2020/11/06 のログ
火光雷鳥 > 一つ付け加えるなら――そう、加えるならこの少年は気質や生まれ育ちは普通だ。
ただ、普通じゃないものもある――もっとも、それは彼自身が全く無自覚なのだが。
それが表に出るのは…多分、肝心のこの男自身も分からないだろう。

「…うん、取り敢えず俺みたいなのにはハードルが高過ぎる場所なのは理解した!」

真顔でうんうんと頷いた。この友人はそういう冗談はあまり言わないと思っている。
つまりはそれが事実なのだろう――だったら、凡人には荷が重過ぎる。

「親父さんやお師匠さん?からも言われたんなら、やっぱりそうなのかもなぁ。
あーー探究心、もある感じなのか。でも、いいんじゃねーかな、そういうの。」

自分には無いもの、だからこそ素直に良いとおもうし羨ましい、とも少し思う。
だが、無いものは無いのだから羨ましくは思っても、自分がそうでありたい、とは言わない。

「長時間居るとヤバい…ね。確かに、俺みたいなのはお門違いもいいトコみたいだな…。」

こめかみを軽く片手で押さえたまま苦笑気味に。この頭痛は本当に唐突に来る。
別に頭痛持ち、という訳でも無いのだが…一度病院に行ったが異常なし、だったし。

「あぁ、大丈夫――何か、たまーに頭痛が起きるんだよ。医者からは異常なしって言われたんだけどさ。」

彼女の言葉にそう答える。顔をやや顰めながらもこめかみから手を離して――

『……来るぞ、異界の娘』

一瞬、赤い瞳が爛々と輝いて、男の口から男ではない『誰か』の意志が短く告げる。

「……ん?何か、今一瞬――……!?」

明らかにド素人の筈なのに、自分より場慣れしているであろう友人よりも先に何かを察知したのか、すぐ近くの壁と顔を向けて。

「――避けろ、セレナさん!!」

反射的に彼女を突き飛ばすように押し出そうと。次の瞬間、壁をぶち破って、全長3メートルはあろうかという、二足歩行の『怪異』が出現。

そのまま、真っ黒な豪腕で少年を吹き飛ばす!まともに食らい、そのまま反対側の壁に叩き付けられて…。

「がぁ…っ!?」

黒い怪異 > 少年を壁に叩き付けた豪腕をゆっくりと戻し、少女へと黒い怪異は振り返る。
二足歩行だが、明らかに人とは違う造詣。例えるならば人狼…だろうか?
唸りを上げながらガチガチと牙を鳴らす。全身のあちこちにまるで鎧じみた『皮膚』を携え、黒い毛皮も禍々しい気を発している。

