2020/10/09 のログ
貴家 星 > 遠くに爆音が響き、近くに幾許か戦闘の残滓が飛び、建造物を破壊する。
それは分署の方々と、近接戦闘型とも言うべき多腕を有する朧車を漸くと"撃滅せしめた後の事"だった。

「──」

仲間達が帰参を果たし後は私だけ。そうした折に、そうした物事を見聞きする。ならば私の行動は自明というもの。
分署の面々以外の誰かが今、この地に訪うのならこれを助るのが風紀の務めと心得る──が。

「これはまた……む」

騒擾の地には長大な列車の残骸。所々に満ちる何処か厳めしい魔の気配。
そして、無彩色の世界を染める炎を、露程も気にした素振りを見せない殿御の姿。
そうしたものを視たら、当惑気な声とて零れでた。

「神代殿!来ておられたのですか。此方も丁度活動中でございまして……」

けれどもそれはそれ、これはこれ。彼は『鉄火の支配者』として勇名を馳せているのだから。
なるほど、イ号を単騎せ撃滅せしめるのも納得が入るのである。
だから、一先ずも二先ずも、彼を労うような明るい言葉が不釣り合いに出ようもの。

「しかしお一人で、とは流石に頼もしい。これは神代殿の?」

彼の傍には、歪に足と砲を擁した金属のような質感の物体があった。
私は世間話でも振るかのように、其方に近づいて彼を一瞥する

神代理央 >  
投げかけられた言葉に視線を向ければ、其処には何時ぞや遭遇した風紀委員の同僚の姿。
確か、彼女の名は――

「貴家、か。そう言えば刑事課の所属、と言っていたな。委員会活動御苦労。其方も、朧車討伐の任についていたのかな」

ふは、と吐き出した紫煙は、彼女へと流れない様に天空へと向けられた。
ポケットから取り出した携帯灰皿に火のついたばかりの煙草を捻じ込み、穏やかに笑みを向ける。

「今回の相手は通常個体…『イ号』と称される個体故な。
私の様な非力な委員でも、何とか対応出来た次第だよ。
刑事課の面々には、迷惑をかけていなければ良いが」

此方を労う言葉には、穏やかな声色で答えつつ。
大した事はなかった、と。小さく肩を竦めた。
実際、特に報告すべき点の無いイ号。何かしら珍しい能力でもあれば、報告書を書く筆も進むというものなのだが。

「……ああ。私の異能によって生成された従僕だ。
余り見栄えの良いものではないのが、難点だがね」

此方へ近付く彼女へ視線を向けた後。
彼女の視線を受けつつ、己の異形に視線を向けるだろうか。
金属の脚を生やし、その巨体に無数の砲身を生やした異形。
とても、正義を司る風紀委員の従僕とは思い難い。

貴家 星 > 金属の異形を視る視界の端で神代殿が煙草の火を消すのを見た。
神社での邂逅の折、残り香を感じたのは間違いでは無かったのだな。と心裡で納得を得る。

「ですです。貴家です!討伐の任についてはその通り、此方は今回は8名での突入でありますれば、
 いわゆる人海戦術と言うもので。何ぶん朧車めは大概大きく、しぶとい。
 怪異、妖なればそれはまあ、大抵はしぶといものですが。
 ともあれ突然の前線沙汰に慣れぬ者は些か浮足立って──と、私のことではなくてですね」

視線を受け、所々焦げたり破れたりし、襤褸となった和装の袖をひらりと振って笑ってから、
空咳をするようにして言葉を一度と切る。

「またまた非力などと。またまたまた御迷惑などと。
 私の班ですとイ号の対処には10名ほどで当りますもので、人員を思うと御助力はありがたいのです。
 今回此方がぶつかったのは所謂新種で、腕がやたらめったらと生えたものでしたが、
 なに、そうした物も斯様な砲台の火力であれば一たまりもありますまい」

べち、と無遠慮に金属質な異形の肌(?)を撫でてから足を緩慢と神代殿の傍へ。
その実、煙草の煙は大層苦手なものだから、彼が配慮をして下さるのなら近づくことも叶うもの。

「神代殿が生み出しているとなれば、ファッション誌など読めば造形が可愛らしくなったしそうですなー……。
 ……それはそうと、喫煙は控えられた方が宜しかろうもので。何れ体調を咎めるものなれば、
 今みたいにお疲れの際にはむしろ滋養を……あ、先日の雄鶏めは味、如何でした?」

