2020/10/11 のログ
羽月 柊 >  
恐らく、今回の『朧車』にしても、関わるのは圧倒的に生徒の方が多い。

祭事局、風紀委員、生徒会…。
"子供"が関わる数の方が、間違いなく多いはずなのだ。

「…そもそもにだ、ここに"来ることが出来る"モノの方が本来は珍しいだろうな。
 今は委員会総出で件の怪異に対処しているからというのは、あるだろうが。

 貴方も俺も、そんな"珍しい"モノだ。」

男はそう告げる。
黒い軽装は、動きやすさを重視していて、フィールドワーク向けとも言える。

「俺は、こちらに来れる身として、
 迷い込んでしまった生徒がいないかと見に来た"同僚"だとも。
 
 俺は羽月柊(はづき しゅう)。
 この夏に教師になったばかりの研究者だ。
 ……だから、驚いているんだ。
 怪異の事があるからと言ったって、教師同士が"こちら側"で逢うことがな。」

相手側にしたって、こんな所で呑気に話していても良いモノなのかとも思う。
男は話しながらも視線を彷徨わせ、己の目的を果たさんとはしていた。

橘 紅蓮 >  
「そういう事もあるだろうさ。
 なにせ、この島の教員は全てが善良な人間とはかぎらないのだからね。
 生徒も教師も、この島は地獄の窯の中の様なもの。
 何があってもおかしくもない。」

そうして自分達が出会う事も、偶然ではあったとしても其処にいたる理由には必然がある。
故に、珍しいとは思っても、そうおかしなことでもないと述べるのが紅蓮という人間であった。


「羽月柊。 なるほど、道理で面識のない筈だ。
 生真面目なのもうなづける。
 そんなものは風紀委員にでも任せておけばいいとは思うが、いや。
 そういう教師が居ても悪くはないか。」


この島に来る前の自分であれば、そのような思考も持ったかもしれない。
新人やら、若さやらというものはそういうものだ。
正しさやら、こうするべきだとか、そういうものに捕らわれたがる。
悪いとは言わないが、紅蓮はそれが嫌いだった。


「それで、怪異に怯える教諭はまだ、可愛そうな生徒を探すのかい?」


視線があちらこちらに彷徨う様子の羽月に、やれやれとため息を一つ。
仕事熱心なことだと、小言をもらした。 

羽月 柊 >  
実験都市。
この島はそういう名目の上に成り立っている。

数多の何もかもを詰め込んで、どうなるかを観察している。
それは表面上、観察出来たことは公に公開されてはいる。
しかし、落第街やスラムがそうであるように、この裏の常世渋谷がそうであるように、
"何もかも"がそうである訳ではない。

それにしても……カウンセラーだというに、
相手の言葉は、煽り、神経を逆撫でするようだ。

「…警戒はいくらしたとてやりすぎではないだろう、こちらの世界ではな。
 力のあるモノならば強引にでもどうにかなるやもしれんが、
 この世界は、力だけではどうにもならんことはままある。」

男はいつでも動けるようにとしていた。
腕を組むことも、腰に手を置く事もしていない。

話している最中でも、交差点という、本来ならば往来の場所であったとしても、
ここは全くもって、安全ではないのだから。

「これでも、風紀に知り合いは多い方でな。
 彼らとて"子供"なことには違いないだろう。
 
 手助けぐらいは、出来るだろうに。」

正しい正しくないという心持ちで来ている訳ではなかった。
そんなことを言い出したら、魔術師としての自分は正しさに裁かれなければならない。

橘 紅蓮 >  
「それは確かに。
 しかしそれほど危険と分かっていながら、お前にはそこまでして生徒を手助けする理由があるんだね。
 警戒しようが、どんな準備をしようが、死ぬときは死ぬ。
 君も私も、生徒もまた。
 それは私たちの業務内容には含まれてはいないだろうに。」

物好きなものだと、一度だけ、上から下まで舐めるように観察する。
子供が好きな教員、というイメージとは結びつかない。
寧ろ淡白ともいえる印象を受けるこの男のどこに、そんな目的を持たせる理由があるのか。
それが気になった。

