2021/03/23 のログ
ご案内:「常世渋谷 常夜街」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
禍福は糾える縄の如く、浮世の苦楽は壁一重。
幸と不幸は絶えず入れ替わる。不幸はいつまでも
続きはしないし、気紛れに顔を出す幸福をうまく
掴めれば、落下は一旦そこで止まる。
だから『飛び降りる』必要があるときは掴む準備を
整えておく。底に叩きつけられて死なないための、
弱者の知恵であり、生き方。
膝まで届くぶかぶかのパーカーを着た少女は、
傘も差さずに雨が降る街を歩く、歩く。
素より危険な仕事だと理解していた。
だから『最悪』への備え、リカバリの手段は事前に
徹底してある。全てが役に立たなくとも構わない。
どれかひとつでもセーフティが働けば上々。
例えば今回は身包みを剥がれるのは覚悟の上だった。
だから『捕まる前に』パーカーを投げつけておいた。
普段着のお気に入りではなく、1枚あればなんとか
下半身まで隠せる大きめサイズ。
少し離れた場所で捕まり、かつ人が通らなければ
事が済んだ場所の近くで服を拾える、という寸法。
ご案内:「常世渋谷 常夜街」に葉山翔一さんが現れました。
■黛 薫 >
実際のところ、投げつけたパーカーには期待して
おらず、2箇所に分けて隠しておいた着替えの方が
本命だった。
しかし一方は誰かに見つかったらしく持ち去られ、
もう一方は(勝手に)スペースを借りた倉庫が風紀の
手入れに遭って諸共炎上していた。前者は想定内
だが、後者を知ったときは泣こうかと思った。
ひとつひとつの備えは不確実、しかし十重二十重に
備えておけば、大抵どれかは引っかかる。今回は
確実性の高そうな備えが失敗し、念のための備えが
成功した珍しいパターン。
それはつまり紙一重だった、備えが足りなくなる
直前だった、ということでもあるのだが。幸運を
噛み締めるべきか、己の甘さを省みるべきか。
(……次は雨合羽でも用意すっかな……)
本降りと呼ぶには弱く、だが傘を差さずに歩くには
強い雨に降られながら考える。
■葉山翔一 > この場所に来ればそれなりに稼ぐことは出来る。
ただ今日は運が悪い事に雨が降っているので移動少々面倒ではあるが。
早く引き上げて寝床へと潜り込みたいと思ってぼろい傘を片手に歩けばふと視界に傘も差さずに歩く人影を見つけ。
普段ならば気にせずに放っておくのだが時折にやってしまう気まぐれ。
何となく気になりついそちらへと足を向け。
「おい、こんな雨で傘もさしてないとか正気か?
風邪をひいてもしんねーぞ?」
そんな事を口にしながら雨に打たれている人影、小柄と言える少女に声を掛け傘を軽く差し出し雨除けにしていき。
■黛 薫 >
分厚い雲に覆われた空の下、行き交う人々は下を
向いているから自分に『視線』は向けられない。
一時的とはいえ、かなり心許ない服装をしている
現状を思えば想定外の僥倖だ。
落第街からの流れ者も多いこの区域ならそうそう
不自然な目で見られはしないはずと踏んでいたが、
それよりも更に良い結果になったと言えるだろう。
寒いのは必要経費と割り切ることにした。
(コインロッカー……どっちだっけ……)
フードを深く被り直し、ふらつきながら歩を進める。
まだ薬が抜けきっていなくて、頭が回らない。
貴重品を含む諸々、危険に晒せない物品は全て
暗証番号式のコインロッカーに預けてある。
そこまで辿り着けば着替えも出来るし、仕事の
成功報酬が振り込まれているからお金も使える。
(まずは……シャワー浴びたぃよな……)
■黛 薫 >
……本人は気付いていない。雨の中傘も差さずに
歩く彼女には度々通行人の視線が向けられている。
這い回る幻触の感覚と混ざって分からないだけ。
だからその声は完全に意識の外から飛んできた。
『視線』より先に声に気付くなんて感覚は黛薫の
中にはない。
過剰なくらいに肩を跳ねさせ、後退りして距離を
取りながら振り向いた。大きすぎるパーカーは
きっちり首元までファスナーが上げられており、
目深に被ったフードの所為で顔も見えない。
声を掛けるくらいに接近したなら、もっと不自然な
ことに気付けるだろう。彼女は靴を履いていない。
■葉山翔一 > 「そこまでビビられると流石に泣くぞ?
何にもしてないだろうが……」
突然に声を掛けたのも悪いとは思うが後ずさりをされて距離を取られると少々傷はつく。
逃げるように離れた相手を見ればサイズが大きいのではないかというパーカー姿。
ファスナーを首元まで上げ、顔を見えなくしているのは住処にしている落第街でもよく見るので気にはしない。
ただ……。
「何かに襲われて逃げた口か?
