2020/09/06 のログ
園刃 華霧 >  
衣食住が整っている。たしかにそうなのだ。
今日の棲家すらも怪しかった時とは段違いの環境の良さ。
ただまあ――


「ヤっぱ、ソれが大きいヨなー。
 ッテも、部屋で落ち着イて寝ラれるマでだいぶカかったけド。
 ソッチは?」

ぐっすり眠っている間に襲撃を受ける、なんていうこともよくあった。
お陰で、何かあればすぐ目覚める、は当然今でもそうだし。
そうでなくても、ベットで落ち着いて寝る、なんてコト自体が逆に落ち着かなかった。

相手はどうだったのだろう?
アタシが過敏だっただけなんだろうか。


「最高の友達……そっカ。流石、あかねちんダな。
 まッタく……」

自分にとっても、最高の友達だ。
もう手が届かない場所にいようと。
彼女に恥じない生き方をしよう、という思いは消えることはない。

「……ッテか、ズボラだったンだナあかねちん。
 いヤ、薄々ソれっポイ気はシてタんだケど……」

トゥルーバイツでは、取りまとめとして意思統一できないメンツを抑える都合もあって
きっと、そういう面を見せることが出来なかったのだろう、と思う。
仕方のないことだけれど、ちょっとだけ寂しい。


「……ット、そーダな。じゃ、ソれだけ言わレたら……アタシも言わナいと。
 アタシはあの時、トゥルーバイツであかねちんと一緒に活動してた。
 アタシにとっても、あかねちんは最高の友達だよ。」

最高の友達の、友達。
まさか、こんなところでも繋がるとは思わなかった。

運命とか、カミサマとか
そんな者は欠片も信じる気はないけれど。
これは、あかねちんが引き合わせてくれた縁かもしれないな。
うん、あかねちんなら信じられる。


「オ。旨いもの情報?
 いいネぇ、アタシもソッチのほうが好み。
 アタシだと……ンー……喫茶店とか……
 後、アレだ。肉。肉だ」

一瞬、女子力っぽいことを言っていたが後は実に肉食、というか……であった。

鞘師華奈 > 仲間が居た、他所と縄張り争いもした、戦いも、時には殺し合いも、奪い合いも日常茶飯事で。
あれはあれで、必死だったし環境は良くなかったが――生きている実感はあの時の方がもしかしたら強かったかもしれない。

「あー…うん、違反部活が壊滅してから、風紀に保護されて正規学生になる少し前までは落ち着かなかったかな。
ただ、私は元々は異邦人街の生まれ育ちで普通に暮らしてた時期があったからね。
だから、最初は落ち着かなかったけど、意外と早く慣れたよ…あ、でも眠りは今も浅いかも。
落第街での暮らしの名残というか、眠りが深いと隙だらけになるしね」

おそらく、環境の変化に対する慣れは普通に暮らしていた時期を経験してたので、自分のほうが早かったかもしれない。
ただ、眠りが浅いのは彼女と同じくだ。矢張りそこらは染み付いた習慣みたいなものかもしれない。