男が何があってもいいように警戒するのに対し、紅蓮はこれといって辺りを気にする様子などない。
目の前の男にだけ興味を示す。
大通りの真ん中に、手にしていたアタッシュケースを椅子代わりにおいて、軽く腰掛けた。

「子供だからこそ、余計なお節介はしないのが私の主義でね。
 いや、お前がそうしたいというなら止めないさ。
 私には私の、お前にはお前のやり方があるという話だ。」

相手が助けを自分に求めるならば、誰かがあの子を助けてと懇願するのならば、自分はそうも動こうが。
そうでないのなら、そう動くことに意味などあるのだろうか。
もしそこに意味があるのだとすれば。

いや、これは言葉にすまい。

女は、微かに嗤う。
 

羽月 柊 >  
「…そうだとしてもだ。」

夢を失い、心から感情を出すことはまず無いだろうとされるこの男。

けれど、今まで出逢って来たモノたちが、
彼に今こうして誰かの為に手を差し伸べることが出来ると、思い出させてくれた。
『言葉は届く』と、『周回遅れでも走れ』と、同僚は言ってくれた。

どんなに傷付けられても、どんなに裏切られても、
その同僚は生徒の為と闇すら歩いてきた。

部下となって己を支えてくれたモノは、
自分が伸ばした手を取ってくれた。

まだ未熟でありながらも、熱意のままにひた走る友人がいた。

そんな、己は独りでは無いと思い出させてくれた、彼らの隣に在りたいから。


「確かに"ただのヒト"は、この世界の何にも抗えはせん。
 自分よりも遥かに上の存在は居るモノだろうし、命終わる時なんぞはあっけないモノなのだろう。
 だが、警戒も準備も何にせよ、やらないよりはやった方が遥かにマシだと俺は思っている。」

こんな場所で座りすらしてしまう相手に、溜息を零す。

「業務内容以前に、お節介をやったことで、こうして教師になったモノでな。
 業務に含まれていようがいなかろうが、俺の意志でやっていることだ。

 …『余計なお節介だ』と嫌う生徒が居る一方で、
 この島の子供に全てを委ねる歪さから、俺たち大人に頼りたいというモノもいる。」

橘 紅蓮 >  
「なるほど、こいつは筋金入りだ。
 お節介もそこまで極まれば一概には否定できないな。
 お前を構成する何かは、それを欠かせないものだと認識している。
 ならばそれもいいだろう。」


思いの他、予想の域を出なかった言葉に、何処か退屈げに空を見やる。
善良であるゆえに、それ以上の域を出ない。
人間として立派な行いであり、その思想も拍手こそすれど唾棄するようなものではない筈だが、紅蓮にはそれが少々忌々しく見える。

それを隠そうとすることも、しない。
だが、あえて批判することもなかった。
価値観の違い、それだけの話なのだから。


「どいつもこいつも救えない。」


己の口癖が零れたことに気が付いて、やれやれと嘆息してはポケットにしまってある煙草に手を出した。
目の前の男にひらひらとそれを見せて、吸ってもいいかとジッポのふたを開けた。


「お前の意志でやっているというなら、一つだけ聞いてもいいかい?
 お前さん、それが叶わず目の前で何かを失った時、どうするんだい?
 もう一度、その言葉を吐いて、それでもとお節介を続けるのか?」

羽月 柊 >  
以前は己も眼前の女性と同じく、冷えていた。

己には何も出来はしないと諦めて、自分に必要なモノ以外を全て切り捨てて生きていた。
心の底で救いを求めたとて、己は罪人だと眼を逸らし、
自分の腕で抱えられるだけのモノを抱えて、その日暮らしをしていたに過ぎなかった。