セレネ > 彼の一般的ではない部分を知るには、もっと深い場所を知る必要がある。
尤も、興味の対象には入っているのでそれを追求するのは時間の問題かもしれないが。

「ですねぇ。一般の方には高い場所かと。」

事実は伝えど嘘は余程の事がないとつかない質。
嘘をつくなら徹底的に、が信条故。

「父も我が師も、私が心から信頼している方々ですので。
――良い、のでしょうか。」

探求心、好奇心が強いが為、知らなくて良い事も知ってしまう事もあれど。
それを良いと言う彼に蒼を細めて。

たまに頭痛がするとの言葉にはやはり脳に異常があるのではとは思うも実際に診断した訳ではない為断定はできず。

「――っ!」

言い方といい、その雰囲気といい。己が知る”彼”ではない言葉に瞬時に警戒の色を示すと共、

「きゃっ…!!」

彼から突き飛ばされて悲鳴を上げた。
突如現れた怪異に吹き飛ばされた相手に蒼を見開いて即座に体勢を立て直す。

鯉口を再び切り、吹き飛ばされた彼の足元に回復魔法の陣を置いて刀を抜く。
人狼のような形をした怪異は全身を鎧のような皮膚で覆い、己に対し警戒をしている。

『遅いじゃない、待ちくたびれたわ。』

告げる言葉は異国の言葉。

火光雷鳥 > 「うん、まぁはっきり指摘とか警告してくれたほうが俺も助かるけどさ。」

少なくとも彼女に悪気は無いのだし。それにこちらを気遣ってくれての忠告でもあるのだろうし。

「――いいんじゃねーかなぁ。少なくとも、セレネさんは自覚があるだけマシなんじゃない?」

世の中、自分の事を無自覚な者も多いのだ――目の前の男もその一人なのだけど。

「げほっ…くっそ…一体、何――…。」

不意打ち、かつ友人を庇ったからかまともに食らってしまった。
壁に思い切り叩き付けられて全身が痛い。それでも、意識は保ちながら必死に顔をそちらへと向けて。

(…おいおい…冗談だろ?何だよあの黒い狼みてーな化けモンは…。)

先ほどは『介入』があった為か、不意打ちは察知できたが今は元の状態。
加えて、怪異をまともに目視するのはこれが初めてだ…体の痛みもあるが動けない。
ただ、こちらの足元にある何か――彼女が展開した回復の魔法陣のお陰で、徐々に痛みは和らいでおり。

黒い怪異 > 『■■■■■■ーーーーーー!!!!!』

言語にならぬ咆哮を挙げれば、黒い人狼の両手の爪が鋭利なナイフのように伸びる。
魔獣型の怪異らしきそれは、少女に狙いを定めたのか唸りを上げながらじりじりと距離を詰め――

次の瞬間、一瞬で跳躍しながら右の爪を袈裟懸けに彼女へと振り下ろす!!

セレネ > 不意打ちとはいえ吹き飛ばされたのに意識を保っているとは。
彼の怪我は気になるものの、意識はあるようだからひとまずは大丈夫と判断して。
淡い蒼の魔法陣は彼が回復するまで機能し続けるだろう。急拵えだから応急処置でしかないが。

咆哮を上げた怪異は爪が鋭利に伸び、己の動向を伺いながら距離を詰める。
片手に嵌めた指輪を介して己の身体能力を上げながら警戒していれば。
次の瞬間、距離を詰め爪を振り下ろす怪異に反応。
雷属性の指輪を通し普段以上の身体能力を行使、後ろに飛び退いて回避しようとし。
間に合わなければ肩口から鋭利な切り傷を負うだろう。

黒い怪異 > 魔獣、且つ人狼タイプの怪異だからかその動きは体格に見合わず俊敏だ。
獲物を切り裂くべく振るわれた一撃は、飛び退いた彼女が一瞬前まで居た空間と勢いあまって地面まで切り裂いてしまう。

外した事に不服そうな唸りを漏らしながら、次こそ仕留めるべく身を低く沈めて黒い人狼が構える。
『雑魚』と判断したのか、少年の方には目もくれず少女こそ先に警戒し仕留めるべき獲物と見定めたようで。

そう、今この中ではダメージを受け、尚且つ『一番弱い』人間など雑魚でしかない――

その筈だった。だが、怪異は失念していた――少年は凡人気質だが能力者であり。
今、まさに飛び掛かろうとしたその刹那――

火光雷鳥 > (意識はある…体はあんまし動かねーけど……)

だったら、ここでぐったりしている場合じゃない。怖いし痛いしあんな化けモン理解の外だが。
意識を集中し、目を見開いて『照準』を合わせる…一瞬でいい、あの化けモンの意識を友人から逸らせば。

(あとはセレネさんが何とかしてくれんだろ――!!)

凡人でも弱くても、今出来る事をしろ…男の根性を見せろ!!