隣に立ち、わざとらしく煙草に言及する時は芝居がかったように顔を顰め、
次の話題には表情をまた変えて、右手をマイクのように形作って神代殿に向けての雑談の形。
凡そ、滞在者の精神を蝕むとされる場所において不釣り合いなもの。

神代理央 >  
留まる事無く、清流の様に言葉を続ける彼女をぱちくりとした瞳で見つめる。
よくもまあ、言葉が尽きないものだなとちょっと感心していたり。

「ほう?多碗の朧車か。そいつは遭遇した事の無いタイプだな。報告書を楽しみにしているよ。
戦術的に言えば、複数の人数でチームを組んで戦う方が正しいのだから、刑事課には引き続きその方針を維持して貰いたい。
単独行動では、不測の事態が発生した際の対応がどうしても遅れてしまう。
私が一人で討伐出来ているのも、運によるものが大きいからな」

ふむ、と思案しながら彼女の任務への感想を述べていたり。
しかし、その装いが戦禍に擦り切れている事に気付けば、小さく苦笑い。

「……とはいえ、貴家も女子生徒であるのだから怪我の無い様に務めて欲しいものだな。
男女で区分する訳では無いが、風紀委員も多感な学生である事には変わりない。色々な意味で気にする委員もいるだろうからな」

と、感想を締め括った後。
異形を撫でた後、此方へ歩みを進める彼女に再度視線を移した。

「どうだろうな。砲身はイメージ通りに生成できるが、姿形は変える事が中々叶わぬ。
この異形の醜さそのものが、私の異能の特性である様な気もするよ。
……分かってはいるのだがな。疲れた時には、偶に紫煙に耽りたくもなる。……ああ、あの鶏か。料理の仕方が分からんでな。馴染みの店に調理を頼んだのだが、中々に美味であったよ」

まるで舞台役者の様にころころと態度と表情を変える彼女を、僅かに瞳を細めて見つめた後。
返す言葉と態度は、彼女とは違って実に穏やかで高低差の無いものだろう。
そうある事で、空間の侵食を堪えているかの様な。穏やかな、無機質さで。

貴家 星 > 「最初はイ号かと目されていたのですが、車輪を集中攻撃し脱輪せしめる作戦を執った所──
 なんと車輪の個所から腕が生えまして。いやあ吃驚しました。顛末は報告書に纏めますので
 御笑覧頂けましたら幸いかもわかりません」

楽しみにしていると言われ尾が緩慢と左右に揺れて塵芥を掃く。
御期待ください!と言わんばかりに胸を叩こうものですが、
神代殿の次の言葉や苦笑いには、数拍言葉が止まって、己の唇を指で撫でるばかり。

「運が悪ければ不測の事態は起きるものなれば、神代殿も何方かとチームを組まれた方が……。
 その仰りようですと、まるで運が悪い時を待っているようにも聞こえてしまいまして」

違和感?いや、どうであろうかな。と思い笑うような声と共に一応のお伝えとし

「とは言えその憂いも無さそうではありますが。
 一応集まっている報告やらなにやらを簡素に纏めますと、発生頻度は落ちているようでもあり、
 恙無く行けば近い内に根絶も可能ではなかろうか──等と推察はされております。
 収束するなら有難いものです。今回の事態が初めての前線沙汰と言う者も、その実私を始めとしてそれなりにおりまして」

──相手が違反部活などの犯罪者ではなく、化物の類でまだ良かった。等と言う声も一部では出る始末なのです。
と、言葉を続けて肩を竦めて苦笑い。

「む、御心配して頂ける。いやはや私も一応は怪異、妖でありますれば多少の怪我などは治りも早いものでして。
 色んな意味で気にする……ああ、尻尾を気になさる方は多いみたいですね。神代殿も触ります?」

穏やかで緩やかで、抑揚の薄い様子は疲れているようにも視得、どうやら真実お疲れのよう。
いつぞやの神社よりもずっと。ですから、茶化すように彼の腰を自慢の尻尾でぼふぼふとはたいてみたりもしてみたり。

「案外、インスピレーションが刺激されて異能の姿形がモフモフになるやもしれません。
 何が起こるか判らないし、解らないものですから。御自分の力を醜いとは思いなされませぬよう。
 疲れてると卑下しがち。なのでしたら……」

