2020/10/16 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に男さんが現れました。
■男 >
一人の男が、そこにいた。
男には、何もなかった。
いや…何もなくなったというのが、正しいだろう。
かつては、あった。
仲間が、友が…家族ともいえる者たちが。
■男 >
男は、スラム街の住人だった。
この島の正規の手続きをして来た訳ではない。
不法入島者……そう呼ばれる存在の一人。
決して褒められた人間でもない。
暴力を好み、理由があればケンカをした。
法的に見れば間違いなく、悪人。
だが、一定の”線引き”はしていた。
■男 >
”殺し”はしていない。
その後相手がどうなるか、まで考える気はなくとも。
どうあれ命を絶つまでする事は、是とはしなかった。
”弱い者いじめ”もしていない。
自分の周りの人間以外、どうなる事など知った事ではなくても。
それでも弱い者を痛めつけ、略奪する行為は…見るのもするのも好きではなかった。
”外道に加担する事”もしていない。
たとえ自分の欲に素直であっても。
他人まで巻き込み自分の欲を満たすつもりは、毛頭なかった。
自分も、自分の周りにいる奴も、そんな奴らばかりだった。
法に従えるほど綺麗な人生は歩めてはいない。
だが……それは法を守りたくなかったからじゃない。
法を守っていては生きれない奴らだったから。
そうならざるを得なかったから。
それを言い訳にする訳じゃない。だが…自分の身を自分で守らなければ、生きていけなかった。
そういう奴らも、いた。
落第街というこの島の片隅に、確かに、いた。
■男 >
―――――そんな奴らの人生は…唐突に、理不尽に奪われ尽くされた。
”そこにいたから”なんて訳の分からない理由で。
ただバカな話を駄弁って、飯を食って、酒を飲んで、煙草を吸って、女を抱いて生きてただけの奴らが。
”そこにいたから全員殺された”
…そんな事が、あるのか?
それを知った時、耳を、目を、脳を…疑った。
■男 >
殺したのは風紀委員の人間らしい。
どんな理由があったかは知らない。
風紀委員がこの島の法を守るためにいて、落第街の…法を守っていない奴らが邪魔なのは分かっている。
落第街にいる奴らの中に、外道を侵す輩がいる事も事実だ。
そいつらがどうなろうと、知った事じゃない。
多少そいつらと風紀委員の輩がぶつかって、その被害で多少人が死のうと、仕方ないと諦める事も出来る。
が……
”そうでない奴ら”を所構わず殺して、はいそうですか等とは言えない。
こっちにも”線引き”がある。
それは”外道”のする事だ。
法を守っていようと、それが法として許容されて、見逃されていようと。
”俺”は見逃さない。許さない。
「――――――ブッ殺してやる」
■男 >
気のいい奴らがいた。
性格に、異能に、難があろうと。
褒められた生き方をしていなかろうと、必死こいて日の下で生きようとしてた奴らがいた。
そいつらは殺された。
そこにいたから殺された。
それだけの理由で殺された。
――――それはこの落第街っつう街で人を食いモンにしてる奴らと、何が違う?
法の下で、ご立派で不自由ない生活をしてれば、そんなに偉いのか?
そうだと言うなら……
それごと許さねぇ。
そんな奴らを無差別に殺した風紀委員の奴も。
そいつを許してるこの島も。
全部、許さねぇ。
■男 >
だから、力だ。
力が要る。
どうなろうとどうでもいい。
俺はこの”怒り”を押し通せる力が要る。
その為なら…
悪魔だろうが何だろうが使ってやる。
それが手に入る場所を……
探し求めて、追い求めて。
ここに、たどり着いた。
「――――力貸せ、クソ共」
■男 >
左腕を、差し出した。
あの日……不条理にあいつらが殺された日を、忘れないように刻み付けた腕を。
もう、ニンゲンの腕じゃあねぇ。
いや、腕だけじゃねぇ。体も何もかも、ニンゲンじゃなくなったのかもしれねぇ。
それでいい。
ニンゲンなんて立派なモン、いらねぇんだ。
ケモノでいい。
この怒り、怒り、怒りを。
ぶつけれるんなら、それでいい。
ご案内:「裏常世渋谷」から男さんが去りました。