2020/10/17 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷」に鞘師華奈さんが現れました。
■群千鳥 睡蓮 >
「電力は通ってる。いや、電気で動いてるんじゃあないかもだけど。
……こんなに大都会なのに、誰もいないってのも不気味だよな。
疫病が流行った街だって、ここまで大きいならまだ人影はありそうなもんなのに」
小さい鉄の箱に二人。
壁に背を預けて腕組み、少し歩いてみた所感を口にする。
久那土会のサポートもあり問題なく入り込むことはできたけれど、
まさに異界と言える奇妙な空間のあるきかたは、彼女のほうに一日の長がある。
「頼りにしてるよ"猛禽"……?
……ていうかなんか長くない?どこまで降りるのこれ」
エレベーターだ。
「地下の書店フロア」があるらしいビルに行き着いたので、とりあえず。
目の前のパートナーの存在にまつわる文書を探しに乗り込んだのが十分前。
かれこれ十分ほど、エレベーターはひたすら下降していた。
■鞘師華奈 > 「…電力どころか、魔力の流れもおかしいし…街並みも入る度に大なり小なり変わるからね。
まぁ、”表”の常識は基本的に捨てて掛かるのがここの鉄則の一つかな。
私達みたいな探索者を除けば、他に居るのはソレこそ怪異か――人の形をした”何か”だと思うよ?」
僅かな振動音と共に作動している文明利器の一つ。二人でソレに乗り込んでから早10分程が経過している。
そこだけ見れば表の物と何ら変わりは無いのに、一向に目的フロアに辿り着く気配が無い。
当然ながら、外の様子は全く窺えないので今どこを下っているのかも分からない。
彼女の隣で、目を閉じながらコートのポケットに両手を突っ込んで静かに佇む。緊張は特にしていないがリラックスしきった風でもない。
「そこはお互い様だよ、私も頼りにしてる”鋭眼”さん。…さて、しかし早速どうしたものかね」
今回の探索の第一の目的地、はとあるビルの地下フロア…そこの書店を目指している。
だが、先に会話に出たように10分以上経過しても未だに目的地にエレベーターが到着する気配が無い。
「――妙な気配は感じないし、持ち込んだ久那土商会のアイテムも怪異の反応はまだ示してないけど…。」
だが、ここは異界だ。つまりあちらの庭みたいなもの。反応を巧妙に偽装している可能性もある。
ゆっくりと閉じていた赤い瞳を開けば、隣のパートナーに視線を向ける。何か感じる?というニュアンスを込めて。
■群千鳥 睡蓮 >
「エレベーターって分速100mとかそのへんだったよね……。
怪異。怪異ねえ。あのなんだっけ……さっき話してくれたアレ。"おぼろぐるま"?
あれはもう退治されたんでしょ?それで落ち着いたってわけじゃないのかな」
ある意味では、こちら側の原住民である人ならざるモノたちが、
いなくなることもないのだろう。と、彼女の言葉には少し首をひねる。
危険度が高い場所なのは百も承知だが、いまのところは、
うっかりするとすぐ絡まれるスラムのほうがまだ危険地帯のように思える。
「エレベーターで10分っていうと…1kmくらいか……?
坑道でもそんな深いのそうそうないよね……いや、"常識は捨てろ"か……っと」
ごうん、という音と重たい振動を立てて、下降が停まり、到着を知らせるベル音が短く鳴った。
こういうところは、よく知る商業施設と変わらない。
ゆっくり扉が開くところも、だ。壁際に身体を寄せて警戒し……
「……ああうん、非常識だわ、これ」
その先は明るかった。
遠くを見てもわかる。
地上から十分以上エレベーターで降りた先の光景は、また地上だった。
エレベーターの中から望める外側の天井には、
鈍い色の空が広がっていた。そして、高いビルの群れ。
動いていない信号機。無人の常夜渋谷。
駅入り口のエレベーター搭乗口に、どうやら繋がっていたらしい――非常識にも。
「…………」
すっと顎をしゃくって。降りる?って問うてみる。
■鞘師華奈 > 「ああ、朧車は風紀委員会や”私達”が出張って相当数は掃討されたし、それも一段落してる。
――だけど、怪異っていうのは千差万別だしそもそ根絶されるような存在じゃないと私は思ってる。」
――少なくとも、この異界がある限りそこに住まう怪異は存在し続けて、また新たな怪異が生まれる温床ともなっているのだろうな、と。
だから、朧車という存在が滅んでもそれに変わる別の何かが、また騒動の種になる可能性も決して有り得ない話でもないだろう。
「――正確には、表の常識に縛られすぎると命の危機に直結する…って感じかな。
備えあれば憂いなし。私もここに何度か潜り込んでるけど、念入りに準備はしているよ。
まぁ、それなりにコレも掛かるけどそこは必要経費ってやつかな?」
指で丸の形を作って苦笑を浮かべる。つまりお金が掛かる…まぁ、命あっての何とやら。
と、そんな話をしていたらやっとこさ到着したのか馴染みのあるベル音が無機質に鳴る。
緩やかにコートのポケットから両手を抜きながら自然体で開く扉の先を見据えて――
「――別のエレベーターに繋がってたみたいだね…まぁ、空間が捩れていてもおかしくないけどさ。」
パートナーの無言の問い掛けに、緩く頷くがその手には一枚の印字が掘られた木札。
怪異探知機――商会で購入できるアイテムの一つ。周囲の怪異に反応して印字が光る物で、値段が高いほど高性能だ。
女が持つそれは、そこそこ値が張ったもので効力と精度は中々のものと思っているが…。
「――薄っすら光ってる…怪異の反応はあるね。ただそんなに強くは無い…。」
なら、行ってみようか。頭で考えるのも大事だが女はどちらかといえば足で稼ぐタイプ。
自ら一歩、エレベーターの外へと踏み出し――何事も無く外に出る…のだが。
(――空気が重い…瘴気の類が濃いのかな?)