そうした会話の折、疲れているなら早く帰りましょう。と言いかけて少しばかり言葉が迷う。
普通なら"こんなところ"は用が無ければとっとと帰るものであるゆえ。
何故にとどまって喫煙などを?と思ったからでもありました。

神代理央 >  
「車輪から。腕が。
……それは何というか、奇々怪々というか…いや、怪異だから何でもありではあろうけども…。
兎も角、特殊個体の戦闘において、欠員無く討伐出来たのは素晴らしい事だ。貴家の活躍も、是非見てみたかったな」

イメージするのは、列車型の毛虫。うわあ、気持ち悪いと言いたげな表情を浮かべようとして、己の異形を一瞥して真顔になる。
さて、己の言葉に少し間の空いた彼女。
はて、おかしなことを言ったかなと首を傾げかけて――

「――…そんな事は無いさ。私は何時だって、敵を殲滅するのに最善を尽くしている。不測の事態、不運な出来事など、望んではいないさ」

そう。不測の事態を望んでいる訳では無い。
別に死にたい訳でも無い。
ただ、此の鬱屈とした気持ちを紛らわせる為の闘争を望んでいるだけ。それだけ。
とはいえ、そんな危うさを同僚に見せ得る訳にも行かず。
小さな苦笑いで、その感情は隠してしまおうか。

「風紀委員会以外にも、討伐に赴く組織や有志の活動も活発化しているからな。
遅くとも今週末くらいまでには、ケリをつけたい。或いは、決着がついているやも知れん。
……へえ?貴家は今回の討伐任務が初の前線なのか。とはいえ、前線に出る事は望ましい事では無い。最前線に立ち得る優秀な人材を求めてはいるが、無理に立たせても士気が上がる訳でも無し。
自らの得手不得手を理解した上で、己が立つ戦場を選んで欲しいな」

その気持ちには同感だよ。と、続けられた言葉に応えながら。
それは案外、多くの風紀委員が持ち得る感情であるのなら――己の部隊への人員確保は難しいだろうなと、内心溜息。

「同僚の心配くらいはな。怪異だのなんだのと、風紀委員も愉快な面々が多い事は確かではあるが、それでも仲間が傷付くところは見たくないし、皆万事無事でいて欲しいと思う。
だから貴家も――何?尻尾?」

腰が、尻尾でぽふぽふと叩かれる。
思わずその視線は柔らかな感触の尻尾へと移り――ちょっとだけ、うずうずした様な素振りを見せるだろうか。

「……いや、流石に人の躰の一部に気軽に触れるのは、こう…どうかと思うんだが…。
それに私の異形がもふもふに…もふもふに……?」

それは何というか、違う意味で恐怖では無いのだろうか。
と、可笑しそうに笑おうとして。
言葉の途切れた彼女に、不思議そうな視線を向けるだろうか。

「……何か言いたい事なり、小言があるなら聞くぞ。
同僚の忠告は、甘んじて受ける次第だ。内容にもよるがね」

貴家 星 > 報告書には絵心のある部員による多腕の朧車の絵が記されもするのですが、それは後のお話というもの。
今は、真顔になったり首を傾げそうになったり、私の心配を否定しなさる神代殿の手に尾を揺らめかせるばかり。
──日々のお手入れの賜物。脅威のモフモフ度を此処に。

「いやはは、お恥ずかしい限りで……勿論無論、行方不明者の探索などで何某かと遭遇し──
 というものはありますし、訓練等もしておりますが、こういった鉄火場は初で。
 とはいえ無理に、ではありませぬよ。私は常世渋谷やこの島が好きですから。必要であればそうしますとも」

職場適正を案じるような言葉には、くるりと姿勢を正して正対してから胸を張る。
案じてくださるのなら、きっと此方が案じても良い筈で、神代殿の不可思議そうな視線にも臆する事無く赤い視線が擦れ合うよう。

「小言、でもないのですがー……神代殿。何やら、"帰りたくないよう"に見受けられまして。
 ははは、よもやよもやでございましょうが、強いて小言を言うなら早く帰りましょう!と。
 斯様に胡乱な世界で喫煙をしても休まらぬものかと思いますし。
 何より疲労には甘味でございましょう。私などは金鍔などが好きでして、勿論洋物も。
 神代殿は御存じ無いかもしれませんが、常世渋谷には『陽月ノ喫茶』なる良い店がございましてなー」

