2022/01/30 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に清水千里さんが現れました。
清水千里 > 時刻は17時ごろ。常世渋谷の交差点に開いた『扉』を通り、一人の女性が「裏渋」に入り込む。建物は見慣れたように見えるけれども、異様な紫光が空を覆い、雲は一遍もない。普通の人間には居心地悪く、漂う強い魔力によってその人の体質によっては吐気すら感じられるその場所はしかし清水にとっては想定内で、彼女は肩に掛けた鞄から黄金の蜜が浮いたガラスのガラスの小瓶を取り出すと、コルクを開けて中の液体――蜂蜜酒を一気に飲みこんだ。

「さて、仕事にかからなければ……」

前回の調査では、この世界から安全に抜け出す方法を開発するにとどまっていた。彼女が今回の調査に来た目的は、この世界に入り込む方法を見つけることにある……

もしかしたら、この世界に全く意図せず入り込んだ運の悪い人間が彼女の近くにいるのかもしれない。

ご案内:「裏常世渋谷」にフィールさんが現れました。
清水千里 > こういった異界のような存在から出るということ自体は、正直に言って大して難しいことではないのだ。
穴の開いたずた袋は揺さぶり続けれは中の砂がどれだけ多くともいずれ外に出てくるが、
同じ袋を使ってそれをどれだけ砂地で引きまわしても、砂がひとりでに中に入って満ちるということはありえない。

「要は、この世界は”閉じた世界”なのね…」

そういう世界には、出ることより入ることの方が格段に難しい。

フィール > 「最悪………」
商売に出掛け、底下通りから帰る途中。

寄り道したのが仇となり、道に迷った。
何かしら雰囲気も良くないし、どうしたものか……。

キョロキョロと、周りを見渡して。人っ子一人見当たらない…かと思いきや、一人の女性の姿を見つける。

「あの、すみません」

恐る恐る、声を掛ける。

清水千里 > 調査に夢中になっていたそば、不意に声を掛けられ、思わず腰に掛けた電撃銃に手をかけて清水は振り返った。
そこにいたのは人語を解する、背丈四尺ほどの人型生物。

「……貴方は?」

少しばかりの警戒を滲ませ、清水はフィールに質問した。

「ここで何をされているんですか?」

カーディガンで隠しているが、腰から手は離してはいない。

フィール > 「あぁ、いや、少しばかり迷ってしまいまして…その、ここがどこか教えてほしいのですが」
相手は警戒している様子が見える。
よっぽどのものでなければ、致命傷には………いや、今はそうでもなかった。

距離を測りつつ、自らも懐に手を忍ばせたまま―――――緊急用の空間転移スクロールに触れながら、聞く。

「帰り道に寄り道しようと思ったんですけどね。なにやら異様な雰囲気ですし…人も殆ど見えないですし。渋谷なのに」

清水千里 > 清水は相手を観察する。

(人型近類種に見えるがそうではない……擬態能力を持った超自然的存在か? 
しかし敵意はないようだ、少し焦っているようにも見える)

「ここを訪ねられたのは初めてですか? まあ、私も大して経験があるというわけではないのですが。
ここは閉鎖世界にして多元宇宙の落胤、常世島の言葉で言えば……《裏常世渋谷》、と言われておりますね」

ここで諍いを起こすのは得策ではないと判断した清水は、悪い方向への事態の進展を抑えるために腰から手を引いた。

フィール > 「……………????
ええと、取り敢えず…裏常世渋谷、というのは噂で聞いたことはあります。来るのは初めてですね。つまり私は…迷い込んだ、と言ったところですか」
懐に忍ばせたスクロールからは手は離さず、顎に手を当て考える。

「ここには、詳しいので?」

清水千里 > 「ええ、おそらく、そうでしょう」

と、清水はフィールの言葉に頷き。ちらと、彼女が懐に手を伸ばしているのを見て、表情を敢て変えずに。

「詳しいというほどではありませんが、元の世界に帰るお手伝いなら、微力ながらお力添えできるかと。
ええと……そういえば、あなたのお名前をお聞きしていませんでしたね。私は清水、清水千里と言います。ここへは図書委員の仕事の関係で来たんです。あなたのお名前は?」

フィール > 「……フィールといいます。底下通りで魔法店してます。」

警戒は、解けない。この場所が異常であることと…まだ目の前の人物を信用しきれない。

「手伝ってくれるのなら、助かります。」

懐に手を入れたまま、近づく。
万が一があれば転移で距離は取れる。正直こんな場所で使うのは危険極まりないが。

清水千里 > 「フィールさん、フィールさんですね」

フィールが近づいてきたら、清水は両手でフィールの両手を握ろうとするだろう。拒絶されても、嫌な顔はせず微笑む。

「さっきはごめんなさい。この場所は、危険な存在も多いんです、だからつい、神経質になってしまって」

清水の方はと言えば、すっかり警戒を解いていた。
そもそも自分に敵意あるいは悪意のあるものが、ここまで接近を拒絶しても何の得もない、ただ相手に疑念を抱かせるだけだ。
要は目の前の存在はそうではないのだ、自らの安全を確保しようとしている――彼の言を信じない理由は乏しい。

