2020/09/10 のログ
クロロ >  
「……ウルセェな」

早速苛立ちに眉間の皺が深くなった。
怒りっぽい自覚はあるし、それに遠慮が無いのもたちが悪い。
だが、それが"本当"である以上、必要以上にクロロは反論しない。
ただ、それはそれとして"ムカつく"と言う事だ。
苛々としながらずいずいとアストロへと迫る。

「アァ?"せくはら"……?ンだ、そりゃァ。
 ウルセェな、ちょッとツラ見せ……」

半分はムキになってだ。
強引に手を伸ばし、頬に手が触れた。
ひんやりとした体温は、"本能的"な危機感が脳裏に過る。
触れた手も、さっと引っ込めてしまった。

「……そういや、そうだッたな、水ガキ」

覚えている、その体。どういうものか理解している。
そう言う"相性の悪さ"を改めて再認識した。

「フン、まァいい。お前、とりあえず元気そうだしな。
 お前が落ちこンでると、オレ様がムカつくだけだ。……ンで……」

「ヘンな奴……?お前よりヘンな奴この島にいるか?」

そりゃもう最高に怪訝そうな声で言った。失礼か、失礼なんだなぁ、馬鹿だから。
勿論クロロも、友好関係が広い訳ではない。
だが、目の前の少女はクロロからすれば"変な奴"だ。
それは間違いない。

「つーか、それよりヘンな奴だと『ヘンな奴』ッつーか、『やべー奴』じゃン」

見知らぬ人への風当たりが当たり前のように強い。
風速何キロあるかなぁ。

アストロ >  
頬を触れられば、すぐに手を引っ込められる。
想定範囲内だ。こっちが体を引かなかったらどうなっていたんだろうな。
普段は血が出るレベルで人の体ではあるが、
有事にすぐに水に切り替えられるように魔術を纏っている。
ひんやり感はここに起因していて、体温そのものは普通である。

「やっぱり知らないんだぁ。
 他の子に怒られるまえに教えてあげよっかぁ?
 ……ってか、女の子の友達いないの?」

とはいえ、何をどう教えたものか、とも思う。
前提の前提の前提ぐらいのレベルで知らないんじゃないだろうか。
子供を作る仕組みすら知らないわけだし。

「あは、ありがとね~。なんだかんだ優しいんだぁ」

「……」

自分もヘンな奴の自覚はあるので否定はしなかった。
というか不法入島者が真っ当なはずがない。
けど、彼は、なんかもうヤバい。

「うん、ヤバい人だと思う」

先日の魔術でなにかの引き金を引いたことを鑑みるに、
クロロが出会ったらマズいことになるだろう。
彼はそういう本を持っている、しかも、隠さずに。

クロロ >  
「ウルセェな、覚えてねェンだよ。
 そこまで言うならテメェが教えてみろや。……ア?」

白紙の記憶に頓着は無いが、アストロにこう言われるのは腹立つ。
こういう時だけ記憶戻ってほしいなぁ、と邪な気持ちが出てきた。
だが、そう言われると白紙の記憶の上に染みついたインクを見返してみた。

「…………」

顎に指を添えてシンキングフェイス。

「一人いるけど、なンつーか壁の隙間にいるような奴だしなァ。
 つか、そうそう人の事触るか?触ッてなンか悪い事あンのか?」

この評価。別に本人に悪気はないが色々こう、宜しくない。主に頭。
大よそアストロの言うように、知能レベルで言えば子ども以下かもしれない。
魔術以外ほとんど白紙になってしまった記憶、真っ当に日常生活をしようとすると困難なのは間違いない。

「優しい?ジョーダン、気に入らねェだけだよ」

大よそのクロロの行動原理がそれだ。
ケッ、と道端につば事吐き捨てるが、続く言葉にギョッと引いた。
そう、引いたのだ。このヤンキーが。

「……マジか」

此の少女の全てを知っているわけでは無いが、クロロは間違いなく一目置いている。
そんな彼女が、掛け値なしに『ヤバい』と言った。
どうやら、相当ヤバい人間のようだ。
一体どれだけ"ヤバ"いのだろうか。クロロ自身も想像がつかない。
ただ、そう言う話を聞いてしまうと……。