己の全てが正義ではない。
今まで歩いてきた道に落ちる暗い影は、無かったことに出来はしない。

…それでもと、歩き始めた。


「…あぁ、続けるとも。」


男はこの一時、彷徨わせていた視線を真っすぐに紅蓮へと向けた。
凜と咲き誇る桜のように、散るとしてもと。

「……この身は、既にいくつも『取りこぼした』身だ。」

男が『トゥルーバイツ』と呼ばれたモノたちと相対した日、
幾人も柊は生徒に語り、手を伸ばし、そして目の前で喪ってしまった。

「どうすると言われたら、今こうしているとしか言えん。
 ……未だに惑うことも多くはあるが、
 諦めれば、俺は俺を教師にしてくれたモノたちに、…申し訳が立たん。」

右耳の金色のピアスは、この狂ったような世界でも、煌めいている。

万能も完璧も在りはしない。
自分は言わば失敗の塊のようなモノ。
それでも、誰かの道筋で在れると言われたからこそ。

最後の言葉と同時に眼を伏せ、再び視線は彼方へと。

橘 紅蓮 >  
「……そうかい。
 ならせいぜい取りこぼしが一つでもないように気張る事だね。
 特に、自分にとって一番大切なものができた時に、それと気づかず失う事が無いようにさ。」

 
男の言に、嘗ての小学生の教師だった頃の自分を重ねる。
自分にも、そういう時期があったかと目にする。
この二人の違いは若さや教師としての年期というよりは、きっと。
周りによる人物や環境による影響の違いなのだろう。

暗い影の隣に、それでも歩み寄る者が居た。
きっとこの男はそういう人に恵まれたのだろう。
それは尊いものの筈だ。

返事がないことを肯定と受け取り、煙草に火を点けて口に運んだ。
肺を煙が満たすまで吸い込んでから、男のいない方向へ其れを吐き出す。
ほんの少し、甘ったるい煙草の匂いが伝わるだろうか。


「あんたみたいな教師がもう少し多ければ、この学園も少しはましだったかもね。」


この学園が抱えている様々な不条理を想いながら、煙を見つめる。


「説教臭かったかね。 そろそろ先輩教師のお小言は鬱陶しいだろう。
 哀れな子羊を探すのに戻るかい?」

羽月 柊 >  

相手が煙草を吸うことには、特に何かを言う素振りは無かった。
せいぜい、風下にならないようにと傍らの白い小竜たちが、少し逃げたぐらいだ。

 
「──……俺にとっての"一番"は、もう居ない。」


 一瞬、男の熱が……冷えた。

暖色であるはずの男の眼も、髪も、その一瞬だけは、
この世界のように鈍ってすら見えた。

どれほどに友を得ても、他人に触れられても、未だに埋められぬ『空白』。

 救われない。

 救われはしない。

むしろ、救われることをそれこそ、この男自身が拒否している所すらある。
『救えない』というのは、ある意味合っているのかもしれない。


「…少なくとも、俺の知っている同僚は、
 生徒には俺よりも真摯に向き合っているとは思っているがな。

 まぁ、貴方が言っていることも確かに世界の姿の一つなのだろうな。
 鬱陶しいとは言わんが、時間が惜しいのは確かかもしれん。
 ……出来れば、学校で逢った時に話せれば良かったのかもしれんな。」

そう言っては息を零した。

橘 紅蓮 >  
「それはお気の毒に。」


思ってもいない、そういう言い方ではなかった。
慰めているというわけでもない、同情している、という風でもなかった。
只、紅蓮という教師もまた、悲しげな眼を少しだけ浮かべるのみ。


誰にでも、変わってしまうきっかけというのは存在する。
男が冷えてしまったきっかけがある様に、紅蓮にもまた、諦めたような言動をするようになるきっかけがあったのだ。
それが何だったのかは、今の彼女が語ることはないだろうが。


「詫び代わりと言っては何だけれど、教えてやるよ。
 久那土会、そういう名前の違反部活がある。
 この、『裏』を調べているろくでもない連中さ。
 そのお節介をまだ続けたいっていうなら、そういう場所ともつながりを持っておくんだね。」


降ろしていた腰を持ち上げて、ゆっくりと立ち上がった。
アタッシュケースを肩に背負うようにして、男があるいて来た方向へ歩み出す。
すれ違うように、男の隣をよぎる。


「話したいことがあったら、私の個室に足でも運ぶといいさ。
 いや、あんたにはそういうことは起きないかもしれないが。
 これでもカウンセラーだからね、傷ついた少年少女でもいたらよこすといいさ。」

