2021/11/23 のログ
■雪景勇成 > 某知人から、「たのしい事を探してみよう」とそんなアドバイスを最近された。
今まで、面倒臭いだの何だので壁を作ってきた――訳ではないのだけど。
だから、まぁそのアドバイスに則って、自分なりの楽しい事を模索してみようと思い立ったが。
(…それで真っ先に思いついたのが『古巣』っつぅのも何だかな…。)
あの当時はそれなりに暴れたり悪い事もしたとはいえ、当時を知る連中はあまり居ないだろう。
こうして歩いていても、あの時と比べて顔ぶれが矢張り様変わりしているように思えて。
「――ま、時が経つのは早いって事かね…。」
歩きながらそんな事を呟くが、自分で言っていてすげぇオッサン臭ぇな、と少し悲しくなった。
しかし、当時と比べて怪しげな露店やら店舗やら、ガラの悪い連中の溜まり場になりそうな廃屋やら。
幾つか取り壊されたか崩れたり、店仕舞いしたり別の店に置き換わってもいるけれど。
(落第街に比べりゃそこまで移り変わりが激しいもんでもねぇよな…。)
だから、こうして久々に訪れても殆ど迷わずに歩き回る事が出来る。
■雪景勇成 > 歩き回りながら、次の煙草を吸おうと懐に手を伸ばし…気付いた。煙草の箱がすっからかん。
(…あーくそ、本数把握すんの忘れてた)
仕方ないので、口元がやや寂しいがそのままダラダラと『古巣』を散策する事にした。
…ちょっとした喧嘩やら何やらは見掛けても、『楽しい事』はそうそう転がってはいない。
少なくとも、多少なり興味を引かれて首を突っ込んでみよう、という出来事が今の所は無い。
(まぁ、日が悪いだけかもしれねーけどよ…もうちょっと、こう…)
何かあってもなぁ、と。日頃面倒臭いとあれこれ厭う気質だから矛盾しているけれど。
まぁ、楽しい事を見つけようと思ったなら、自分から動き回るしかないのだ。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」にフィールさんが現れました。
■フィール > 「えーと、確かこっちの方、だったか…?」
とことこと、地図を見ながら歩く少女の姿が一つ。
大分ラフな格好だが、その胸の大きさから女性に見えるだろう。
耳の長さから、エルフかもしれない。
その正体は、エルフの遺伝情報を取り込んだスライムだ。
その情報を使って、擬態をしている。
「…うん?」
しかし、道に迷っているようで、周囲を見渡した所…一人の男と目が合う。
「…こんばんは?」
目が合ったので、一応、挨拶。
■雪景勇成 > 「……あ?」
偶々視線が交錯したのだろう。改めてそちらへと緩慢な気だるそうな仕草で顔だけ向けつつ足を止めた。
…中々にラフな格好と、だからこそ分かる巨乳の女がそこに居た。勿論見覚えは無い。
おそらくは初対面だろう――自分が”忘れて”いなければ、だが。
流石に初見でそれがエルフに擬態したスライムだとは気付けないけれど。
ある種の直感から、何か違和感があるな?程度の疑念は沸くもので。
(…まぁ、それは別にいいんだけどよ。)
少なくとも敵意や殺意、害意は無さげならそれで十分である。
ともあれ、目があったのならば、そこで漸く体ごとちゃんと相手へと向かい合って。
「よぅ……いきなり余計なお節介かもしれねーが、アンタみたいな美人が一人で歩き回る場所でもねーぞ、ここ…。」
と、ぶっきらぼうな口調でそう挨拶がてら言葉を告げようか。まぁ大きなお世話だと承知の上だ。
(…よっぽどの天然か世間知らずじゃねー限り、ある程度腕に自信ねぇとこんな場所に足を運ぶ事はあまりねーだろうし。)
■フィール > 「んーと…こういう時は、『お世辞が上手いんですね』っていうんでしたっけ」
何故か自信なさげに言葉を返す。
見た目だけで言えば筋肉がついているようにも見えず、体躯も子供程度であり、強そうには見えない。
これほどの小柄でありながら、男性に対し怖気づかないのは、気の強さの現れかもしれないが。
「えーっと…底下通りの方に行きたいんですよ。ちょっと買い物で」
見ていた地図を見せながら、丸で印をつけた所を示す。
そこは底下通りでも無許可の露店が並ぶ場所であり、風紀委員も苦労している場所だ。
■雪景勇成 > 「…?いや、世辞とか面倒臭いから言った事ねーし…単なる素直な感想だが。」
首を緩く傾げる男と、自分の言葉に何処か自信無さそうな女…何とも奇妙な空気が束の間流れる。
体躯は小柄だが胸は豊満…アレか、トランジスタグラマー?…まぁいいか。
怖気づいた様子も無く、自然体な立ち居振る舞いからして”慣れて”いるのだろう。
と、なればそれこそ先の言葉は余計なお節介以外の何者でもあるまい。
「底下通り…つーと、ここからだとちょいと距離があるぜ。
ここは黒街だから…あー、あと道がちょいとこの辺りは入り組んでるから、土地勘ねぇときついぞ。」
と、応えながら見せられた地図を覗き込んで。確認した地図を見て僅かに眉を潜めて。
「…この地図、今の黒街の配置と少し違うな。若干古い地図なんじゃーか?
