2020/10/18 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
「──…眉唾だったけど、来れちゃったな」

明らかに雰囲気の違う、常世渋谷の姿
交差点に立つ少女は学園の制服に身を包み、今日は風紀委員の腕章はつけていない
その手に持つものも連絡用の端末ではなく、自身の所持品であるスマホだ

視線を降ろせば、色鮮やかな液晶画面がぐるぐると回っていた

渋谷の"裏側"に潜り込めるアプリがあるらしい───そんな噂
もちろんほとんどは詐欺などの用途に使われる偽物だったけれど、その中で一つ、当たりがあった

「…って、見ていいんだよね。多分…」

伊都波 凛霞 >  
辺りは深い霧で覆われ、灰色の町並みのシルエットが確認できた
おおまかな都市としての構造は似通っているが、細かいところに視覚的な違和感を感じることができた

既に此処へと侵入し、活動した風紀委員からの報告の中にもそんな内容があった
つまり、此処は彼らが怪異と激闘を繰り広げた空間と同じないしは近い場所…と推察するに足りるか

あくまでも高確率でそう…といった程度
実際に彼らが朧車と交戦した位置から近いのか遠いのかすらも不明だった、が…

「…よしっ」

覚悟を決めて、霧の中へと踏み込んでゆく

伊都波 凛霞 >  
既に怪異"朧車"の発生は鳴りを潜めている
一応は解決した…といって問題ないのだろう

霧に包まれた街は、気味が悪い程に静かだった
どこから光が差し込んでいるのか、薄灰色の霧に自分の影が映り込み
常に誰かが側にいるような感覚が、気持ち悪い

「……! 戦闘跡…」

アスファルトのヒビ割れ、そして破砕された建物の一部が瓦礫となって転がっていた
大規模…といったほどえdもないが、此処で何者かとの争いがあったと見ていいだろう

「……ちょっと、どうなるかはわかんないけど」

いくつか転がっている瓦礫の前へしゃがみ込み、そっとその指先を触れる
これらの石片に残された記憶の残滓、多少なりとも彼の行方に繋がれば…──

伊都波 凛霞 >  
──少女の異能はサイコメトリー
物質に残った記憶の残滓を読み取ることの出来る力
まるで定点カメラのように、映像や…強く残った情報ならば音声までも再生される

ただし、此処は境界を越えた先
通常空間とは残っているモノが違っていた

「う、っ──!?」

ビリ、と脳髄に強い痺れのようなものを感じ、蹲る

それは記憶の残滓などではなく、この場、この空間を形作るモノ
常世渋谷の人々の無念や悲哀…憤怒、欲望……
そういったモノが綯い交ぜになり、濁流のように少女の指先を介し、頭の中へと流れ込む

「ぁ…ッ、うあっ…」

頭を両手で抱え込み、そのまま崩折れるようにして地面へと倒れ込んだ

伊都波 凛霞 >  
………

……



一瞬、意識が眩んだだけか、それとも気絶していたのか

「………い、たた…」

頭がズキンと痛み、視界がはっきりとする …といっても霧の中なのは変わらなかったが

「ダメ、か……この場所そのものが負の情報に溢れすぎてて使い物にならない…」

その場にへたりこむようにして、片手で頭を抑える
物質の残留思念ではなく、この世界そのものに内包された膨大な思念を読みとってしまった
咄嗟に意識を手放さなければ、あるいは自我を保てなかった可能性すらあったかもしれない

「…まいったね。足で探すしかないかな……」

探しものや探し人に滅法強い異能であるが、これでは使えない

伊都波 凛霞 >  
頭痛は一瞬のみで、すぐに動くことができた
ゆっくり立ち上がれば、灰色の町並みに深い霧の中に自分の影が映り込む
それがどこか自分が自分を見ているようで、薄気味悪い

様々な怪異の発生報告を受けて、それなりの装備はしてきたものの手がかりなしで人を探すのは…

「…もうすぐ朧車の件が収束してから一週間……」

それは、風紀委員による彼の捜索が打ち切られるリミットでもある
一人の足では限界があるのも事実、となれば誰かに協力を頼むのが筋だろう
夷弦…に言うと彼も彼で自分と同じく勇み足な気もするが……

「…ま、もう少しだけ頑張りますか」

よし、と気合を入れ異界化した渋谷の霧の奥へと踏み込んでゆく
──その後を尾ける、少女の影には気づくことなく

ご案内:「裏常世渋谷」から伊都波 凛霞さんが去りました。