2020/10/09 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に鞘師華奈さんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷」に夢莉さんが現れました。
朧車ロ型 >  
『――――次は、三途、三途』

裏常世渋谷に、無機質な電子音が鳴り響く。
怪異『朧車』
その亜種である炎を纏った個体…ロ型と言われるそれは、まるでそこが駅か何かだと勘違いしているかのように、裏常世支部のスクランブル交差点を根城にしていた。

線路もない場所に佇む燃え盛る列車は、眠るかのように動きを止めている…
それでも炎だけは消えておらず、周囲のコンクリが赤く変色しているだろう……

夢莉 >  
「……うし、ゾネさんの言った通りだな。こっちで見たぜ、そっちはどうだ?」

――――そんな朧車を、ビルの影から見張る人物が一人。
目深に帽子を被り、コートを羽織ったその人物は、一見すると女性のように整った顔をしているだろう。
耳元にはヘッドセット型のインカムがつけられており、それによって誰かと連絡を取っているらしい。

手元には、華奢な体には不釣り合いの拳銃が一丁。
表の世界では物騒な凶器そのものだが、目の前に存在する列車相手では、明らかに獲物として不足していると言わざるを得ないそれを、両手で重そうに構えているだろう。

鞘師華奈 > 「――あぁ、こっちでも確認した――しかし、怪異の根城の特定とかゾネさんの情報収集能力は相変わらずだなぁ。」

いや、あの人の場合は『人脈』…か。こちらは仕事の邪魔にならぬよう、耳にぴったり嵌めこむタイプのインカムにて公安の相棒へと返答を返す。

服装そのものは何時ものスーツ姿だが、胴体、腕部、脚部には耐熱・耐衝撃仕様のプロテクター、腰には青い手榴弾が3つほど。
そして一番目立つのは、左手首から肩口付近まで密着するように装着された銀色の機械式の篭手、のようなもの――。

「…ゾネさん、こんなの何処から仕入れてきたんだろうね、本当…まぁ、いいか。
――ユウリ、ぼちぼち始めよう。手筈通りに頼む――時間はあまり掛けられないからね」

彼にも簡潔に説明しているが、今回の要となる自身の”炎”の能力はまだ制御も不安定で出力にムラが多い。
だが、同じ炎相手ならやり易いと踏んで、今回はロ号標的を決めたのは自分だ。

(さて――こういう戦闘は3年ぶりだけど――鬼が出るか蛇が出るか、と)

――現在地…ロ号が佇むスクランブル交差点から程近いビルの屋上にて、静かに標的を見下ろす。

夢莉 >  
「昔のツテだろ。その辺探ってもロクな事なんねーぞ。

 …OK,んじゃ、トチんなよ?」

息を深く吸う。
相手は燃え盛った鉄のバケモノ、こっちはチャカ一丁。正気の沙汰じゃあねえ。
こんな状況に立ち入るような役割を今までやってきたわけでもねぇ。
だから自然に、汗と震えが止まらなくなってる。

…大丈夫だ。事前にやれる仕込みはしといた。
手筈通りにやりゃいい。
今回オレは”引き立て役”だ。本命の為に……馬車馬になりやがれ。

さて……行くか。

覚悟を決め、ビルから飛び出して銃を構え――――撃つ。
反動で腕が跳ね上がる。
痛ってぇ。

朧車ロ型 > カァンッ!!

放たれた銃弾は、朧車の近くにあった電灯に命中し表面を凹ませる。
素人の撃った銃がそう簡単に当たる筈もない。
だが……その銃声は、朧車が”獲物”に気づくには十分な音。

『――――――』

金属が擦れる音と共に、その巨体が動き出す。
般若の面が、夢莉を見る。
完全に相手を――――とらえるだろう。

『――――次は、煉獄、煉獄』

まるで死へと誘おうとするかのように、その鋼の塊は、小さな”標的”へと……車輪を回し始めた。

夢莉 >  
「――――来やがった!!
 それじゃ、タイミングになったら呼べよ!!」

ぞくりとする寒気を感じながら、即座に逃げるように駆け出す。
真っ直ぐ走ってもすぐに追いつかれるから、建物を縫うように、ジグザグと。
その道は朧車の巨体が入るとはとても思えない、ビルとビルの隙間だ。