…で、目的地がここだとすると――…あぁ、アレか露店ばかりの。」
風紀委員でもあり、同時に二級学生時代はそこらも出入りしていたから土地勘は十分にある。
地図の不備を指摘しつつも、どうせ暇だったし…楽しい事探しの取っ掛かりになりそうだ。
「何なら案内してやろうか?そんなだらだら時間掛けたくもねーだろ?」
この男は風紀委員だが、仕事とプライベートはきっぱり分けるタイプだ。
今は完全にオフの時間――だから、謎のエルフ少女をそこに案内する事に別に抵抗も何も無い。
■フィール > 「…それは、ありがとうございます?」
自分の容姿など気にしたことがなかったので、やっぱり自信がなさげ。
「へぇ、此処の土地勘あるんですね。私来たばかりで道が解らなくって…」
前までは落第街から出たことが殆どなかったので、この辺りの土地については実を言えば足を踏み入れたことすら無い。
「案内してくれるのなら、助かります」
なので、案内を申し出てくれるのならば、喜んで頼るだろう。
■雪景勇成 > 「……アンタ、初対面の俺が言うのもアレだが…自分の容姿をもうちょい客観的に自覚した方がいいぞ…。」
本当に自分が言えた事ではないんだけども。
ここまで自信無さげ、というか割と無頓着?そうな様子に呆れた様に溜息。
少なくとも、このまま一人で地図を片手にウロウロしていたらそこらのチンピラとかが寄ってきていただろう。
まぁ、チンピラどもがどうせ返り討ちにあうのだろうが…。
「…ふーん…と、なるとあっちの住人?それとも偽造学生証とか持ってる感じか?」
世間話のように。オフなので彼女の実態がどうだろうと多分全然気にしないのだが。
「まぁ、こっちも暇潰しで歩いていただけだからかまわねーよ、」と、言いつつ。
「…んで、何だ露店でも出すつもりか?それとも買う側か?」
先導するように歩き出しつつも、無言で黙々と歩いていても面白くない。
なので、あまり慣れてはいないがこちらから話題を振ってみる事にしようか。
■フィール > 「…うーん、そんなに美人なの、私?」
自分の手を見ながら、呟く。
そういう目で見られたことはあるけれど、みんながみんなというわけではなかったし。
「んー…ずっと落第街で住んでたんだけど。学生証持ってないなら街から出ないほうが良いって言われてました。落第街の住居がなくなって、今は堅磐寮で居候してます」
あくまで、世間知らずの体を取る。
実際は学生証を持てない怪異であり、こちらに移り住んだのは守りたい人がいたからだ。
「だから学生証は持ってないんです。一応…両方ですね。出すのも、買うのも。下見ついでに買い物しに来たんです」
■雪景勇成 > 「…少なくとも、俺から見た感想では美人。スタイルも良いしな。」
まさか世間話でこういう話題になるとは思わなかったが。
小柄ではあるが胸は大きいし、線は細いように見えて結構扇情的ではあるような。
「…成程ね…。」
短く呟くように相槌を。住居がなくなって、となると自分たちが展開した作戦の余波だろうか。
まぁ、別の要因もあるかもしれないが、その可能性は高いか…と、なれば。
(こっちが風紀委員会であの『鉄火の支配者』の部隊の一員っつーのは伏せた方がいいか。)
仮に口にしたとしても、表面上は何も無いかもしれないが…変に警戒されるのも”面倒臭い”。
彼女の口振りは、世間知らずが入った落第街の住人のそれで、口調や空気にも違和感は無い――が。
「まぁ、偽造学生証は俺も使ってた経験あるが――アレもピンからキリまであるからな。
当たりを引いたら割と長く使えるが、ハズレを引いたら直ぐにバレてしょっ引かれるだろうな。」
欲しいなら一応、昔のツテもあるにはあるが…それは流石に余計なお世話の上塗りだろうか、と。
そのまま、特に何も無く何時も通りのややけだるそうな足取りで道案内を続ける。
微妙に少女の歩調にこちらが合わせているのは、まぁこの男の変な律儀さのせいだ。
「へぇ…どういう物を出すか知らんが、店を出したら顔を出してみてぇな。」
露店は昔はよく暇潰しや掘り出し物探しも兼ねて顔を出していたが、今はさっぱりだ。
これを機にまたあちらに足を運んで物色するのも悪くないかもしれない。
■フィール > 「ふぅん…?」
そう言われても、実感が沸かない。
フィールは人ではなくスライムで、そして生まれ落ちてから2年程しか経っていない。
つまりは価値観が出来上がっておらず、今はじめてそういう価値観がわかった、という具合だ。
「難しいのね。でも偽造ってことは不正だし…聞いた話だと奴隷的な扱い受けたりもするって聞いたわ?」
違反部活と取引している際に、そういう物は見たことがある。
大抵は力のない者が殆どであったが…中には力があっても逆らえない、という者も居た。
フィールは何故反抗しないのかは、よく解らなかったが。
「魔法店をやろうかな、と思いまして。簡単に作れる使い捨てのスクロールを中心に。例えば…これとか。」
そう言って、懐から羊皮紙を取り出す。そこには魔法陣が描かれている。
「ちょっと複雑な術式で使うのにコツが要るんですけど…これ、水の屈曲を利用した虚像を作り出すスクロールなんです」
■雪景勇成 > (あ、実感全然ねーなコイツ…)
と、彼女の相槌に内心でまた溜息を漏らす。
まぁ、こちらの言葉で何かしら己の容姿に対して得るものがあったならそれでいい。
「ああ、そりゃ間違いでもねーな。…常夜街っつー、風俗関連の店が多い一角があんだけどよ。
そういう店で労働力として二級学生が働かせられてる店も割りと多いんだよ。
主に偽造学生証の更新や調達の費用やら…まぁ、学生証を楯にした労働力だな。」
と、割と判りやすいこの辺りで二級学生が扱き使われているであろう実態を一つ話して。
「勿論、学生証なんぞなくても暮らしていける技能や能力の持ち主は多いが…」
と、言葉を続けつつ一度周囲を見渡してから肩を竦めて。
「学生証がありゃこっちの活動の幅が広がって便利なのは確かだからな。
逆に言やぁ、学生証が無いとこっちでは色々”制限”が厳しい。
アンタも偽造学生証は一応手に入れておいたほうがいい。なるべく”質の良い”やつをな。」
そう、言葉を継げながら細い道を幾つか抜けるようなルート。
広い道のほうが歩き易いが、そういう所は風紀の巡回もあるにはあるし、面倒な声掛けも少なくない。
まぁ、こういう人気の少ない細い道もチンピラどもがたむろしていたり、いかがわしい取引の現場も多いのだが。
彼女が取り出した羊皮紙を歩きながら顔だけ向けて一瞥する。効果を聞けばへぇ、と頷いて。」
「使い捨てとなると、一個辺りの単科…値段が肝になるだろうな。
どれだけ便利でも、ある程度手が出せる値段じゃなけりゃ客はこねぇし。
まぁ、大型顧客が居たり大量生産出来るならいいんだろうが…。」
ちょっとソレ見せて貰ってもいいか?と、一応尋ねる。
勿論、商品だろうから彼女が断るならそれ以上は言わないが。
■フィール > 「…正式な学生証を手に入れる方法はないんですかね?」
一応、学生証が無くても暮らしていけるのは、暮らしていけるが。
やっぱり苦労も多い。表で暮らす以上、公共機関とも関わっていくわけだし。そういう物をずっと避けていくというわけにもいかないのだ。
「偽造学生証だと、やっぱり弱みになっちゃいますから。利用されるのは、御免ですよ」
自分も、それのせいで酷い目に遭っている人間は多く知っている。
だからこそ自分でそれをつくろうとは思わなかった。
便利のために不便を強いるのは本末転倒だ。
「どれぐらいで売れると思います?」
別に隠すものでもないし、原価はそこまで掛かってない。
危険なものでもないし、断らず渡すだろう。
■雪景勇成 > 「まぁ、普通なら委員会街に出向いて受付…多分生活委員かどっかの範疇だったかね…申請して正式に学生になるしかねぇわな。
異邦人も普通に受け入れてるし、実際訳ありな正規学生も少なくねーし。
…俺みたいに、二級学生から正式な学生になるケースも珍しくはねーからな。」
もっとも、自分の場合は取引じみたものであまり真っ当な手段とは言い難いが。
それに、それはそれで”制限”があるから、伸び伸びとやりたいなら止めた方がいいだろう。
「――成程ね。ただ、正規学生証となると偽造学生証なんぞより遥かに難易度は高いだろうぜ。
正規の学生証だからセキュリティーっつーか、そういうのもしっかりしてるだろうし。」
上級レベルのコピー能力や魔術があればワンチャンあるかもしれないが。
それでも、コピー元が誰かの正規学生証だと重複する問題が発生する。
