2021/03/29 のログ
ご案内:「常世渋谷 風紀委員会常世渋谷分署」に黛 薫さんが現れました。
風紀委員 >  
風紀委員会、常世渋谷分署にて。配属されたばかりの
新米風紀委員が1人、提出する書類をまとめていた。

常世学園の風紀委員は外でいう『警察』に近い機構。
異能や魔術が跋扈する大変容後の世界にあってもなお
ドラマや映画のような大立ち回りをするのは一部の
部署のごく一握りの人材だけ。更に付け加えるなら、
即戦力になるような優秀かつ稀有な人材でもない限り
まずは経験を積むところからスタートする。

要するに、新米の仕事は目立たないデスクワークが
主になる。それは当然だし、紙面上の仕事も治安を
守るために重要な下支え。未熟ながら風紀を志した
彼もそれは重々承知している……の、だが

──釈然としない。

整え終わった書類を読み返し、ため息を溢す。

風紀委員 >  
風紀委員の新人教育は少し難しい。

瑣末な案件ばかり渡していては責任感が養われず、
しかしいきなり重い案件を任せるわけにもいかない。
いざというときは先輩が責任を取る、などと理想を
語ることはできるが、言うは易し、行うは難し。

先輩曰く今回の案件はそんな新人にちょうど良い、
重く捉えるほどではないが軽すぎもしないとのこと。

言わんとすることは理解した。
理解したが……やはり釈然としないのだ。

ことの始まりは、1人の違反学生の自首。
話を聞けば人に怪我をさせたかもしれないとのこと。

彼女は『異能』の副作用で時折錯乱状態に陥るらしく
本人の申告と医師の診断、過去の事例を照合した結果
それは真であると認められた。そして先日また錯乱を
起こし、逃げ出す過程で人を突き飛ばしてしまった、
というのが自白の内容だった。

心神喪失による傷害、と言われれば確かにそうだが
探し出された被害者は転んだだけで何の怪我もなく、
被害届を出す気もないとのこと。ぶつかられたときは
多少嫌な気持ちになったらしいが……相手が正常な
精神状態でなかったことも理解していた様子。

結局、加害者の少女が過剰なくらい謝るだけで
お咎めもなく丸く収まった。

風紀委員 >  
振り返ってみれば事件と呼べるかも微妙な揉め事。
しかし『丸く収まって良かった』と片付けるには
妙な後味の悪さがあった。

違反学生といえば、この学園の風紀を乱す者。
事情があろうと無かろうと、法や風紀には従うべき。
不良から犯罪者まで幅はあれど『悪』には違いない。
それは一貫して変わらない事実だ。本件の彼女とて
例外ではない。

だがぶつかって転ばせただけ、本来であれば謝罪の
言葉ひとつで済む事故に気を揉み、蒼白な顔をして
告解でもするかのように深い反省と謝罪を繰り返す
彼女の姿が『違反学生』という肩書きと整合しない。

その程度を気にする癖に、常習的に違反を行なって
いるという揺るぎない事実がある。

彼女はときどきこんな案件を起こすのだと先輩は
呆れていた。違反学生の中でも『変な奴』として
風紀委員の間では良く知られているとのこと。

今回の件に疑問を差し挟む余地は一切ない。

人格や素行の良し悪しと違反の有無は関係がないし、
被害者が構わないと言うのだからこの件は終わりだ。

結局は先輩の言葉通りなのだろう。『変な奴』が
絡んだ案件だった、と表現する以外にない。

ただ……そう、釈然としない。後味が悪い。

ご案内:「常世渋谷 風紀委員会常世渋谷分署」から黛 薫さんが去りました。