「ヤベー奴、な。逆に会いたくなンな、ソレ」

コイツは、火遊びが大好きだ。
少しばかり、口角がつり上がる。

アストロ >  
「……壁の隙間ってどういうこと?」

よくわからないが、居るには居るんだ。なるほど。
引っ込み思案とかそういう話?
じゃあその人に教えてもらうのは無理そうだな……。

「女の子が本能的に嫌だって思ったらセクハラだよぉ。
 手付きとか、じろじろ見たりとか、デリカシーの無いこといったりとか」

体を捻って"らしい"ポーズをする。通じないのは分かってるので期待していない。
別に自分は嫌悪感とかは無いのだが、一般的な基準を用いることで武器として使っている。
逆に言うと、セクハラの概念が通じない相手だと昨日のように大敗するのだが。

「ん、それでいいよぉ」

別にいい。親しい相手に優しくできるということを、
自覚出来るほどの精神が伴ってないとか、多分そういうものだと思う。

「マジ」

このときばかりはいつもの余裕がない。(胡乱)
ため息を隠さない。

「止めはしないけど気をつけてねぇ?
 悪いようにはされないと思うけど……多分クロロ君も大変な目にあうよぉ」

元の調子に戻る。
ヤバい人だけど、狂っていたけど、悪人ではなかった。そう思う。

クロロ >  
「言葉通り。後なンかいッぱい手が出る」

クロロは直情的で表裏はない。
つまりそう言う事だ。
クロロの視点から言えば、あの怪異の少女ならそれ位出来る、と思う。
と言うか、実際手だしてたし、壁の隙間に住んでるだろう、アレ。

「なンだそりゃ……難しい事言うな。そンなモン言ッたモン勝ちじゃねェか」

実に不愉快そうに眉を顰めた。
社会的常識、と言えばそうだが、"何も知らない側"からすれば
それは余りにも女性優位なルールに見える。"スジ"が通らない。
明らかに納得していない顔で首を傾げた。
多分、そのよくわからないポーズも"せくはら"と言う奴なのだろうか。

「でもお前、嫌がッてなさそうだしセクハラじゃなくて?」

そして、思った疑問を即座に口にした。
ついでに何がいいのかは、言及しない。
下手に追求すると、調子を狂わされる。
溜息には素直に不思議そうにアストロを一瞥した。

「マジも大マジ。まァ、あッてみてからのお楽しみだな。
 ……ア、そいやお前に用があッたンだわ。丁度いいわ、今なンかこう、ポッケとかあるか?」

アストロ >  
「うーん?」

怪異とか、そういうレベルの異能使いとかだろうか。
とにかく普通の女の子ではなさそうだ。

「んー、まぁそうだねぇ?
 まー……男の人に対してもその概念はあるらしいけど」

相手の知識はまっさらだから、一応真面目に説明しておく。
で、言ったもんがち。実際そう。
それが受け入れがたいというのも、クロロの性格を思えば、
あるいはその仕草を見ればなんとなく理解できる。

「言っちゃえば、力が弱い人が立場を武器として使ってるのかもね?」

自分だって子供という弱者の容姿を武器として使っているにほかならない。

「まーね。相手にもよるけど、普通の女の子は嫌がるって話だよぉ」

今はまだ何も知らないクロロだから、別に隠さない。
いずれ色々思い出して、そういうことも意識出来るようになったら、
改めて誂ってあげたいなぁとは思うが。

「ポケット?有るけど」

無くても魔術を用いて収納はできる。

クロロ >  
「なンかこー、お化け出そうな場所にいるけど
 お前が会うとからかい倒して終わりそうだな」

彼女の推察はあっている。実際普通の女子では無かった。
だが、クロロからすれば"変な所"はあれど、"普通の女子"と変わりない。
ちょっと臆病で、か弱い。"女の子"とは、そう言うものだと認識している。

「男もそう感じたら"せくはら"になンのか?オレ様にゃわかンねェ世界だな……」

要するに性的なあれこれ、でいいのだろうか。
クロロは馬鹿だが阿呆でない。なんなら"魔術師"である以上
知識に対しての理解・吸収は早い方だ。
だからこそ、理解はすれど今一納得はしていなかった。

「力の弱い奴の武器、ねェ……"イロジカケ"……とか、ちと違うか」

武器とするなら、そう言うものだと連想した。
弱き者の牙。誰に向ける牙かは敢えて置いておくが、ろくでもないように聞こえるのは確かだ。
より一層、眉間に皺をよせ、後頭部を掻いた。