つまり、自分の情報に書き換えなければいけない手間が発生する訳だ。
『誰のものでもない正規学生証』があれば、まだ話は早いが…それこそまず無い物だろう。
「んー…ちょっと待て、計算してみる。原価っつーか一日どれだけ作れる?あと、掛かるコストも分かる範囲で教えてくれりゃありがたい。」
と、受け取った羊皮紙を眺めつつ懐から仕事で使うペンとメモを取り出して。
何やら計算しているのか、サラサラと書き始めつつ尋ねる。
■フィール > 「んー…やっぱりそうだよねぇ。調べられたら困ることもあるし、難しいかなぁ」
事実、落第街やスラムで人間に害を成しているスライムと同族ではあるので、調べられてバレたら即殺害もあり得る。
かといって偽造に手を出せば…『人権』を剥奪される。問題を起こせば同居人に迷惑が掛かる。
関係者に伝手が出来れば良いのだが。
「えーと…原価が高く見積もっても300円。描くのは5分も掛からないかな」
暗算で叩き出す。この少々複雑な魔法陣を5分で描くのは相当早い。
■雪景勇成 > 「可能性はゼロではないと思うぜ。…無責任な初対面の男が言うもんじゃねーが…難しくても諦めんなよ。」
本当に言っていて空々しい無責任な言葉だと思う。
自分のような単細胞では、彼女の抱える問題を解決する糸口すら提示してやれない。
少なくとも、後ろを歩く女が相応の『訳あり』なのはもう分かっている。
正規学生証を優先して欲しがるのも、安心できる生活環境が欲しいからだろう。
「まぁ、俺でよけりゃ話くらいは聞くぜ。二級学生時代のツテも多少はあるし。
…それに、まぁ一応今は正規学生だから。そっち面から何かしら出来る事は…あるとは思う。」
とはいえ、流石に正規学生証の入手となると色々と厳し過ぎるのが現状だが。
彼女の言葉に頷きながら、諸々大雑把ながら計算してメモを一枚破って羊皮紙を返すついでにそちらに渡そう。
「取り敢えず、こっちのバイトもしてる一般学生が手を出せる範囲で考えた。
バイトしてる奴は生活費の出費もあるから、自分で使える範囲の”小遣い”で買えるのが条件。
で、儲けも出さないといけないし…スクロールは一回限りの使い捨てで効果も決まっている。
今回は虚像だから少し安めだけど、上位の効果だったりもっと強力な奴なら相応の値段設定でいいかもな。」
ちなみに計算はしたが、最終的に値段設定を決めるのは彼女自身だ。あくまで参考の一助に、という程度。
今回のスクロールだと、高くて1000円前後という値段設定だ。
使い捨て、なのと虚像という効果を考えてのもの。あとはその持続時間にもよるが。
■フィール > 「あぁ、折角ですし効果の実演もしましょうか。そっちのほうが解りやすいでしょうし」
そう言って、返されたスクロールを手にして、魔力を込め始める。
すると、周囲の空気中の水分が集まり、瞬時にフィールと同じ姿が映し出される。
持続時間は1分程度。だが衝撃に弱く触れればすぐに消えてしまうだろう。
「術者の姿をそのまま映し出すので、囮として使えるんですよ、これ。私自身も良く世話になった術式です」
1000円前後、という値段設定に不満をもってなのか、売り込んでくる。
フィールが身体を動かすと、同じように虚像も同じ動きを取る。
「私は2000円ぐらいで売ろうかな、と考えてたんです。万が一の時のご信用に、って考えたら良くないですか?」
姿が二つに増えるだけで、当たる確率は2分の1だ。上手く使えば虚像の方に誘導することも出来るだろう。
コツが必要とはいえ、杖を介さず即興で使えるスクロールという点も鑑みれば、たしかに彼女の言う囮として有用だろう。
「まぁ、でも正直言えば学生証は諦めてるんですよね。私、人殺してますし」
ちょっと、踏み込んでみる。正式な学生証を手に入れるなら、その身は潔白でなければならない。
この男は、同情するのだろうか。それとも――――
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」に雪景勇成さんが現れました。
■雪景勇成 > 「あーそうだな。つーか、そこ考慮入れて無かったわ。実際の効果みねーと意味ねーわな。」
と、相槌を打ちながらスクロールの効果を引き出す様子を眺めて。
「…成程、時間稼ぎ、身代わり、逃走用や態勢の立て直し、撹乱にゃ有用だな。」
どうしても戦闘者としての目線から見てしまうが…応用すればまだまだ使えそうだ。
で、値段設定である。2000円か…ふーむ、と考え込みつつも視線は直ぐに彼女へと戻し。
「確かに1000円にしては破格だな。とはいえ、2000円だと悪くはねぇが微妙なところだと思う。
…なんで、まずは2000円で売り出して様子見。芳しく無いなら…そうだな、少しずつ値下げしたらどうだ?
正直商売のノウハウは俺にゃねーから、値段設定もどうしても単調になりがちでな。
他にもレパートリー増やすなら、効果次第で値段は勿論変えるべきだろうな。
一律にしちまうと、どうしても”売れ筋”ばかりで他があんまし売れなくなる。
理想としては、やっぱり特定のスクロールだけじゃなくて満遍なく売れる感じだろうしよ。」
と、言いつつなんで俺は初対面の女と商売の話をしているんだろうか?と、思う。
だが、これはこれでおそらく『楽しい事』なのだろう。面倒臭がって放置するよりはマシだ。
で、彼女のさらっと踏み込んだ重い発言だが――…
「ふーん…それを言ったら俺も十分に人殺しなんだけど。そんなんでも今は一応は正規学生だしな…。」
同情?哀れみ?そんな上から目線の感情は、彼女のさらっとした言葉を聞いても全く沸かない。
「アンタ、さっき居候してるって言ってたろ。
今も殺してるかどうかは俺の知った事じゃねぇが…
そいつの為に変わろうとしてるんだろ――露店に関してもそうだ。
だったら、そんな告白を聞いた所で俺から言える言葉なんざ何もねーよ。
――人殺しに手を染めたアンタに、そんな守りたい大事なモンが出来たんなら…。」
そこで言葉を切って一息。柄でもないつまらない台詞だ。けれど。
「――誰に何を言われようと守りたいモンを守れ。殺した業を背負いながら。」
自分に言えるのはこれくらいだ。そもそも初対面同士、安易に踏み込んでいい問題でもないだろう。
だけども。
「――ま、さっきも言ったが、合縁奇縁ってやつかね…これも何かの縁って訳だ。
俺が適当にやれる範囲なら手助けくらいは別にかまわねーよ。
まぁ、長々と言ったが――アンタが殺してようとそうでなかろうと、俺にとっちゃ重要じゃない。」
■フィール > 「あとは、原価自体はそこまで掛かってないので、実演販売もいいかな、と思ってるんですよ。実際に見ればその有用性に気付いた人が買っていってくれると思いますし。で、他のものとなると…」
もう一つのスクロールを取り出して。
これは、正直売り物としては使えないものだが。見てもらうだけならタダだろう。
魔力を、『座標を特定する術式』と共に送る。
瞬間、フィールの姿が消える。
「こういうのも、あるんですよ。ただ、このスクロールものすごく扱いが難しいんですけど」
ちょっとだけ離れたところから、声を掛ける。
魔術としてはかなり特殊な、空間転移の術式。
これをスクロールにするのはかなり特殊であり…その使用方法も特殊である。
「………なんか、見透かされてる気がしますね」
正直、図星であった。
落第街から離れたのも、変わろうとしているのも。守りたいものがあるから、だと。
「……業を背負って、ですか。」
フィールは、人を殺すことについて罪悪感を感じたことはない。
ただ、人間社会では許されないということを知っているだけで。
同族意識は、持っていない。
■雪景勇成 > 「あー実演販売もありか。そうなると、露店を出す場所も重要になるぜ多分。
ある程度客が集まりそうな所が大前提になるだろうし。
まぁ、最初は客が少なくても口コミとかで広がっていく可能性もあるけどよ。
あんまり”目立ち過ぎると”、風紀とかそっちの手が入る可能性もゼロじゃねぇしな。」
難しい所だが、そこは彼女の機転や考えで何とかして貰うしかない―何せこちらは風紀委員なのだから。
ともあれ、取り出された別のスクロールに目を移す。スクロールが発動した瞬間、少女の姿が消えて――…
「…空間転移か。正確にゃ座標転移って所だろうが。
空間作用系は魔術も異能も扱いが基本的に難しいっつー話を聞いた事あるしな。
自身の異能も空間作用は関わっているからか、彼女が今疲労したスクロールの魔術は馴染みが深い。
「――いんや、アンタの背景も種族も立場も何もかも知らねーよ、さっき会ったばかりだぜ?
