2020/11/19 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に月夜見 真琴さんが現れました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に園刃 華霧 さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
『きょうは出かけるぞ』

ここのところ、常世祭の準備に追われていた芸術学科生はといえば。
久方の休日、寝ぼけ眼をこすりながら同居人に号令を発した。
風紀委員の窓際でぼんやり風景を眺めているような閑雲孤鶴にとって、
落第街のあれこれなど、どこ吹く風――表面上は。

「ふふふ」

頬を切る風がだいぶ冷たくなった常世島の盛り場で、
ずいぶんと上機嫌な様相で歩いているのが、その風紀委員。
両手には複数件のブティックのロゴが印字された袋をめいっぱい提げている。

「いやあ、いい買い物をした。最近はカタログを眺めるばかりだったからな。
 通販も便利だが実際に足を運んだ時の楽しみは味わえない。
 なにより試着ができないしな――そうだろう、華霧?」

と、連れ立つ同居人ににっこりと微笑みかけた。
買い物袋の中身すべてが、その同居人を試着室できせかえ人形にした成果である。
わかりやすいストレスの発散だった。裏側の事情から、同居人を遠ざけながらの。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から園刃 華霧 さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 >  
考えることなど得意ではない。
頭を空っぽにして、何も見ないふりをして、それで生きていけるならどんなに気楽なことか。
残念なことに考えなければいけないことはあちらこちらに、まるで地雷のように潜んでいる。

あるやり取りから、ぼんやりとすることが時折あって
そんな瞬間に同居人から声がかかった。

『きょうは出かけるぞ』


今はそんな気分じゃない、と抵抗しようとしたものの……
結局は引きずられて此処まで来た。

抵抗も虚しく着せかえ人形にされ、気づけば服の山を抱える羽目になり。
今やだいぶ疲弊して、半分何も考えられない状態だった。


「……ァ―……別に、あたしは、どっチでも……いいっテ、いう、カ……
 もう、ツか、れた……」


顔に疲弊も顕に、息も絶え絶え、といった様子で答えた。

月夜見 真琴 >  
「早々に音を上げるかと思ったが、なかなかどうして耐えたじゃないか。
 偉いぞ。えらーいえらい。だいぶ弁えてきてくれてなによりだ」

疲労困憊のご様子。慣れないことをさせたのだから当たり前だ。
それでもまだ歩ける程度の心身の余裕があると見れば、
軽口を叩いて鼻歌交じりに歩いてみせる。

「それとも、刑事課はそんなに忙しいかな?
 格好のつく響きではあるが、存外書類仕事が主だからな」

とある理由から自分の古巣に転属することを決断した彼女に、
なんでもないように告げながら、懐かしむように虚空をみあげる。
考えることは――いくらでもあった。その多くが考えなければならないことだ。
周囲の環境が激変しても、自分の役割はそうそう変わらない。

「とはいえこの大荷物だ。ちょうどバスが混む時間だし。
 かえりみちはハイヤーでも喚んで――おや?
 ああ、ちょうどいい。華霧、こっちだ」

そんななか、不意に視線が真横の一点に注がれ、足を止める。
方向を変え向かった先は可愛らしい店構え。衣料品店、という感じではない。
そちらへ行こう、とばかりに声をかけ、方向転換してあるきだした。

園刃 華霧 >  
弁える。確かに、そうなのかもしれない。
正直、許して、勘弁してほしい、という言葉は何度かでかかったのだが……
けれど、それはできなかった。

まるで……いや、考えるまい


「……そっチは、まァ……慣れ、ルまで、ダし。
 多分平気、だヨ。」

刑事課。色々想うところはあるが、そこでの仕事はさほど負担でもない。
存外気のいい連中もいたし、ほどほどにやっていける……けれど

――書類

これがある意味、一番の問題だ
なにしろ……

そこまで考えたところで、同居人がまた何やら店を見つけたらしい。
喫茶店か何かかな……とわずかばかりの期待をかけて視線を追うが……

なにやら、衣服ではなさそうだが、妙に飾り立てられた感、というか……
いわゆる、女の子女の子した、というか……
その、自分にはあまり得意じゃない感じがプンプンと臭う店構えのアレ。