「これで撒けりゃ最高なんだけどな…ッ!」

朧車ロ型 >  
――――が

そんな淡い期待は呆気なく砕かれる。

巨大な列車が、速度を上げてビルの隙間へと飛び込む。
ビルを避ける事などせず、真っ直ぐに。

巨大な質量と質量が、ぶつかり合う音。
それと共に、まるでねじ込むかのように車体をビルの隙間へと入れてゆく。
押しつぶされたコンクリートやガラスが、ビルの隙間へと雨のように落ちてゆく。
ビルが半壊し、揺れる――――

夢莉 >  
「おいおいおいおい‥‥…っ!!」

予想はしていた。けど、流石に目の前で起きると迫力がゼンゼンちげぇ。
振ってくる瓦礫に注意しながら、兎に角、建物を縫って走り続ける。
もう既に息が苦しい。走るのがキツい。

「クソッ…煙草もう少し控えとくべきだったか…!?」

そう言っていれば、ブーツの先が落ちた瓦礫を引っかけてしまう。
瓦礫を蹴り上げるような力もなく、不意に引っ掛けたそれに体制が崩れる…

「やべっ…!!」

情けなく転んだ彼の背後には、瓦礫を押しのけて迫りくる、炎と鋼の塊。
般若の顔は、的確に彼の方を睨んでいた――――

鞘師華奈 > 「触らぬゾネさんに祟りなしって?了解了解。――そっちも、張り切り過ぎないようにね?」

軽口交じりのやり取りを最後に一度通信を終える。さて――切り替えよう。
左腕がこの物騒なブツで動かし難いが今は我慢だ。右手に嵌めた革手袋の裾を口元で引張りつつ眼下の光景を眺め――


――カァンッ!

響き渡る一発の重い銃声と何かに弾かれる金属音。それを合図に女も動き出す。

(―――次は”煉獄”だって?)

――面白い。よりによって、私の前でその言葉を怪異のお前が口にするのか。
無意識に口元が薄く吊り上る――ああ、いいだろう。行ってやる。”既に通り過ぎた道”だ。

「――――っと!?」

ユウリのジグザグの撒くような逃走などお構いなし、とばかりに車体をビルの隙間にねじ込むような体当たり。

その衝撃で女が佇むビルも崩れ始めるが、ひらり、と飛び降りて――右腕を一振り。
”何か”を射出したかと思えばソレは別のビルの壁面へと突き刺さり、そのまま振り子運動のような動きで別のビルへと飛び移り、そしてまた別のビルへと飛び移りながら相棒と怪異の後を追う。

(―――あ、コケたな…。)

彼の方を見ながら心の中で呟く。相棒の能力を知っていなければ焦っていただろうが、知っているからこそ信じているし――彼だからその役割を任せられる。

夢莉 >  
「っ痛ぇ……! って…!!」

眼前に迫る巨大な炎熱の怪物。
熱は肌をチリチリと焼きはじめ、明確な殺意をもって迫ってくる。
足をくじいた。体制を直して逃げても……確実に追いつかれて…
そのまま、こんがり焼かれてサヨナラだ。

「―――――っ!」

が…この位の誤差は”想定範囲内”だ。
”こういうときの為”のオレだ。
直ぐに持っていた銃を捨て、両手を合わせる。
ぱんっ…という音が鳴り響く。

      や り 直 し
「――――『リセット』!!!」

瞬間、朧車の眼前から夢莉の姿が――――消える。

朧車ロ型 >  
『次は――――?』

一瞬で消えた”標的”
何処にいった?というように、朧車は周囲を確認する。
あるのは、落とした銃。
自身の炎に焼かれぐにゃりと形を変えていくそれだけだった。



ダァンッ!!!

