2022/01/31 のログ
■フィール > 「…………まるで、見てきたように言うんですね」
詳しくは言っていないものの、その言葉には説得力がある。
「ですが、その技術によって恩恵があるのは、事実です。如何に使わないか、を考えるのも重要ですけれど…事実、魔術を使わなければ生きることが出来ない者もいます」
自分が知っているだけで、二人。
魔術がなければ生命維持も出来ず、死ぬしか無い。
「危険の多い力だというのは、わかっています。しかしそれをうまく使えば人を活かすことにも使えるはずです」
■清水千里 > 「ええ、見てきましたから」
臆面もなく、清水は言い切る。
6億年前の遠い記憶を自分の正体が看破されることも恐れず告白したのは功名心からではなく、
目の前にいる、”善い人”になろうともがく存在に彼女自身が深く共感したからだ。
「危険なれば、危険なれどもと言わずとも、
心より望むところによってその力をお使いになるのがいちばんよいのです。
私にとって魔術の道は遠く、科学の道も未だ遠く。
けれどもその先を求めるのは、
真の苦悩には知識だけが、魂の中にある光を避けるところのものを照らすだろうからです。
『高きを思い、高きを求めよ、われらの住む家は天上にあればこそ』ですよ、
願わくば貴方の苦悩が私の苦しみともなりますように!」
■フィール > 「………まぁ、そういう世界があってもおかしくはない、ですか」
フィールはこの事を別世界のことと捉える。
大変容から異世界とのつながりは出来ており、自分のルーツも異世界からだ。
「哲学については疎いもので。ですが…力でも、知識だけでもどうにもならないことがあるというのは、知っています。
私の知識が足りない、というのは自覚してます。しかし全てを学ぶには到底時間が足りない。
だからこそ、人は助け合うんだと思うんですよ。足りないモノを補う為に」
■清水千里 > 清水は、少し暗い顔になる。
「私が不安なのは、まさにそこなんです。
フィールさん、もしかしてあなたは、人型に化けた、人でない存在ではないですか?
私はそういう種族が地球にいることを知っていますから、驚きはしませんし、差別もしません。
あなたはある人とつながりを持ったのではありませんか?
私は人が助け合うことを否定しません。
むしろそれは有限の存在にとって欠かせないことでしょう。
しかし……あなたの大切な人が傷つけられた時、ひょっとしたら、
あなたは無力感に耐えられなくなって、あなたの持つ力によって自分自身を振り回し、傷付けてしまうことにはなりませんか?
たとえそれが、間違ったことであると、頭のどこかでわかっていたとしても……」
と、ここまでしゃべって、清水は少し恥ずかし気に頬を赤らめながら、
「すみません、過ぎたことだったかもしれません」
とフィールに話した。
■フィール > 「…まさか、見破られているとは。初めて…ですね。初見で見抜かれたのは」
そう言って、人の形を崩し……たりはしない。
人の型から離れれば、自分は人から離れていく。そんな言葉が片隅に残っているから。
「……それについては、経験があります。事実として…暴威を奮ったこともあります。でも…そうなってしまうのは、そうなる前にきっかけがあるから、だと思います。
間違うのは、力を振るう前なんです。もし、私がそうなってしまったのなら…それは、もう取り返しのつかない事になってしまってるんでしょう。」
争いを避けるために、四方八方手を尽くして。それでも大きな力の奔流には逆らえない。
それはある意味不可避であり…それに逆らうことは、果たして間違いなのだろうか?
「正しいか、間違いか。そう考えるのは失敗を恐れるからなんだと思います。
失敗が許されない事だってあります。でも、失敗を恐れていたら…前に進めませんから」
■清水千里 > 「……私は、大きな力の奔流に押し流されるのが有限の生命の運命ならば、
その奔流に逆らおうと足搔く者がいることもまた、有限の生命の運命だと思っています。
私は、貴方の謙遜な勇気を尊敬します。
その上で……もしあなたが道を踏み外そうとしたとき、それを踏みとどまれるかもしれない。
貴方と周りの人を守るため、私はあなたにわずかな”お守り”を託したいのです」
と、清水は語る。
「私はあなたに多くのものを授けることは憚られます。
それでもこれだけは……私が預けられるものなのです」
と言って、革鞄から取り出したメモにすらすらと書いたものを、フィールに渡す。
それはフィールが今までに見たことがない形式の魔術かもしれない。とはいえ、習得に時間はかかるだろうが、不可能ではない。
しかしこれをどうするかは、フィール氏次第ではあるのだが。
(魔術:<トートの詠唱/Chant of Thoth>)
詠唱者の知的能力が向上する、正常な判断ができない場合には冷静さを取り戻すことができるようになる。
■フィール > 「……これは、魔術?いや、それにしては………」
メモを受け取り、じっくりと眺める。
形式が違う。こんな術式は初めて…………いや。
一度だけ、見たことがある。黄泉の穴に潜った時に、一度だけ。
あの時は焼け損じていて解らなかったが…確か、こんな形式だったはずだ。
大変容に関する書物の殆どは禁書となったはずだ。
その形式を知る――――否。扱える彼女は、一体何者だ?
