2021/11/06 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
音が聞こえた。
遠く、かすかに。
けれど確かに……低く爆発の振動を伴って。
耳を澄まさなければ聞こえないだろう。あるいは、私のカラダが望んで聞こうとしていたのかもしれない。
――命の潰える音を。
落第街方面で、大きな作戦があるのだという。
抗争、闘争だとも。
わからなかった。
何故、なのか。
何人、死ぬのか。
(……でも)
それは、もはや問題になることでも、することでもない。
今亡くなっていく命が、それを為す血塗れの手が在る中で、言葉で問題を語るのはひどく傲慢に思えた。
たとえそこにどんな意義が有ろうと無かろうと、そこに実行する意志があったのならば。
数多の死を積み重ね尚、あるいは"それ"自体が目的だとしても。
意志を持ってそれを行った決意を汚すような真似は、権利というモノが無い私には出来ない。
だから私は、考えることも、止めることもしなかった。
■藤白 真夜 >
(でも、本当に?)
遠く離れた落第街のほうを見やる。微かに黒煙が立ち昇るのが見えた。
(今からでも、救護班として参加を――)
無理だ。資格が無く、そんな技能も無い。ただ混乱させるだけ。
何より、あの場所で誰かを助けること。それ自体がもう、もう片方を害することに同じ。
"意志"を持ってあの場所に赴いたひと達と、私は違うのだから。
(――、)
唇を噛む。
何もできない。
そしてそれが正しかった。
口の中に広がる血の味のせいか、吐き気がした。
■藤白 真夜 >
「……いえ」
ああ……私はなんて簡単なことを忘れていたんだろう。
そう、何も出来ない。
でも、そんな時に出来ることが、人間にはある。
コレをはじめに考えついたひとはきっと天才だ。
ともすれば戦の音よりも遥かに大きな街の喧噪を背に、片隅で膝をついた。
瞳を閉じて、手を重ねる。
頭を垂れる先は、争いの場所。
私は神を信じていなかった。
けれど、神に触れたことはある。
「……どうか」
祈る先は、きっと何も無い。だって知らないのだから。祈れば全てを解決してくれるモノなんて、何も解決出来ない私には信じられなかった。
善と悪か。正義と悪か。肯定も、否定も出来ない。
それすらも、無い。どちらか、だなんて話でもなく、なにもない場所へ。
「どうか、その意志が。
その選んだ意味が、どこかに在りますように……」
祈りを捧げた。
私に神は無く、意味も無く、権利も無い。
だから、自らそれらを選んだ人に。
その意味を、見いだせるように、と。
■藤白 真夜 >
祈りの作法なんて、知りはしなかった。
祭祀局で神学に触る機会はあったけど、専門外もいいところ。そういう宗派があるのは知ってはいたけれど。
だから、これは私の勝手な祈りで、私だけの神に投げつける言葉だ。
ただ目を閉じて、そうあれ、と願うだけの。
だから、私に知識は無い。
けれど、
「御身の、声を、……聞き届け、たまえ」
不思議と、知りもしない言葉が漏れ出ていた。意識してか、そうでないかもわからない。
案外、何かに繋がってしまったのかもしれなかったけど。
私はただ、目を閉じて、祈り続けた。
震えるくちびるは勝手に、けれど歌うように、囁いた。
「 御手は傾ぎ、朱色にくすむ
しかし子ら、夢を見る羊よ
我らが主は、そこにありて
瞳は見据え、声は愛を歌う
佳き隣人が、嘆きかなしみ
我ら罪人が、叫びのたうつ
あえかなる、明暗の只中で 」
何かが、私の中から抜け落ちていく気がする。
けど、それもどうでもよかった。
ただ、捧げられるだけでいい。
私のようなモノが、嘆き、戦い、死に行く人たちのために。
どこか満足感と、脱力感と、気が遠くなる感覚に、躰を任せて――、
■藤白 真夜 >
祈りは続いていた。
けれど、口元がわずかに緩む。
神の寵愛のため?人々の安寧のため?
――いいえ。
ただ、悦びがために。
「なれど」
囁く声はそのままに、声色は甘く。密やかに。
「なれど気をつけよ、善き人よ。
汝の悲しみは我が光。
ゆえに心せよ、聖なる者よ。
汝のかばねは我が糧である。
ならば。
ならばこそ。
悪人よ。罪人よ。
汝の悦びこそが、我がしるべ。
贄の首を捧げよ。
殺め、血に満ちよ。
その赤き血潮こそが、我が呪われし福音なり……
ふ、ふふふ」
もはやそれは祈りではなかった。
忍ぶような笑いがこぼれ、必死の祈りはもはや影も形も無い。
日々の感謝を告げるように、生の悦びを謳っていた。
■藤白 真夜 >
「あ~あ。
ちょっと殺しすぎよね?」
気怠げに立ち上がると、吐き捨てるように躰についた塵を払い捨てる。
「まさか土地の吸った血のほうに反応するなんて思わなかったけど。
……ふふ♪ま、いいわ。
出てこれるならその分、遊んでかないとね」
祈りを食い終えたそれは、ゆっくりと落第街のほうへ向かおうとして、
「……いやあっちは不味いのかしら……。
殺しはまだ無理なのよねー、どうせすぐ戻っちゃうし。
今風の文化で我慢するかぁ。
タピオカっていうの?もうぜーんぜん覚えてないんだけど」
ふらりと、歓楽街のほうへと歩きだして、雑踏に紛れ込んだ。
「あんまり、殺しすぎると。
私もやりたくなっちゃうからさ。
程々にとは言わないから。
……適度に殺してね?」
紅く光る瞳を、歓喜に潤ませながら。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から藤白 真夜さんが去りました。