羽月 柊 >  
こんな世界を委員会の力も借りずに歩いている。
それだけで、裏と僅かに通じている箇所というのは、この男にもある。
だが、紅蓮が語らないように、初対面の柊もまた、語ることはない。

「……ああ、頭の片隅にでも置いておこう。ありがとう。」

だから、親切心には上っ面のような礼が返るのみであった。


「まぁ、世話になるかは分からん。
 ならんように済むのが良いんだろうがな。」

すれ違う相手に瞳を伏せ、男もまた歩き出した。

『それでも』と、語り、手を差し伸べる為に。



「……     、        。」

男が呟いた言葉は、傍らの小竜たちにしか、聞こえていなかった。

ご案内:「裏常世渋谷」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」から橘 紅蓮さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」に鋼の鳥さんが現れました。
通信音声 >  
『あーあー、聞こえるかい? 
 これから作戦領域に入るけど、装備の状態に問題はないかい?』

内部通信からの連絡。
当機の状態を確認……武装各種の同調率、規定域内。
マニュピレータ感度良好、各部に以上なし。
作戦行動可能と判断します。

『そう? じゃ…心配いらないね。
 君には要らないかもしれないけど、今回の作戦の概要を説明させてもらうよ。

 今、裏常世渋谷のスクランブル交差点付近に二体の朧車が確認されてる。
 タイプはロ型とイ型。割かし平均的な奴だ。
 一体は炎、もう一体は火力で押し込んでくるけど、君の武装ならまぁ、いけるでしょ。

 ただ、そこから5km離れた所にもう二体反応がある。そいつらに気づかれると厄介かもしんないから、こっちで対処するよ。
 君は4体の朧車に合流される事ないよう、迅速にそのうち二体を相手して頂戴な。
 
 何か質問ある?』

データベース参照……問題ありません。

『OK、じゃ…作戦開始だ。気張っていこう。』

当機に気力ゲージは存在しませんが。

鋼の鳥 >  
――――――裏常世渋谷に、一匹の巨大な鳥が飛んでいた。

街のビルの遥か上空を飛んでおり、地上からは小さく視認する事が出来るのみだろう。

だが……よく見れば、気が付く。
あんなに巨大な鳥は、存在する筈がない、と。

鋼の鳥 >  
鳥は地上に接近しながら、目標を見定める。

スクランブル交差点――――――人も車も存在しない裏常世渋谷にとっては、ビルの並ばぬ開けた空間。
そこに存在する二体の”列車”

『――――目標確認』

鳥は列車を確認すると、その広い空間目掛けて降下しながらその翼を羽ばたかせるように動かす。
遠くからも金属同士の擦れる音を響かせながら、腹部に当たる部位の装甲が開き、そこから機関銃が現れる。

『砲撃、開始』

瞬間、現れた砲門から響き渡る轟音、それは直径20mmに及ぶ鉛の塊を、音よりも速く放ち続ける。

機関銃の向けられた先に存在する、列車――――朧車と呼ばれる二体の怪異に向けて。

朧車 >  
『―――――』

二体の朧車は、迫りくる音に気が付き、その音のする方向―――――上空へと先頭車両をまるで、首を曲げるようにして見た。




――――瞬間、その二体に襲い掛かる、無数の衝撃。

鉛の豪雨。

コンクリートを砕き、ビルに穴を開けてゆくそれは、一つでも人間に当たればその身の原形をいともたやすく粉砕するだろう。

鋼で出来た装甲も、無事では済む事はない…‥
不意を突くように放たれたそれらは二つの朧車の装甲を貫き、砕いてゆく。

鋼がぶつかり合い、身を揺らし…まるで怪獣の悲鳴のような不気味な轟音を周囲に響かせる――――

鋼の鳥 >  
初撃、命中。

衝撃によって列車の一部車両が爆発し、炎上を始めるだろう。
内部センサーによってその状況を把握しながら、相手の様子を”彼女”は確認する。
今の攻撃のみで破壊が可能な怪異ではないという事は、事前に収集した情報で確認済み。