「え、ちょ、マコト? まって、いや、もウいいダろ……?」

しかし、待ってはくれない
同居人はすでに歩きだしている。

……一瞬、逃げるか? という思考が脳裏をよぎるが……
それは、できなかった

諦めてしぶしぶあとをついていく

月夜見 真琴 >  
軒を連ねているのは小物を取り扱っている店構え。
装飾具やそういうものならまだ良かろうが、
さて、頻繁に最近世話をしている彼女のかんばせというカンバスに、
美少女、という芸術をより確かなものとして世界に示現されるものたち。

「最初からあれやこれやというのもいかにも難しい。
 というわけで、おまえの感覚で選び取れるものから始めてみよう!
 ――と、おもう。なあに構えるな、警戒するな。
 やってみれば案外楽しめるかもしれないし?」

根拠もなくそう笑うのは、からかい半分、そして監視役としての仕事半分。
これが正しい方針かどうかはともかく、彼女には色々と教えていかなければならない。
おそらくこれから、ゆっくりと時間をかけて。
まずはできるところから、わかるところから、だ。

「逃げずについてきたな。えらいぞ」

硝子に可愛らしい意匠のデザインが施された扉を開く。
ベルなどついていないから静かなもの。
挨拶代わりには、ふわりとささやかに香る花の気配。
香水の専門店だ。

「これならおまえでも入りやすいかな、とな?」

人工の香りはあまり得手にしていなさそうだが、そこはそれ。
フレグランスやコスメティクスの類も、昨今進化を続けている分野だ。

園刃 華霧 >  
「構エる、警戒すル」

にべもなく応える。
この同居人は嘘が得意で、悪巧みも得意ときている。
警戒しないほうが嘘だ。

まあ……だからといって逆らえないのも事実ではあるのだが。


「……へーへー」

えらいぞ、といわれてもあまりうれしくはない。
そりゃ、地獄への扉に素直についてきたことを褒められても……だ。

そうこうしているうちに、なかなかアレな感じの扉が開かれ、中に……


「うげ」

思わず変な声を出す
漂ってきた匂い
正直、自分が得意としない分野の中の一つだった

以前、この手のやつでなんの気無しに「くさい」といって大失敗をやらかしたりした思い出もある。
だって、臭いじゃんか

「……やッパ、帰る……」

すでにめげていた。

月夜見 真琴 >  
「おまえ、感覚器も鋭いものな。 やはり苦手意識があったか。
 ――ああ、通行人の邪魔になる。横に退こうか」

両手がふさがっているので、普段のわざとらしい所作はなりを潜めていたが、
首を傾ぎながら見つめるその瞳は、いくらかリアクションに想像がついていたところもある。
さりげなく彼女を出口から遠いところに誘導しながら、
そう広くもない店内に視線を巡らせて。

「曰く、乙女の身嗜み。
 かと言って、飾りすぎたものも良くはないがな。
 あまり香りの強くないもの、天然ものはあまり保たないが――
 ほらほら、どうした。レイチェルもつけているだろうに?」

めげる様子の彼女に苦笑いしつつ、自分の肩を軽く竦めて鼻孔を寄せると。

「やつがれがつけているものも、苦手だったかな?」

ほのかに、甘やかなバニラが尾を引く。
強すぎない香りが好みだった。
どういうものが、どうだめなのか。
ちょっとずつ探っていこう。本当にだめそうなら、店を出ることも考えよう。

園刃 華霧 >  
「ン、そうダな……って、あ」

通行人の邪魔、といわれて、それもそうかとどいてから気がつく。
出口から遠くに行ってるじゃんか、これ。
あっちにズレてもよかったのに、わざとだな、こいつ……ッ

密やかな策謀に気がつくも時すでに遅く……
すでに逃げるには少し手間取るような位置取りに誘導されてしまった。


「ぁー……いや、そノ、あレ……うン……
 たしカ、に……レイチェル、も……つけてンだけどサ……
 そレが、一番、駄目ってーカ……」

妙に歯切れの悪い返事を返す。
言いたくないというか、言いにくいというか……そんな塩梅の


「ン……ちト、甘スぎってイうか……
 食いモンみたイで、なンかこう……うん……」

いやか、といわれれば
我慢できる範囲ではあるが、気にはなる。
他人が付けてる分には文句もないが、自分が、となると……
遠慮したい気がする。

月夜見 真琴 >  
「なにか面白そうなことがあったようだな」

きかないけど、と微妙な様子に愉快そうに笑った。
言う時は言ってくれる子だ。守りたいのは他人の尊厳かもしれない。
そんな流れで、ふと不思議な言葉が挟まれると、
かしいだ首にのった顔は、少しだけ神妙に。

