2022/10/04 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に真詠 響歌さんが現れました。
■真詠 響歌 > Monday,Oct 4th 13:30───
「先生はさ、私のこと怖いなーとか思ったりしないの?」
第二級監視対象《叫喚者》には月に一度の定期検査が義務付けられていたりする。
内容は身体測定と健康診断を足して二で割らないような物に加えて、異能の性能検査がある。
『そうですね、普通にお話をする分には問題無いと分かっていますし。
真詠さんは自分のことが怖いですか?』
そう言って向かいのソファで優しく微笑む先生に言葉が詰まった。
正直に言うと怖い。
自分の歌が誰かに届けば良いなって思ってた。誰かの心に響けって。
それが誰かを傷つける事になるなんて、思ってもいなかったから。
『大丈夫ですよ』
何か答えなきゃ。そう思って顔をあげると先生は穏やかにそう言った。
『焦らなくても大丈夫です。悩むのは向き合おうと思う心があるからですから』
「――うん」
オレンジピールのクッキーを嚙み砕いて、ぬるくなった紅茶に口をつける。
「ねぇ先生、採血嫌だから今日の検査行かなくても良い?」
笑顔のままに首を横に振られた。ダメか。
しんみりした雰囲気なら許してくれるかなって思ったけどダメか。
ダメと言われてはしょうがない。ご馳走様! 両手を合わせて元気に言って立ち上がる
元気に言ったせいでアラートの鳴る腕時計に頭を抱える監視担当さんに背中を押されて部屋を出る。
薄く広がるバニラの香り。
その白い部屋の主に見送られて、私の子供じみた抵抗を終えて検査施設に向かうのだった。
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18:50
「やーっと終わったぁぁ」
月に一度の定期検査を終え、帰宅するまでは自由な時間。
何しよう、何処行こう!
パンプキンカラーが目を引くドーナツ屋さん、カジュアルなコスプレグッズを置いたアパレルショップ。
10月に入って数日、ハロウィンに向けて盛り上がる商店街の雰囲気と肌寒くなる季節の到来に街の店も賑わっている。
ハロウィンって宗教行事だっけ……民族風習?
そのあたりの由来や理屈はともかくとして、イベントとしてしか認識してないから詳しくは知らない。
クリスマスもそのあたりふんわりしてるけど皆ケーキ食べるしね?
吐く息がほんの僅かに白くなる。
遠く聞こえていたストリートミュージックに向けて足を進めていたけれど、それもどうやらおしまいらしい。
「懐かしいなぁ……」
警察に申請出して、それから流行りの曲とかリサーチして。
足を止めてくれる人なんて誰もいないのに、ただ好きで歌っていた日。
それももう何年前になるんだろう。
■真詠 響歌 >
バタバタと撤収していくバンドマン然とした恰好の二人組を、
キッチンカーで売っているメロンパンに並びながら眺める。
ただやりたくて歌っていた日々、認めてもらって歌わせてもらえるようになった日々。
それと、歌いたくても歌えない今。
ぐるぐると変わる環境の中でも、私はまだ音楽が好きだ。
好きでいられている。
嫌いになろうものなら、それこそ私はこの凶器を電波にでも乗せて悪さをするのかな。
それとも、未練も執着も無くなればこんな能力は消えてなくなるのかな。
湿っぽい考えを吹き飛ばすように、ひときわ強く風が吹く。
何かのビラを配っていたらしい男の子が手の中の物を全部攫って行かれたのがおかしくて、
少し時間が経てば暗い考えは消えていた。
「あはー、忙しそう」
もう10月。ここから年末に向けて慌ただしくなっていく人も多いのかな。
私はというと変わらぬ日々を過ごしている。
モデルのお仕事と、図書館での勉強。
たまに追影先輩が助けてくれた時みたいなトラブルも起こるけど、事件らしい事件には巻き込まれていない。
風紀委員の人たちからしたら私自身が事件の種みたいなものではあるけれど、当事者意識というのは存外芽生えにくいもの。