2023/10/25 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」にレイニーさんが現れました。
レイニー > 『続いては午後のお天気です。
暖かい日の続いた昨日までとは打って変わって、今週は各地で冷え込む日が続く予報です。
島内北部にかけては晴れ模様が多く見られますが、海洋上の低気圧の影響によりところにより――』

「――雨だ」

ポツリ、と。
見上げた壁面パネルの中でアナウンサーがうたうよりも早く、頬に触れた雫に言葉が口をつく。
ノックするように緩く肩と背を打ち始めた雨粒の感覚。
はじめは糸のように天から降りてきたそれは数瞬の間に急激に雨脚を増していく。
数日続いた秋晴れの澄空。
暖かな日差しを連れていたソレを追いやるように、稲光を内側に飼った黒雲は空を流れていく。

「いつぶりだっけね、歳を食うと忘れっぽくてよくねぇ」

クツクツと喉奥で笑ってひとりごちてこそいるが、当然自分も濡れ鼠。
平然と濡れながら愉快そうにいるせいで奇異の眼で見られる事もあるが、
皆、自分の事で手一杯なのだろう。
雨風の中で興味に任せて流れて行ける程の自由を持つ人が如何ほどいるというのか。

レイニー > 濡れて肌に張り付く髪をかき上げて、ファッションビル前のベンチに腰掛ける。
食べ歩きに待ち合わせ、常日頃は人の気配の絶えないのであろうその場所も、
こうも雨に降られては広いそのスペースもがらんどうそのもの。

だからこそ、人の姿がよく見える。
傘を取り出す用意の良い者、カバンやアウターを頭上に掲げて細やかな抵抗をする者、
迷惑千万といった顔で建物の軒下へ駆け込む者。
三者三様の対応の端に、諦めたようにその身が濡れる事を甘んじて受け止める少年少女の一団を見つけてはケラケラと。

「イイね、青春だ」

いや、知らんが。
ただ、どうしたものかと顔を見合わせたその人々がお手上げといった具合に雨に打たれる姿は、とても良かった。
衣服が濡れ、荷物も濡れて。
その上で濡れ鼠のお互いの姿を指差して笑い合う。
笑うしかない、というだけなのかもしれないが。

そんな姿のなんと穏やかな事か。

レイニー > 一瞬の閃光の後に雷の落ちる音が聞こえて、
建物の軒下まで退避した人の中から小さく悲鳴が上がる。
数刻と経っていないというのに人垣ができ、ビルの入り口も見えなくなっていた。

刻一刻、とは言うが人の姿も直ぐに移ろいで。
急な雨に散らされた人の群れはいずこかに吸い込まれ、
伸ばされたオーニングの下から這い出てくる人の手には一様に無色透明のビニールの傘。
今日はさぞかしよく売れて潤った奴もいた事だろう。

「って言ってももう――」

相変わらずの稲光。
視界を焼く真白の閃光の後に僅かな晴れ間。

「女心となんとやら……って言うらしいが、読めねぇよなぁ」

言うや否や、黒雲ははけて行き、嘘のように雨が引いていく。
時間にして数十分、暴れ飽きたのか雨雲は勢いに任せて通過したらしい。
視界を降ろせば傘を片手に空を見上げて呆ける人々。

「ははっ、イイね。良い表情だ」

雲が完全に流れ、ストリートを打つ雨音も収まりを見せれば、
ケラケラと笑う声を最後に、男の姿も霧のように消え失せる。

広いベンチには誰の姿も在らず。
初めから其処には何もいなかったかのように、雨男は濡れたベンチに僅かな温度も残さない。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」からレイニーさんが去りました。