が施されたスマホに向かって話している。
小さな金色の魔法陣がスマホの上と男の片耳の部分に浮いていた。
色々なモノで、ヒトで、ごった返す常世渋谷。
通り過ぎる雑踏はこちらに興味を示すことはほとんどないだろう。
彼もまた雑踏の一部。多の中に男は埋もれている。
この会話が気になるのなら、それは彼を知るモノか、
それとも彼に興味があるモノか。
「……色々あったんだ、としか言えんな。」
『そう。散々私やロアが言っても聞かなかったのに?
彼と賭けをするぐらいだったのよ。ロアの側に堕ちるか、そのまま死ぬのかってね。
賭けは…ロアの勝ちね。あのヒト、ああ見えて貴方のこと学生時代からよく見ていただけはあるわ。』
■羽月 柊 >
零れる相手の音は女性の声。
ビル街を抜ける夏の風に白衣が揺れる。
『それで? 所内事故が起きたことまでは把握したけれど。
一応こっちも準備だけはしていたのよ。
元々、貴方に強引にでも送り付ける気だったお手伝い妖精ぐらいなら、数日以内には。
それから、今まで上げてくれていた小竜のデータを纏めた――。
これは持ち歩けるモニタ機器なんかが良いかしら?』
傍らを飛ぶ小竜の一匹が肩に留まって、キュイと鳴く。
『…そうね、セイル…妬いちゃうわね?
ある意味、私達は身近過ぎたってことかもしれないわね。
あの時の貴方を見ているせいか、私達は貴方を変えられる程、強くは言えなかったの。』
「………ある意味、それで助かっていたんだ。
君はそれでも俺にロアを通して協力してくれていた訳だしな…。
日々に忙殺されて、それで時が過ぎて…思い出した時は衝撃は大きかったが、
…当時程じゃなかったよ。哀しいがな。」
そう話す男の右耳では金色のピアスが今日も揺れている。
外すことは出来ない。
「彼らは俺の過去を、本当の意味で仔細まで知らないからこそ、変えることが出来たのかもしれん。
……協会の方は相変わらずか?」
■羽月 柊 >
『ええ、大して変わり無いわ。
ロンドン支部に出向く用事があって、あちらに少し販路を広げたぐらい。
今回のお手伝い妖精もそうだけど、妖精界関係の仕入れが楽になったわね。
まぁ、学園の情報を欲しがってるヒトはやっぱり多いわね。
こちらとかなり性格が違ってきてしまっているから。
知ってる? こっちから偵察に来てるヒトが居るっていう話。』
大変よねと電話越しの相手が笑う。
男はそれを聞くと、軽い溜息。
「まぁ、いざこざにならんなら良いさ。
ただでさえ最近いろいろあったばかりだからな。
黄泉の穴周りの事象は今度にでも、データを送るよ…。」
『私はもちろん悪いようにはしないし。
本部だってやっかみはしても、そうそう大きな事はしないわよ。
財団の運営する学園都市は、"サンプル"としては最良の地だもの。
私達みたいに、一般向けの技術の解放に対して反対しないヒト達にとっては特にね。
せいぜい躾の出来ていないわんちゃんに困っている程度のモノだわ。』
犬なら喉笛を噛み千切られるかもしれんぞ?
なんて冗談を返しつつ、会話は続く。
『光の柱もそうだけど、『トゥルーバイツ』とやらのデバイスのことも知りたかったわね…、
でも、私達のような木っ端が扱うには、少しばかり危険が大きそうね?
『真理』なんていうのは、私達みたいな旧来の組織でもちょっと特殊な位置だわ。
まぁ、喉から手が出そうなぐらいに欲しがるヒトは他にもいるかもしれないけど。
交渉の材料にするには、聞く限りリスクが大きすぎるわね。』
■羽月 柊 >
『じゃあね、柊。"呼び鈴"はロアに渡しておくから。
元クラスメイトとしては、貴方の元気な声を聞けて良かったわ。
貴方も少しは、これで前を向けると良いわね。
せいぜい大事になさいな。新しい友人や弟子を、ね。』
最後の声は優しく男の耳を撫でる。
柊もまた、柔らかい表情で。
「あぁ、ありがとう。"ミモザ"。
君たちのこともこれまで通り大事だよ。
俺が香澄を失ってから、色々な面で助けてくれた訳だからな…。
だから、これからもよろしく頼むよ。」
じゃあな、と言って通話を切る。
小さな魔法陣がふっと空に掻き消えた。
ジリジリと照り付ける夏の眩い太陽を見上げながら、スマホを仕舞いこむ。
男は変わっていく。
古い絆と新たな絆をその身に。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から羽月 柊さんが去りました。