■群千鳥 睡蓮 >
「人間が絶滅しないのと同じようなもんか」
苦笑した。異界と繋がった数十年前の大変容。
それでも今、人間は力強くあるいはしぶとく生き残り、
あるいはより一層の反映をしようとしている。
いずれは訪れる死の運命に向かって――その生命活動が本能によるものか、
それとも欲望という内的な意志が示したからかは、わからない。
「強くない。ってことは弱いやつがいるか」
レトロな札に視線を向けて、それでわかるもんなのか、と興味深そうにしながらも。
こちらもまた彼女につられてエレベーターの外へ踏み出した。
ぐっと伸びをして、息を吐く。
この場所は、さっきまで居た場所よりも――"身体の調子が良い"。
「それとも、うまく隠れてるかどうかってトコか。
用心に越したことはない――けど。 ……。 ……ん」
駅構内からでて、駅前広場。知っている風景を見渡し、高いビルを見上げた。
違うところはといえば、あの建物、その建物、見たことがある区画を、
ちぐはぐに組み合わせたようなパッチワークの風景、
そのすべての看板に、「本」や「書店」というものが綴られていること。
「地下書店フロア」
呆然と呟く。ビブリオマニアとて、テンションが上がるよりも流石に呆然とするものだ。
■鞘師華奈 > 「かもね…怪異の進化論を提唱している学者だか研究者も島には居るって聞いたけど。」
正直、学がそんなにある訳でもない…それこそ、頭が回り思考・分析・考察に優れたのはパートナーの方だ。
死の運命――不死の能力や存在を持つ者も決して少なくないこの島は。さて、今後どんな繁栄を築くのだろう。
”一度死んだ身としては”少なからず思う事が無い訳でもないが…。
興味深そうに木札に視線を向けてくるパートナーに、腰に付けたポーチからもう1枚、木札を取り出して彼女に手渡そうと。
自動的に反応する物だし、特に魔力や何らかの素養が必要なアイテムでもない。なら持っていて損は無いだろう。
一応、金銭に余裕はあるので自分とパートナー二人分のアイテムはきちんと仕入れてきている。
空気が重いし怪異の反応は微弱だが存在している。何処か窮屈から解放されたかのように見える相方。
エレベーターという閉鎖空間に10分以上居たのもあるだろうが…それにしては、何か引っ掛かる。
(…いや、けど私も何か変な感覚だな…空気は重いのに感覚が冴えてるような)
一先ず、その疑問は置いておくとして。彼女の言葉に我に返り視線を巡らせる。
パッチワークじみた、出鱈目でちぐはぐな光景を改めて見渡せば目を細める。
「――”地下書店フロア”…成程、つまりここは確かに”地下空間”な訳だ。」
見上げれば異界の空が確かにある。こうしてビルの群れもある。だけど、常識が通用しない異世界…あの空が本当に”空”なのかも怪しい。
「――何はともあれ、ちゃんと目的地には到達したって事でいいのかな、これは。」
とはいえ、あの出鱈目な看板?全てがもし正しいなら、ビル一つ一つに書物が収まっている可能性もあるが。
「――すい…鋭眼。…取り敢えず今は動こう。同じ場所にずっと留まるのも危険だしね。一先ず、そこなんてどうだろう?」
指を差したのは、一番手近にあり…そして出鱈目なパッチワーク具合が”特に酷い”ビル。
■群千鳥 睡蓮 >
「今回はあたしらが客人ってことだし、せいぜい失礼のないように探させてもらおっか。
……どうだろ。こっから目当てのものを探し出すって何年かかるんだって話だし。
目的地の中で、次の目的地を探す旅になってきているような」
苦笑しつつも。
空には雲が、ゆっくりと流れている。薄雲の向こうから、太陽のような光源が照らしている。
よくある秋の空の下で、示されるまま脚を進めた。
「なんですかー?"猛禽"」
聞こえたぞー、って振り向いて意地悪げに笑ってから。
ビルを見上げてうなずいた。苦笑いは取れない。
「砂漠で宝石見つけるような……宝石があるかもわかんないけど。
すごいねあそこ、全部違う本屋が入ってる。
これでふつーの文庫ばっかりだったら興醒めもいいとこだけど」
大体そうなんだろうな、と笑ったところで。
肌が粟立つ。
■---- >
視線。
どこかから、遠くから、二人を視るものがある。
■鞘師華奈 > 「…そうだね。虱潰しに探していたらそれこそキリが無いけど…ジャンル別の案内とかあると助かるんだけどね。」
とはいえ、探しているのは文庫本や普通の書物ではない。場合によっては禁書級にもなりそうな類だ。
正確には、探しているのは書物に限らず”情報”なのだが…だからこそ、書物は視覚的にも分かり易い。
先ほどまでの、エレベーターに乗り込む前よりも、表に近い秋晴れのような空を見上げる。
薄雲も太陽の光も本物みたいだ――だけど、何かが足りない、違う、と感じるのは気のせいだろうか?
「――悪かったよ、そもそも君の登録名教えて貰ったのついさっきなんだから一度くらいは大目に見て欲しいよ」
うっかり名前を呼びそうになったのは耳聡いパートナーにはばっちり聞かれていたようで。
意地悪な笑みに苦笑を返して肩を竦めながら、こちらも歩き出す――のだけれど。
「――まぁ、この際贅沢は言うつもりは無いさ。何か情報の断片くらいでも見つかれば御の字――…!」
不意に足を止める。さりげなく片手をコートのポケットに突っ込みながら、赤い双眸が周囲を探るように一度巡る…。
(―――見られている?……何処から?近くからじゃあない…。)
これでも、相応に修羅場を潜り抜けてきた身だ。こういう直感や悪寒は決して馬鹿に出来ないと思っている。
パートナーに短く声を掛ければ、相変わらず視線は別として周囲の気配や異変を探り続けて。
「―――さて、私達は招かざる客か…或いは逆に”招き寄せられた”獲物か?」
■群千鳥 睡蓮 > 同じ地平には誰もいない。怪異も人の姿をした何かも。
遠いビルの窓にも、こちらを視るものはいない。
同じく気づいていない風を装って、周囲を探るのはこちらもだ。
不意に感覚とは違うもので引っかかったものがあり、
視線だけをそちらに向けた。
「なにかいる」
パートナーも気づいたかもしれないが。
遠くビルの壁面に、それはいた。
旧い家屋などで、よく出くわすあれだ。
壁にくっついているそれ。
■---- >
それは、すなわち、遠くのビルの壁面に居ても視認できるほど大きく。
遠くから、大小二対の四つの赤い瞳でこちらを見つめているもの。
八本の足でビルの壁面に食らいつく、巨大な蜘蛛だ。
身体を構成しているのはクチクラではなく、鈍い光沢を放つ鋼鉄のそれ。
脚もまた、まるで刃のような二等辺三角形の連結で構成されている。
人造兵器を思わせるその「蜘蛛」は、
しかし生物的な感情を、色硝子の玉のような四つの瞳の奥に、
そう、暖炉の焔のように硝子の奥でなにかを「燃やし」ながら。
背部にマウントされていた巨大な「砲塔」を、こちらに向けて。
黒煙と轟音とともに、「放つ」――風を切る砲弾の音。
地面に叩きつけられた徹甲弾は、
舗装された駅前広場の地面を大きくえぐり、
煙と瓦礫を巻き上げて、無機質の雨を降らせる。
■群千鳥 睡蓮 >
場所は示した。
あとは避けられる――筈だ。
それは信任だ。
どれくらい「動ける」かはある程度、把握している。
パートナーとは逆方向に跳び、やり過ごす。
パラパラと落ちてくる破片から頭を腕で庇いながら、業風に身体をあおられる。
■鞘師華奈 > 「ああ――何か居るねこれは。私達を”見ている”…ついでに言えば――」
決して友好的な視線ではないという事。何時でも瞬時に動けるようにしながらも、あちらにまだ気付いていないと思わせるゆなさりげない動作、目線の動き。
そして――パートナーの言葉に、赤い視線を静かにその一角へと向けた。遠くのビルの壁面――そこに”ソレ”は居た。
「――成程『蜘蛛』か…しかも中々にデカいね。アレも怪異の類なのかな?」
ちらり、と手元の木札に視線を落とす。…反応が強まっている?