突如銃弾が、今度は朧車に命中する。
ちょうど顔面の横、車輪の少し上ほどの位置。
そこを小さく凹ませる。

夢莉 >  
「こっちだブサイク!!」

撃ったのは、先ほど眼前にいた筈の”標的”が、大通りにいた。

再び発見した”標的”に迫ろうとするが……一度止まったせいか、狭いビルの隙間を通り抜けるのに少し手間取っている様子だ。

「カナ、こっちは予定通り進んでるぜ。そっちの準備はどーだ?」

鞘師華奈 > 「――ほんと、見てる分には地味に心臓に悪いよね君の能力は……。」

彼が”消えて”別の彼が大通りから銃撃を放つのを眺めながら一息。
分かっているし、信じてもいるが…まぁ、そういうキモチを完全に消せる訳ではない。

「――こっちはもう少しで標的の”頭上”――あと10秒カウントで仕掛ける。

――10…9…8――」

左腕に装着したブツ――”試作型”腕部装着式携行型杭打ち機――『ジャガーノート』を構えながら、ビルとビルの間を飛び移りつつロ号の頭上へと接近する。

夢莉 >  
「慣れろっつーの。
 こういう役割なんだからこの先腐るほどみるぜ? 

 OK,んなら……それまで釘付けにしてら。
 生憎注目浴びんのにゃ慣れてんでな。」

そう言いながら、眼前のビルの隙間から這い出てくる朧車を見据える。
再び迫る怪異。
逃げる事はしない。そこに、佇む。

7……6……5……

そして、抜け出した朧車は炎を纏いながら再び飛び込んでくる。
こちらへ―――――――

”カナが落下するポイント”へ―――――

……4……3

「…どーも、オツカレサン。
 でも悪ぃな、趣味じゃねぇんだオマエ」

2……1

    や り 直 し
「―――『リセット』!」

再び、目の前の”標的”が消える。
朧車は”標的”を見失い……何処へいったのか、と周囲を探る。

動きが…止まる。

鞘師華奈 > 「慣れればいいってモンでもないんだけどね――」

7…6…5…

ゆっくりと息を整える。その瞳が爛々と赤く輝けば、女の黒髪が真紅の色彩へと鮮やかに変わっていく――


…4…3…

「同感だね――それに、煉獄を口にした以上、”ソレ”をきっちりコイツには見て貰わないと」

…2…1…

さぁ、久々の戦闘だ。どうせ相棒以外見ていないし…せいぜい、格好つけて無様に戦ってやろう。


再び彼が消えて、その姿を探ろうとヤツが動きを止めたその瞬間――その頭上、10数メートルはあろう直上から炎を纏い高速で落下してくる赤い人影――


次の瞬間、ロ号が纏う炎熱を”貫いてその先頭車両に杭打ち機を直接―――ぶち込む!!!

凄まじい轟音と共に、射出された特殊な超硬金属製の杭が、その”脳天”へと深々と突き刺さり――

鞘師華奈 > 「『赫い恐怖(レート・シュレック)』――アンタに煉獄を届けに来た」
鞘師華奈 > かつて所属していた違反部活の長――その異名を挨拶代わりに名乗れば、躊躇無く零距離で打ち込んだ杭を――爆発させた。

凄まじい爆風と衝撃を直接内部へと叩き込むが――


「――――チッ…!」


舌打ち―――”思ったより浅い”!!異形の顔の一部まで砕くほどの衝撃だったが、まだ致命傷じゃない。

(ああ、くそ――やっぱり勘が鈍ってるなぁ…!)

夢莉 >  
「っし…!」

当たった。
完全な不意打ちを、”ドッペル”によって元々待機していた物影から確認する。

かなり予定通りに近い状況。100点満点…
の筈、だが…カナの舌打ちの音が聞こえた。

「? どうし―――」

朧車ロ型 >  
『次h――――!!』

意識外の頭上から、鋭い衝撃が走る。
炎を裂いて、自身の脳天にあたる部分を貫かんとする、鋭い一撃。
たまらず悶絶するように車体を揺らす。

が…絶命は、まだしていない。
燃え盛る炎を強め、列車を揺らし、上から来た”もう一体の敵”を振り落とさんとする――――

鞘師華奈 > ロ号の特徴とされる能力は大別して2つ。
一つが纏火――超高熱の炎を車両全体に纏う、ロ号を象徴する特殊能力だ。
それも、自身の炎で”無効化”して不意打ちで直接重い一撃をぶち込んでやったが――

「――っ!」

燃え盛る炎が強まるが、それは自身の能力で無効化しつつ再び杭打ち機を構えようとするが――
…見事に衝撃で左肩が脱臼しているし、腕の所々が痛い。そもそも再装填している暇は無い。

