2021/08/10 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
夕暮れ時にも、人混みで賑わう街、常世渋谷。
むしろ、夜闇の中にあってこそもっとも輝くような街。
……そんな街には全く溶け込めないセーラ服の女が、こっそりと……、
街並みの端を歩くかのように、人目を避けるように、薄い暗がりを縫って歩く。
行き着く先は、現代的で栄華を極める常世渋谷から置いていかれたような、片隅にある小さな神社。
「……ふ~。こっちはやっぱり緊張するなぁ……怖い人多いんだもの……」
ぺたぺたと御札の貼ってある鳥居を、きっちり"避けて"神社の中へ。
疲れた表情に、何事もなく目的地に着けてほんの少しの安堵。
……そう。私みたいなのが浮いている街なのは承知の上で来たのは、祭祀局のお勤めなのでした。
そんな、足を向けるだけでも抵抗があるような私が充てがわれた任務は……
裏常世渋谷への封じ込めと対策と退出手段の確立。
(……とは言っても。
絶対能力不足なんですよね……結界術すら、基礎しか知らないのに……。
そんな、現実に重なりあってる都市伝説――この単語自体もうよくわかりませんが――、に転移も何も……。
祭祀局の担当とオカルトはちょっとズレてるんですけどね)
夕闇にあってなお、賑わいを見せる常世渋谷を背に、薄暗がりの神社にたどり着いた私の表情は、もっと暗く。
つまるところ、ほぼほぼ無理な任務をやらされているわけなのですが。
唯一、誰も居ないこの寂れた神社だけは、私と同じよう。……にぎやかな街にある、静かな暗がり。
ビルや建物の並ぶ町中にあっても息づく緑と外界から隔絶した空気に、私は少しだけ、人心地を取り戻して。
■藤白 真夜 >
もちろん、私のような技術的には素人丸出しの小娘に任されたのには理由があります。
私は、裏常世渋谷への感性がやたらと高く、つまるところ、油断すると一瞬で"呑"まれるのでした。
一度裏に放り込まれ、文字通りめちゃめちゃになってようやく出られた一件以来、その親和性を見込んでこういう無茶を頼まれるのでした。
今も、塾帰りの女子高生のような風体でありながら実は、かばんの中に変な臭いのする魔除け袋に、見たことの無い御札、いつの時代のなのかさっぱりわからない大昔のお金……などなどの、祭祀局公認魔除けグッズのおかげで何事も無いだけ。
本来は神社なんて、鳥居に近づくだけでアウトの鬼門なのですが。
(……誰も見てないよね。手早く済ませないと……)
私に出来ることは、少ない。
人身御供やら囮でなら出来るけれど、今回はそうじゃない。
……常世渋谷に在りながら常世渋谷ではない、裏の空間。
祭祀局の努力で行き方や有り様は判明しつつあるけれど、まだ足りない。
不意に呑まれて消える学生なんて事故を無くすためにも、その仕組を知る必要がある。
都市伝説がコアになって出来る異空間……巫術や魔術的なアプローチではなくて、選択肢を絞り込むやり方。
……幾度となく贄の役割を担った私だから出来ること。
(……同じ空間に有るけど、無い。
魔術探知は届かないらしいけど、……これだけのことが起きるなら、なにかの"力"があるはず。
それこそ世界を作り出して、それを"隠す"力が。……ならば、)
とぷん。
祈るように重ねた掌から、血液が湧き出す。
「夜闇よ、
静寂よ、
安寧の帳を担う者よ。
我が光明、命の煌めきを捧げ乞い願う。
我が瞳と引き換えに、大いなる御姿の兆しを授けたまえ――」
詠唱と共に、あたりが一段と暗くなる。
空から降るような暗がりが、私の体に、掌に降り注ぎ――、
黒く煌めくように、霧を散らして消えさった。
……残ったのは、何かが抜け落ちた私と、真っ黒な煤のようになった血液だけ。