いや、それよりも――ハッ!?と何かに気付いたように視線を蜘蛛へと戻す。
その、赤く光る四つ目と女の赤い視線が交錯する――その奥底、”燃えている”何かに自分と似たものを感じて思わず吐き気がするが。
その蜘蛛は、生物的でありながらその体は鋼鉄じみた金属の体。少なくとも生物というより機械じみたもの。
だが、その瞳…無機質の奥に確かに感情のようなドロドロしたものを感じ取れた。
瞬間、機械蜘蛛の背部にマウントされていた砲塔がこちらへと照準を合わせてくる。
瞬間、風を切る砲声が響き一発の砲弾がこちら――否、目前の舗装路へと離れて着弾する。
成程、手洗い歓迎だ――砲弾が放たれる瞬間まで相手の一挙手一投足を観察していたが、即座にパートナーと逆側に飛んで回避する。
「――どのみち、アレを何とかしないとゆっくり探索出来そうもないね、これは」
数メートルの距離を跳躍して回避しつつ、空中で回転して姿勢を建て直し。
その間も、蜘蛛からは全く視線を逸らさない――装填時間は?連射出来るのか?別の攻撃手段は?
そのまま、着地すれば緩やかに蜘蛛を見据える。
「――仕方ない、私が対処するか。鋭眼――ビル内か遮蔽物がある影に退避を。」
■群千鳥 睡蓮 >
「ゲホッ。 ……対処?どおやって?」
手を振って煙を振り払い、髪の毛を揺すって石片を払い落とす。
裾を払うと立ち上がり、こちらもまた鉄蜘蛛を睥睨するものの。
「いやあ、アレめちゃくちゃデカいよ。どうにかできる手立てがあんの……?
こっちに明確な害意がある以上、刺激しないように探索……ってのは難しそうだけど」
ビル内に詰めてる時に砲撃でもされたらたまらない。
乱射してこないあたり、連射速度は遅いのか、それともこちらを伺っているのか。
コンコン、とえぐれた床をカカトで叩いて。
「ここがあいつの縄張りってこと……でもないのかな。
おぼろぐるま、とは違うんだよね。アレ」
どう見ても蜘蛛の外形のそれを示しつつ。
急いで言われた通りに駆け込まないのは、彼女の対処法を信じられるかどうか、だ。
顎で示したアレ――蜘蛛は。
■---- >
じっと二対の瞳で見つめている。
およそ全高は10メートル近くある巨躯であるのに。
軽々と音もなく、向かいのビルの壁面に飛び移り、接触、固定。
大きいくせに恐ろしく身軽で、そういう意味でも"蜘蛛"らしい。
既存の物理法則に囚われていないものは、
なにかきりきりという金属音のあと、がこん、と大きく何かが「はまり込む音」とともに。
ふたたび砲塔をこちらに向ける。
すぐに撃たないのは、当てにいった一射目が避けられたことへの警戒だろうか。
■群千鳥 睡蓮 >
「…………やれそう?」
殺せば勝ち、なのか。
あまり気が進まないが、かと言ってデカブツの相手をパートナーひとりに任せるというのも忍びない。
「鋼鉄の多脚……どっかで聞いたことあんな……?
怪異のことはよくわかんないけど、
あたしでも情報を集める、くらいはできると思う」
■鞘師華奈 > 「――そうだね、こっちは探索用の装備中心でああいうのに対処できる装備は手持ちには無いし…。
私の魔術や武器だと、アレと真っ向から遣り合うのは向いてないし…。」
パートナーの言葉に、勝てる要素が全然無い事実を列挙するが、一つ対抗手段はある。
もっとも、”ソレ”に頼る事は正直あまりしたくないのだが…ソレしかないのが現状だ。
「――やるしかないさ。逃げるのが利口なんだろうけど、次にまたこのフロアに来れるか分からないし。
――そうなると…私が囮も引き受けて、その間に君に情報を集めて貰う感じになるかな。」
あちらは、第一射を回避したこちらの出方を窺っているのか、二射目を装填しつつも直ぐに撃ってくる様子がない。
装填の金属音…何かが”嵌まりこむような音”…上手くやれば、あの砲塔は何とか出来そうだが。
「――と、いう訳でやろうか。アレを倒すにしろ無力化するにしろ、動けないようにしておくに越した事は無い。」
別に殺し合いが好きな訳じゃない。ただ降りかかる火の粉は躊躇無く払わせて貰う。
薄っすらと赤い瞳が輝けば、まだ淡い色だが髪の毛が黒から赤へと染まっていく。
未だ自身にも分かっていない事が多い焔――不死鳥の一端。
■群千鳥 睡蓮 >
「囮ねえ。
予め言っとくけど、絶対に死なないでね」
彼女の不死性にはいまのところ期待していない。
一度起こったという死者蘇生の秘儀も、いまこの場でまた起こせるとは思っていない。
とはいえ、彼女がやる、というのならこちらは指示に従うのみだ。
「なるべくそうならないようにあたしもやるから。
……いきなりブッ放して動けなくなりました、とかやめてよ?」
赤くなっていく頭髪を見て、見惚れている暇もありゃしない。
こちらもまた息を吸い込み、この常世渋谷の裏側の瘴気をも。
未だ舞い上がる煙を、ぼう、と吹き払うのは、いま新たに生じた風だ。
この少女の姿をしたものから放たれた風。
膝を弛める。
「じゃ、こっちはこっちで行く。そっちはよろしく……!」
力強く地面を蹴り、呼び起こした風に乗って空を翔ぶ。
コートの長い裾を翼のようにひろげ、数十m。
ふわり、と向かいのビルの壁面に脚をつけると、そこを足がかりにして、
更に壁を蹴って、方向を転換して翔ぶ。
背の低いビルの屋上へ身を躍らせると、そのまま駆け出して姿が消えた。
■---- >
それを探すように、ごうごうと硝子窓の瞳の奥に焔を燃え上がらせた鉄蜘蛛はといえば。
まずは視える敵から排除する算段をつけたようだ。
重たい音を立て、方法がぎりぎりと狙いを定め――
"猛禽"がいるほうに、第二射が放たれる。
最初のものとは違う形状の細長い砲弾は、
焼夷弾――着弾点を中心に広範囲を焼き払う獰悪な殺意の焔だ。
■鞘師華奈 > 「死なないよ――流石に”二度目”は御免被りたいし…あくまで無力化優先だからね」
アレを破壊・撃破出来るかと問われたら正直断言は出来ない。
そもそも、自身の真骨頂はステルスからの不意打ちによる一撃必殺。
暗殺者じみた戦い方であり、初見の相手を一撃で仕留める事に重きを置いている。
未だ完全に真紅には染まらぬ淡い色彩の赤を保ったまま、薄っすら輝く赤い双眸がパートナーを一瞥する。
「分かってるよ――どのみち、この力はまだ分からない事も多いし。無理をして自滅、じゃ笑い話にもならない」
視線を直ぐに蜘蛛へと戻しつつ、気楽に肩を竦めてみせながら一息。
巻き上がる風を感じながら、「ああ、せいぜい派手に囮をやって時間を稼ぐさ」と、薄く笑いながら、風に乗って跳躍してこの場を離脱する彼女をちらり、と見送り。
「さて――じゃあ、やろうか蜘蛛さん。私は”弱い”から手加減してくれると嬉しいんだけどね」
重い音が響く。砲塔の狙いが向けられる――そして、第二射が放たれれば右腕を無造作に振るう――それだけで砲弾の軌道を”逸らす”。