「ま、いいや。お前がイヤじゃねェなら問題ねェな」

何が問題ないのか。彼女の思惑も当然読めない。
唯一人腕組んで納得している。クロロの中じゃ、そういうものらしい。

「ポケットあンな?ヨシ」

そう言えば自身のポケットから取り出したるは学生証。
勿論、ただの学生証じゃない。"偽造学生証"だ。
一緒に取り出したるのは、機械仕掛けの謎ペンだ。

「とりあえず一式買ッてきた。なンかヘンなババアから。はっきんぐ?
 とかよくわからンけど、そこにソイツで名前を書けば完成だッてよ。偽名でもいいらしいぜ?」

その場合、学園上の名前が偽名の方になってしまうが。

アストロ >  
「案外仲良くなっちゃうかもねぇ?」

お化け出そうな……なおさら怪異っぽいな。
でも、会ってみなけりゃわからない。
ひょっとすれば、ボロボロに負けるかもしれない。いや負ける気はないけど。

「例えば……クロロ君が何か事情あって攻撃しちゃいけない、
 むっさいおじさんがクロロ君のことベタベタ触ってきたら嫌じゃない?」

極端な例えだが、こうするのが一番だろう。
多分、クロロでも想像ぐらいはできるだろう。

「そういう時に、セクハラ……"いけないこと"をしているって言うの」

手を挙げられない状況であるから、ルールを用いて防御する。
自分は逆手に取って武器にしているからややこしいが、
基本の概念はこういうところだろう。

「嫌じゃないけど、私のカラダも安いもんじゃないんだよぉ?」

体を使って稼いだこともある故、タダで触らせはしない意思はある。


「……学生証?」

ほんとに持ってきたのか。
此処までしてもらって受け取らないのも申し訳ないし、
なによりクロロの気が済まないだろう。

「ふーん?随分便利なんだね?」

白紙の学生証に書き込んで、ハッキング。
情報は掌の上ということか。裏に潜むまた吹っ飛んだ実力者の気配を感じる。

クロロ >  
「そうかァ……?……そうかも」

言われるとそんな気がしてきた。
思ったよりあの怪異少女ポンコツだし、アストロもなんやかんや人がいいし
女の子同士仲良く出来る気はする。多分。

「アー……成る程、な……」

確かに極端な例だが幾何か納得はする。
要するに、か弱い相手の立場を利用して"そう言う欲求を満たす"。
そう言う例なら納得はする。
と、すると、自分が言った"言ったモン"勝ちはルールの穴と言うべきか。
自分も大概"穴"を突くのは好きな方だ。
両腕組んだままうーん、と唸っていたが、暫くして深いため息を吐いた。

「面倒クセェ」

深く考えるのを止めた。
こういうルールは、性に合わない。

「体に安いも高いもあンのか?寧ろ、人様に値段つけるのッてそれこそ"せくはら"じゃね?」

早速覚えたての言葉を使っていく。
さながら、それは奴隷商めいた雰囲気も感じる。

「まァな。結構高かッたけど、その分まーイイ奴?らしい。
 よくわかンねェけど。後、"悪用はすンな"だッてよ」

やはり此の手の物資は高いが、相手の事を考えてればそこまで苦では無かった。
元々金に頓着はないし、生活のギリギリ困ってはいない範囲だ。
フフン、と得意げに笑みを浮かべ、頷いた。

「ま、コレで晴れてお前も金とか稼げるッてワケだ」

アストロ >  
おおよそ意図が伝わったのを見れば満足そうに頷いた。
めんどくさいと切り捨てようが、知識として吸収してもらえればそれで十分。
自分はともかく、他の女の子と接する時に役には立つはずだ。

「あは、早速使ってきたねぇ。えらぁい。
 そうだよぉ、その気がないひとにそんなことしたらセクハラだね」

人を値踏みする。けっこうなハラスメントだ。
まぁ、アストロはそれを分かっていてやっているのだが。

「ありがとぁ。うれしいなー。
 悪用……、確かに足が付いたら困るもんねぇ」

素直に無邪気な笑顔で喜んで見せる。
後ろ暗い方法に別に抵抗はないのだが、それ以外も使えるのはありがたい。
悪用については、必要以上には使わないようにするとして。

せっかくだから、早速名前を書くとしよう。
ハッキングと言っていた。つまり学園のデータベースに名前が入る。
つまり、ここにアストロと書いては、一瞬で風紀に気付かれて、
この偽造学生証がすぐにダメになってしまうだろう。