…単に、それなりに訳ありの奴は昔から見て来たから、何となく感覚に引っ掛かるだけ。」
あとは当てずっぽうというか、彼女の言動から推測したに過ぎないレベルだ。
二級学生と正規学生、両方を経験している事も少しは役立っているかもしれない。
「業じゃなくても、もっと単純に考えろ。
アンタの居候先のやつが人殺しを望んでなかったら?
人を殺したらソイツに負担をかけると分かってたら?
例えそれを黙っていても、いずれツケが回ってくると考えたら?
――殺して得るより生きて得るモンも多いだろ。アンタがやるべき事は――…
殺さずにアンタ自身とアンタの大事なものを守るための環境を手に入れる事だろうよ。」
そう、単純に考えればいい。
殺しに罪悪感はなくても、ソレが大事な者に何かしらの形あで降り掛かるなら?
だったら、必然、なるべくでも殺しはせずに共に生きていく糧を得るしかない。
露店を出すための下見、買い物、それだってその環境を手に入れるための下準備だろう。
■フィール > 「空間転移のものは材料費もそこそこ掛かってるし、何より扱いが難しいのよね。魔力を通して座標を入力しないといけないから。
もし間違えたら『壁の中にいる』ってなっちゃうし。
まぁ、万が一の方法も考えてはあるから、大丈夫…かな、多分」
ちょっと自信なさげに。自分は隠蔽魔術も取得してはいるが、魔力感知をする者がいれば、逆にバレバレなのである。
最悪の場合実戦になってしまうが…フィールは手加減を知らない。覚えている魔術も殺傷力の高いものが殆どで、下手を打てば落第街へ逆戻りすることになるかもしれない。
「……人間の社会って。本当に難しいですよね。
自分に火の粉が降りかかるんじゃなくて、周りに降りかかるんですから」
スライムとして生きていた頃は、自分のことしか考えていなかった。
他人の事など眼中にもなかったし…同族のスライムも正直仲間という意識もなかった。
ところが、大切なものが出来た途端、これだ。
「大切なものがあると、制約も増えるものなんですねぇ」
■雪景勇成 > 「でもまぁ、使いこなせる奴にとっちゃ有り難いんじゃねーのか?
それなりに値段も嵩むだろうが、売りに出すのは悪くないと俺は思うぜ。」
ただ、彼女も言ったようにコストも掛かるし扱いが難しい。それに使い捨てだ。
ここぞ、という場面でしか使えないある種の切り札として持ち歩くと考えれば悪くは無いと思うが…。
「あー…保険はあるが、それが確実って保証はねぇって感じか?
そうなると、それこそ検証実験とかするに越した事はねーだろうが…転移系はなぁ。」
座標入力もそうだが、転移という現象に慣れていないと色々と難しいだろう。
少なくとも、虚像と比べたらお手軽に…と、言うには少々敷居は高いかもしれない。
「――ま、社会ってのは複雑で面倒だからな。アンタのその素直な意見は同意するが。
…けど、安全に生きたいなら、誰かと共にそう生きていくならその社会へ順応していくのも大事なんだろうぜ、多分。」
人間社会は窮屈で面倒臭くて、時に何もかも投げ出したくなって。辛い事も多いし理解できない事も人外から見れば多いだろうけど。
「そりゃ、大切な者が出来た時点で、もうそれが制約だからな。
今まで自分で好き勝手出来たのが、”誰か”を得ただけで自分ひとりの問題じゃなくなる。
自分がやらかした事のツケを、どういう形にしろソイツが支払う事にもなる。
――陳腐な言葉で悪いけどよ、社会ってのは”責任”が付き纏うんだよ。
堅苦しいし難しいだろうが、アンタは大事なモンの為に少しずつそれを学んでいかないとな。」
まるで諭すように教えるように。教師とか説教じみたものは柄ではないし偉そうな事を言えないが。
スクロールの実演などで足が止まっていた為、一先ず彼女を促してまた歩き出しつつ。
「――ま、でも…見方を変えればそれは成長だろ。アンタが人の社会に溶け込む努力をしてるっつなら。」
ただ殺して自分の思うままに振舞っていればいい。
きっと、彼女にとってのそんな過去はもう遥かに後ろで。
今はただ、彼女とその大事な者と共に生きていく事を優先するべきで。
(…羨ましい、とは思わねーが……何ていうか)
人ならざる者であっても、人間など歯牙にも掛けていなくても。
――誰かの為に、己を曲げて共に生きようとする意志は大したものだと思う。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」に雪景勇成さんが現れました。
■フィール > 「一応、物理的干渉がある場合は転移出来ない仕組みにして入るんですけど…まぁ、それでも万が一ということはありますし。」
つまり、壁の奥へと転移することは出来ない、ということだ。
だが空気という実態がある場所では転移できるので、これも何処まで信用できるのか、という疑念は残る。
「…難しいですね。」
フィールはこっちに来るまでは魔術に傾倒しており、社会については殆ど学ばなかった。
そのツケが、今来ている。
「成長…ですか」
そういえば、自分の大切なものも、言っていた。変わった、と。
そんな自覚は、自分にはなくて。人に言われて初めて気付く。
「人としての、成長、ですか」
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」に雪景勇成さんが現れました。
■雪景勇成 > 「まぁ、不安要素があるならそこは可能な限り潰していくしかねーだろうな。
売り物にするなら、やっぱり不確定要素とかはギリギリまで排除出来れば望ましいし。」
歩きながらこんな雑談。完全に彼女の商売の相談になっているが、それは退屈しないし別に構わない。
問題は、自分なんぞの意見があまり相手の手助けになっているか分からんところだが。
「簡単な事ばかりって訳じゃねーからな…何事もシンプルに分かり易く、とはいかねーよ。」
彼女が直面している今までのツケ。それを清算出来るのは――結局自分自身だ。
今後、彼女がどう思ってどう考えて変わっていくのか――それはまだ誰にも分からないだろう。
「ああ、アンタの種族とかはわかんねーが…人になろうとしている、少なくとも歩み寄ろうとしている。」
ソレは成長だろ?と、肩を竦めながら小さく笑ってみせる。
人間社会に交わろうと彼女なりに試行錯誤している…それを成長と言わずして何だと言うのか。
「…で、商売の話やら何やらしておいて今更だが、…アンタ名前は?ずっとアンタ呼びも流石にアレなんだが。」
■フィール > 「まぁ、その辺りも詰めていかないとですねー…売り物に文句付けられても困りますし」
まぁ、露店なので保証とかは無いのだが。
クレームが来たらそれはそれで困るのだ。
「露店の事も兼ねて、社会について勉強していきますよ。幸い、書店に行けば色んな本もありますから」
難しくとも、不可能ではない。前を向いて、少しづつでも歩いていけば、前に進んでいけるはずだから。
今、話している相手は、自分が何者であるかを、気にしていない。今の在り方で、私を認識してくれている。
親身になって、話してくれている。
なら、ちゃんと言っておくべきだろう。
「…フィール、です。人と、スライムが交わった…まぁ、有り体に言えば、怪異です」
大切な人から貰った、自分の名前ははっきりと。自分の種族については…少し、戸惑いながら。
■雪景勇成 > 「魔術に関してはアンタに全然かなわねーが、異能で多少空間作用系は分かるし、詰めていくならある程度は強力するぜ。
つーか、露店そっちが本格的にスタートしたら買いに行くかもな。便利そうだし。」
成程、楽しい事を探すというのはこういう感じなのか、と心の中で一人納得しつつ。