能力ではなく、魔術でもない。ある特殊なワイヤーにおる鋼糸術にて、砲弾を絡め取って受け流しただけ。
とはいえ、直撃を避けただけに過ぎず、着弾と同時に生じた獰猛な炎の中へと女の姿は飲み込まれ――
「――ふぅ、冷や冷やするね全く。出来るとは思っていたけど…。」
その焔が突如渦を巻くように舞い上がり、やがて中心点へと吸い込まれるように流れ込んでいく。
そこには、
瞳を爛々と輝かせ、全身に先ほどの焔を纏わせた――
「――”返すよ”、物は大切にしないとね?」
殺意の焔を自身に取り込み、それを凝縮し、女の右手の上に赤い砲弾じみた焔の塊を創り上げる。
そして、手首のスナップだけで、蜘蛛の砲塔――その砲口目掛けて爆音と共に”焔の砲弾”を発射する。
■---- > 光以外でも、世界を見ているのだろう。
焼き尽くした筈の存在がまだ生存していることに、動揺の様子は見せなかったが。
僅かに脚をかがめる警戒の姿勢を見せたのは、続いた焔を支配する事象を認識してのものだ。
同じく。砲の速度で投げ返された焔の玉に、
回避はできなかった。
砲塔は燃えた。ばちばちと音を立て、どろりと炎熱で装甲を溶かし始めている。
それを。
身震いすると、砲塔は『自切』され、百数十メートル下方、車道に自由落下。
凄まじい轟音を立てて煙を上げ、ぼうぼうと焔が燃え続けている。
武装をひとつ棄てた蜘蛛は、がさがさと脚を蠢かせ、
ビルの奥側へと姿を消す。これ以上、遠距離からの砲撃戦に付き合うつもりはないようだ。
あるいは相手の危険度の認識を更新したのか。
撤退なのか、誘導か――追わねば静寂、ただひとり"猛禽"の名を負った女が残されるばかりだが。
■鞘師華奈 > 「――逃げたか、あるいは誘いか。ここで撤退するのが利口なんだろうけど」
砲塔をきっちり無力化させるが、それに喜ぶ様子は全く無い。成功したならそれでよし、失敗してもじゃあ次の手を考えるだけだ。
見据えるのは蜘蛛の動きそのもの、次にどう来るのか…まさか武装がアレだけ、という事は無いだろう。
アレだけ大型で、しかも身軽な動き…まだまだ能力…いや、機能?があると見るべきだ。
自切された砲塔の残骸…相手の遠距離攻撃を一つ封じた、と言えば聞こえはいいが――重さが減った分、単純にあちらは身軽になったとも取れる。
もっとも、あのビルの壁面から壁面を飛び移る軽やかな動きからして、あまり影響が出るとも思えないが。
そして、金属の多脚を蠢かせてビルの奥へと姿を消す鉄蜘蛛を確認すれば――
「――まぁ、追うにしても馬鹿正直に追い掛けたらあちらの思う壺、かもしれないし。」
そのまま、右腕を振るえばワイヤーが射出され、手近なビルの壁面にその先端部が突き刺さる。
巻き取り機構でもあるのか、それとも魔術的な補強でもあるのか、そのままワイヤーに引き寄せられるように身を翻し、ビルからビルへとワイヤーアクションじみた動きで蜘蛛が姿を消したビルの陰へと向かう。
――ただし、真っ直ぐに最短を行くのではなく、わざと時計回りのようなコースで、しかもやや遠くから迂回するように一定の距離を置いて回り込むようにビルの間を飛び移って行く。
(能力で飛べば早いんだろうけど…無駄な消費はしたくないしね)
そもそも、この能力の代償なども全く分かってないし、反動も曖昧だ。
常に発動し続けるリスクも考えれば、使う瞬間は選んでおきたい。
■---- >
元来蜘蛛の眼は弱い。
姿を消せばその姿を視る、ということは叶わないのだろう。
大きく迂回してきた、自分に比べれば遥かに小柄な相手に、
先に発見されるという愚を犯したのは、決して高度な知性を持ち合わせているとは言い難い証左だ。
壁の影になる壁面、硝子窓が一面に貼られ、鈍い空を映し出しているビルに鋼鉄の蜘蛛はいた。
それは、その背には。
砲塔は自切されていたが。
ハリネズミのような棘が、いくつも備わっていた。
それは「筒」だ。
駆動部があり、ガコン、と音を立てて、飛び込んできた相手に狙いを定める。
本当は出会い頭にそれを撃つつもりだったのだろうが。
どちらが蜘蛛か、という有り様で飛び回る女に対して、向けられた無数の筒は。
金切り声を上げた。
「面」への銃撃。乱射。機関砲。
避けても避けても追いすがる弾幕の嵐。
向かいのビルを、向けられたビルの表面を瞬く間にえぐり取っていく無数の殺意の礫。
面の威力そのものは、人間などたやすくひき肉に変えるほど。
砲口の補正速度が遅いことも、それは地上を歩く相手であれば驚異となる速度だ。
空中を飛び回る相手、ともなれば話は違ってくるかもしれない。
そうした「武装」を、まだ隠し持っているらしい。
がっちりとガラス窓に張り付いたまま、高い連射力と制圧力で、鈍色の空を舞う猛禽を追い詰める。
鳥を喰らう蜘蛛は存在する。
■鞘師華奈 > 軽々と、まるでその登録名の猛禽の如き速度と…同時に、まるでこちらこそが蜘蛛だ、と言わんばかりの”糸”を駆使したアクロバティックな挙動で先ほど鉄蜘蛛が逃げ込んだビルの裏側を視認出来る位置へと至り。
(――見つけた。それにアレは……)
赤い瞳が捉えたのは、鉄蜘蛛の姿――特にその背中部分だ。
矢張り、というか砲塔に隠れて見えなかった物が見える。棘…否、それは無数の筒だ。
「――”点”じゃなくて”面”制圧で来たか――っと!?」
呟いている暇は無い。無数の筒がビルの間を飛び回るこちらへと向けられ、金切り音と共に殺意の掃射がこちらに襲い掛かってくる。
所々掠め、衣服の端が千切れる――今は能力を意図的に”切っている”のもあり、高熱で銃弾を溶かす真似はしない。
あの能力は不安定さ、不確定要素もあるが何よりあまり見せるとあちらも学習する危険性がある。
(…機械だけど知性はそんなに高いとは言えないかもしれない。だけど油断は出来ないね)
ギリギリ、紙一重といった回避を繰り返す…少しでもワイヤーの操作をしくじれば蜂の巣だ。
「じゃあ――こうしよう。」
とあるビルの陰に女の姿が消える。直ぐにまたワイヤーアクションで姿を見せる…かと思いきや。
そこから出てくる姿は無い――ビルの影に隠れているのか、或いは――…
「―――…。」
その姿はは”何時の間にか”遥か上空。蜘蛛が張り付くビルの直上にあった。
偽装隠蔽の魔術で、自身の姿ごと完全に隠蔽――透明化し、更に限定的に焔の力を利用する事で相手に気付かれないように上空へと飛翔したのだ。
そして、そのまま猛禽の如く落下を始めて――そこで魔術の効果が切れる。だが十分だ。
「――フッ…!」
右腕だけに焔の力を顕現させながら、その右手に握ったのは…骨のような白い杭。
――”朧車の面の残骸”を加工して作り出した、”怪異の杭”だ。
投擲の瞬間、腕の肘の辺りから噴出した焔による”加速”を加えながら、真上から鉄蜘蛛目掛けて杭の一撃を――叩き込む!!