少しの逡巡の後、少女はペンを走らせる。


"Relm Astriar"(リルム・アストライア) と。


「よし、出来た。ほんとにありがとねぇ?」

クロロ >  
「ならお前がお前に値段つけンのもよくねー事じゃね?
 なンの値段か知らねェけど。労働力?」

そもそも何の値段何だろうか。子どもの労働力とはなんだろうか。
全員なんか絵本でも読み聞かせられるのか。…全く想像は付かない…。

「別にいーよ。ま、オレ様がお前ぶッ殺したらすぐお釈迦だろうけどな」

全部が全部、自分がやりたくてやったことだ。
手をヒラヒラさせても、幾らそう言う関係だから、物騒な事を言おうと
クロロの表情は、嬉しそうに笑っている。満足だ。
内にくすぶる怒りの炎もこの時だけは忘れてしまいそうだ。

走らせたペンは、役目を終えればポンッ、と音を立てて壊れてしまう。
如何やら、ペンの方にも足がつかない"細工"がしてあったらしい。

「あ、壊した」

当のクロロは何も知らない様子で、アストロが壊したと思っている。
徐に彼女の手にしている学生証を一瞥すればふぅン、と相槌一つ。

「リルム・アストライア……随分とキラキラした名前だな。お前の名前?」

余りにもストレートな質問だ。

アストロ >  
「まぁ、そういう"お仕事"も有るってことだよ」

またどっから説明して良いのかわからないということになりかねない。
面倒くさいので、適当にはぐらかしておく。

「あは、まずは私に勝てるようにならないとねぇ?」

いつも通りの返事をする。
しかし、そこに有るのは無邪気な笑顔で、いつものような生意気さはなかった。
いい出会いが出来たものだと思う。

あからさまに壊れましたとアピールして壊れるペン。
まぁ当然だろう。悪用をさせないとはそういうことだ。

「使い切りみたいだね」

壊したのは事実だ。壊れるようにできてるのだから。
適当に流して、続く質問には。

「そうだよぉ。書く時用の名前。普段はつかわないんだけどね?
 アストロって書いたら、風紀の人が飛んできちゃうから」

クロロ >  
「???」

案の定、頭にいっぱいハテナが浮かんでるぞ!

「まァいいや。オレ様が殺すまで、精々危ない目にあうンじゃねェぞ?」

我ながらちんけな心配をしたと思う。
それでも、言葉と言うのは口に出すから意味がある。
魔術師の詠唱、合図、それと同じだ。
相変わらずの態度にハッ、と鼻で笑い飛ばした。

「ぬかせ、水ガキ。オレ様のが強ェ」

それは絶対に譲らない。

「ツカイキリ。"ヨーイシュートー"ッて奴か?ふぅン……」

「ソレもそーか。つーか、喧嘩売る相手見境なさ過ぎだろ。
 オレ様だッて、風紀相手なら一回考えてから殴るぞ」

結局殴るらしい。風紀だろうと何だろうと、気に入らなければシメる。
そう言うものだ。クロロは無法者、時に風紀にだって立場を考えずに喧嘩を売る。
秩序だろうと、"スジ"が通らなければ、誰だろうと考えない。
しかし…、顎に指を添え、思考を巡らす。