そこに、ロ号の強烈な揺り動かしでバランスを崩しそうになるが、敢えて車体の上を転がるようにして下がりつつ、その途中でわざと車体に左肩をぶつけて無理矢理外れた左肩を嵌める。

「――やれやれ、”仕切り直し”か…格好つかないね。」

呟きながら、ユウリに「ごめん、プランBで」と告げる。勿論プランBなんて無い。

夢莉 >  
「マジか…って、んなモンねぇだろうが…!」

ヤベェ、プラン失敗か…?
じゃあどうする?
とりあえず、オレじゃコイツはぶっ殺せねぇ。それは確定。
だから、カナの釘打ち機でもう一発脳天をブチ抜かねえといかない訳だが……

見つかった以上今のままじゃもう一回ってのはキツいだろ。
”もう一回”あのブサイクの隙を作らねえと拙い、って訳だ。

『頭使っていこう』

あーくそッ、分かってるっつうの。
今ねぇ頭で考えてるっつーの!
オレはオトリ。兎に角朧車の注意を惹くオトリだ。
で、カナが本命。
カナの攻撃の為の隙を作るのが仕事。だから……

「カナ!もっかい同じカンジで! えーっと……どんくらいで上取れる!?
 で、あー…ゾネに連絡!”行き止まり”探して教えてくれ!」

鞘師華奈 > 「だよねぇ…頭を使っていけってボスもそういえば言ってたっけ…。」

苦笑気味に呟きながら、既に身を起こしてまだ車両から振り音されずにいる。
どのみち、杭打ち機の再装填は時間が必要だし、まだ威力が足りない――と、なれば。

(ジャガーノートのリミッターを解除すれば…いや、衝撃で私も無事では済まないけど)


――ふと悪寒。反射的に身を捻るようにして横っ飛びに飛ぶ。
瞬間、彼女がついさっきまで居た空間を、炎の魔力が凝縮された石炭の塊が通過していく。

(『噴火』の特殊能力――!確か石炭を飛礫みたいに飛ばしてくる遠距離攻撃だったかな)

ただの石炭ではない上に、高速で撒き散らされるので厄介だ。炎の魔力自体は無効化しても衝撃までは吸収出来ない。

と、そこでユウリからの言葉に我に返りつつ体勢を立て直して。

「ゾネさん、”行き止まり”はこの近辺にあるかい?――ああ、了解。ユウリ、そっから東に50メートル先!上を取るまで10…いや、5秒欲しい」

告げながら、再び飛んでくる無差別な『噴火』攻撃を回避しつつ、右腕を一振り。そこから伸びた極細の黒いワイヤーが、手近な建物の壁へと突き刺さり、そのまま飛び上がって一度離脱する。

夢莉 >  
「了―――ッ!!」

言おうとした最中、跳んできた燃え盛る石炭が頭上から飛来してくる。

「い”…ッ!!」

咄嗟に避けようとしたが、左手に当たって体が吹き飛ぶ。
腕が嫌な方向に曲がる、耐火服の上からすら感じる熱が腕を焼く。
衝撃で破け露出した左腕は、見るも無残に焼け爛れているだろう……

「ッ、ぁぐ…っ、ふぅ…っ、…っ、はー‥っ」

腕の痛みと、体の脱力感。
炎の中に手を突っ込んだような熱さが腕に残り続ける。


なんとか体を起こし、朧車をちらりと見る。
狙いを定めてるのは、こっち。
完全に不意打ち食らってるんだから、当然っちゃ当然。

嫌な汗。
やべぇ、結構泣きそうだ。

腕一本折れた…って事は、ドッペルの解除条件の一つ―――手を叩いて『リセット』を宣言するという動作が出来ないって事だ。
ならなおさら、やる事は一つしかねぇ。

「っ、クソが……!!
 カナ、予定通り…っ! 兎も角、オマエは”やる事”だけ考えてくれ…!}

そう言いながら、言われた地点へと走り出す。
足取りは、先ほどよりも数段遅い。

「っ…はー…ッ、っ……けほっ…はー、ふー…っ!」

クラクラしやがる。でも残っても殺されるだけだ。
仕事しろ、仕事を…!