■---- >
電動ミシンの音を加減無用で増幅したかのような雨音を立てる、弾丸の飛沫。
背後の壁が硝子とコンクリートの破片を散らしていく。
死の足音が背中に響くなか、それは雨の一撃を振り抜いた。
隠れてしまった標的を探すために、音もなくかさかさと壁面を這う。
ビル横を覗き込むように身体を動かしている様を、頭上の猛禽に晒す羽目になる。
顔にあたる場所、前面についたガラス窓は、頭上を認識するのに一瞬の間隙を産んだ。
杭を構えた人間砲弾を、脳天に叩き込まれる。
ガツン、と大きい音を立て、杭を打たれた脳天は。
過たずにその刺突を受け、深く杭をめり込ませたが。
まず、その怪物とのサイズがそもそも、常人とは違った。
皮膚を裂き、骨を傷つけても、脳までそれが達さない、というように。
ただ、その傷口から流れたのは血ではなく――"焔"。
赤くどろどろした、粘性を感じさせる怨念の業火。
朧車と類似した形質のものだ。
■---- >
但し、その杭はがっちりと食い込み。
その判断の間隙を、見逃さない。
すべての機関砲が脳天を打った女に向けられる。
コンクリートジャングルの宙空。
空中で消し飛ばされる肉屑へと変えるために。
轟音。
■群千鳥 睡蓮 >
の直前に、向かいビルの屋上から、暴風が吹き下ろす。
隼のような速度で急降下し、"猛禽"を抱えて、更に真っ直ぐ翔ぶ。
今しがたふたりがいた空間が、弾丸の雨にかき乱されるのをよそに、
ビルの壁面を蹴って、また別のビルに飛び移ると、今度は壁を駆け上がる。
「あいつ、中身が殆どからっぽみたいだ。重さを全然感じない」
別のビルの屋上に着地して、ようやく。
息を吐いて、猛禽を降ろすと、息を吐いた。
「さすがにあんたより軽いってことはないだろうけど。
――脳天ブチ抜いてもダメだった?」
■鞘師華奈 > 「通じてる――と、思いたいんだけどなぁ」
投擲した杭は、偽装隠蔽の魔術で収納して持ち歩くようになった、手持ちの武器では切り札の一つだ。
朧車の本体とも言える面の残骸を掻き集め、それを加工して1メートル半くらいの長さの槍じみた杭に整えた物。
朧車の残骸から作られたからか、怪異じみた特性を帯びており同じ怪異にもある程度の効果はある。
(…杭の刺さり具合が浅い?いや、ダメージはある筈なんだけど)
怪異に対するある程度の特攻効果はあるし、そうでなくても非常に頑強で多少の装甲は貫く貫通力はある。
ただし、投擲槍として使用したので威力は少々劣ってしまうかもしれないが。
それでも、鉄蜘蛛の脳天に深々と突き刺さり――溢れ出したのは焔。
それを見て、ああコイツは――と、何故か納得した。朧車の炎と似た怨嗟の炎。
と、投擲直後の隙を相手が見逃すほど馬鹿な訳も無く、一斉にこちらへと向けられる無数の筒。
その一斉掃射が、女を今度こそ蜂の巣にする――直前、一陣の吹き降ろす風が女を掻っ攫う。
結果的に、ギリギリの所で轟音と鉄の雨を回避する形となった。
(…助かったけど、なんかまた抱えられてるような?)
実際そうである。ワイヤーアクションを使えば引けは取らないが、そうでないと機動力は身体能力含めパートナーのほうが上だろう。
彼女の軽やかな動きにより、別のビルへと着地すれば下ろされる。「助かったよ」と短く礼を零しながら。
「――手ごたえはあった。ただ…中身はオイルとか血じゃなくて炎そのものだったよ。
…気のせいか、朧車が操った怨嗟の炎と似てる気がする。
…もう一撃、あの杭を打ち込んだ箇所にダメ押しで叩き込めば行けると思うんだけど…やっぱりサイズ差がねぇ」
倒せなくても無力化出来ればそれでいいとはいえ、これは無力化も簡単には行かないだろう。
手持ちの切り札は今さっき叩き込んでしまったので、後はもうなけなしの武器しかない。
■群千鳥 睡蓮 >
「炎? ああ、蒸気機関車みたいな……?」
そういうものがいた、というだけで、詳しくは聞いていない性質だった。
ふむ、と唇を指先で撫でて、考える仕草をする。
「さすがに一回やられたところを、もう一度やらせてくれる手合じゃなさそうだね。
……っても、朧車かー。同じ攻略法とは限らな……ん。
あれ、なんだっけ。風紀委員会も出張ってたんだっけ?朧車退治ってのに」
少し考え込んでからふと思い立ったように。
ちらりとビルの下、遠くに視える鉄蜘蛛をみやってから。
思い至ったことがあるとでも言いたげに顔を向けて問いかけた。
■鞘師華奈 > 「いや、幾つか個体があるんだよ。能力とか特性が違ったり。一番最初に確認された個体が基本だとすると、その他のは亜種みたいな扱い、というか。
私が同僚と討伐したのは、炎を操る個体だったね…炎の性質は少しそれと似てる気がする」
こんな力を持ってしまったせいか、炎の特性の違いなどには割と敏感になってしまった。
と、パートナーの問い掛けに、「ああ、有名どころ含めて何人か出てるよ」と相槌を一つ。
「――有名な所だと…【鉄火の支配者】かな。そういえば、あの鉄蜘蛛の攻撃は彼が使う能力に”似てる”ね少し。」
遠くに見える鉄蜘蛛を見据えながら、何となくイメージがちょっとだけ被るな、とぽつり。
アレは、機械じみたガワだが中身はほぼ空っぽ…と、なれば怨嗟の炎そのものをどうにかしないと撃破は難しそうだ。
■群千鳥 睡蓮 >
「実物は見たことないけど、そうだよねえ。
脚の多い鋼鉄の怪物、面制圧の兵器火力。
うちの部長のそれによーく似てんだけど、それにしても……」
気づかれないようにして顔を引っ込め、悩む。
蜘蛛が動いている気配がする。一度見てしまうと、敏感になってしまうものだ。
鳥が蜘蛛に追い立てられる。なんとも奇態な話だが。
「たとえば……アレだ。
朧車ってどうやって動きを停めるものなの?
全部ぶっ壊してはいおしまい、みたいな?」
討伐に参加したこともあるらしいパートナーに、
ならばと経験則を仰いでみる。あの躯体を破壊すれば終わるのか、と。
■鞘師華奈 > 「ああ、朧車って、要するに現代の列車の先頭部分に巨大な異形の顔が付いた姿が基本でね。
――で、その顔…面を破壊すれば倒せる。逆に言えば、面を破壊しない限りは致命傷にはならない」
勿論、車両部分を破壊すれば速度や戦闘能力を削ぐ事は出来るから決して無駄にはならないが。
「――で、さっき私が脳天にその朧車の面の残骸から作って貰った杭を叩き込んだけど…効果はあったと思う。
ただ、刺さりが浅いのか、”中身”でもある怨嗟の炎を何とかしないといけないのか判断は難しいけど…あの通り、まだ動けるみたいだし。」
物陰からちらり、と覗くがこちらを索敵している動きを確認すれば顔を引っ込めて。
「撤退だけならまぁ簡単なんだよね。高価だけど、それ用のアイテムも商会で仕入れたし。
――ただ、そうなると情報収集は完全に空振りになるし…まぁ、命が最優先ではあるけど、さ」
これだけの書物の多さなら、探す労力は別としても多少は求める情報がありそうな気もしている。
そうでなくても無駄にはならないし、ビブリオマニアのパートナーの興味を引く本とかもあるかもしれない。
「――ただ、中身がほぼ空っぽ、っていう君の推測が正しいならー―装甲がそこまで分厚い、って事は無さそうかな。
そうなると、やっぱり中身の炎を何とかする必要があるかな…。」
■群千鳥 睡蓮 >
「…………アレは要するに、アレだ。
"鉄火の支配者(りお)"の異能で呼び出す物体と、
朧車……の炎?の性質を兼ね備えているものである、と?