しかし、奇襲には成功。
”次の工程”に入る為に、二体のダメージを割り出す。

『(―――イ型、ロ型、活動継続。
  イ型は二車両の爆破を確認、ロ型は炎熱によりダメージの減衰を確認。
  何れも決定打にはならず)』

予測データとのズレを修正しながら、次の対象の行動の予測、それの対処へと移る。

朧車 >  
衝撃によりダメージを負った朧車二体は、反撃の為に”線路”を生み出し空中に存在する鳥へと”駆け出す”

上空を飛ぶ鳥を追う、二体の列車。

まるで二匹の大蛇が、空を舞う――――

朧車 >  
炎を纏った一方の朧車が、連結車両から炎を纏った石炭を放つ。

それと同時に、もう一方の朧車は鳥と同じように機関銃を向け、そこから弾丸を掃射してゆくだろう。

空中で光る、無数の流星のようなそれが鳥を追い―――――

―――――――鳥は、それを回避してゆく。

鋼の鳥 >  
背後からの攻撃を避けながら、背後を取らんと旋回を続ける。
所謂――――ドッグファイトとよばれるそれを、列車と鳥は繰り広げながら、攻防を続けるだろう。

速度は若干鳥の方が速い。が…車両の分長い朧車は、背後を取ろうとする鳥に対し機銃、石炭での牽制を続ける事により、それを許さない。





―――――許さない、はずだった。

朧車 >  
ドッグファイトを繰り広げながら、再び朧車が鳥の背後を取る。
空中戦では、背後を取られる事は死を意味する。

機関銃の掃射が、鳥目掛け放たれる…
着弾すれば、軽くはないダメージを負うのは、免れない。

鋼の鳥 >  
『――――AM-081 シームルグ、モード変更、自動操縦モードに移行。
 
 AM-075 ウルフシャの分離を実行。』


鳥の背部が開き、そこから”なにか”が落下する。
落下するそれはそのまま朧車イ型の放つ機関銃を、時折”跳ねる”ように移動しながら避け、接近を続ける。

それは、2mほどの体躯の、人の身に鋼の装甲を重ねたような”兵器”だった。




自由落下により接近したその人型は、そのまま朧車イ型の先頭車両……鬼の”顔”の上に乗ると、背中にマウントされていた”試作型”腕部装着式携行型杭打ち機――『ジャガーノート』を構え、鬼の額へと押し付ける。

『音声認識、臨時使用者――アールマティ。登録コード。
 ――機能解除、『フェリドゥーン』起動。』

直後、杭打機の各部から青い光が輝き、装甲が音を立てて展開される。

二つの杭が回転を始め――――武装後部のハンマーがガチンと音を立てて引き絞られる。
そして二度目の音と共にハンマーはその杭の内一つを勢いよく叩き…




杭が――――放たれる。

鋼の鳥 >  
瞬間、響く、轟音。

音は周囲を震わせ、衝撃が朧車の車両にある窓を粉砕してゆく。
杭を顔面に受けた朧車は、衝撃により空中でまるで時が止まったかのように急停止し――――

それまでの自身の勢いが急に止められた事で、まるで”押しつぶされる”ようにひしゃげていった。

『―――一機、撃墜。』

既に落下を始めた鋼の骸に、人型は無機質な声で言いながら次の対象を見定める。
そして、もう一体……燃え盛る朧車ロ型に向けて、腰部に装着されたアンカーを放つ。

耐火コーティングがされたそれが遠ざかりかけていたロ型を捉え、そのまま背部と脚部に備えられたブースターで、その動きを”止める”

朧車 >  
『次は――――――』

電子音と共に、移動する体が、止められる。
およそ2m……人とさほど変わらぬ体躯のそれに、力負けする。
負けじとその人型ごと、移動を試みるが――――

鋼の鳥 >  
『無駄です』

次の瞬間、朧車と鳥が、衝突する。
10mの、鋼の塊が、炎を纏った列車を貫く。
列車はその質量に押しつぶされ、先頭車両は見るも無残に砕け散るだろう……

そして、鋼の鳥は何事も無かったかのように……そのまま再び、空を舞う。

『任務、完了』

人型はそれを見ながら、アンカーを巻き戻し回収し、地上へと落下していく朧車の残骸から飛び退く。
背部と脚部につけられたブースターによって鋼の鳥へと接近し、そのまま再び一体となるだろう。