■藤白 真夜 >
「……、……」
(……ふぅ~~~……、大丈夫だったかな……間違えてない、はず。)
ようやく、目を開く。
夜の闇に慣れたはずの瞳が、何一つ見えるものはなかった。
暗い神社にあって、見えるものは、転げおちそうになる暗闇だけ。
……それもそのはず、私の瞳が真っ黒に塗りつぶされているのだから。
「……よし。」
暗闇の只中にあっても、自分の状態だけはわかっていた。
神性との、取引。
その代償に、瞳は曇り、心臓は吹き飛んで、汗は吹き出て、悪寒が止まらず、風邪を引いたかのように喉が痛い。
それでも残るのが、考えられるのが私だった。
手に血液を広げ、手のひら大の円を作り出す。
見えないけど、"解"る。
借り受けた権能――とすら言えないひとかけら。
自らに近しいものを探るように、掌の血液が波を打ち始める。
コンパスのような血の皿の上に、硬質化した針のようなものが、方向を刺し始める。
コレが下に向くなら、私にもまだやりようがあるからだった。
自らと似た性質を持つものを追いかける――それなら、例え異界であろうとも、兆しになる。真っ暗な船旅に目指すべき座標が出来る。
けれど――、
パチ、パチ、と音を立てて立ち上がる血液の針を、慌てて掻き消す。
(……この街、怖すぎます……神性の反応が多すぎるんです……。
そこらへんの神様に場所探ってます、なんて知れたら天罰で消し飛んじゃう……。)
供物に捧げ、消し飛んだ全身の感覚が戻ってくる頃。
真っ暗に染まった五感に光が戻りつつあるころに、ようやく。
とぷん、と一本の針が、血の皿を斜め下に突き破った。
「……よしっ」
ぱちり、と目を開く。
つぅ……と黒い涙とも残滓とも取れないものが流れだした。
……強引な神降ろし――ともつかない、権能の借り受けは、無事に終了した。
……得られたものは、神性との関与が絶妙にあるかも、程度のすごく微妙な繋がりだったけれど。
■藤白 真夜 >
「……ごほッ、……く、……ぅ」
喉が痛む。咳き込むと黒い煙が吹き出てきた。
というか、多分内蔵がボロボロ。麻酔を効かせまくってるのに平気で貫通してくる衝撃。
でも、神やそれに近しい相手にたかが人間が取引をする以上、当然どころかありがたいくらいの、損失。
私はそもそも、悪魔や怪異への適応を以って、祭祀局に入れた。
血を浴び身を捧げることで邪神と繋がり、それに関わりのあるモノにかろうじて手が届くというだけ。
むしろ、面白そうだから摘んでやるか、くらいの勢い。
暗い一面を持つモノへの供物と、その引き換えの恩恵。
神を降ろせるのなんて、それこそ巫女の御業。私のような穢れた端女には程遠いもの。
……力尽きるように、神社に生えた大きな樹に、身を寄せる。
べっとりと髪の毛にへばりつく額の汗を拭う気力も無い。
……それでも、私はこの地獄のような疲弊と痛痒を、気に入っていた。
悪魔を喚ぶと、こうはならなかったから。
ただの借り物で、自らの力で成したとは、言い難い。
けれど、私の苦痛がなにかの役に立つのなら。
それ以上のことは無いと思うのだ。
「こほ、……っ。
……同じ常世渋谷だけれど、違う常世渋谷。
二つの世界を行き来したものの力を、借りればいい。」
……幸い、二つの世界を股にかける冥界下りの逸話には覚えがあった。
元より、私を目にかけたりするのは、闇夜や冥界のモノだったから。
「……なんとか、できる。
あとは、現地、で……、」
脚を引きずりながら、神社を後にする。
満身創痍のその姿には、けれど、笑みを浮かべていた。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から藤白 真夜さんが去りました。