露店に関しては、確かに場所的にもそうだが店舗ではないので保証面とか色々大変ではあるが。
「…おぅ、俺みたいなのより勉強熱心で良い事じゃねーか…アンタなら大丈夫だろうよ。」
少しずつでも、前に進む意志があるのならば、それは矢張り成長であり、決して劣化や退化ではない。
「フィールね…んで、スライムと人のハーフ…は、ちげぇか。
まぁ、そりゃ怪異なら確かに正規学生証でも手に入れねーと、色々面倒だわな。」
彼女の名前だけでなく、その正体を聞けば先の話も納得したように。
怪異、という点は全然普通に受け入れている、というか気にしていないようで。
むしろ、怪異をそういう種族の一つという認識が強いので、避けるだとか恐れる事も無い。
――勿論、敵対したら怪異だろうが関係なく殺し合いをする事になるのだるが。
生憎と、今は風紀ではなくただの雪景勇成の時間だ。
「んじゃ、俺の方も。雪景勇成、常世学園の2年生で――風紀委員だ。」
己の名前と学園、そして――所属を名乗る。
彼女が、こちらに本来明かすべきではない正体を告げてくれたのならば。
矢張り礼儀として、こちらもあえてきちんとそこまで言うべきだろう。
「あ、言い訳みたいに聞こえるかもしれねーがよ?
今はプライベートの時間だし、フィールをどうこうするつもりねーからな?
勿論報告もしねーし、風紀として仕事してる時にフィールと遭遇しなけりゃ俺はそっちに何もする気ねーし。」
まぁ、信用して貰えるかは分からないが。実際仕事以外で彼女と敵対的になる気は一切無い。
■フィール > 「…これでも私より更に上がいるから恐ろしいんですよね……。
他にもスクロールは作る予定なので、店を開けたら是非見ていってください」
ついこの間も、才能の違い…積み上げたものの違いを見せつけられたところだ。
天賦の才を持つものが努力すれば、劣るものはいくら努力しても届かない。
「学生証があれば、それが身分証明になるんで楽になるんですけどね…。あぁ、その認識で合ってますよ。私、人間…というか、エルフとスライムの間から産まれましたから。
あ、でも私が害意が無いからと言って他のスライムは違いますからね?私以外のスライムを見たら容赦なく殺してもらっていいんで」
勘違いされると困るので、言っておく。
自分が無害だからといってスライムたちはそうではない。
あれは人を喰い、人を拐かし、人を苗床とするものだ。はっきり言って人類の敵であり…人間社会に属すると決めたフィールにとってはもう敵でしかないのだ。
「いや、しかし…風紀委員ですか。プライベートで会えたことは幸運ですね。
落第街での抗争時に鉢合わせなくてよかったですよ」
実際、あの抗争の時はまだ落第街にいた。出ていくきっかけでもあるが…自分達の住んでいた場所まで壊されているので、良い感情もあるが悪い感情もある。
「……ちなみに聞きますけど。仕事中にあったら普通に殺されます?私」
一応、聞く。不意打ちだけは、避けたい。
■雪景勇成 > 「…つーか、この島って割とぶっ飛んだ連中ばかりだからな…上には上が居るってのが珍しくねーし…。
ああ、さっき実演して貰った2つ以外もまだ出す予定ありそうだし、露店開いたら見に行くわ。」
勿論、有効活用できそうならきちんと買うつもりである。
使い捨てだから、ある程度の纏め買いは前提になりそうな気もするが。
「…何かすげぇ生まれだな。…つーか、アレだ…母体のエルフの方は無事なのか?それ。」
むしろ、今の彼女のこの小柄グラマーなエルフの姿って…と、自然と連想してしまうのも無理は無いだろう。
「了解了解、仕事でスライムに遭遇したら遠慮なく潰させて貰うわ。
アンタの方に影響は出ないんなら、こっちも気兼ねする必要はねーしな。」
彼女の言葉に気楽に右手をひらっと振って見せつつ頷いて。
むしろ、彼女が特例というか稀少例なのだろうけれど…。
「あぁ、そりゃお互い幸いだな。俺は仕事とプライベートはきっちり分けてるし。
仕事中だったら悪いがアンタを怪異として倒さなきゃならんし、今はプライベートだからそんな気はサラサラねーし。」
と、いっそ清々しいまでの公私の割り切りである。
少なくとも、仕事以外なら怪異である彼女とも普通に接するのは言うまでもなく。
「ただ、まぁアンタも落第街に居たなら、俺を含めて風紀に良い感情なんざねーだろうよ。
そこは俺も理解してる。勿論、風紀だってどいつもこいつも好戦的だったり破壊的なやつじゃねーけど。」
己もこの前暴れたが、別に殺しや破壊が好きではない…むしろ面倒だと思う。
それでも、仕事だからと割り切ってただ淡々とこなすのみ―ー…
今、フィールと話しているこの男の態度がむしろ素の態度とも言える。
「まぁ、こうして知り合った相手は怪異であろうとなんだろうと殺したくはねーな。
これは本音な?ただ、仕事中となるとそんな事も言ってられねーのが現実だ。
だから、もし俺と遭遇したらアンタは適当にさっさと逃げてくれりゃ俺としては助かる。
…ああ、だけど。」
軽く指を1本立てる。本来風紀としてはアレだが、彼女には伝えておこう。
「もし、他の風紀が居なくて俺が単独で居る時に遭遇したら、敵対はしねーよ。面倒だし誰も見てねーしな。」
■フィール > 「まだ何か思いついた訳ではないので、確約とはいきませんけどね。それでも見てくださるのならありがたいです。
もし良ければ、『こういうのが欲しい』というのがあれば聞きますよ?」
店を開く前から顧客を得られるのは幸運なことだ。
ちょっとぐらい贔屓してもいいだろう。顧客が何を求めているかの参考にもなる。
「『今は』無事ですよ。私が救出しましたから。風紀委員の抗争が契機になりまして………まぁ、その点では感謝してるんです」
嘘ではない。確かに風紀委員の抗争がなければ救出は先延ばしにされていたし…大切な人の望みも、早い段階で叶えられた。
まぁ、救出されるまでは、目を覆うような状態だったし、救出に際して数人見殺しにしたが。
「私はかなり好意的に見てますけどね。雪景さん、人外ってわかっても親身に話してくれますし。
殺し合うのは嫌ですからね。仕事中であるのなら逃げさせてもらいます。さっき実演した方法もありますしね。あぁ、でも………」
一つだけ。風紀委員である彼への、お願い。
「私の正体がバレていない時は人として接してほしいんです。仕事中でも。風紀と敵対してるとはあまり思われたくないですから」
風紀委員である手前、怪異であるならば敵対せざるを得ないというのはわかっている。
でも、今は擬態して人間社会に溶け込もうとしているところだ。
人の姿で怪異と断定されれば、周囲の人達に顔を覚えられてしまう可能性が高い。
争いをしたくないフィールにとってそれは不都合であった。
■雪景勇成 > 「むしろ、俺としても楽しみや暇潰しが増えるのはありがてーからな。お互い様ってやつだ。」
面倒臭いばかりで、今まであまり楽しい事・面白いことを探そうとはしなかったけれど。
この怪異の少女との出会いも何かの縁。ならそれに乗っからせて貰う事にする。
リクエストについては、「身体強化…あー、正確には加速系の術が欲しいな」と、早速思いついたのを一つ。
「…風紀側だった俺からすると何とも言えねーが、まぁアンタの『母親』は無事だった訳か。」
一息。仕事は仕事、やった事に後悔も何も無い。責められようが恨まれようがそれも当然。
だが、まぁ――酷い切欠であったが、その裏で助かったヤツが居るならそれは素直に良かった。
「つーか、人外だからって別にどうこうしねーよ。ちゃんと意志の疎通出来たらそれで十分だ。
流石に、話が通じない奴は俺も相応の手段取るしかねーけど、フィールはちゃんとこうして話してるだろ?
