2021/06/06 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
常世渋谷で起こっていた子供の行方不明騒動。
巷では『神隠し』だのと言われていた騒ぎも久那土会の活躍によって解決の目を見たらしい。
持つべきものは頼りになる同盟者である。島の平和が護られるのならば、それを叶えるのが風紀委員会でなくてはならない理由はない。
風紀だろうが公安だろうが。祭祀局だろうが久那土会だろうが。
『表』の平和と安全が護られるなら、何だって良いのだ。
「……と、御理解頂くには難しいのだろうな」
なんて思っているのは自分だけなのかもしれない。
少なくとも、風紀委員会の過激派においては。
主戦派かつ好戦的と目される事は承知しているが、誰彼構わず喧嘩を吹っ掛ける程血に飢えている訳でも無い。
そもそも自分にとっての『闘争』とは、単純な暴力行為だけではない。
学問・芸術・運動・政治等々。誰かと競う、ということは須らく闘争であるのだから。
尤も、派閥の上層部の皆様はそうではないらしい。
『風紀委員会にも確固たる戦功を』等とあやふやな指示を受けた特務広報部であったが、そんな命令に部下を出す訳にもいかない。
結果として、単独行動にて裏常世渋谷を訪れていたのだが――
■神代理央 >
「……どうやら、外れだったみたいだな」
朧車との戦闘で幾度となく訪れた裏世界。
訪れる度に様々な姿を見せる裏常世渋谷ではあるが、今回は比較的オーソドックスと呼べるのではないだろうか。
真っ赤な空。漆黒のビル群。自分以外に誰一人として存在しない赤と黒の街。
此処が唯一優れているのは、正々堂々と路上喫煙が出来る事だけだ。
「迷い人がいないのは僥倖だが、怪異一つ見当たらぬ。
兵を送るなら、せめて精査した情報を元にして貰わねば困るのだがな…」
落第街には詳しくても、怪異相手ではこんなものか。
と、自身の所属する派閥に対して小さく溜息。
懐から取り出した煙草に火を付けて、紫煙を吐き出しながら無人の街を歩く。
背後に従える異形が、アスファルトを踏み砕きながら後に続く。
■??? >
「…随分と暢気な事だな。理央。学生生活を謳歌している様だが、貴様はそんなに可愛げのある子供だったかね」
■神代理央 >
声が、響く。
異形が反応し、一斉に砲身を軋ませる。
だが、異形の主たる少年は。鉄火の支配者はその"聞き慣れた"声に茫然と立ち尽くし――現れた人影を見つめるばかり。
■神代理央 >
「……とう、さま…?」
■神代統? >
「何を驚いている。私の異能がどの様なものであったか、忘れた訳ではあるまい」
少年の眼前に現れた真っ黒な人影は、徐々にその明度を増していく。
コールタールからマネキンへ。マネキンからニンゲンへと変化するかの様に現れたのは、長身痩躯の男性。
漆黒の髪をオールバックにまとめ上げ、髪色と同じく染め上げられた漆黒のダブルスーツをスリーピースでかっちりと着こなした男。
蛇と鴉を綯い交ぜにした様な表情の男は、冷たい視線を少年に向ける。
「私は貴様に、常世学園で学生生活を謳歌しろ、とは命じていない筈だがね。風紀委員会とやらに兵器を搬入させる程度で、私の指示を遂行しているとは、よもや言うまいな?」
■神代理央 >
「…申し訳、御座いません。先ずは、島内での基盤の確保、と思い行動しておりました。
しかし、成果は確実に上がっております。今暫くお待ち頂ければ、必ず父様にもご満足頂ける結果を――」
震える声。ぎゅぅ、と拳が握り締められる。
決して好ましく思わない父親であるが、それでも相対すれば――
■神代統? >
「私がいつ、貴様と肉親として会話して良いと許可を出した?」
■神代理央 >
「……失礼致しました、支社長。失態を御許し下さい」
頭を、下げる。
平伏の意を示す。
彼は父親ではない。
神代家の次期当主であり、レーヴェンタール家の娘を嫁に迎えた欧州の名誉貴族でもあり、軍事複合体Alte Kroneの日本支社長。
自分の、上司。仕えるべき男。
「重ねて、失態を詫びる機会を。支社長のご期待に沿えない事、深く恥じ入るばかりです。
どうか、今暫くの時間を。此の島で、必ず支社長にご満足頂ける結果を、出してみせます」
■神代統? >
「期待はしていない」
何処からか取り出した資料を眺めながら、少年の言葉を一蹴する。
「政情不安、と迄はいかぬが、島内の治安が回復傾向にあるのは好ましくない。
戦力と資金が必要なら、マイヤーに必要分を伝えろ。
もう少し器用に立ち回れ。体制側に尽くすだけが、コネクションでの入り口ではない」
短く伝えると、男の姿は再び漆黒へと包まれていく。
ニンゲンからマネキンへ。マネキンからコールタールへ。
「多忙な時間を割いてこんな場所まで思念を飛ばしたのだ。
その意味を良く考えろ。無能な者は、私の下にいらぬ」
それだけを言い残して、男の姿は大地へと消えた。
■神代理央 >
「畏まりました。全て、支社長の仰せの通りに」
融けていく男を、頭を下げて見送った。
この男が、裏世界の怪異であれば良かったのに。
心の弱さに付け込んで現れる幻想であれば良かったのに。
…そうではないことは、良く分かった。分かってしまった。
父親の異能。現れた時の雰囲気、オーラ。
そして何より――
「…………いつもの父様だもんな。間違えるわけ、ないもの」
頭を上げた少年の表情は、何故か穏やかなものだった。
気を抜けばくすくすと笑みが零れてしまいそうな程。
■神代理央 >
「…と、浮かれてばかりもいられないな。こんな場所で、のんびりしている訳にもいかない」
気を引き締め直す様に、ぺちぺちと頬を叩く。
歩き出すその脚は、先程よりも大股だ。
「先ずは…そうだな。やはり落第街を突いてみるか。
現状で出来る事を、一つずつこなしていかないとな」
上機嫌に語った少年の姿は――いつの間にか、異世界から掻き消えていた。
ご案内:「裏常世渋谷」から神代理央さんが去りました。