「――おい、人を無視してんじゃねーよ、この化けモン!!」

瞬間、今まさに彼女に飛び掛かろうとした怪異の眼前に炎を発生させ、その目を焼こうとして。

セレネ > 以前別の友人と対峙した怪異は人型だったが、今回は人狼型。且つ初めから俊敏ときた。
だが動きは視える。視えれば回避も防御も出来る。
次の行動はどうだと構えていれば目の前に炎が映った。

――これは、彼の異能か。
怪異の目を焼いたその炎、その言葉に

『≪束縛せよ≫」

彼の炎に加えて己の退魔の異能で怪異の動きを封じ込めて。
蒼の鎖が怪異を取り巻き、がんじがらめに絡みつくだろう。

動きを阻害出来れば、怪異の首を刎ねる為指輪を介し足に雷属性の魔術を付与し、地を蹴り。
鋭い刃がいとも容易く怪異の首を刎ねようか。

消滅するなら、その靄が刀に吸い込まれる様が見えるかもしれず。

黒い怪異 > 『■■■ーーー!?』

雑魚、と侮り意識と視線を少年から外したのがこの怪異の最大の失策だっただろう。
もしかしたら、少年の奇襲の援護が無くても、少女なら単独で撃破出来たかもしれないが…。

ともあれ、不意に眼前に出現した炎に目を焼かれ、怪異が苦悶の唸りを上げる。
その隙を彼女は見逃さない。蒼い鎖がその僅かな隙を突いて黒い人狼への全身へと絡みつき束縛する。

そして――


地を蹴った少女の刀の一閃にて、呆気ないほど容易く人狼の首は刎ねられる。
切り飛ばされた首はそのまま勢いあまって、少年の足元まで転がっていき――頭を失った胴体は仰向けに倒れ伏す。
そして、胴体は雲散霧消していくが、そこから発生した靄のようなものは刀へと吸い込まれていく。

残った頭部も同じく消滅していくが、そこには黒い宝石のような『核』が遺されており。

火光雷鳥 > 「はは…さすがセレネさん……つーか、別に俺の援護必要無かったかなぁ…。」

と、その顛末を見届ければ苦笑気味に。ただ、勢いあまって飛んできた首が足元に転がってくれば「ひっ!?」と、ビビるのが凡人らしい。

急拵えとはいえ、回復の魔法陣の効果は出ているようで何とか壁から身を離して。
そのまま、消滅していく頭部と後に残された黒い宝石じみたそれを不思議そうに眺める。
ついつい無意識に拾い上げてしまうが、特に何も起こる様子は無い。

「…これは…何だ?あの化けモンのやつか?」

赤子の手より一回り小さいくらいの大きさのソレを眺めていたが、直ぐに我に返り友人へと顔を向けて。

「えーと、取り敢えず無事に退治したって事でいいの…か?」

セレネ > 異常な程切れ味の良い刃は易々とその鎧のような毛皮を裂き、首を一太刀で両断してみせた。
然したる力も加えていないし、強いて言えば魔術で勢いを加えただけ。
改めてこの刀の切れ味に驚嘆しつつ。

「――いいえ、貴方の援護は有難いものでしたよ。
意識を削いでくれたお陰で攻撃が当たったのですし。」

怪異の黒い靄が刀身に吸い込まれる様を眺めつつ、援護をしてくれた相手を見て苦笑する。
必要なかったのではなく、彼が居てくれたお陰で攻撃が当たったのだ。有難い事この上ない。

彼の足元に転がる首は核へと変わり、相手はそれを拾い上げる。
己は目元に警戒の色を帯びるも何も起こる事はなく。
…それに対し、少し首を傾げた。

「それはその怪異の核ですね。
…普通の人なら、核を拾って何もない…という事はないと思うのですが。」

怪異そのもの、とも言える核に触れても呑まれないとは。
つくづく不思議な人だと思う。

「一先ずはといった所でしょうか。
此処ではこういった怪異は日常茶飯事なところがあるので、やはり早めに戻った方が良さそうですね。」

相手が核を手放すなら、傍まで近付いて切っ先でその核を貫くつもりだが。
何かしらの変化があればそのまま様子を見て居よう。

火光雷鳥 > 「そりゃ良かった。俺みたいな凡人でも多少は役に立ったみたいでさ。」

苦笑気味に肩を竦め…ようとして、違和感に気付いたのか顔を歪めて右の脇腹を軽く押さえる。
回復の魔法陣のお陰で或る程度回復したとはいえ、矢張り思い切り壁に叩き付けられて無事ではなかったらしい。
おそるおそーる、脇腹を指先でなぞっていくが、ある一点に触れれば激痛が。