「うん、少なくとも服は脱いだら脱ぎっぱなしが多いし、料理とか全然だから私が偶に作ってたし。
あと、洗濯とか掃除も偶にあかねの部屋を訪ねて私がやってたかな…」

当時を思い出せば懐かしそうに…が、苦笑気味なのはまぁ仕方ないだろう。
カギリを改めて見る。――きっと、あかねの事だからカギリとも親しかったのだろうな、と。

「―――!…それはまた…奇遇というか…成程。…そっか。ちゃんとそういう相手が他にも居たのかあの子も」

カギリの言葉に、最初こそ驚きで赤い瞳を丸くしたが…直ぐに微笑んで頷いた。
本当、かつての喧嘩相手同士が共通の最高の友達が居た、というのは奇縁というべきだろう。

――ああ、神様なんて私は別に信じていない。それより身近な誰かを信じる。

「肉かぁ。屋台だと流石にがっつりと肉料理は限られるかもしれないね。
やっぱり、そういうお店は商店街とかあの辺りの庶民的な場所が結構穴場が多いんだよね」

でも、底下通りも悪くないよ、とお奨めしてみる。まぁ、女は酒も嗜むから底下通りは偶に出向くのだが。

園刃 華霧 >  
「ハー……ヤッパ、そンなもんカー……
 ま、これバっかリはしょーガないヨな。
 習性ってイうんカね? そーゆーレベルでしょ、それ」

まあ、治らないものはしょうがないし。
それで苦労していることもない。
なければ、まあいいのだろう、とは思う。

……いや、たまに。
たまにだけれど、眠りが深いほうが良かった、と思うことがないわけでもない。
気づかなければよかったことを知ってしまうことも、ある。


「うーワ、想像以上にズボラだ。どっチかってート、アタシ寄りの属性じゃン。
 そっカー……トゥルーバイツのときは、結構無理してタんかナー……」

しみじみと、口にする。
仕込みから始まって、色々な工作の山。
それはもう、大変だっただろうしスキだって見せられなかったはずだ。

それを考えれば。
スキを見せられた目の前の相手の存在は、とても貴重だっただろう。

あかねちんにもそういう相手が居たことが、とても嬉しい。


「そーネぇ……アタシも、なンだっけ。
 シュラスコ? とカいうノ、商店街で見っけタしねー。
 そうイうのはアッチのがイーかモな。」

うーん、と考える。
まあ場所の特性はしょうがない。

「ンじゃ、とりアえずナんでモいーヤ。
 お勧めの店、教エてヨ。
 アタシも、なンなら紹介するカらサ」

鞘師華奈 > 「そうだねぇ…少なくとも、私とカギリで眠りが浅めっていうのは今でも同じみたいだし…。」

本当、落第街での環境の名残は完全には消えないものなのだなぁ、と思いつつ。
勿論、特定の相手の前では熟睡に近いレベルで眠れる事も在る…けれど。
何時も一人で寝る場合は、どうしても眠りが浅めになってしまうのは否めない。

「――多分だけど、トゥルーバイツの時は結構気を張ってたんじゃないかなって。
私はトゥルーバイツとは関わりほぼゼロだったし、気を抜ける相手だった…と、思いたいけどね。
それに、私はあかねを”待つ”事を”選択”したから…カギリは私とは逆だったみたいだけど」

だから、カギリだけにしか見せない面だってもしかしたらあったかもしれないのだ。
それは、彼女にしか分からないし彼女とカギリに何があったのか。それは二人だけのものだ。

「シュラスコ…あーそんなお店あった気がする!今度行ってみるかなぁ。
じゃあ、案内するよ。店主は異邦人街の人だけど、こっちの文化とか料理も精通しててさ?
あ、ちなみにお奨めはシシ・ケバブとか焼き鳥の類かな。何か和洋折衷というか国籍問わずに肉の串焼き系ばっかな屋台だけど」

笑いながら肩を竦めつつ、さて。じゃあ、新たにお互い交友を深める記念だ。

「私が奢るよカギリ。あ、でもある程度は手加減してくれよ?私も財布の中身は潤沢じゃないし」

と、肩を竦めてみせつつ、それじゃ行こう、と彼女を誘って歩き出そうと。

――ちなみに、財布の中身は何とか無事だった。無事だがごっそり減ったかもしれない。
そんな一幕――これが、違反部活荒らしと崩解と呼ばれた少女たちの、新たな交友の出発点となった。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から鞘師華奈さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から園刃 華霧さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」に干田恭支さんが現れました。
干田恭支 >  
「こっち!ほらこっち早く!急いで!」

裏常世渋谷の片隅、灰色の霧に覆われた街。
逃げ惑う人々の避難誘導をしながら、少年── 干田恭支はそこに居た。
常世学園の制服を身にまとい、生活委員の腕章を着けたままの姿は異常な街の中であまりにも正常に見える。

「ほら、こっちこっち!早く!」

恭支の声に導かれる様に数人の学園生徒が“何か”から逃げてくる。
足を縺れさせ転んだ生徒を助け起こし、他に生徒が居ないのを確認すると少年は小さく息を吐いた。

「うーん、今回はどうにもタイミングが悪かったみたいだ。」

その表情は険しく、軽くした唇を噛む。
視線の先、人々を追っていた“何か”が霧の中から姿を現した──

干田恭支 > 灰色にけぶる霧の中から現れたのは、家一軒分はあろうかという大きさの蜘蛛だった。
──否、蜘蛛のような何か、だ。

大まかなシルエットそのものは蜘蛛だが、その細部があまりにも異様。
長い脚部は全て人間の腕を模しており、本来目にあたるべき場所からは複数の人間の上半身が生えている。
その上半身たちは一様にこちらへと腕を伸ばしてうめき声を上げていた。

