2021/06/29 のログ
■神代理央 >
――普段はもっと、彼女自身に引きずり込まれる様な口付けを交わすのに。
腕を離そうとすれば、強く抵抗してくるんじゃないか、とも思ったのに。
少女と言葉と抵抗は、驚く程に弱々しいものだった。
彼女が纏う噂も、山と積み上げられた報告書の類も、今の彼女を見て信じる者はいないだろう。
悲嘆と悲哀と落胆。
そんな彼女はただ、幼くすら見えた。
だから――
「…………ん…」
彼女の言葉に、返事をする事もない。
半ば強引に、その身を抱き寄せる様に。
彼女の唇を、奪う。
「………予定変更だ。今日は俺も帰る。
今の冥を、ほっぽり出して帰る訳にはいかないからな。
だから、夜更かしせずにちゃんと寝るんだぞ。ちゃんと、一緒にいてやるから」
そして、そっと唇を離すと。
彼女の頭を撫でようと手を伸ばしながら、穏やかに微笑んだ。
■比良坂 冥 >
互いの影が重なり…ゆっくりと離れる
「──、は……」
悲哀や落胆の影が落とされていた少女の表情は…見違えていただろう
少女然とした、気恥ずかしさを感じさせる顔を少年に見せていた
それだけでなく、その後に続いた少年の言葉には…──
「……いいの?」
頭を撫でられながら、そんな言葉を呟く
少年を…言い換えれば束縛しようとしていた少女とは思えない程に、おずおずと
「……じゃあ、言うこと聞く──」
ぽふ、と少年の胸に頭を預けながら、『素直』だと聞こえるような言葉を呟く
──が
少年から見えない昏い瞳は
頼ってくれる友人や、信頼の置ける部下、といった
少年を"縛っている"自分以外の要因をしっかりと見据えていた
■神代理央 >
「…急ぎの仕事じゃないしな。別に、明日でも構わない仕事だ。
それに、その…冥が、そこまで寂しい思いをしてるって気付かなかったのは、悪いと思ってる」
「だから、今日は一緒に帰ろう。帰って、温かいミルクでも飲んで一緒に寝よう。
……ん。言う事を聞けるのは良いことだ。でも、偶には今みたいに抱えてることを言ってくれてもいいからな?」
気恥ずかしさと、喜色を交えた少女の言葉と態度に。
今日だけは仕事を片付けなくても良かった、と。
それが間違いではなかったのだと、少年もまた、喜色と安堵の笑みを浮かべながら、ぽふぽふと少女の頭を撫でるのだろう。
そうして、少しの間自分の胸に頭を預けた少女を撫で続けて。
その後は仲良く、二人で家路についたのだろうか。
少年は気付かない。
少女の言葉と態度が『孤独感』から来るものだろうか、とは思っていた。だから、自分を束縛してしまおうとしたのだろう、と理解し納得していた。
――しかし、それはほんの表面上の事だ。少女の深淵にも、真意にも、気付かぬ儘。
それは『部下』や『友人』といった少女以外に自分を支えるファクターがあるからこそかもしれない。しかしそれこそが、少女の"敵"足り得る事に、まだ気づかない。
そして何より。『仕事』ではなく『比良坂冥』を優先した己の心情の変化にも、まだ気付いていない。
それは些細な心情の変化か。或いは――
■比良坂 冥 >
「……んーん、私が寂しがりなだけだから」
ぎゅ、と再び少年の腕にしがみつき
「……じゃあ、帰ったら──」
きっと、一緒に寝るのは寝ただろうけれど
少女の我儘に付き合わされてから、になるのかもしれない
しかし──少女の飢餓と、少年に伸びた鎖と、
その矛先は明確にその行く先が定められることになる───
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」から比良坂 冥さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」から神代理央さんが去りました。