「あっ痛ぅ!?…やべ、これ骨が折れてんのでは…。」

思わず情けない声を漏らすが、逆に言えばその程度で済んだのはマシなのだろう。
それから、彼女の刀を改めて見つめる。流石に、消滅した化けモンの何かがその刀に吸い込まれたのは気付いていた。
うん、でもまぁ気になるがあんまり深くは聞かない事にしよう、と思うのがこの男らしい。

「え?怪異?あれが?…って、…え!?ちょっ!それ早く言ってくれよセレネさん!!」

普通の人なら、という彼女の言葉に慌ててその黒い宝石ぽい物を投げ捨てようとするが…ん?と気付いた。
見れば、その黒い宝石はじわじわと赤く染まって行き…まるで大きいルビーのようなそれへと変わった。
当然、少年が何かをやった訳ではない…と、いうより彼には何かやった自覚がない。

ただ、怪異の残滓みたいなものはすっかり消えうせており…漂うのは異界の炎の『魔力』だ。

「…えーと、セレネさん?何か赤くなってんだけど。」

困惑したように、この手の不思議現象は自分より詳しそうな友人に尋ねてみるが。
彼女の言葉に「あ、それは賛成!もうあんな怪異?と遭遇したくねーわ。俺単独だったら死んでるし」と、即座に同意。

セレネ > 「謙遜なさらず。
――と、治療しなければいけませんね。」

痛みの声を上げる彼に蒼を数度瞬かせ。
己のように物理や魔術の耐性を付与させていたなら兎も角、まっさらならそうなってもおかしくはない。
むしろ、あの衝撃でまだ四肢が動くなら不幸中の幸いなのだろうけど。

「痛むのはどこです?」

刀を鞘に収めては彼の傍へと近付き、痛む場所は何処かと問う。
告げてくれたならその箇所へ片手を添え淡い蒼の光が患部を覆うだろう。
光が消えれば痛みも消えている筈。己が得意とする回復魔術だ。

「――その核、見せてくれます?」

黒く染まっていた核が鮮やかな赤色へと変わった。
その魔力に見覚えはなく、思わず眉間に皴が寄る。
彼が核を渡してくれるならそれを観察するべく目を凝らすだろう。

「…では、帰りましょうか。私も一緒に行きますので。」

核に視線を落としたまま告げよう。

火光雷鳥 > 「み、右の脇腹のこの辺りかな…って、治療も出来るのかセレネさん…って。そういや医者だったっけ。」

彼女が元の世界で医者だった、というのは前に一度聞いた覚えがある。
この場合、外科手術というわけでなく魔術とか能力的なそれも含むのだろう。
痛む場所を彼女に伝えつつ、その右わき腹の一点に彼女の手が添えられれば――淡い蒼い光がその箇所を覆う。
少しの時間で光は消えてしまうが、後には完全に骨もくっついて回復しているだろう。

「…お?痛みが消えた…すげぇなぁ、回復魔術ってやつ!?」

自身に魔術の素養がゼロだと分かっているのもあるが、初めて体験するので驚いたように。
と、何やら眉間にしわを寄せている彼女に不思議そうな顔をしつつも、その赤くなった怪異の核を手渡す。

赤く染まったルビーのようなそれは、異界の炎の魔力に変質しており、中で炎のような揺らめきが垣間見える。
元の怪異の気配も何も無く、完全に別の物に変換されているような変わり具合だ。

「お、おぅ…ってか、何かそれやべーの?」

帰ろう、と提案してくれるのは有り難いが視線は赤いそれに向けたままの友人に首を傾げて。


赤い宝石は、何も語らずただ炎を揺らめかせる。
――その内に、赫怒の如き破壊の魔力を漂わせながら。

セレネ > 「治療も出来ますよ。でないと医者だと言えないではないですか。」

嘘ではないのですから、と笑いながら付け足して。
己が受け持つ治療の大体は外科だし手慣れてはいるのだけど。
尤も術式は切った貼ったの物理的なものではなく魔術的なものだ。