鞘師華奈 > 「ユウリっ―ー!」

インカム越しに聞こえてくる何かを食らったような苦悶の声と息遣いの荒さ。
――噴火の能力の余波か…!矢張り初撃で仕留め切れなかった自分の責任だ。

――何時まで怠惰になっているんだ私は。もっときっちり仕事をしろ――覚悟を決めろ。

「――ユウリ、その調子だと予定地点までに殺される。――それじゃあ作戦にならない」

――そう、だから――。

「…だから、私が今ここできっちり仕留める」


その声は朧車と彼の間――ワイヤーの立体移動で無理矢理両者の間に割り込む形だ。
一瞬、確かに相棒と目が合っただろう――その赤い瞳は静かに相棒を見据え――笑った。

「――ゾネさん、”最悪の場合”ユウリの回収を最優先で――頼んだよ」

告げれば、再び左腕に装着した杭打ち機を構える。だが、先ほどまでとは少し違う。
杭打ち機のあちこちから蒸気が噴出し、唸り声のように内部の機関が轟く。

「音声認証、臨時使用者――鞘師華奈。登録コード。■■ー■■■――リミッター解除。『ミョルニル』起動」

そして―――

鞘師華奈 > ヤツの面へと、二度目の、そしてリミッター解除の全力の一撃を叩き込む――だが、それでは足りない。

念には念を入れて―――”跡形も無く潰す”。

インパクトの瞬間、自身の能力にて、疲労や痛みを破壊力に変換して上乗せする。
更に、自爆覚悟で自身の炎の力で爆発を起こし噴射加速――!!

(――私の腕ごと吹き飛べ――!!!)

夢莉 >  
「は――――!?」

走る中で、インカムからの声に返事でもない反応をした。

「待っ……おい、オレの指示通…!」

振り向く。目を見開いて。
オレの怪我はまだマシだ。痛ぇけど、どうにでもなる。
だからやめろ。
下手な真似するな。
言われたろうが。
『頭使え』って。

朧車ロ型 >  
夢莉に迫る朧車の前へ、飛び込んでくる少女。
先ほど自分に致命傷になりえる一撃を与えた”獲物”
だが、関係ない。
質量をそのままぶつければ、人間は簡単に、死ぬ。

そう思い、そのまま突撃し――――――

朧車ロ型 >  
――――”破壊された”のは、朧車の方だった。

突進の勢いを急に止められ、行き所をなくした衝撃が列車を宙へと浮かせる。
後部車両まで走る衝撃は一直線の稲妻のように走り、光を伴って二つに裂けてゆく。

およそ、人の放つ一撃ではないそれが。
有無を言わさず朧車の全身を、粉々にする――――

鞘師華奈 > 凄まじい衝撃と反動が全身を襲う――特にその左腕は――…。

(いや、まぁ――そりゃそうだよね。)

リミッター解除した物騒なブツに自分の能力を2つ重ね掛けしてぶつけたのだ―――ヤツや杭打ち機ごと”吹っ飛んだ”。

そのまま、ロ号が粉々になったのを笑みながら確認し――地面へと叩き付けられて数度転がっていく。

「――あー…”頭を使え”って言われたのになぁ」

そのまま、仰向けに倒れつつ呟いた。既に髪の毛も赤から黒へと戻っており。
プロテクターも粉々になっており、その下のスーツもあちこちが千切れて素肌が見える程だ。
それほどの衝撃があったのに、むしろ肉体が原型を止めているのがむしろ奇跡的だろう――

夢莉 > 「……
 っ…カナ!! カナ!! ぁっ、痛……ッ…」

信じられないものを見た、という顔から一転し、彼女の吹き飛んだ左腕に気が付くと目を見開いて叫ぶ。
最悪だ。
こんなの、仕事を完了したなんて、とてもじゃないが言えねぇ。

「ふざけんなよ…っおい、カナ…!!」

叫びながら、おぼつかない足でそっちに向かう。
向かってる途中で体がぐらつき、地面に倒れ込みそうになり――――

梦 叶 >  
「おっと」

その体を、一人の青年が支えた。

鞘師華奈 > 「――いやぁ、…何か、さ。…”つい”体が動いちゃって…私もちょっとは熱血になったのかねぇ。」

3年間の怠惰な自分を思い返しつつ、そしてユウリの悲痛な声に苦笑いを零す。
ああ、頭を使うどころか先に体が判断して動いてしまった…全く、公安には向いていないな私は。