なら、怪異であろうと何だろうと俺は人と同じように接するだけだ。」
さも当然のように。怪異?人間?それはそれ。互いに意思疎通できてまともに会話出来るならどちらでも構わん。
アバウトに過ぎるが、彼女が好意的に見てくれるのはそういう男の気質だからなのだろう。
「そうしてくれ。仕事の手を緩める気はねーが、怪異とか関係なく知り合い殺すとか面倒だし勘弁だ。」
仕事の手抜きはしない。だが知り合いと殺し合いをしたくもない。
だから、落とし所としてはお互い交戦は意図的に避けるのが一番ベストなのだ。
「ああ、確かに見た目は人間つーか、エルフ?まんまだしな。フィールはそう簡単にボロも出さないだろうし。
ま、了解だ。そっちが怪異とばれてない時は落第街の住人の一人、として接するわ。」
まぁ、要するに民間人扱いで自然な流れで見逃す、という形の口裏合わせだ。
こっちとしてもそちらの方が自然だし何より殺し合いをする必要が無い。
フィールも正体がばれていない限り面倒は避けたいだろうから、お互い好都合だろう。
「んじゃ、そこは取引つーか約束成立っつー事で。アンタの頼みは引き受けた。」
一度また足を止めて、しっかりとフィールの目を見据えて頷いた。
男なりの誠意の態度であり、怪異であろうと確かに交わした約束は守る意思表示でもある。
■フィール > 「んー……でしたら身体操作補助の術式とか良いかもしれませんね。
動きに合わせて力のベクトルを加える…こう、パワードスーツみたいな。
加速についてはちょっと難しいですね。下手に加速すると身体が千切れちゃいますから」
加える力を増やすことは簡単だ。だが、加速となると今度は止める事も考えなくてはいけない。
失敗すれば文字通り身体が吹き飛ぶ。
「普通なら問答無用で通報するなり捕縛するなり、殺すところですよ?
事実、スライムに関しては被害もあるんですし。人に化けられる怪異って脅威だと思うんですよ」
事実、自分もそうやって好き勝手してきたし。間違ったことは、言っていない。
「んー………約束してくれるなら、私も雪景さんのお願いを聞いたほうが良いですかね?
こう、貸しを作ったまま、というのは気分が悪いですし」
■雪景勇成 > 「あー、身体操作自体は慣れてるが、そうなるとやっぱ加速に効果を限定すると厳しいか…。
…あ、じゃあ治療系の術式は?俺、異能も魔術も回復系がねぇから応急手段として欲しいんだわ。」
加速系が少々難しい、となれば直ぐに切り替えて回復形の術式のリクエスト。
これは需要も自分に限らず多いと思うのだが、どうだろうか?
「ああ、アンタの言い分は何も間違っちゃいねぇな。
俺は風紀だしアンタは人に擬態出来る強力な怪異だ。
こうして穏やかに話してるのも、幾ら俺が非番とはいえアウトなんだろうが…。」
そう、でも…だから?風紀側で仕事は冷徹にこなすが。
だからといって、心が無い訳でも感情が無い訳でもない。
「――言ったろ、俺は知り合いと殺し合いとかなるべくしたくねーんだよ。
甘いのは承知してるし、風紀の仕事を妥協する気もねーけどよ。
俺にとっちゃ初めて出来た怪異の知り合いだ。殺し合いなんぞで台無しにしたくねーって訳だ。」
と、素直に応える。彼女の過去の所業も脅威も理解したうえでそう告げる。
それは我儘で身勝手だけれど。そこを曲げる気は無い。彼女にも曲げられない何かがあるように。
「…あ?いや、別に見返り求めてる訳でもねーからな…。つーか、貸しにしたつもりもねーんだが…。」
実際お願いも何も直ぐには思いつかない訳で。
「…強いて言うなら、アンタの親でもある本物のエルフのねーちゃんと一回会ってみたい気がするくらいか。
つっても、難しそうだし風紀と接触するのはやっぱリスクもあるだろうからな。」
思いついたのが、彼女の母親というか母体というか。ともあれ本物のエルフの女性と一度会って見たいという事。
だが、それが難しいのも承知はしているのでお願い事、というか単なる希望でしかなく。
「アンタの居候先の人間も気になるけど、アンタの事も考えたらやっぱ迂闊に接触するべきでもねぇだろうしなぁ。
…つーか、フィールが俺を信用してくれただけで俺としては割と満足なんだが。」
彼女は人間社会にまだまだ疎いだろうが、ちゃんと相手を見ている。
それでいて、風紀と理解したうえで信用して貰えるなら、それで十分とも思えて。
■フィール > 「治癒系はまた分野が違いますからね…法術とか錬金術とか、そっちの方ですね。
恐らくその分野のポーションなり何なりを探したほうが早いですし効能も高いと思います」
魔術とて万能ではない。万物に影響し得る術式とは言え…特化したものには勝てない。
餅は餅屋、というわけだ。
「んー…フィーナ…あ、私の親のことです。会わせても良いんですけど…彼女も学生証を持たない身ですので…それに………」
すこし、目が泳いで。
「…彼女の姿で結構な悪事働いたんで……社会復帰が難しいんですよね………」
これもまたツケである。
「それと、居候先の人…薫っていうんですけど。今、入院してまして。異能のこともあって会うのは厳しいんですよね…」
沈痛そうな面持ちで。自分のせいではなく、むしろ薫が望んだからこうなったわけなのだが…それでも、自分の無力さに打ち拉がれる。
「私が信用したのは。雪景さんが信用してくれたからですよ」
落第街では禄に信用できる人間は居なかった。
だから、信用出来る人間は大切にしようと思える。
落第街で得た学びの一つだ。
■雪景勇成 > 「そうか…んー、他にリクエスト…何があるかね…。」
男も魔術は習得しているが、『特化型』なので汎用性が著しく低い。回復や補助など術式が出来れば欲しい所だが。
加速はそれ単体では肉体負荷が厳しい。回復は錬金術や別系統の方が良い。
「あぁ、その母親…フィーナ?の姿を今借りていて、その姿でやらかしまくった訳な…。
んで、その居候先の薫ってのは入院か…そうなると、フィーナに会わせて貰う方がまだ実現の可能性は高め、か。」
流石に病人?に無理してまで面会を通させて貰う訳にもいかない。初対面で見舞いも変だろうし。
何処か沈痛そうな面持ちを浮かべるフィールに対し、軽く吐息を零して右手を伸ばして彼女の頭をぽふっと撫でようと。
「詳しい事情は聞かねーが、全部が全部アンタのせいってのは傲慢だぞ。
やっちまった事はしょうがねーんだから、今の薫って子の事を最優先に考えてやれ。」
勿論、最優先にしているだろうが、だからこそ敢えて第三者の自分からそう言っておく。
後悔も嘆きも憤りも否定はしない。だが、それに溺れて大事な人の今と未来を見失うな、と。
「そうかい、だったら改めて俺もアンタを信用するよ、フィール。」
さて、もうぼちぼち底下通りに辿り着く頃合だ。
それでも、彼女と歩調を合わせながら案内は最後まで続けるつもりで。
「じゃあ、さっきのお願い事だけど。取り敢えずフィーナの方に一度合わせて貰えればっつー事で。
まぁ、向こうの都合とかもあるだろうから、無理なら本当にいいんだけどな。
社会復帰については…まぁ、俺も多少なり力になれるかもしれんし。」
学生証――特に正規の、となると流石に難しいのは変わらないが。
■フィール > 「そうですね………確か、空間作用系の異能を持ってるんですよね?