「違和感はありませんか?…そうですね、回復魔術です。」

利点は短時間且つ患者に術後の傷跡も残らない事だ。
欠点は行使する者の高度な知識と緻密な術式が必要な事くらいか。
簡単そうに見えても実際は頭はフル回転しているのだ。
何も問題がないなら手を下ろして安堵の表情を浮かべよう。

そうして、渡された核を観察する。
怪異の気配は消え失せた…というより、燃え尽くしたとも言えるのだろうか。
全くその性質を変えており、蒼を細める。

「…今の所は危険な物ではないと思います。
でも、これは…扱い方を間違えば文字通り爆弾になりかねないものかと…。」

核という器に収まっているから良いものの。
これが解き放たれれば危うくなるかもしれない。そんな危険も孕む炎の揺らめきだ。

「…貴方、本当に一般人です?」

彼からの魔力、となれば彼が持っているものということで。
先程の意識の切り替わりと言い、疑問が増える彼だ。

火光雷鳥 > 「うん、まぁそうなんだけどさ…いや、友人が医者ってのもすげーなぁ、と。」

正直、外科手術でも魔術でも実感が沸かなかったが、こうして治療を施されるとよく分かる。
少なくとも、回復魔術の手際みたいなものは無駄がない感じだったし、慣れて居なければスムーズに出来ないものだろう、多分。

(ほんと、俺の友人含めてすげーのしか居ないよなぁ)

魔術の素養はゼロ、能力の扱いも初心者。まぁ、そこを悲観してもしょうがない。
前向きに頑張っていくしかないのは分かっている。けど人間だから劣等感だって少しはあるのだ。

赤い核のそれは、器という媒体が存在するから安定しているようだが…。
異界のそれとはいえ、魔力の質を感じ取れるならば危険性は分かるだろう。
少なくとも真っ当な魔力ではなく、その質も剣呑そのものでしかない。

「…えーと、よく分からんけど危険性が増してない?むしろ。」

どうして俺が持ったらそうなったのだろう?さっぱり分からないし理解出来ない。
無自覚は恐ろしい、というやつか――男はまだ自分の真価を全く知らないのだから。

「いや、待って?俺、異能目覚めた以外は一般人なんだけど!?」

そもそも、魔術に対してほぼ初心者の男が魔力が篭ったものを精製出来る訳が無い。
それ以前に、素養が無いので自分の魔力をどうこう、とは出来ないのだ。

流石に自分が何かアレな感じに思われるのは心外なので、そこは抗議しておく。
別に俺は凡人でいい。普通の生まれで普通の家族で普通の育ちだ。それ以上でも以下でもない。

セレネ > 「そこはほら、治療費取られずに済むとかポジティヴに考えましょうよ。」

友人価格で無料なんですよ?と冗談めかすように。
尤も此処では所属も免許もないのに治療行為を行っているので犯罪行為ではあるのかもしれないが。

彼の劣等感が少しでも和らげば、とは思うものの。
その劣等感に共感出来ないから何を言っても無駄かもしれないのが歯痒い所。

核越しとはいえ、その危険性や剣呑さは皮膚からも視界からもありありと分かる魔力だ。
これを上手く制御出来れば…と考えてしまうのは、学者肌故かもしれず。

「…ですねぇ。ふむ…とりあえずこれは私が引き取る事にします。」

重要なサンプルだし、とまでは言わず。
己だって少し前まで自身が神格だと気づかなかったのだ。人の事は言えまい。

「――貴方自身の魔力は視えませんしねぇ。」

彼の抗議には苦笑しつつ。そうなれば切り替わった意識に問うしかない訳だけれど。
その方法は何かを確立しなければなるまい。
先程の頭痛や彼からの発言を顧みるに、意識を喪失させる事が手っ取り早いかもしれないが。