「あんなでかい怪物、初めて“ここ”に来た時以来だな!」

じり、と対峙する恭支の頬を脂汗が伝い落ちる。
異形の蜘蛛から発せられる威圧感は、まだ数十メートル離れていても体中に突き刺さるように放たれていた。

「ちゃんとみんな逃げられたかな……」

目の前の脅威を直視したくなくて、恭支は共に裏常世渋谷へと踏み込んでしまった人々の身を案じる。
少なくともさっきまで誘導していたので全員、のはずだ。

干田恭支 >  
『──────ッッッ!!!!』

蜘蛛から生えている人体が、一斉に叫び声を上げる。
老若男女様々な声が、あたかも地の底から響いてくるかのように街を震わせる。
内臓を鷲掴みにされているかのような不快感に額からも汗が噴き出して恭支は否応にも蜘蛛と向かい合った。

──次に目を逸らしたら、殺される。

理屈じゃなくて本能的にそう理解する。
“アレ”は理屈なんて通じない怪異だ、と。
まだ離れているから大丈夫、だなんてどうして確信できるのだろう。

「いやまったく……今日はツイてない、なッ!」

ぼやいた瞬間、蜘蛛から高速で何かが放たれる。
反射的に身を投げて交わした恭支の上を通り過ぎ、建物の壁にぶつかったそれは、真っ黒いタールのような色の『網』だった。

干田恭支 >  
「糸……糸かアレっ!?
 なんかめっちゃ黒々してて、ドロッとしてて──」

地面を転がった勢いのまま起き上がりつつ、横目で『網』が付着した建物を見る。
建物の壁が白い煙を上げて融けていた。
もしまともに被っていたのが自分だったら──そう考えて、恭支の背筋がゾッとする。

「ツイてないってレベルじゃないじゃん、もうさ!」

吐き捨てる様に叫びながら、恭支は制服のポケットを探った。

この先には逃がした人たちが居る。
あんな怪異、並の人間が太刀打ちできる相手ではない。
逃げたところであの巨体から逃げ切れる自信も無い。
──だったら、今、恭支に出来る事は一つしかない。

「“あの時”は何も出来なかったけど……今は違うっ!」

ポケットから取り出したのは薄型のスマホのような端末。
その表面を指で叩くと、白と黒の勾玉が組み合わさったような円形の印──陰陽魚や対極図と呼ばれるそれが浮かび上がる。

「ここでアイツも見つけてないし、明日もパイセンに扱かれなきゃだし……まだまだ死ぬわけにいかないんだ。」

印を指先で回すようになぞり、制服のズボンのバックル辺りに飾す。

「──変身っ!」
 

干田恭支 >  
表示されていた陰陽魚から眩い光が放たれる。
全身を光が包むと同時に、恭支は蜘蛛の怪異へと駆け出していた。

『────ッッッ!!!!』

言葉では形容できないような叫びが再び放たれ、同時に複数の『網』が恭支へと放たれる。
しかし、駆ける恭支の正面に巨大な陰陽魚が投影され、『網』を受け止め蒸発させるかのように霧散させる。

「こンの……食らえぇ!!」

恭支を包んでいた光が集束し、現れた姿は強化外骨格スーツに包まれていた。
投影されていた陰陽魚が縮小し、腰のベルトのバックルに納まる。

駆けてきた勢いのまま、蜘蛛の怪異の脚の一本へと恭支は拳を繰り出していた。

「………硬ぁッ!?」

鈍い音と共に叩きつけられた拳はしかし、怪異の外皮に傷一つ付けられていない。
思わず殴った拳を押さえて数歩後退する恭支。

干田恭支 >  
「パンチ力、結構あると思うんだけどなあ……おっかしい、なァ!?」

殴った拳を振ったり握ったり開いたりしていたところに、蜘蛛の怪異の腕が振り払われる。
慌ててバックステップし事なきを得る恭支だが、蜘蛛の怪異は関心を彼よりもその後ろ、逃げた人たちへと移す。

「あっ、やばやばのやばじゃん……!」

這う様に動き出した蜘蛛の怪異を見て、焦る恭支。
強化外骨格のパワーを載せてもびくともしない外皮を持つ相手なんて、なおさら一般人が相手に出来る筈も無い。
戦闘向きな異能の持ち主が居れば良いが、居たら多分そもそも逃げていないだろう。