『―――朧車ロ型、イ型。共に沈黙を確認しました。
 Bチームの状況確認を行います。

 追加命令はありますでしょうか』

通信音声 >  
『OKOK,ご苦労さん。
 こっちも今終わった所だよ。
 
 合計4体の朧車の撃滅。お手柄だね?
 後で甘いものでもご馳走しちゃおう』

通信からは、先ほどと変わらぬ”主”からの声。
発声からのバイタル確認、異常なし。

『いやぁ、流石にちょっと疲れたよ。
 でもま……これで当面は落ち着くんじゃない?
 数は相当減ったみたいだし。

 ま…長居は無用でしょ。
 引き上げ引き上げ! 
 帰るまでが遠足だから、気…抜いちゃだめだぜ?』

遠足ではありませんが。

『俺はちょっと寄り道あるから、祝勝会兼夢莉班の反省会はもうちょっと後でね。
 じゃ…ゾネさんと一緒に買い出し、よろしくね』

了解しました。
では、帰投します。

鋼の鳥 >  
―――――裏常世渋谷を、鋼の鳥が飛ぶ。

それはまるで仕事を終えたかのように、無惨に破壊された”二つの列車”から、遠ざかってゆく……

ご案内:「裏常世渋谷」から鋼の鳥さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」に四方 阿頼耶さんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷」から四方 阿頼耶さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」に四方 阿頼耶さんが現れました。
四方 阿頼耶 >  
「――――さて、と」

裏常世渋谷の地下鉄内…
既に物言わぬ鉄の塊になっている二つの朧車の残骸に座る男性が一人。
通信機を仕舞い伸びをすると、男性はひょいっと立ち上がり歩き出すだろう。

「アールマティの宣伝を兼ねた試験は無事終了。
 トラブルあったっぽいけどカナちゃんとユウリの方も朧車討伐ノルマは完了。
 ま……こんだけやっときゃ、仕事してないとは言われないでしょ。」

一人呟きながら、地下鉄内を歩く。
人も車両も走ってはいない線路を、コツ、コツ…と進んでゆく。

今回の本命の目的は、これだった。
列車たちの突然の怪異化、それによる裏常世渋谷全体の騒動。
その原因の究明…まぁ、言ってしまえば調査だ。

その為にも、派手に暴れてくれる奴が一人欲しかった。

「アールマティは後で存分に可愛がってやらないとな…っと」

さて……何か見つかるかなっと。

四方 阿頼耶 >  
裏常世渋谷の地下は、怪異の温床だ。
瘴気に満ちていて、下に行けば行くほど強力な怪異が現れる。
…何より、今回の怪異も”地下鉄”が変容したとされる個体も多い。

地下というワードが、何等かのキーワードになっている可能性は、ある。
それは、ずっと前から感じていた事だ。

「とはいえ……探るにしたって広いんだけどね」

常世渋谷に広がる地下空間自体、広大だ。
それが更に、ここでは幾通りにも変化し、複雑怪奇な様相を形成している。
探るのは……骨が折れるのだ。

「誰か協力者でもいりゃ楽なんだけどねぇ」

公安はその秘匿性故に、協力関係を結べる者が少ない。
狭く、深くの付き合いが基本だ。
信用の置ける相手じゃなければ、その正体を晒す事すらご法度扱いされかねない。

まぁ…その信用ってのが、難しいとこなんだけど。
先ずこっちが信用、されにくいし。

四方 阿頼耶 >  
「……まっ
 なんとか回せてますよ、常世島は」

誰もいない地下の線路の上で、一人そう言う。
もう自分の心の中にしかいないその人に、告げるように。

色々とまぁトラブル続きだけど、それでもそれなりに上手く回っている。
一昔前に比べれば随分、平和になったもんだ。
風紀委員の本庁、吹っ飛ばされたりしてないし。

サングラスの角度を少しだけ直して、歩みを続ける。