「…あの。もし良ければ近いうちに少し手合わせしませんか?
お時間がある日で構いませんので。」

と少し首を傾げて問いかけた。

火光雷鳥 > 「ま、まぁ確かに……いや、待った!セレネさん医者だったの元の世界だし、こっちの世界で治療費請求は違反じゃない?」

と、変な所で凡人故の真っ当さが出たのか思わず半眼で友人に突っ込みを。
と、いうか医療行為の内容は兎も角、治療費を要求したら免許も無いのにマズいのでは。

まぁ、劣等感に付いてはしょうがない。むしろ、凡人だからこそそれも抱えて生きていくしかないのだから。
少なくとも、自分が非凡だとは思っていないし、凡人だから駄目だとも思っていない。
ちなみに、友人が学者肌故のちょっと物騒な探究心を働かせているのは勿論気付いていなかった。

「ああ、別にいいけど。むしろ俺が持っててもしょうがないだろーしさ。」

魔力があれこれ、とか全く出来ないし、彼女が預かっておくのが一番いいだろう。
少なくとも、能力や魔力、その他諸々でこの男に異常なものは感じられないだろう。
――あるとすれば、先ほどの『誰か』と…男の『脳』くらいのものだろう。

そして、悲しいかな。魔力が見えないという事は、つまり素養が無いのは事実な訳で。

「はい?あ、ああ。まぁ別の友人とも前に模擬戦闘みたいなのやったし構わないけど。」

流石に真っ向からやったら彼女に勝つどころか一瞬で負けそうだからハンデは欲しい。
とはいえ、その辺りは打ち合わせか何かで決めればいいだろう。連絡先も交換している事だし。

「んじゃまぁ、取り敢えず帰ろうぜセレネさん。またああいうの出てきたら嫌だし」

と、苦笑いを浮かべて友人に帰ろうと促して。少なくとも今日はもう帰ってぐっすり寝たい。

セレネ > 「む。バレてしまいましたか。
まぁ今まで貴方のように治療を施したのはあまり数はないですし、無論無料で行っていましたので…。」

だから風紀に通報とかしないでね、とウィンク。
何方かと言えば必要なのは金より治療行為で失った魔力なのだ。

限られたこの核の魔力をどう活用しようか思考を回す。
…他の物にも魔力を移してもらえばとは思うものの、適切な器が分からない。
刀はそも譲り受けたものだし、己自身は危険すぎる。他の物体でも耐えうるかは未知数だ。

「……やはり頭痛が関係している…?」

其処も含め色々検証していく必要がありそうだ。
胸の下で腕を組み、考え込んでいたが核を握ると上着のポケットに仕舞いこみ。

「あー、でも私戦闘は苦手なのでそこまで本格的なものではないので…。」

先程のあれを見ていればその言葉は違うだろうとツッコミを受けそうだが。
苦手と称するのも、己の師を基準としたものだから当てにならないし。

「そうですね。貴方の身体に何かあれば一大事ですし…。
えと、こっちです。」

脳内でマップを思い浮かべつつ、相手と共に近場の交差点へと歩いて行くだろう。
その後は二人で雑談でもしながら、互いの寮へと歩みを進めるだけで――。

火光雷鳥 > 「…セレネさん、茶目っ気もあるのが狡いと俺は思うなぁ。」

美少女で強くて茶目っ気もあるとか何この完璧美少女さん。
まぁ、うん。こういう娘がごろごろ居る訳が――居そうだなこの島!?

そして、彼女が自分の事を含めてあれこれ思考を巡らせている事には気付かない。
そもそも、肝心の男に自身の特異性の自覚が全く無いのが一番の問題でもあるのだが。

「――うん、戦闘が苦手な人があそこまで凄い立ち回り出来ないからな?凡人の俺が言うんだから間違いない」

真顔でぴしゃり。確かに強い人はごろごろ居るだろうが、自分から見たら彼女も普通に強い。
彼女は戦闘ではなく学者タイプとはいえ、自分からしたらレベルが違いすぎるのは変わらない。

「これで体に異常が出たら嫌だなぁ」

場所的に笑えない冗談だ。ともあれ、その後は彼女の案内で無事に脱出、互いの寮まで雑談でもしながら帰ろう。

ご案内:「裏常世渋谷」からセレネさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」から火光雷鳥さんが去りました。