核にあたる部分があって、それを破壊すれば停止する……」
うーん、と腕を組み組み、考える。
面、らしい場所はない。あえて言うなら顔前面の二対の眼だが。
「あの顔さ。あくまでのぞき窓っていうか……。
中に炎が燃えてるような感じだったけど、実際に燃えてるんだろうな。
顔に見えてる部分は顔じゃない……てことは」
あっ、と思い立ったように声をあげてから、顔を向ける。
「そうだなぁ。アイツがずっと居座るんじゃ、本探しどころじゃねーし。
"炎をなんとかする"アテは?
あたしはあいつをぶっ壊す手立てまでは思いついた。できるかどうかはぶっつけになるけど」
■鞘師華奈 > 「…推測だけどね。多分、朧車と鉄火の支配者の”模造品”みたいなものかもしれない。
それに、あの怨嗟の炎はきっと動力源も兼ねてるだろうから、どのみちあの炎を押さえ込まないと”弾切れ”とかも無さそうだし」
今は相談の時間だ。ヤツが自分たちを探しているのは音と気配で嫌でも伝わってくる。
まだ多少猶予はあるだろうが、撃破、無力化をするなら早々に考えを纏めないといけないだろう。
とはいえ、やり方をしくじればこちらの命にも関わる。だから慎重を期したい所だが…。
「ああ、それは最初に蜘蛛と目が合った時に私も”確認”した。あくまで蜘蛛の姿はガワってだけで、やっぱりあの怪異、の本質は中身の炎なんだと思う」
彼女の推測に同意するように頷くが、突如声を上げた彼女にどうした?という視線を向けて。
「――やろうと思えば出来るけど相応のリスクもあるかな。
あの怨嗟の炎を私が”取り込む”…つまり吸収だね。多分、この焔の力ならそれも十分可能だと思う。ただ、私への反動が未知数だからそこが懸念。
ただ、そこはまぁ何とかするよ。――だから、あの怨嗟の炎は私が対処する。」
真っ直ぐに、パートナーの顔を、その瞳を見据えて断言する。
この力に付いてもまだまだ色々思う所は多いが、今は使えるものは使うべきだ。
■群千鳥 睡蓮 >
「ええ……?大丈夫なのかよ……?お腹壊さない?」
できる、といえばできるのだろうけど、訝るように眼を細める。
アレの一部どころではなく全部腹中に収めようというなら、相応の反動があるかもしれない。
もちろん、ないかもしれない。そればかりは、パートナーの中にすくう何か、の質次第ともいえる。
「やるってんならやるけど、じゃあ、緊急脱出手段。あたしにも教えといて。
ヤバかったらすぐに出てあんたをどっかに担ぎ込むから」
直接殴り合うにも火力が尋常ではない鉄蜘蛛だ。
朧車とやらにはそれに加えて高い機動力があったと言うのなら、
なおのこと厄介だったのだろうと考える、けれども。
倒せない手立てがない存在など、この世には存在しないのだ。自分も含めて。
「……てことは、遠距離攻撃でやるしかないな。
近づいたら蜂の巣にされる。流石にあの数乱射してくる相手と正面から殴り合いたくないし。
――炎はあんたの焔で吸収するとか、そういう感じ?」
見据えていた瞳から視線を外すと、ビルの上を歩き回り、角度を測るように腕を伸ばして、
フレームを作ったり、なにかを確認する仕草を見せる。
■鞘師華奈 > 「いや、分からんよ。怪異の怨嗟の炎を吸収した事なんて無いんだし。
ただ、私が”器”なら中に巣食ってる”誰かさん”も器(わたし)を守る為に頑張るしかないじゃないかな?」
ある意味で、自分自身を囮にして中の存在にフォローさせるみたいな感じだが、実際そうなるから仕方ない。
使えるモノは何でも使う――それが中に巣食う存在でも例外ではない。
「ああ、『道開きの御守』っていうやつの改造品。本来は鳥居が書かれたお札にそのお守りを翳すか、鳥居を潜ると抜け出せるし、逆に表からこっちにも来れるアイテムなんだけどね。
このお守りは中身を開くと即座に発動して、強制的に表に帰還させる仕組み。
ただ、即効性だし改造品だから、一つしか調達出来てない。だから、使うなら二人揃ってないと一方だけ帰還する羽目になる」
と、お守りを取り出してそれを彼女に見せる。つまり、どちらが持っているかという事だが。
「これは君がもっているべきだろう、とお守りを押し付ける。どのみち、こちらは炎の吸収を担当だ。その余波で燃え尽きたらどうしようもない。
「ああ、炎は私が何とかする。だから、アレを壊すのはそっちに手立てがあるっぽいから任せる事になる。
――どのみち、もう迷ったり検討してる時間は無さそうだし」
と、蜘蛛の様子を窺っていたのだが、パートナーがふとビルの屋上を歩き回り、何やら”計測”を始めたのを不思議そうに眺めていたのだが。
(――策があるなら、彼女に任せるだけだ。私はあの炎を何とかすればいい)
こちらとて、そもそもあの怨嗟の炎を吸収しきれるのか、影響はどれだけあるのか、など不確定要素が多すぎる。
「――鋭眼、こっちは何時でも行けるよ。」
だが、それは今は考えても仕方ない。決断したならあとは動くのみ。
■群千鳥 睡蓮 >
「そらそーだ」
剛毅な物言いには、にっ、と笑みを浮かべて。
受け取ったお守りの使い方は承知しておく。
そういうことならばと、彼女とは少し距離を開けて。
「必ず連れて帰るからそのあたりは大丈夫。
ここで見捨てたら何言われるかわかったもんじゃないし……
あたし、そのために来てるようなとこもあるからな」
じゃあ、と手を宙空、まだこちらに気づいてない蜘蛛のほうに向ける。
深く息を吸い込み……それを成し、集中させる。
一点突破は独力でもできるが、この一撃でしくじった後が怖い。
あの鋼鉄の捕食者は用心深く、まだなにかを隠している気がする。
一撃必勝で決めるのが望ましい、ゆえに、一石二鳥を求める。
「あたしが手をかざしてる方向……"前方"に。
全力で炎を出して……できる?