怪我をしてもあれだ、よければ使うか?」
上から下まで一度見れば靴を履いていない事に気が付き。
傘を差さないもの好きではなく、襲われて逃げたのかとつい口にして。
そして余計なおせっかいをする時は本当にしてしまい、コートの内からゴム製のサンダルを取り出し使うか?と揺らして見せて。
■黛 薫 >
対面に立ってようやく気付く。
相手は此方を見ているのに『視線』が分からない。
一晩かけて肌に焼き付けられた気持ち悪い感覚が
邪魔をして、相手が何を考えているのか読めない。
呼吸が早くなるのを感じる。
普通に考えるなら、親切で声をかけてくれたはず。
それなのに普段嫌ってやまない『視線』が読めない
だけで確信が持てなくなる。怖くて仕方がない。
「……いらねー、です」
絞り出した言葉は取り繕うだけの余裕もなく、
あからさまなまでの警戒と敵意を孕んでいた。
けれど吐いた言葉を1番近くで聞くのは自分の耳。
声に込めた感情を、どうしようもなく自覚する。
「……ぁ、いぁ……違、ごめんなさ……」
一転して怯えたような、罪悪感に満ちた声。
いきなり距離を取ろうとしたことも含めて、
異様に不安定な態度だ。
ご案内:「常世渋谷 常夜街」に黛 薫さんが現れました。
■葉山翔一 > 二級生徒だった頃に色々な人を見てきたので性別や格好ではあまり先入観は持たないようにしている。
この少女を最初に目にした時には風邪を引かないかと考えてしまってのお節介。
気紛れゆえに多少の親切心こそあるがそれ以外は何も考えていなく。
上から下へと見れば運悪う襲われたか、と見る程度で。
「そーか。いや、いきなりこんなこと言われたら警戒するよな。
悪い悪い、別に変な事を考えてもないし、ぼったくろうとも思ってねーぞ」
返された言葉に孕む警戒と敵意に悪いと傘を持たない手、サンダルを持った手を何もしないというように軽く上げて苦笑を浮かべ。
いきなりで悪かったというように視線を軽く下げて謝罪のようにして。
「いや、謝るなって。悪いのは俺だしな。
いきなり知らない奴に声を掛けられた、使うかって物を見せられたらそうなるだろ。
それに……なんかあったのは見ればわかるしな、警戒するのは当間だって。」
警戒や敵意が怯えや罪悪感の混じる声になれば戸惑いを覚えて慌て。
お前は悪くない、自分が悪いと言いながら傘の柄を向けて腕を伸ばし、使えというように示して。
■黛 薫 >
見れば分かる、それはそうだ。
もし誰かが同じ格好で街を歩いていたのを見たら、
自分も多少は気にするんだろうな、と予想がつく。
でも、それだけだ。
何かあったのかな、と一瞬思うだけ。
声を掛けようとは思わないし、まして助けようとか
施しを与えようなんて思わないに決まっている。
他の人だってそうに決まっている、という気持ちと
そんな思考は今声をかけてくれた目の前の男性に
失礼ではないか、という気持ちが衝突する。
差し出された傘を無意識のうちに受け取ろうと
手を伸ばし、その動作に気付いて神経質そうに
指を握ったり、開いたり。
結局、受け取ることなく手を引っ込めた。
「……やっぱ、いぃです。いりません。
あーし、ロッカーにスマホ預けてるんで……
取りに行けば、傘くらい……買ぇます、し」
■葉山翔一 > もしここが落第街ならば声を掛けたかはわからない。
あそこでは下手に誰かに何かを施すや助けようとすれば面倒ごとがやってくる。
今は少々懐が温かく場所が常世渋谷、そして気まぐれが起きたとその3つが揃った故の行動。
ただ気まぐれにそれをするために不審者扱いもなくはなく、完全に警戒されただろうなと考えて。
差し出した傘に手が延ばされると安心したような顔になるが
その手が握ったり開いたりとする動きに更に柄を向け。
しかし結局手が引っ込んでしまうと肩が落ち。
「どこのロッカーか知らないけどな、そんな恰好で歩いてれば変なのに目を付けられるぞ?
後をつけられて根こそぎ奪われた挙句に玩具にされても知んねーぞってか…
声を掛けた以上、放っとけないんだよな…」
そのロッカーまで行けるのかとというように視線を向けては見詰め。
いいから使えと強引に傘を押し付けようとしていき。
気になり声を掛けた以上、はいそうですかと放っても置けなくて。
■黛 薫 >
傘を押し付けた際に、手が触れ合った。
大き過ぎるパーカーの袖に半ば隠れた小さな手。
弱く華奢な指先に感じられたのは、雨に降られた
冷たさではなく、痺れるような熱と不快な滑り。
一瞬の接触の後、弾かれたように手が離れる。
傘の柄がアスファルトにぶつかる軽い音がした。
少女は再び手を迷わせる。傘を取り落としたのを
良いことにこの場から逃げ出せば何も受け取らずに
済むだろう。
けれど、本当にそれで良いのだろうか。
そも自分はどうして頑なに施しを拒んでいるのか。
今更ながら、恐怖に駆られていることを自覚する。
「……どーでもイィっすよ、そんなの。
あーしはもう散々玩具にされた後なんで」
何が怖い?『使われた』後に男性と話すこと?