それから、よしと勇むように言葉を発して神代殿に手を差し出しました。

「宜しければ御一緒など如何です?かの店のホットケーキは中々どうして趣深いものですぞ」

私ならば帰りたくなるような惹句。神代殿が甘党かどうかは知り得ぬけれど、そんなお誘いなどをしてみるのでした。

神代理央 >  
「必要であればそうする、か。其処にいたる理由が"此の島が好き"だという貴家は、何というか…立派だな。
それは、きっと正しい風紀委員の姿…の一つだと思うよ」

胸を張る彼女が、随分と眩しく見える。
此の島が好きだから、必要であれば鉄火場に立つと彼女は告げる。
であれば、己が鉄火場に立つ理由は何だろうか。
自己保身。自我の確立。"組織"の為。
嗚呼、彼女に比べると、何と後ろ暗い理由であろうか。
――何て、後ろ向きになりがちな思考も。
手触りの良い尻尾を撫でていれば、少しずつ和らいでいく。
元々、こういうもふもふには弱い性質なのだ。ほんの僅かにではあるが、僅かに崩れた相好は――演じているものでは、無いのだろう。

そんな言葉を交わしながら、向かい合う紅い瞳。
はてさて、どんな忠言。或いは、小言かなと構えていれば――

「……ああ、成程。そう言う事か。
いや何、帰った所で誰かが待っている訳でも無し。
報告書さえ上げれば済むのだから、異界で黄昏れているのも偶には良いかと思っただけ。それだけだ」

「……だが、その誘いは実に魅力的だ。此れでも、甘い物には目が無くてな。
帰る理由があれば、こんな場所に長居する事も無い。
私で良ければ、同道させて貰おう。その喫茶店も気になるし――貴家の初前線のお祝いも、しなければならないしな?」

クスリと小さく微笑んで。
こくりと頷けば彼女の手を取るだろう。
そういえば、最近スイーツだのお菓子だのを余り摂取していない事であるし、彼女の提案を断る理由は、何一つ無かった。


こうして。それぞれ朧車の討伐を終えた二人の風紀委員は。
灰色の街を抜け、極彩色の表世界へと。
きらきら光る街の中で、彼女のお勧めの喫茶店で一時を過ごしたのだろう――

ご案内:「裏常世渋谷」から貴家 星さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」に不凋花 ひぐれさんが現れました。
不凋花 ひぐれ > 極地において、生存者は望むべからず。
生きていたとしても、それは真面な生活が出来る正常な者と思うなかれ。
これまで地上に蔓延る朧車は他の風紀委員たちが対処してくれていた。
対戦闘に特化した特攻課に科せられたノルマはとにかく敵を討伐すること――中でも通常では対処の難しい個体を倒すことを優先することである。
火を噴くのは無論のこと、霧に包まれた存在、時に雪を降らせる異常な個体の討伐などの環境を味方につけた個体の報告がこれまでに挙げられていた。

――地下のスロープを歩き、地下鉄のホームへと出る。
電光掲示板に情報は点灯されておらず、無人のホームには静寂に包まれていた。

朧車・水計 > それは地下を往く列車だった。

『水面に寄りて、いずこむかうか』

静謐な声――アナウンスに近い音がホームに響き渡る。
ホームの向こう側からライトで壁が照らされる。ふらふらと水鏡に揺れるそれは、真に水に濡れていた。
車体の半分を水で覆い、胎に飼うかのように水生生物や犠牲者が閉じ込まれた車内もまた水が浸水している。
完全に水没しているわけではないが、腰から下は完全に水の中に浸かる程である。

『鏡は黄泉へ通ず路。下りて向かうは彼岸の先』

地上に通ずる通気口からは列車が通るたびに水流を勢いよく噴き出し、己の存在を詳らかにする。
外殻を大量の水で覆い守りながら、朧車は地下をひた走る。

不凋花 ひぐれ > ホーム到達と共に勢いよく弾かれた水を防ぎながら、爆走する朧車へと無理やり乗り込む。
外套代わりに身に着けていたコートで頭を守り、水を被る。
――ほんのりと重たく、毒性を含んだ瘴気の気配。

「……けほっ。水の中に毒がありますね……」

水の計――不純物を多く含んだ水は、摂取のみならず浴びるだけでも多大な毒になる。
これが大量に噴出しているのは瘴気と毒を含んだ汚れた水である。
空気中に漂うくらつくような空気に、口元を抑えながら窓を割って列車内へと侵入する。