(こういうことで精神力を使っても仕方ありませんし、ね)

彼女の言に嘘はない。ただでさえこの地域は危険なのだ。目の前の疑わしい存在に注意するあまり、後背の明確な敵に気付かないようでは本末転倒なのである。

フィール > 「…いえ、警戒するのは当然です。危険な場所ですし、人型の化け物も…居るにはいますから。」
自分の事を言っているが…今は人として生きている身だ。襲うつもりは毛頭ない。

流石に両手で握手をするならば、こちらもそうするのが礼儀だろう、と思い、自分も両手で握手しようとする。

「図書委員…ということは学園の?あそこの書物には興味があるんですよね…。特に魔術関連には」

清水千里 > 「わあ、ありがとうございます」

清水は、フィールが手を握り返してくれたことに本心から感激するだろう。そして、フィールの言に耳を傾ける。

「魔術書ですか? 魔法店を経営されているぐらいですから、興味があるのは当然でしょうね」

清水は、(”学園の”……ということは、学園関係者ではなさそうだ)と思いつつ。

「どのような魔術を得意となされてるんですか?」

だからそれを聞いたのは、相手の実力を勘案する打算的思考もないわけではない。

フィール > 「得意、といっても魔術にはまだまだ浅くて。基本的なものと、出力の大きいものぐらいしか。複雑だったりするのはまだ出来ないですね…。
最初に触った魔術書が結構な代物だったもので」

魔術のことになると、少し饒舌になる。謙遜してはいるが、同じ魔術を学ぶ者の才能が飛び抜けているせいで、そこそこの実力ではある。

魔力の発現は苦手だが貯蓄には長けていて、魔術に精通するものなら漏れ出ている魔力から実力を測ることも出来るだろう。

「そちらも、魔術を嗜んでるんです?」

清水千里 > 「そうですか、なかなか魔術書というのは、ある意味で難しいことが多いですからね」

少なくともイース人にとって魔術書の困難さと言うのは、魔術自体の習得の困難と言うよりも、
魔術書著者の粗野で乱雑な、時に走り書き的な筆記の解読の困難という方が近い。

(……しかし、どうやらそれなり以上の実力はあるようですね)

と、フィールの実力を慎重に測りつつ。

「ええ、少しは。と言っても、私はそこまで魔術が得意ではないんですけどね」

フィールに対して清水から魔力の気配を感じ取ることは難しい。
単純に彼女の肉体が生物学的には一般的な思春期の人間の少女ということもあるが、
もう一つには人類より進歩した高度な魔力制御術を習得しているせいでもある。

「どうも、皆さんこのごろは何かあると異能だ、魔術だって言いますでしょう。どうもそういう雰囲気が私は苦手で」

フィール > 「特別な力を持つと誇示したくなるんですよ、皆。
肝要なのはそれを如何に扱うかなんですけどね」
重要なのは力ではなく。
それをどのように使うかだ。

使い方を間違えれば人が死ぬ。今多く使われている異能や魔術は、誤った方向に使われている。

「落第街がいい例ですよね、反面教師として」

本来、武力というものは抑止力であるべきである。
それが行使されることは、避けなければならない。

むしろ、避けるために持つもののはずなのである。

「特異であるが故に他人との格差が明確になって…結果として争いが産まれている。そして争いは次の争いを呼び込む。そろそろ…静かになってほしいんですけどね」

自分も、元々人を襲う立場だった。
人に絆され、人に近づいて、人を同族として見るようになって。
今ある争いに辟易し始めていた。

清水千里 > その言葉に、清水は少し困ったような笑みを浮かべて。
そして、少しの思巡の後、こう切り出す。

「フィールさん、貴方の悩みを聞くと、とても心優しい方だとわかります。
貴方にそのような心を与えたもうた神に感謝なさいませ。
そして、だからこそあなたに知っておいてほしいことがあるんです」

それはかつてのイース人の記憶。イース崩壊の原因。
人類が今にでも核によって文明を破壊できるがごとく、
イース人は魔術によって、一つの世界線においてそれを完遂してしまった。

「強大な力は、個人の自制でどうにかなるものではないのです。
相手の力に対抗するためといって力を蓄えていても、
社会の混乱の中ではいつのまにか強力な力のほうが私たちの主人になってしまう。
相手の力を恐れ、その恐れによって皆の心が揺れ動く……そんな世界は狂気以外の何物でもありません」

ですから、と清水は息を継ぐ。

「大事なのは”どのように使うか”ではないのです。
”いかに使わないか”、それを考えなければなりません」

清水の目は優しげに、しかし口は真剣に言葉を紡ぐ。

「私が魔術や異能がもてはやされる今の雰囲気を憂うのは、そういうことなんです。
みな、それを自分の意志で振りかざせるものだと思い込んでいるんです。
それが何よりも怖ろしい」