「たべもの……」

そこまで強い香りではないはずだが。
受容するかたちはひとそれぞれ。ふうん、ととりあえず納得の色を見て。
多種多様な意匠の硝子瓶。化粧台に色々並べているのを見たことがあるかもしれない。
おなじものもある。フルーツを思わせる香りもよろしくないのか。

「おなかがすく、とか?」

冗談めかして笑いながら、そっと袋を足元におくと、
ひとつ小瓶を手にとった。おいで、と手招きする。

園刃 華霧 >  
「ぅー……」


つい何気なく「くさい」といってしまったら、実はレイチェルの香水の匂いで
次の日からその匂いがお蔵入りになっていた、なんていうちょっとした事件。

別に、責めるつもりも虐めるつもりも否定するつもりもなかったのだけれど……
こう、なんというか……間が悪かった、その一言に尽きる、それ。

流石に、こう……その当時、側にいた人間なら仕方ないにしても。
そこにいなかった人間に、ぺらぺらと話すようなことでもないよな……とは、ちょっと想う。
だから、黙っている。

「いヤ……んー……なンか、こウ……鼻にツく……ってーカ……
 あ、いヤ!? 別に、嫌いってイうのトちがっテ……注意がソれるってーカ。
 鼻が塞ガれた感じニなルってーカ……うー……」

また事件再発にならないように、言葉を選ぼうとする。
するんだけれど、つい正直に口走ってしまう部分とが混ざってなんとも言えない言動に。

月夜見 真琴 >  
「なるほどな」

たのしそうに肩を震わせながら彼女のしどろもどろの様子を伺う。
気を使ってくれているらしく、また苦手意識の理由も明確だ。
判る範囲のことを言語化するにあたっては、とても頭の良い子だと思う。

「合点がいったよ。人間は――」

手をのばす。
指をひらいて、ひとさしゆびで、彼女の目元をぷにぷにと押した。

「目に頼りやすい。認識が視覚に引っ張られやすい、というのかな。
 でもおまえの場合は嗅覚も、世界をとらえるにあたって比重が大きいようだ」

まあ、だからと言ってやめないけど。
そんなことを言いたげな笑顔で身を翻せば、
あれやこれや、瓶を眺めたり、テスターを確かめたりしながら。

「ではなるべく、嗅覚の邪魔にならないもの。
 花か果物――とはいえやつがれも色々多くを試しているわけではないからな。
 ヨキ先生とかお詳しいかな――こんど知見を授かってみるべきか」

園刃 華霧 >  
「ん、ぐ……『世界をとらえる』? そンなもン、か?
 いや……うン、そう……なんだロう、ナ」

そういう視点で言えば。
自分はあらゆる感覚で世界をとらえている、と言えるだろう。
なにしろ、気を許せば何があるかわかったものじゃない、そういう時を過ごしてきたのだから。

未だに……何かの些細な気配で目覚めたり、
ふかふかのベッドより、硬い床と壁で背中を守って寝るほうが落ち着いたり、する。


「……やメはしナいのナ……わかっちゃイたけド……
 ってカ、なンでそコでヨッキーなンだよ。
 イや、確かニ、まァ……色々、知ってソうだケど……」


急に出てきた人物名に、思わず声を上げる。
ただ、納得いかないでもない人選なのも確かだ。
そうはいっても……そんな要件で会う気はちょっと、しないのだけれど……

いや、かの人物のことだから喜んで色々教えてきそうな気はする。
だから余計に怖いのだけれど。

月夜見 真琴 >  
「だって」

ふりかえると、いつものように得意げに語尾をあげるいらえを向けた。

「この香りは、おまえの関心をさらのだろう?
 思考ではなく本能的な部分で、おまえの世界の一端をやつがれが占めてしまう。
 そう考えると存外、良い気分だよ」

やめないよ、と意地悪な笑みを浮かべた。
テスターのひとつを手に取って、おいで、と手招きをする。

「こういった分野では頼れる御方だからだよ。
 もちろんそれ以外でも、色々とお世話になっている御方だ。
 この時期は多分に漏れずご多忙だろうが――それにほら。
 おまえ、先生の話をするときは機嫌がよくなるから」

相談もしやすいのでは、と普段見ている所見を伝えながら。
軽く吹くのは嫌味にならない程度のシトラスの香りだ。

「――どう?」

覗き込むようにして、問いかけてみる。
なるべく人工物としての気配が少ないものを選んではみても、
感覚器は鋭敏にしてデリケート。忌憚ない意見を求めたい。