「…ありがたく、頂きます。けど――――使えるかどうかは、わかりませんよ?
私が今まで学んだモノとはかなり違うみたいですし」
一歩、後退って。
この術式は、たしかに今まで学んだモノとは違う、未知のものだ。
しかし、それ以上に。
人としての思考意識が、警鐘を鳴らしている。
「……何の術式なんですか、これは」
■清水千里 > 「――《大変容》が起きるずっと以前から、地球で一部の人間の魔術師たちによって筆記され、受け継がれてきたものです。
古代エジプト、古代ギリシアで信奉された神格、トートがその呪文の名の由来……
私はずっと見てきました」
その告白は、不気味なほど冷静だった。
「私は知識を追い求める者。
その魔術は詠唱者の知的能力を向上させ、精神の平穏さえもたらしてくれます。
どうか貴方の助けになることを」
どこからどう見ても人間の少女である目の前の存在は、
どう考えてもただの人間ではない。
しかし……その思考の表明に嘘はないよう感じられる。
■フィール > 「………っ」
また一歩、後退る。
目の前に居るのは、唯の人間のはずだ。
なのに、彼女の言葉は自分の心に突き刺さり、心の奥底まで見通されている気がする。
「……本当に、人間、ですか、貴方…!」
気が狂いそうになりながらも、問う。人でありながら、破滅を知り、人とは異なる精神性を思わせる。
人としての理性が警鐘を鳴らし続ける。
しかし…今目の前の存在が示しているのは善意だ。
背を向けるのは、憚られた。
■清水千里 > 「人間でなくとも」と、フィールの目の前に佇む”何か”は言う。
「私とて有限の存在に過ぎないのですよ」
「人はか弱く、文明も未熟。
しかしいつか必ず二つの種族が心通じ合える時が来る……
私はそう信じています。
そうでなかったら、私はここにいません」
”それ”は、少女の目を閉じた。
「帰りましょうか。貴女にも私にも、暫し時間が必要でしょう」
そういって、鞄から動作機構の不明な、何かの機械を取り出す。
「これはこのような場所から脱出するための装置です、
何も特別なことはありません、材料だってこの世界のこの時代のものを使ったんです。
これを使えば、いつもの交差点に戻れます」
■フィール > 「……これまた、珍妙な…」
余裕なく機械を見つめ、零す。
機械に見えない。何かの遺跡の遺物にしか見えない。
しかし、彼女がそういうのなら、そうなのだろうと。納得してしまう。
3年にも満たぬ精神では、もう彼女を直視することは出来なかった。
機械に意識を向けて彼女を意識の外におしやらねば…自壊してしまいそうだ。
「これで、帰れるんですね?」
■清水千里 > 「ええ。――それと、今日のことは、どうかご内密に。」
フィールの憔悴を感じ取って、清水は装置を起動する。
やることが特になければ、ふと気が付いたころには元の常世渋谷、
交差点に立っていることだろう。
時間も全く進んでいないはずだ。
手に握りしめられた《トートの詠唱》に関する文書だけが、
あの時間が現実に存在していたことを示しているのだ。
■フィール > 「…………っ、はぁっ!」
詰まっていた息を、吐く。
周囲から少しばかり奇異の目で見られ…………周囲に人が居ることに安心する。
彼女――――――清水千里の事を彼女と言って良いのかわからないが。ともかく彼女と対峙している時は…彼女の瞳の奥に『在る』モノに気づいてしまってからは、気が休まらなかった。
まるで、蛇に睨まれた蛙の気分だ。いや、相手は睨むどころか善意を持って接してはくれたのだが。
まるで、明晰夢でありながら、唯の会話でありながら。悪夢を経験したかのように体は汗でじっとりと濡れ。
握り込まれたメモが、現実であったことを示してくる。
「…………薫が、喜びそうですね…」
意識を他へと移す。これ以上あの『存在』に意識を向けたら気が狂ってしまいそうだ。
そうして、フィールは逃げるように渋谷を後にした。
ご案内:「裏常世渋谷」からフィールさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」から清水千里さんが去りました。