『視線』が読めないこと?それだけが理由なら
突き放して逃げてしまえば良い。
なのに『視線』が読めないから、純然たる好意で
声をかけてくれたかもしれない相手を突き放すのが
怖い。信じるのも怖いのに、逃げるのも怖い。
足が、動かない。
■葉山翔一 > 普段ならばここまで断られれば引くのだが親切の押し売りのようにしぶとく。
もう傘を受け取ってくれればそれでいいと強引に行き。
押し付けた時に触れた手は雨に濡れた冷たい手。
「……迷惑をかけるつもりはなかったんだけどなぁ…」
弾かれたように手が離れれば傘は離れてアスファルトに転がり。
雨に濡れる事も気にせずに頭を掻いては溜息を吐く。
何も知らない者が見れば見れば痴話喧嘩か強引なナンパに見えるかもしれず。
そうなれば風紀委員を呼ばれる可能性もあり、即座に逃げるべきなのだろうがそれも出来ず。
「……本当に襲われた後だったのかよ…。
それなら身しらずの男に声を掛けられたら警戒もするよな」
つまりは最悪のタイミングで声を掛けたと分かれば警戒や悪意、そして怯えや罪悪感の混じった言葉も納得ができる。
そんな状態で親切の押し売りをする自分を警戒しないはずがなく。
「お前をどうこうしよってつもりはないって。
ただつい気になって声を掛けたんだよな。だからなー…いやじゃないならそのロッカーまでは付き合わせてくれ。
そうすれば俺は消えるからよ、だが迷惑なら逃げてくれ。
ただ悲鳴を上げては簡便な?」
これ以上の押し付けは迷惑だろうと思えばせめてロッカーに付き添うぐらいは提案をして
身を屈めて心配をしているという色の視線を合わせようとして。
■黛 薫 >
身を屈めた相手から届く心配の『視線』。
ようやく幻触の隙間を縫って届いたそれに気付く。
数秒の沈黙と思考停止、空回っていた感情に理性が
やっとで追いついた。
咄嗟に傘を拾って貴方の上に差し出す。
まず心配されている自分が濡れないようにすべき
ではないか、という点には思い至れなかったが、
騒ぎを起こしたら相手も変な目で見られてしまう
かもしれない、という不安はあった。
「……いぁ、今のはあーしが悪ぃっす。
変に疑った?ってか、勘繰ってたっつーのか……。
つかあーしに傘渡したらあーたが濡れますよね?
あーしはもう今更なんでそっちが使ってイィんで」
早口で捲し立て、傘を押し付ける。
今度は手が触れないように手を袖に入れたまま。
「はぁ、じゃロッカーまでは付き合ってくださぃ。
心配してきた相手に警戒?とか、失礼ってーか?
あーしもやらかしたなって気持ちになるんで?
形だけでもそっちの言い分を飲んどきたぃってか、
あ゛ー、上手く言ぇないんで、なんかそれっぽく
受け取ってほしーです、あーし伝えるの苦手なんで」
一転して今度は急に饒舌になる。
この不安定さは襲われた直後だからか、それとも。
「……あと余計なお世話っつーか、言わなくても
そーするだろな、って思ぃますけど。手は洗った
方がイィすよ、あーしの手、付いてたでしょ」
■葉山翔一 > どうなるだろうかと少女を見詰めて待ち。
傘を拾い差し出されると良いのかと見返して。。
傘を差しだし落とした時点で濡れているのでもう傘があってもなくても同じ。
それならば少女使ってくれればと受け取らずに軽く押し返して使えと。
「いや、普通の反応だろ。むしろ悲鳴を上げないでくれて助かった…。
知らない奴が声を掛けて来れば普通はそんなもんだ、俺もうっかりとしてたって。
いや…もう濡れちまったって…」
既に濡れてしまっているのだが押し付けられた傘を受けとり。
そうすれば二人が濡れないようにと傘を持って。
「りょーかいだ、そこまでエスコートさせてもらうよ。
良いって良いって、えらい目にあった後なのに知らない奴の言葉を信じてくれてありとうな。
俺もな、伝えるのは苦手だからよくわかるわ。
よし、そんじゃ案内頼むよ」
饒舌になった少女に気にしていないと笑って見せると立ち上がり。
少女の手に触れた時に触れたもの、それはある意味よく知ったもので洗った方がいいという言葉に大丈夫だというように手を揺らして。