流石に、全身に強い衝撃を食らったので、意識はあるが直ぐには立てそうもない。
その目も脳震盪でも起こしているのか、焦点がややおかしいが――。

「―――?……その声、は…叶さん、かい?」

聞き覚えのある声――確かユウリの”元カレ”だった男だ。

夢莉 >  
「ァ…?」

自分の体を支えている男の方を見て、信じられないものを見たような顔をする。
いるとは聞いてた。
けど…

「カナ…っ?!…おま、何でここ…」

梦 叶 >  
「いやぁ何、つい偶然さっき。
 でっかいバケモノが暴れてるから何事もないようしないといけないかなーって隠れてたら、知ってる顔が大変な事になってたからついさ?
 
 ははは、久しぶり、ユウリ」

にこり、と笑う青年は、そのまま夢莉の体を抱きかかえてカナの方まで連れていく。
軽々、といった風に、お姫様抱っこで。

夢莉 >  
「うぁっ…ちょ…!!」

抱きかかえられる。
抵抗する余力もなく、片腕で離せとあばれようとして、もう片方の手の痛みで呻くのみだった。
そのまま二人とも、腕が”吹き飛んだ”彼女の方へとやってくるだろう…

鞘師華奈 > (取り敢えず――うん、私と彼の呼び方が同じ”カナ”で被ってない?)

と、そんな他愛も無い事をぼんやりと考えつつ、何やらお姫様抱っこされてこちらの傍まで運ばれる相棒を見上げて。
更に、そのお姫様抱っこをしている男は、相変わらず何処か掴めない軽いノリは健在のようだ。

「やぁ――叶さん。”こんな場所”で会うとは奇遇なもんだね…。」

と、かろうじて右手をゆっくり挙げて挨拶を返すように。もう片方の手は――さっき盛大に吹っ飛んだ。

(――さて、これを偶然、と思いたくはないけど…)

「――ユウリ、取り敢えずゾネさんに報告頼めるかな?…さっきので私のインカムも壊れちゃったみたいでさ?」

と、苦笑気味に彼へと頼む女は何時もより少しおどけているようで。そして痛みは顔には出さない。

梦 叶 >  
「随分やられちゃってるけど、大丈夫かな?
 いやまぁ…大丈夫じゃないかこりゃ。

 しかしまー…派手だったなー。何あれ、必殺技?
 やっぱ常世島は凄いな」

おぉ、グロい。とその傷口を見ながら言いつつ、夢莉を傍に座らせる。
前と同じ、物腰の柔らかい笑顔は周りの気配と異質を放っているようにも見えるだろう…

「ま……会った縁だし、ここでカナちゃんが酷い状態のままだとユウリも辛いだろうからさ。
 直してあげようかな。
 ちょっと痛むけど我慢してね?」

そう言いながら、彼女の傷口を躊躇いなく触るだろう…

鞘師華奈 > 「大丈夫――と、言いたい所だけど…ね。」

己がもし、”彼女”の推測どおりの■■■だったのなら、おそらくは腕は”元に戻る”。
だが、その保証は無いし何時戻るかも分からない。自分の事はまだまだ分からないのだ。

(――挑むべきは自分自身、か)

必殺技、と称した彼に違うよ、と小さく口にする。あんなのただのありあわせの自爆技でしかない。
と、直してあげようかな、という彼の言葉に不思議そうに顔を上げ――傷口にそこで触れられて思わず顔をやや顰めるが。

(これは――?)

何だろう、自分の中に眠る■■■とは全く違うのだが、同時に感じる共通点。

――再生の、力??

梦 叶 >  
触れると共に、その体がみるみるうちに”復元”される。
傷も、敗れた服も、気が付けば綺麗なものに戻っているだろう。

「…種も仕掛けもない…かな?」

にっ、と笑いながらそういうと、今度は夢莉の腕に触れて、同じように”元に戻す”
傷跡も残らない、元通りの状態。
痛みはまるで最初から”無かった事”のように、消えている。

夢莉 >  
「直すって…、…痛ッ! 

 ……ぁ?」

痛みで目を閉じてから、目を開くと怪我した筈の腕が袖ごと元に戻っている。
どういう事だ?という顔。
初めてみたような、そんな顔。