2021/02/04 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」にオダ・エルネストさんが現れました。
オダ・エルネスト >  
 世界には裏側があると言われ、気になるのは年頃の学生としては当然と言えた。
 都市伝説:裏常世渋谷――裏渋なんても呼ばれるこの世の裏とも言える世界。
 公には存在しないことになっている歓楽街の先とは違い、この場所は現実に存在するとは言い切れない。
 白昼夢のような場所/世界。
 それこそが、幻想あふれるこの世においても都市伝説などと揶揄されるが所以。

「現実を侵す危険性を孕んでいるからこそ、夢などと片付けられず狂気か。
 旧時代の研究者の言葉だったか、中々どうして理解ができる言葉だ」

 青年、オダが聞いた話の一つで簡単そうなのがあった。

―――草木も眠る丑三つ時に地下鉄に向かう階段の入り口に、魚の頭を置いて階段を下れ。
―――降りて、振り返り登ればそこは貴方の知らない常世渋谷だ。
 
 なんで、魚の頭? 魚屋の策略かな、とか考えたが実際どうして。

「ここは、ヒトが過ごせる世界じゃないのは……確かか」
 
 穢れとも呼べるような呪いが空気に混じるのを感じて、普段笑みを絶やさないこの青年も真面目にこの場所の危険性を感じていた。

オダ・エルネスト >  
学友のしていた噂話に、思わず…

「そんな面白い事まであるならば、私が試してこよう……などとよくも気軽に言ったものだ」

携帯端末の時計は恐ろしい速度で時間を進め、腕時計は長針を秒針よりも高速で回す。
時の流れのズレた狂った世界に来てしまったのだとよく分かる。
それに、夜だから暗いのかと思ったが、この世界は【色】を持っていない世界のようだ。

「噂の伝説都市の姿とは随分と異なるが、これも、現実を侵す狂気という訳だ!」

青年は呟きながらも、首を横に倒して、耳の横を通り過ぎる空気の破裂音に困った表情を浮かべる。

「どうやら、狂気の異形行列(クレイジーモノクロームパレード)への招待客と勘違いされているようかな」
 
自主参加、してしまったのは間違いではないが。
常世渋谷を《複製/デッドコピー》したような街の影からは幾つもの異形の気配を確かに感じ取る事ができた。
ちらりと先程避けたものが飛んだ先を見れば、建築物の壁が穿たれ、コンクリートの壁が砕け露出する―――虹色の中身。

「なるほど、狂ってるな」

オダ・エルネスト >  
青年が駆け出したのが先か、黒い影から白い影の左手が幾つもの伸びたのが先か。
機械(カラクリ)の時を狂わせるこの世界では、今己が感じる時こそが真実。

「―――」

手は《世界/狂気》、
速度は《異物/青年》よりも――速い。

「強制介入――アクセス」
 
だが、青年も手を前へと――右手は黒革装丁の本を掴む。
手にした右手から腕を駆け上がるように、光が流れる。
それは魔術回路の接続、この世ならならざる力を行使するものが持つ術の一つ。

「狂星の輝きにて」――更なる異物が、世界を侵し合う。

青年の左手が虚空で何かを摘む。

「哀れなる獲物を穿て!」

身を捩るようにして左手を引くと言葉と共にその「何か」を離した。
刹那、青年の背後から幾つもの光の線が白い左手目掛けて流れ、撃ち貫く。

それは矢。

迫る左手を壁に、地面に縫い付けた。

まだまだ、異形の気配はあるが、この手のように今すぐ襲ってくる……というのは他にはなさそうだ。

息を整える。
先の手は前座でこれは小休止、インターバルを与えられたとは考えたくはないな、などと軽く頭を振った。

オダ・エルネスト >  
このまま、この場にいるのは得策ではないのは子供でも分かるというもの。
だが、闇雲に走るというのは更なる悪手でしかないのも事実。
目指すべき場所があるからこそ、駆けるのが正解ではある。