もしかしたら、それの補助になる魔術を用意できるかもしれません。
どういう異能かにもよりますが」
雪景さんの言葉を思い出しつつ、提案してみる。空間作用系なら困りごとも幾つかあるはずだ。
それは、雪景専用のものとなるが…色々世話になりそうな人だし、これぐらいは良いだろう。
「分かりました。フィーナからはこちらから……っと、そうだ。連絡先、教えておきますね」
懐から、携帯端末を取り出す。
勿論落第街の代物で正規の回線を使っているわけではないが。待ち合わせをするのであれば、必要だろう。
「あぁ、もしかしたら、私よりフィーナの方が雪景さんの助けになるかもしれませんね。彼女、魔術はもとより法術やら精霊術やら多岐に渡って習得してますから」
事実、それによってフィールも薫も助けられている。
彼女がいなければ未だ落第街で燻っていたかもしれない。
「……一つ、考えたんですけど。雪景さんが後見人になる、っていうのは無理なんですかね?
いや、一度会った程度の人にお願いすることではないんですけど」
■雪景勇成 > 「あー正確には別空間から武装を召喚する感じの。召喚系能力だな。ただ、俺の能力は幾つかの能力の側面がある『複合系異能』ってやつでさ。
ただ、別の空間から武装を召喚するから、空間作用系も混じってる訳だ。」
と、己の武装召喚の異能について簡潔に語る。どのみち調べれば分かるレベルなので隠す事も無い。
勿論、応用などは口にしないが、別の空間から武装を呼び出すので、空間作用系も含まれているのは確かで。
と、いうよりそれだと確かに自分専用の術式にならないだろうか?
いや、それはそれで手札が増えるから男としては凄い有り難いのだけれど。
「ちょいと機会あったら実演するわ。勿論ドンパチは無しでどっかでこっそりな。」
と、提案を。矢張り一度彼女に異能の展開を見て貰って術式を組んで貰った方がいい気もする。
「…ん、そりゃ助かる。んじゃ俺の番号も…あーと、フィールとフィーナ二人どっちにも交換しておくか。」
フィーナとは今後会う際に当然ながら連絡の手段として必要だ。
フィールにも、露店が開いたら一報貰いたいし、先の術式のあれこれも相談したい。
「……フィールも十分スペック高いと思ってんだが…多種多様なんだな…。」
さすが、彼女の母親と言うべきか何なのか。
そこまで凄まじいと、フィーなの方に術式の相談をしたほうがいいのだろうか?
ただ、先のスクロールに関してはフィールに調整して貰いたい気もする。
「ん?後見人?…それ自体は申請すりゃ何とかなるとは思うが、手続きの詳細どうすっかだな。
…つーか、後見人は別にかまわねーけど。」
物凄くあっさりと了承する男だ。面倒臭がりではあるが律儀な性格もあるのだけど。
■フィール > 「ふむ…射程によっては重力に任せて落とす、という事も可能そうですね。スクロールではなく魔導書になってしまうんですが、誘導術式とかどうです?
異能に作用して落下物を誘導できるようにする、とか。専用になるので勿論試行錯誤は必要ですが」
考えてみて、提案してみる。
もし、想定通りの運用をしているのなら…誤爆や無用な被害を出さずに済むし、なにより命中精度も上がる。
勿論一朝一夕とはいかないが。
「…あー。フィーナは持ってないんですよ。彼女、機械が駄目で……」
先天的な理由で魔術を常に使っているフィーナは、その魔力量故に触れた機械を壊してしまう。文字通り『何もしていないのに壊してしまう』。
魔力が回路に干渉してしまうのだ。
「…良いんですか?会って間もないのに。後見人になるなら責任も伴いますし…。
もし、なってくれるのなら学生証への道はものすごく近くなるからすごく有り難いんですけど」
風紀委員である雪景さんが後見人になってくれるのであれば、もし自分が何か問題を起こした場合は雪景さんに責任が及ぶことになる。
裏を返せば、それだけフィールの事を信用してくれているということで。
学生証発行の為の審査では大きなプラスになる。
■雪景勇成 > 「誘導術式…成程、そりゃ悪くねぇな。何かもう完全に俺専用になってる気もするけど。」
自身の異能は武装を射出も出来るが軌道は一直線だ。
誘導術式なら、応用で軌道を曲げたりとかの変化も応用で行けるかもしれない。
そうなると戦術の幅が広がる訳で、納得したように頷きながらそれで行こう、と。
「……機械音痴な訳か…まぁ、それならしょうがねぇわな。」
おそらく、魔術方面か魔力そのものの影響だろうか。
推測でしかないが間違いでもない気がする。
取り敢えず、ならばフィールと互いの連絡先を交換しておこう。
「まぁ、俺は元々二級学生上がりだし、風紀はちょっとした取引で所属しているだけだからな。
責任を被るなんざ、別に珍しくもねぇし後見人はなった事ねーが構わねーよ。」
と、軽いというか大した事ではない、という気安さで淡々と言い切る。
実際は、フィールが何かやらかせばその責任は確かに彼自身に圧し掛かるのだが。
「まぁ、俺も好んで責任被りまくりたくはないんで、そこはフィールも慎重に行動してくれりゃ助かる。」
■フィール > 「他の術式にも応用が効くかもしれませんし。私にとっても悪い話じゃないんですよ」
自分が持っている誘導持ちの術式は一つしかない。
今回のこの機会で、他にも誘導できる術式を組めるようになるかもしれない。
「……えっ、二級学生だったんですか!?」
どおりで偽造学生証とかの話に詳しいわけだ。
前科がある人でも風紀になれるのか、と驚いている。
「それは、勿論です。私が間違ったことをしたら、色んな人に迷惑がかかってしまいますから」
人と関わり合って、最近漸く知ったこと。もう、自分だけの自分ではないのだ。
■雪景勇成 > 「成程な…つっても、俺の場合は魔術より異能の補助に使う感じになりそうだが。」
さっきもちらりと言ったが、己の魔術は特化型というか特殊?なので汎用性が低い。
それに、そちらは誘導術式があまり意味が無いので使うなら異能の補助が最適なのだ。
「…ん?ああ、数年前まで二級学生だったぞ。
ある冬の頃に色々あって風紀に捕縛されて豚箱ぶちこまれてな。
で、まぁそこから色々あって『取引』して正規学生になった。
ただ、風紀に属する事とかいくつか条件付きだから、フィールは当然止めといたほうがいいぞ。」
しかも、今思えばあれは特例に近いというかそんな感じだったので、同じパターンは無いだろうと。
「つか、二級学生にやむを得ずなってるだけで、そっから正規学生になった奴もそれなりに居る筈だぞ」と、補足を。
「まぁ、取り敢えず俺はフィールの後見人になりゃいいのか?