次またここを回ってくるという保証はないし、何より見つけ次第即叩かなければならない。
コレが地上に出て朧車討伐に支障が出る広域災害を出してはならない。
対呪装備から対毒へと手早く変更し、車内を一瞥する。
いずれかの列車にいるモノを内部から崩す為に、適宜観察を行う。

「対毒装備……あとは長居をしなければ」

大量の魚や魔性の怪物が蔓延る列車は、一種の水族館のようであった。
切れかけたライトと地下のシチュエーションのせいで、ムードも何もあったものではないが。

朧車・水計 > 窓が割られ、車内に小蠅が侵入した。
水生生物や魔性たちは挙って侵入された車両へと集まる。弱小の生物たちは餌をねだる鯉のように口を開き、噛み潰さんと牙を向けたり、警戒するべく回遊している。

『槵觸より御命を拝命し、下りて堕ちるは蛮勇也』

車内列車のアナウンスが全車両に響き渡る。

『三種の神器も持たぬ是、蛟に呑み込み犯してくれる』

警笛と共に、水流が車内に充満する。

不凋花 ひぐれ > アナウンスが響く間、座席の上をひた走る。
相手の説明なぞ聞いている余裕はない。外に出ようとすれば這いまわる水に襲われる。外部から伝って歩く余裕はない。
対独のプロテクトにより短時間なら水の中を走っても問題はないが、素肌に触れる時間が長ければ限度が訪れるのも速い。
故に必要なのは着水時間を短く最短距離を突き進む事。
扉を抜刀術で切り伏せながら通り、小柄な体を生かして荷物置き場に足をかけて跳躍。
とびかかってくる水怪も一刀両断し、逃げの一手で対処できる存在は兎角無視する。
これが全車両水没するほどに力を付けている個体ならば危険だったが、これならばまだ対処は出来る。
前方車両にある核を目指して突き進む。

朧車・水計 > 『現世より下るは黄泉路の果て。ふるうなかれ、野蛮な腕』

『三種の神器に選ばれぬ者。八雷にて裁かれ――』

水蛇は尽く切り捨てられた、巨大な鯉は真っ二つにされた。
蛟は素手で掴まれて縊り殺された。毒の水は外套で防護されている。
決して弱い個体ではない。分け御霊として『発生』したばかりとはいえ、水計による毒素は防護なしでは皮膚を爛れさせることだってできるのに。

不凋花 ひぐれ > 「お生憎、特攻課は『その身を挺して』戦う武闘派です。
 ケチな陰謀を巡らせたり計略を用いるのは苦手なもので、我々はこの手しか知りえません」

 小難しいことを言う暇があるなら、秘密兵器のひとつやふたつ出せば良いものを。
様子見する必要すらいらない。ペースを上げて最前方の車両へと躍り出ると、抜刀の構えと共にまっすぐ地を蹴る。

「ふぅっ……っ!」

祈祷師のような恰好をした巫女らしきナニカ。水流を身にまとう顔の見えないそれを一刀の元切り伏せる。
相手を叩き切ることのみを追求した攻撃特化の居合。示現を継いだ雷のごとき一撃。
その身が二つに分かれた刹那、弾けるように体から水が零れ、その身が消滅する。

「っと」

瞬間、窓へと己の体を叩きつけるように駆けだし、一面のそれを割って外へと脱出する。水の来ない範囲へと無理やり体を転がして列車から離れる。

不凋花 ひぐれ > 水を纏いながら前進していた朧車は次第に勢いを失い、停車した。
まだ止めを刺し切れてはいないが、他の特攻課の同僚に連絡をしたから対処してくれるだろう。
元より一人でこの敵一体を倒すことが困難なのだ。ソロでは依然として足止めが精々であろう。

「……もう使えませんね」

外套を地面に放り投げる。毒素をめいっぱい浴びた布からは煙が噴き出し、ぼこぼこと奇妙な泡すら浮き出ていた。
あの朧車と共に供養でもしてもらうことにしよう。
刀を振るい、鞘に納める。
次第にやってくるであろう他の隊員を待ちながら、地下で一人朧車の監視を行うのだった。

ご案内:「裏常世渋谷」から不凋花 ひぐれさんが去りました。