数秒でいいから、維持してほしいんだけど」
視線だけ横に向けて、それが手段だ、と告げた。
■鞘師華奈 > 「そこは、”すきな人の為に”という理由もちょびっとは付け加えて欲しいなぁ」
と、笑って軽口を叩く余裕はある。だが、ここからは博打に近い勝負だ。
しくじりは出来ないし、自身の不確定要素を”勝ち”に傾けなければならない。
パートナーが未だこちらには気付いていない鉄蜘蛛に手を翳し集中を始める。
と、彼女のオーダーに分かった、と頷く。ただ懸念、というか前提条件が一つだけあった。
「やるけど、今の私はまだ多分力の把握が不完全だから、全力を出しても火力としてはぎりぎりかもしれない。
だけど、まぁ―――やれる限りはやるさ。こんな所で私は躓いていられないんだ」
”猛禽”は高く飛ぶ為に、前へと飛翔する為にその蜘蛛を食らうのだ。
彼女の求めに応じ、手を翳した彼女の前方へと炎を発生させる。
集中――瞳が爛々と赤い輝きを発して瞳孔が見開かれる。
全力――髪の毛が鮮やかな真紅色へと染まり、全身から今にも溢れそうな熱が毀れ始めて。
「―――燃焼…凝縮…まだ――まだ、まだ、まだ――!!」
パートナーが手を翳す前方の空間に、巨大な火炎球が生じる。まるで小さな太陽のように莫大な熱量を封じ込めたそれを出現させれば、それの維持の為に集中を切らさない。
「―――ッ…!これ、が今の全力…か、な!」
かろうじて言葉を発する。熱量の制御に手一杯で、他に余力が回せない。どのみち、あと数秒維持するのが限界だろう。
■群千鳥 睡蓮 >
「言わなくても伝わるもんだと思ってたけど?」
そのあたりの機微はまだよくわからないが。
こんな場所まで来る理由にもなっているものだ。
行間を読め、だなどと無理難題を押し付けながら、生まれた太陽はおそらくあの蜘蛛も気づく筈。
それでいい。
「オッケー、それじゃあ……」
ふれただけで消し飛ばされそうなその火力に向かって、片手だけでなく両手を掲げ。
その身体から竜巻もかくやという暴風が吹き荒れて、火球に注ぎ込まれる。
空気でもって"制御"されるその高熱を、小さく、細く、更に熱く、練っていく。
宙空でもって炎に風を注ぎ込み、燃やし、凝縮し、精錬せしめる。
「思いっきり……」
瞬間、風が止むとともに、天へ伸びる橙の柱。
極限まで圧縮され、空気によって制御。放出された"超高熱の翼"。
もともと瓦礫を吹き飛ばすだけの熱を、片刃の形に変えたこの場における切り札は、
炎の担い手たる"猛禽"の手にゆだねられる。
空気を灼き、世界を灼く。
重みも硬さもなく、ただ熱でもって灼き切るために製造された、
数秒だけこの世に顕現する魔剣。
薄さは数ミリ、身幅3センチ。標準的な日本刀と同程度。
しかしその刃長にして"数百メートル超"の赤熱の刃、"蜘蛛切の太刀"。
「"振り抜け"ッ!"猛禽"ッ!」
■鞘師華奈 > 「うん、君ならそう言うと思ってたよ!」
だからといって行間を読め、とは中々無理難題を言ってくれる。
私だってそういう機微は決して聡いとは言えないのだけれど…だけど。
――ああ、だったら少しは格好付けないといけないね…!
熱量の制御は精密に、それでいて暴走ギリギリの絶妙なラインを維持していく。
しくじればその場で暴発するが、火力を妥協すればヤツを倒しきれない可能性もある。
小さな太陽が、パートナーの風によって精錬されていく――刃は自分が、それを鍛え上げるのは彼女が行う事により――ほんの一時だけ現れるのは、
「―――魔剣か妖刀か、はたまた神剣か…なんて、ね」
風が止む、天を貫く炎翼の如き超高熱の刃。力強くも、少しでも気を抜けば即座に瓦解しそうな危うさ。
鉄蜘蛛もこちらに気付いたようだが――もう遅い。この時、この場限りの”魔剣”を受けるがいい。
「任された。―――さぁ、行け――」
何かを掴むようにその右手をグッと握る。炎と風、その合わせ技でヤツを切る。
その名は―――
右手を鋭く振り抜く。その動きに合わせ――赤熱の刃が鉄蜘蛛を灼き、切り裂き、破壊せしめんと。
その名前は――――
”猛禽”と”鋭眼”の合作をこの手に振るう。
■鞘師華奈 > 「万象灼き裂け―――【蜘蛛切りの太刀】!!!」
■---- >
音も立たずに。
伸ばされた熱閃は、同じく長射程を持つ鋼蜘蛛の身体を過たずとらえ、"するり"と切った。
熱したナイフでバターを切り分けたときのように、手応えもなく。
橙色の傷痕にそって溶断された鋼の蜘蛛は、
がっちりと壁に捕まりながらも。
捕まっていたビルごと、"ずれ"て、落ちていく。
その鋼蜘蛛の残骸、頭を切り落とされた形になるビルに捕まっている半ばの蜘蛛。
その半分だけになった蜘蛛も、地面に叩きつけられ、歪にひしゃげて停止する。
では炎はどこに行ったのかといえば、
刀にべとりと付着する返り血のように、
蜘蛛を切った刃にからめとられ、その切っ先で轟々と燃えていた。
朧の残滓、悪しき鬼火。
■群千鳥 睡蓮 >
「……ふー……、これ維持してるのも、ちょっとしんどいな。
……やれる?」
気温が随分上がったように感じる。顎に伝う汗を袖口で拭いながら。
あとはその炎の始末のみ。こればかりは自分にもどうにもならない。
風を一箇所にここまで圧縮して留めておくのもはじめての経験だ。
後事は託すしかない。お互い消耗してるなか、申し訳ないが。
「――あの落っこちていったビルに目当てのものがあります、
なんてオチが待ってなきゃいいけどね」
眩しいほどの熱を放つ赤い刃を見下ろしながら。
見下ろすビルの断面は、じりじりと熱を未だに放ち、赤く融けて雨露のように雫を垂らしている。
■鞘師華奈 > 「やるしかないだろうさ――むしろ、あの鬼火じみた怨嗟の炎が”本体”であり”核”なんだろうし…。」
蜘蛛切りの太刀――即席の、合体技ともいえる”魔剣”は鉄蜘蛛をバターを切るが如くあっさりと切り裂いた。
とはいえ、それで終わりではない。赤熱の刃にこびりつくように、もがくような鬼火に手を翳す。
そして、瞳の色が一瞬だけ赤ではなく”青く”輝いたかと思えば、グッとその手を拳に変えてこちらへと引張るような仕草を。
見えない何かに引き寄せられるように、怨嗟の鬼火は女の元へと引き寄せられ――その体へと埋没するように吸収されていく。
「――もう、風は解除していいよ、鋭眼……あと…私も思ってたけど言われると不吉だからそれは止めて…。」
そこまで言葉を発してから、流石にしんどいのか片膝を付いて呼吸を荒げる。
精神を侵食されるような感触は無いが、まるで悪いものを食べたかのようによろしくない。
「――まぁ、でも思ったよりは平気かな…。」
呟くように口にして、ゆっくりと立ち上がる。正直、先ほどの火力の消耗の方がしんどいといえばしんどい。
■群千鳥 睡蓮 >
言われると、空気を解放する。
ぶおっ、と身体を煽るほどの暴風が解き放たれ、吹き飛ばないようにパートナーの肩を掴んでおいた。
赤から青に。……眼を細める。