青年が聞いた都市伝説には続きがある。

「"《境界》が出口"、だったか……それと"世界にないものは失ってはいけない"なんていうのもあったな」

この場合は、色。
自分自身とも言える。
失えば、この穢れた世界に堕ちるイコール死という訳だ。
どうにも好かれてないようだ、と青年は苦笑する。

「……いや、私だけでなくヒトそのモノが呪いの矛先か」

オダ・エルネスト >  
しばらくして大通りに出ると虹色の液体で道路標識に矢印が描かれていた。
指し示す先は常世渋谷駅のターミナル広場側。

この虹色は見ているだけで不気味だが、故に正しい色でないと分かる。

恐らく、この矢印は世界の規則のようなものなのかも知れない。
挑戦者に対する出口案内のようなもの。

「挑む相手を間違えた、と泣いても
 私は加減をしない」

異形の人影を踏み潰し、粉砕し、跳躍する。
人影は、見た目と砕け方から想像もできないような紙丸めた時のような音を立てて街の影へと還る。

オダ・エルネスト >  
自転車でもあれば移動ももっと早くなりそうだと頭の片隅で考えるが、持ち込んできていないものは仕方がない。


「おかしい……」

見えてくるはずの駅前のターミナルが見えてこない……どころか、この道は。

「この先は最初の地下鉄入り口へ向かう道か」

薄っすらと霧が出始めてきた。
なにか寒気のようなものが少しずつ霧と共に足元から登ってきているような気がした。

どうにも、これは制限時間のようなもののように感じた。
視界が霧で覆い尽くされた時が、ゲームオーバーだ。

オダ・エルネスト >  
遂に最初の場所当たりに戻ってきた。
穿たれた壁や、魔術で青年が撃ち貫いた痕などが虹色で強調されているのでよく分かる。

「……! あれは……」

超人的な跳躍をしつつ周囲を見ているとこの先の地下鉄への入り口に何かが立っているのが見えた。
それは、見覚えのある顔をしていた。

「インスマウス顔!!」

裏渋への入り口に使った魚と同じ面した駄コラのような魚人がなんか禍々しい何かを持って待ち構えていた。

オダ・エルネスト >  
青年は懐かしさとともに苛立ちを覚える。
もはや恐怖という概念をそのツラには感じない。
故郷では、水辺の村落でなにか事件があれば大体インスマウス顔の連中がナマ臭い事やって面倒事を起こしていた。 死ねばいいと思うと青年は何より先に結論に至る。
故に、

「こんなところまで来て、てめぇらのツラなんざ見たくねぇんだよ!」

空気を蹴り更に跳躍する。

「術式展開、一撃でぶっ殺す……!!」

実のところ、魚の頭を触媒にこの世界に来た者が嫌悪を抱くカタチになった姿であり本物の魚人ではなくこれも都市伝説の一つであり、
冷静さを欠いた青年は気づいてないが、この世界で青年の他に唯一正しい色を持った存在である。

―――外殻形成、動力回転開始。
―――魔力全開、対象固定:捕縛。

魔力の波が魚人を捉え、大の字に拘束する。

「シャイニング―――」

 右足に魔力によって構築された一時的な機械的な黒の外殻を纏って。
 呪文を口にしながらその脚でまた空を蹴る。
 先程までとは桁違いの速度、音は青年が移動するよりも遅れて聞こて。

「――ストライク!!!」

青年の持てる瞬間最大出力の魔力を右脚に乗せて手にした禍々しい何かで拘束を破った魚人の頭を蹴りそのまま一緒に地下鉄への階段を落ちる。

衝撃―――インパクトの瞬間、世界が歪む。

魚人は衝撃に耐えきれず手にしていたナニカを離し、世界は暗転した。

オダ・エルネスト > しばらくすると急に―――光が、視界を塗りつぶした。

音が、耳を驚かせる。
視界が戻ってくる。

ヒトがいて、空は青い。
自動車やバイクの駆動音、雑踏の騒音がやけにうるさく聞こえた。

「……帰ってこれたのか」

確か、自分は丑三つ時にここに来たはずと背後の地下鉄入り口を振り返ってみようとして足元でナニカ生物が擦れる音が聞こえた。

「?」

疑問を浮かべ、見てみれば踏み潰した魚の頭がそこにあった。

―――しばらく、魚類はいいかなと青年は目を背けた。

ご案内:「裏常世渋谷」からオダ・エルネストさんが去りました。