つーか、それだとフィーナの方は平気なのか?あっちもあっちで大変そうに思うが。」
後見人の手続きとか用意しておくかぁ、と思いつつ。
まさかこんな流れになるとは思わなかったが、人生そういうものだ。
■フィール > 「似たようなものですよ。魔術は現象を引き起こすものですから。
その引き起こした現象を誘導するのも、異能で発現したものを誘導するのも、大差はありませんから」
勿論、術式との結びつけやすさ等は違うが、それでも参考になりそうな部分は大いにある。
「へぇ、そんな事が……」
相槌を打って。ちなみに数年前となると、フィールは産まれてきてすらいない。
この姿と知能で2年程しか生きていない。
「そうですね…フィーナの方はフィーナの都合があると思うので、本人に直接聞いたほうが良い気はします。私も何故フィーナが学生証を持っていなかったのか、気になりますし。」
自分が接したフィーナは、少なくとも悪人ではない。
害した自分を殺さないでくれたし、薫を助けてくれたし。
恩人といっても過言ではない。
でも、それだけの人が、あれだけ知識のある人が、何故?と思うのも必然であった。
■雪景勇成 > 「そうか…んじゃ、誘導術式については…んーフィールに頼んで平気か?」
一応、その辺りの相談というか話題は彼女と今こうやってしているので彼女に頼みたい。
勿論、難しいというならばいずれ会うであろうフィーナの方に相談する感じになるが。
「ま、俺が元・二級学生っつーのはフィール達の事情や問題にゃあまり意味がねーから置いておくとして。
…あー、じゃあフィーナと会ったらその辺りを聞いてみるか…。」
益々謎が深まる彼女の『親』だが、それはそれで興味は沸いてくる。
問題は、フィールがおそらく仲介してくれるとはいえ、初対面の風紀委員なんぞに会ってくれるかだが。
フィールの口振りだと、会わせて貰う事は可能そうではあるけれど…。
「ともあれ、フィーナに関しては機械音痴で携帯持って無いって事だからな…。
悪いがそこはフィーナへの仲介とあと、あっちからの伝言とかあれば俺に連絡くれると助かる。
どのみち、会う時間とか場所の打ち合わせしないといけないしな。」
こちらの名前や立場、大まかな経緯はフィールが話してくれるだろう、多分。
■フィール > 「まだまだ未熟者ですけど、頑張ってみます」
謙遜しながらも、熱意を持って応える。
今までも幾つか魔術を構築したことはあるが…薫以外の為に構築するのは初めてだ。
これも、自分の成長の糧になると信じて。
「そうですね…都合のいい日をこちらに連絡してくれれば伝言します。
フィーナも今仕事は無いはずなので…いえ、フィーナはフィーナで別の場所で居候してるそうなのでわからないですが」
■雪景勇成 > 「おぅ、かといって優先しなくてもいいからな。アンタの第一は薫って子との生活なんだし。」
そこは勿論弁えている。あくまで自分は頼む立場であるし、
その辺りも、連絡先は交換したし何かあれば気軽に連絡くれ、と言っておきつつ。
「……親子揃ってそれぞれ居候か。いや、まぁアンタらの立場考えたら仕方ねーんだが…。
あと、フィーナは魔術の腕前凄そうだから探せばあるとは思うぞ、多分。
…正規学生じゃねーから、色々とアシが付きそうだから迂闊にやらん方がいいってだけで。」
まさか親も居候身分だったとは。何とも言えない表情になるが、彼女たちの大まかな事情を知ったからそこは何も言えない。
「取り敢えず、ほら。そろそろ底下通りが見えてくるぞ。
入り口辺りまで案内すれば後は平気そうか?
多少なら露店の候補先とか下見の手伝いはしてもいいが。」
色々会話しながらも歩みは続けており。
気が付けば数十メートル先はもう底下通りへと差し掛かるだろう。
■フィール > 「お気遣い感謝します。まぁ、居候の身分っていうこともあってあんまり派手には動いてないみたいです。自分で使う魔道具やらはちゃっかり買ってましたけど」
そのお代は、フィールが持ち込んだお金で賄われている。
麻薬を売って作った金なので、きれいなお金ではない。
「あ、此処がそうなんですね。んー…一応初めての場所なんで、雪景さんが迷惑でなければ、案内してくれると助かります。
この辺りのことも知ってそうですし。ここで商売するなら知っておいた方が良いと思いますから」
■雪景勇成 > 「…いや、むしろ派手に動いたら居候先も含めて余計に立場が悪化するだろ。
…まぁ、そういうちゃっかりしてる所があるなら何だかんだ逞しくやっていけそうだが。」
何か子供に当たるフィールよりとんでも人物な予感がしてきたが気のせいだろうか。
さて、目的地に到着した訳だが――…
「はいよ…つーか、自分で口にするのも自意識過剰みたいに思われそうだが。
初対面だけど、すっかりアンタに信用されてんだな俺…。」
勿論、約束は守るし後見人の件も引き受けたけれど。
そういう頼み事は初見の人間に普通するものでもないだろう。
と、なればこの会話の中で彼女からそこそこ信用を得たというので間違いは無い、と思うが。
「んじゃ、行くか――…あぁ、さっきの黒街に比べりゃ安全だが一応逸れないようにな。」
と、彼女に声を掛けて底下通りへ。それから暫くは、彼女と共に通りを見て回りつつ。
相手からの質問があれば、分かる範囲で答えたり幾つか下見もして。
別れるまでは、そうして律儀に商売を計画する彼女のサポートをしていただろう。
■フィール > 「…ある意味では私よりもよっぽど恐ろしいですよ、彼女は」
一度、一度だけ、殺意を向けられたことがある。
こんな私を恨まない筈がない。その殺意には、怖気が走るほどだった。
「そりゃ、至れり尽くせりですから。裏も無いように思えますし、これで信用しないほうが可怪しいですよ」
とはいえ、初対面の相手にここまで信用するのは…彼女の対人経験の少なさが要因かもしれない。
たった2年の経験では、そこまで用心深くはなれないのかもしれない。
「えぇ。案内、よろしくおねがいします。」
そうして、底下通りへと足を踏み入れる。
自分達の未来を、切り開くために。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」からフィールさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」から雪景勇成さんが去りました。