2021/10/17 のログ
ご案内:「常世渋谷 風紀委員会常世渋谷分署」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
忘れられがちだけれど、渋谷署の中には祭祀局の領分が用意されている。
裏常世の対処に、"境界"としての性質も色濃いこの街には怪異の案件も多いから。
私はあまり近寄ることは無かったのだけれど、今回の対応を此処を使って行っていたのだ。
……私は"裏方"ですから、結局のところ部外者のようなモノなんですけどね。
「採取した資源は全部で6本になりました。
呪いへの接触時の所感も書類で送りましたので、……はい、はい。
被害者には、……過度の干渉を避けて、適度な治療の上元の場所へ送り返しました。
……死者も多かったですが……」
回収処理と撤退、本部への連絡。任務は無事滞ることなく遂行された。
被害はゼロ、貴重な未知の呪いの回収に成功、続いて解析に移る――。
……間違いなく、二桁は死んでいた。
私の悪あがきは、任務の内容には含まれてはいない。むしろ過度な干渉にあたり、叱られてもおかしくないくらい。
けど、拍子抜けするほど、何の沙汰も無かった。
救った人間の数も、死んだ人間の数も、どうでもよかったのだ。
「……これでいいんだよね」
本部からの叱責も特に無く、称賛と共に終わった通信は、けれど。
どこか、私の心に妙な高揚感を残していた。
■藤白 真夜 >
渋谷分署の外に出て、夜景を眺めながら独り佇む。
渋谷の街は賑やかで、夜なのに明るくて。
そこから目を背けるように、落第街があるほうをみやった。
……暗い。
渋谷が夜なのに明るいのもあるのだろうけど、あの街の灯りは想像よりもずっと少なかった。
私はここからじゃ、方角くらいしかわからない。
きっと、あの真っ暗闇の中でも、あの街で人々は生きているのだろう。
「『落第街の住人には違反部活の所属者も多く、また正式に入島を許可されていないため、極力接触を避け……』」
「『……居ない者として扱うこと』」
任務前に聞かされた、注意点。
落第街には、危険な人間が多いのだという。
私たちが呪いを汲み上げた人たちも、組織の人間がかなり含まれていた。
私は、そういう人間を助けたのかもしれない、と。
「……わるいひと、かぁ……」
私は、悪いことが嫌いだ。そのつもりだ。
けれど、私がやったことが、誰かのためにならない、悪いことだとしても。
私はどこか、晴れやかな気持ちでいた。
目前に広がる町並みは、静かに黒く夜闇に塗りつぶされていた。
其処に何が這い回っていたとしても。
目に映るのは、闇色の町並みだけ。
■藤白 真夜 >
落第街の方面に起きる事件は、日々枚挙に暇がない。
"表側"にいて少し関係があっただけの私の耳にも届くくらいなのだから、本当はもっと多いのかもしれない。
風紀委員と違反部活が衝突した。
怪異が暴れまわって呪いをバラまいた。
誰かが誘拐された――、
ちょっと思い起こすだけでもこれくらい。
私が助けたのは、そういうコトをするひとたち。
――ならば。あの時、何もせず殺すべきだったのだろうか。
悪いひとを殺すこと。
悪いひとを助けること。
どっちが、良いことなのだろう。
「……殺すのは、嫌だな……」
あの呪いを身に受けた時、どうしようもない憎しみが私にも伝わった。
呪いがもたらしたのか。
呪いを受けた人たちの感情が転写されたのか。
どちらかはわからなかったけれど……普段、絶対に表に出ないよう封じ込めている感情が、湧き上がったのだ。
殺すのは、わるいこと。
私の根源にある、誓い。
……もし、どうしようもない悪人を屠ることが良いことだと判断出来た時。
……私に、ソレが出来るのだろうか。
■藤白 真夜 >
心の中では、疑問が暴れ回っていた。
「人を助けるのが悪いことなはずがない」「その人がひとを殺しても?」
「善悪を考える場面でなく、救ってから裁くべき」「裁く法が無いのに?」
「助けたいと思ったから」「人を助けるという快感を得たいだけの醜い自己愛の結果でしょう?」
きっと、この疑問に論理的な答えは出ない。延々と続く落第街での抗争のように。
自分の中で如何なる正当化を下そうとしても、自己批判のレッテル貼りのほうがもっと上手だった。
私は結局のところ、自分が良いと思うことをするだけの利己主義者に過ぎない。
……夜闇の中の落第街に道迷うようで……何一つ、良い考えにたどり着かない。
それなのに、私の感情は驚くほど落ち着いていた。
「……ただ。
ただ、目の前で助けを求める人がいれば、自分に出来ることをすれば良い」
……そして、
「――本当に。
殺せば良いと思えば、……殺すだけ……」
……弱々しく震える声は、眼下に広がる闇にまぎれて、何処にも届かなかった。きっと、私の心にさえ。
■藤白 真夜 >
少し、あの街に踏み入れただけで。
目の前で、人が死んだだけで。
忌まわしい呪いの影響はあったかもしれないけれど。
それだけで、私の心は千千に乱れた。
その癖、心の奥底では「良いことをした」なんて安心を確かに得ている。
私の体は、重い。
それは何かが染み付いているからだし、どうしようもない罪悪感からでもあった。
それが、驚くほど軽くなっていた。確かに、善行だと身勝手な魂が訴えている。
「……はあ。……もう行くことが無いといいんだけど」
……結局、考えることは諦めた。答え出ませんし。
何より、今の自分の想うことが正しいと信じるしかなかったから。
「ああ、でも」
夜闇の落第街は、真っ暗に染まっていた。
ここから、何かが見えるはずがなかったけれど。
「……生きることに必死であることが、命にとって間違いであるはずが、無いものね」
あらゆるモノから見捨てられてなお、生き続けるその姿は。
私にとっては、どこか誇らしく見えるのです。
ご案内:「常世渋谷 風紀委員会常世渋谷分署」から藤白 真夜さんが去りました。