「アストライア。"おとめ座"……だッけか?お前、星とか好きなン?」

星の知識は残っている。主に呪紋の関係上。
随分と小生意気な少女にしては、煌びやかで可愛らしい名前だと思っているが
女の子らしくてそれはそれで可愛げはあると思う。

アストロ >  
「そっちこそ、他の人にやられました、とか無しだよぉ」

売り言葉に買い言葉。
いつか決着が付くときがくるんだろうか?
もっとも、今の所も暫く先も、クロロを殺す気は一切ないのだが。

「それは勝ってから言いなよぉ」

ただまぁ、この距離感は悪くない。
にしし、と笑った。

「折角強い人達が居るんだし、遊びたいと思わない?
 それに、私からは手を出さないし?」

大義名分があったほうが相手も自由に動けるというもの。
だから、お膳立てをして待ち構える。いつも通りだ。

「おとめ座の元になった神様がこの名前だったかなぁ?
 どっちかと言えば好きだけど……
 理由としては、ファミリーネームがこれだから、かも」

ローマ神話の女神の一柱だったか。
水に深く関わるものではないので、そこまで詳しくない。

クロロ >  
「……ヘッ」

ただ、笑った。こう言うのは悪くない。
何時か終わりが見える仲だとしても、クロロはアストロを気に入っている。
それは、間違いのない事だ。表裏が無い分素直な男だ。

「──────……」

何となく、本当に何となくだ。
何だか、昔にこんなことをした記憶があるような、ないような……。
まぁ、なんでもいいか。今は"コイツ"がいるし。

「言ッてろ水ガキ。なンなら勝つが?」

尚ホテル通算三連敗。
何がとは言わない。

「気持ちはわからンでもないがな。オレ様も大概喧嘩好きだが
 煽るだけ煽ッて自分からいかねェのはイイ御身分だな、お前」

タチが悪い、と吐き捨てた。
直情型のクロロは即喧嘩上等、そう言うのは好ましくないようだ。

「ふぁみりーねーむ?お前の?ふぅン……ま、いいか」

色々気になる事も多いが、それは"力づく"と決めている。
他愛ない約束事と言えばそれまでだが、クロロは律儀だ。
だから、それを律儀に護るから、それ以上追求しない。

「とりあえず、この辺のホテル……アー、モーテル?ッつーンだッけかな。
 まァいいか、行くぞ。どーせ、今夜の寝床もねェンだろ?今日は床で寝ろよ」

ほら、と何気なく差し伸べた己の手。
ほとんど無意識の行動だ。何よりも人よりも熱い体温。
普通の人間では、握れない。

アストロ >  
「だってさぁ?こっちから行くにしても、
 どれくらい加減したらいいかわかんないじゃん?
 だから相手から来てもらうの」

立場も武器として扱う故のスタンス。ただ殴り合いをしたいだけではない。
その辺のやり取りも楽しんでいるのだ。
そうでなければ"弱い者いじめ"なんかしないだろう。

「名字とか言ったほうが通じる?ま、どーでもいっか」

必要だから使った程度のもので、あまり使う気もない。
今の自分はアストロである、それで十分だろう。

「寝床助かる~。今日もベッドはいただきだねぇ?」

フフ、と笑う。4戦目の結末も分かっているようなものだ。

差し出された手に、一瞬意外そうな表情をする。
手を取ろうとして、口元に手を添え、少し流し目で悩んで。
水化の魔術を片手だけ切って、そっと握った。
もちろん高熱は分かっているので、それには対策をして。

クロロ >  
「……力量を見誤らないッつー意味ならわかるがな。
 ソレで前回の"アレ"してンだからお前ホント性質悪ィーな」

あの時、初めてぶつかり合った時の事だ。
あれは間違いなく"弱いものいじめ"だ。
少なくとも彼女が、それを見誤るはずもなく
その趣味の悪さには顔をしかめた。

「ア!?負けンが!?なンなら勝つが!?」

尚今の所勝ち星なし。

そんなわけで手を引いてモーテルへと向かう最中
はっ、と自分の行動に気づいた。
無意識だった。自分の事を理解していないはずも無い。
だが、彼女は平気そうだ。ばつが悪そうに、何度もアストロの方を見る。

「……熱くねェのか?」

それだけは聞いておいた。
対策をしておけば何ら変わりない。
火を内側に閉じ込めているのは、人の肉体であることには変わりなかった。

アストロ >  
「私の時間だって無限じゃないんだよ?
 それなりに役に立ってもらわなくちゃぁ」

少女は役に立たないモノを殺すことに対してなんの躊躇もないが、別に殺したいわけでもない。
少しでも役に立てば見逃したりはする。
先日のアレは、クロロとの衝突をもたらしてくれたので、すぐに見逃していたのだ。

手を取ってからはさも当然の顔で歩いていた。
熱くないのかと聞かれれば……にやりとして。

「あは、私を誰だと思ってるのぉ?」

相変わらず生意気な返事をした。

クロロ >  
「道具じゃねェンだ、ッたく……アァ?」

本当に、相変わらず生意気な返事だ。
ふ、と小さく口元が緩んだ。

「生意気だぜ、水ガキ」

相変わらず口汚い返事を返した。
そのままモーテルの先までずっと、くすぶる手を繋いだまま
二人静かに人込みへと消えていくだろう。

アストロ > "道具じゃないんだぞ"と言われて。
アストロ > 「                     」
アストロ > クロロにも届かないような小さな声で、ぼそりとつぶやいた。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」からアストロさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」からクロロさんが去りました。