「くっそ、ただのパンチがダメなら……焼いちゃうぞ!」

バックルの陰陽魚に指で『丙』と書き、更に印を指先で回すようになぞる。
右肩に誂えられた陰陽魚の印から火炎が吹き出し、恭支の腕を螺旋を描くように包んでいく。

「もういっちょ、食らえッ!!」

去ろうとする蜘蛛の怪異の脚へと再び近づくと、今度は炎を纏ってのパンチを見舞う。
拳がぶつかると同時に火焔が弾け、燃え盛り蜘蛛の怪異の脚へと燃え移る。

干田恭支 >  
パチパチと火の粉を撒き散らし燃え上がる蜘蛛の怪異の脚。
流石にそのまま移動は出来ないと判断したのか、金属が軋むような金切り声をあげて蜘蛛の怪異はその場にとどまる。

「効いたっ!……もしかしなくても今がチャンス!?」

再度腰の陰陽魚印を回す。
今度は膝に誂えられたシンボルから炎が噴き出し、恭支の脚がたちどころに燃え上がる。

「頼むよ、今度も効いてくれよ……ホント頼むよ……!」

懸命に祈りながら恭支は両の脚を揃え大きく跳躍。
強化外骨格によって増したジャンプ力は、蜘蛛の怪異の頭上まで軽々と跳び上がった。
目標である蜘蛛の怪異を見据え、恭支はバックルを指でタップ。
すると変身時の様に巨大な印が投影され、蜘蛛の怪異の足元で動きを封じ込める。

「──そりゃぁぁぁぁぁッ!!!」

ぐん、と印に引かれるかのように空中で落下を始めた恭支の勢いが加速。
同時に足に纏っていた炎も勢いを増し、大きな炎の塊となって蜘蛛の怪異の背を飛び蹴りの姿勢で貫いた。

『─────!!!!!』

形容しようのない断末魔を上げ、炎に包まれながら蜘蛛の怪異は巨体を持ち上げて天へと手を伸ばしながら──


───派手に爆炎を上げて爆発四散したのだった。

干田恭支 >  
「ハァ……ハァ…、か、勝てた……?」

蜘蛛の怪異の肉体の破片と思しきものが燃えている中、恭支はバックルへと手を掛け、それを外す。
するとたちどころに変身が解け、普通のありふれた制服姿の少年へと戻った。
異物が燃える焦げ臭さに顔をしかめながら、それでも満足げに恭支は拳を天高く突き上げた。

「やった。……勝てたんだ。やりゃ出来るんだ。
 今度は──ちゃんと護れたかな、俺。」

疲労の色を濃く浮かべた顔で、にっこりと笑みを浮かべる。

裏常世渋谷──初めてこの地に彷徨い込んだ時。
干田恭支は幼馴染と共に怪異に遭遇し、結果幼馴染は行方不明のままだ。
その行方不明の幼馴染を探すため、恭支はこうして足繁く裏常世渋谷へと潜っている。

「あー、もうダメだ。やっぱまだ身体が慣れねえー
 もーめっちゃ疲れる~!」

大の字になってその場に寝転ぶ。
戦闘後の高揚状態の所為か身体が熱く感じる。
炎が弾ける音がやけに大きく聞こえ、次第に焦げ臭さも強まって来て──

「って熱ちちちちち!?服が、服が燃える!!」

寝転がった際に袖に引火した火を、慌てて消しにかかる恭支が居た。

干田恭支 >  
「そ、そうだ……さっきの人たち、無事かな。」

怪異を倒せたからと言って元の常世渋谷に戻れるわけでは無さそうだ。
それならば先程の人たちと早く合流する必要がある。
恭支は力の入らない足を無理やり立たせ、よろよろと歩き出す。
その姿は怪異を倒したヒーローと称するにはまだまだほど遠い。

「あはは……今後も戦う時は、なるべく人目につかないようにしなきゃだ。」

自嘲気味に笑いながら、生まれたての小鹿の様にぷるぷると震えながら歩く。
ヒーローには遠くとも、今日確かに一歩前進したことを噛み締めながら。

干田恭支 > ──そして、どうにか他の遭難者たちと合流したタイミングで疲労から気を失った恭支。
それとほぼ同時に、恭支を含めた全員が無事に裏常世渋谷からの帰還を果たしたのだった。

ご案内:「裏常世渋谷」から干田恭支さんが去りました。