一体何を飼っているのか。問いかけてきた声の主は、未だに正体は知れない。
探すためにここに来たのだ。
「ほんとに食べちゃった。 ……後でおなか下したりしなきゃいいけどね。
その時は虫下しになるのかな、蜘蛛だけに……蜘蛛って虫でいいんだっけか」
しげしげと様子を見つつも、疲労している様子は若干心配そうに覗き込む。
大丈夫そうなので、とりあえず気を配りながら。
「苦しかったら言ってね、また抱えてってあげるから。
……あたしも疲れた。ここらへんのヌシだったのかなあ。
朧車は全部壊れた筈なんでしょ?なのになんだって……あ」
ポケットから小さい双眼鏡を取り出して、改めて蜘蛛の残骸を観察すると。
「あー……成程?」
と、双眼鏡を隣のパートナーに渡した。覗いてみなよ、と。
■鞘師華奈 > 「おっ…と?」
パートナーに肩を掴まれて、何とか解除された暴風に煽られずには済んだ。
瞳の色は既に赤へと戻っているが――怨嗟の炎を吸収する一瞬、確かに青い瞳になっていたのを彼女なら見逃さなかっただろう。
未だ、声でしか姿を見せないこの女を”器”とする存在の主は――今はただ沈黙を保ち続けて。
「食べたんじゃないんだけどね…これでまた変な能力身に付いたらどうしようか」
どのみち、怨嗟の炎なんて不吉以外の何者でもないのだが。だが、吸収したからこそ分かる。
多分、また一つ”器”としての自分が完成に近づいたのだろうな、と。あくまで漠然とした予感で根拠はないが確信はある。
「…いや、何かすっかり私がお姫様役になるのはちょっと…そういうの柄じゃないんだ、本来。
…怪異に縄張り意識があるのかは私も詳しくは分からないけど、この空間というかフロア?一体を根城にしてたのは間違いなさそう、かな。」
彼女の言葉に、何とか落ち着いたのか呼吸も落ち着けながら一息と共にそう答えて。
と、何かに気付いたのかパートナーが双眼鏡を取り出して先ほどビルごと切り裂かれた鉄蜘蛛の残骸を見ている。
「…ん?何か見えるのかい?」
と、不思議そうにしつつも納得したようらしき彼女から双眼鏡を借りれば、促されるままにこちらも残骸を覗き込んでみようかと。
■---- >
残骸から、モゾモゾと――ここから見下ろせるから、
サイズ自体は軽く、人間の腕ほどはあるが。
鋼鉄の節くれだった芋虫が一匹、這い出して。
そして側溝のフタを開けて逃げ込む様がある。
あれこそが、本体。炎の動力、鋼鉄の肉体を操っていた、
"脳"の部分である、といえるだろう。
■群千鳥 睡蓮 >
「風紀委員会と朧車の交戦の時に出た残骸や破片をなんかして、
あの身体とか炎を作ってたのかもね。
吸収と再現の能力をもった怪異……てトコか」
見た目の麗しさでは比べるべくもないけれども。
種を明かせば、それはただの剽窃者に過ぎない。
朧車ほどの怨念もなければ、鉄火の支配者のように戦場への理解もない。
だからこそ、この二人の異能者を食らってさらなる飛躍を求めたのかもしれないが。
"バードイーター"の顛末とは、そのようなものだった。
その本体は更に地の深いところ、闇の中。
「色んなのが居るんだなぁ……って」
人間にも色々なのだから、当たり前なのだけれども。
「……さ、て。どーする? 少し見てく?
ふつーの書店にいい本があるかはわからないけど?」
立ち上がり、裾の埃を払う。
今回ばかりは運が悪かった――それこそ残火にあぶられるような経験だったのだろう。
次は落ち着いて探索ができるはず、である。
■鞘師華奈 > 「――成程ね、アレが正真正銘の”本体”か…吸収と再現…また地味に面倒な能力を持った怪異が居たもんだ」
その本体ではないとはいえ、炎を吸収した自分は大丈夫なんだろうか?と、思わないでもないが。
その時はその時だろう、と静かに割り切る。どのみち怨嗟の炎は残しておいていいものではない。
闇の底に逃げ込んだヤツを追う気力も体力も無いし、どのみち深追いはしない。
ただ、何とも言えない疲れたような溜息を一つ零してから、双眼鏡をパートナーへと返しつつ。
「多種多様、千差万別は怪異も変わらないって事だね…そうだね、軽く見るだけ見てから今回は引き上げよう。
どのみち、裏常世渋谷は長居出来る場所じゃないからね…人間にはこの空間は良くないようだし」
一応、自分もだがパートナーにも、ここに入る前に滞在時間を延長できるように護符を持たせているが、それでも効力が切れれば危険だろう。
眼下の残骸と切られたビルを見下ろしてから苦笑を漏らす。残火――少し前の自分みたいだ。少しだけ何とも言えない気持ちになるけれど。
「まぁ、私の求める情報もだけど君が興味を惹かれるような本もどうせなら見つけたい所だけどね。
――さて、今のところ札には反応は無いし早めに覗いてから今回は引き上げだ。―――行こうか、”睡蓮”」
そう、彼女の名前を口にして笑う。コードネームもいいが、一度だけならいいだろう。
この後、外に戻ればまた普通に名前を呼び合うのだけど…うん、なんか名前を呼びたい気分だったから。
周囲に怪異の反応は無いし、一度だけ、名前だけなら呪なども無いだろう。
「――あぁ、そういえば探索終わったら少し家に寄っていかないかい?鍋にしようかと思うんだけどさ――」
あと、最近子猫を飼い始めたんだよ。と、そんな近況を伝えたりもしつつ。
頼れるパートナーと共に、簡単にビルの調査をしてから今回は引き上げようと。
――勿論、次こそはリベンジでばっちり探索するぞ!と心に誓いながら。
■群千鳥 睡蓮 >
「――――ああ、らしいね」
人間にはよくない。その言葉に、ぼんやりと返事をした。
ここにきてから、表の世界より随分と調子がいい。
つまり自分の性質は怪異に寄っている、わけだ。
なれど、その上で。
「人間として"在ってみせる"よ」
名前を呼ばれると。
ぽつりとつぶやいて膝を伸ばす。
それは華奈に告げたものではなく、宣誓であった。
「次はこの本屋の山を探索するわけか。
ひとつのお店で立ち読みするだけで一日潰せそー……まあ、楽しそうだから付き合うけど。
んじゃいこっか。 お鍋ね、いいね。ちょっと辛いの食べたいな、そろそろ寒くなってくるし。
――猫。 猫ねえ。 寂しがりだったりする?」
楽しそうに告げて、こちらも立ち上がる。
「帰ろう、華奈。 あたしたちの世界に」
表側に。そう告げて、彼女の渡してくれた脱出用のアイテムを取り出す。
ここに辿り着けたことが収穫。その縁を辿り、またここに来ることもあるだろう。
■鞘師華奈 > 「――君は人間だよ。――そして、私だって人間だ」
怪異に寄っていようと、人ならざる存在の器になっていようと、そこは変わらない。
人として生きて、人として笑って死んでみせよう。だから、今は日の光が当たる表の世界へ――帰ろう。
ご案内:「裏常世渋谷」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」から鞘師華奈さんが去りました。