2022/10/21 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」にアリシアさんが現れました。
アリシア >  
私は。
どうにも。
人類に敵対的な怪異という奴が苦手だ。

常世渋谷で騒ぎがあった。
誰が加害者なのか、誰が被害者なのかは知らない。

ただ、この裏常世渋谷で新たな犠牲者が出たこと。
そのことを察知してしまった。

私のこの街での役割の一つ。
それは敵対的怪異を可能な限り殺すこと。
厳戒態勢と報道ヘリの音すら聞こえない異界、夜。
────裏常世渋谷にて。

ビルや車、標識などが折り重なって樹木のように乱立している森を抜けると。
そこは極彩色の夜空、色彩が歪んだ街並みが待っていた。

アリシア >  
探すまでもない。
ブラッド・オレンジのビルの間に見上げるような巨体。
蜘蛛の手足に鋭い爪、鬼…としか形容のできない顔。

牛鬼(うしおに)か。
それも相当、人を食って力をつけている。
……これだから…敵対的怪異は苦手だ。

「おい、お前」
「人を探している」

「昨日、行方不明になった女性だ」
「スーツ上下で茶色の長い髪をした……」

身振り手振りで牛鬼に説明した。
歪んだ空に流れ星が尾を引いた。

牛鬼 >  
ぶぺっ、と相手の足元に革靴を吐き出した。

「ウヒッウヒッ、美味かったよォ」

ゲラゲラと笑うと、それだけで裏の世界の空間が揺れる。
これだけの大怪異ともなれば。
どうやら餌の方からやってきてくれるらしい。

「ニンゲンは女が美味いよォ」
「最初は助けて、殺さないでって言うんだけどよォ」
「肉を柔らかくするために殴ってるうちによォ………」

「もう殺してって叫ぶのがたまんねぇよォ!!」

「ウヒッウヒッウヒッ」
「昨日の騒ぎでニンゲン一人拐うのは簡単だったよォ」
「また一人……美味そうなニンゲンが来てくれたよォォォォ!!!」

アリシア >  
目の前に落ちてきた革靴。
行方不明者のものだろう。
両目を閉じて首を左右に振った。

「もういい」

右手を相手に向けてゆっくりと手のひらを開いた。

「そこから降りて来い、降りないなら力付くで落ちてもらう」
「猶予は5秒だ」

既に力は発動してある。
空論の獣・災禍(ジャバウォック・ヒューマンドゥーム)。
パラポネラというアリを大量に発生させた。
既に相手の体を這っている。

このアリに刺されると弾丸で撃たれたような痛みを感じる。
デカブツ相手でもこの数ならまぁ効くだろう。

牛鬼 >  
「ウヒッウヒッウヒッ!! やぁ~だね!!」
「お前がビルの間を這って来たらどうだ、ニンゲンよォ!!」

違和感はすぐに発生する。
痛い。痛み? 何故。
体を這うのは……蟲!? 何故、今!!

「ギャアアアァ!?」

ビルから転げ落ちるように地面に落下する。
轟音、揺れる地面。
それも表には何の影響もないが、裏常世渋谷は確かに揺れた。
しばらくゴロゴロと転がっていたが、体を起こして。

「お前……殺すよォ!!」

全身に鬼火が灯り、体を這う蟲を焼き払って。

「焼けた肉にしてやるよォォォォォォ!!!!」

鬼火を少女に向けて放つ!!

アリシア >  
ドレスの背中を突き破って刃が折り重なったような翼を錬成し、飛行。
高速機動で鬼火を回避する。

「怪異サマが虫にたかられたくらいでギャアギャア騒ぐな、うるさいぞ」

背後にある無人のビルの窓ガラスが飴のように溶けるのを見て。

「なるほど、焼肉を作るのは上手そうだ」

右手を相手に向けて。

「空論の獣・起源種(ジャバウォック・オリジン)」

小さく呟くと衝撃波そのものを錬成して牛鬼の巨体に浴びせた。
せいぜい拉げろ。苦しんで死ね。

牛鬼 >  
「ウヒイイイィィィィィィィィ!?」

こいつ、想像以上にやる。
このままでは一方的にやられる。
このままだと、だけどよォ。

「ウヒ、ウヒ……明日の“弁当”だったがよォ…」
「こうさせてもらうよォ!!」

アリシアの背後で女性が落下する悲鳴が聞こえるだろう。
だがそれは偽の声。
実際には眷属の小グモが一匹、ビルから糸で降りながらニンゲンの声を出しているだけだ。

かかった瞬間、殺してやるよォ!!

アリシア >  
女の悲鳴!?
まさかコイツ!!

咄嗟に後方を振り向くと、そこには。
全長1メートル程度の蜘蛛が糸を使って降りているだけだった。

しまっ─────

牛鬼 >  
かかった!!

「莫迦がよォ!!」

刃翼で飛行する少女へ、前腕を全力で振り下ろした。

アリシア >  
咄嗟に翼を折り畳んで防御するが、そのまま叩き落され。
裏常世渋谷のアスファルトに激突した。

「………貴様…」

肺に血が入ったか。
全く、敵対的怪異に関わるとロクなことがない。
狡賢い策は弄するし、すぐに人を不快にさせる人食い自慢をする。

ご案内:「裏常世渋谷」にキッドさんが現れました。
キッド >  
アスファルトの森林を踏み鳴らす重い足音。
常世渋谷に駐在する風紀委員は大忙しだ。
礼儀を知らない悪ガキの相手。酔っ払いの保護。
そして、もう一つの顔を闊歩し"抑制"する。
ツバの隙間から射抜くような碧眼が、怪異と少女の姿を認識した。
それとほぼ同時だっただろう。ホルスターに収まっていた拳銃は引き抜かれ
二発の銃声とともに、怪異と少女の間を抉り取った。
音が重なるような早撃ち。立ち上る硝煙に、少年は広角を上げる。

「そこまでにしてもらおうか。
 ……ソイツは、俺のツレでね。勘弁してやってくれないか?」

「まだまだコッチの礼儀知らずのガキなんだよ」

銃口でツバを押し上げ、何とも気取った笑みを浮かべている。
当然少女とは初対面。なかなかのご無礼である。
にやけた唇が咥えるタバコから立ち上る煙がまた小憎たらしい。

牛鬼 >  
「ウヒッウヒッウヒッ!」
「かかったよォ!! これだから莫迦な異能者騙すのはたまんねぇ!!」

「肉を柔らかくしてから喰ってやるよォ!!」

一歩、足を進めた瞬間。
女との間隙を縫う銃弾。

「誰だよォ!?」

そちらを向くと、帽子の男。
また新手の異能者か!!

「ウヒッ……このガキもお前も逃がす気はないよォ…」
「死んでもらうよォォォォォォ!!!」

蜘蛛の胴体部分から鬼火を放出する。
キッドとアリシアへ、容赦なく真上から降り注いでいく。

アリシア >  
礼儀知らずのガキ。
私のことか? しかしこのヒトと会ったことはない。
姉様のことでも知っているのだろうか。

いやいや、姉様は礼儀知らずのガキなどでは断じてない。
私のことだ!! 私の!!

「……誰だかわからないが…」
「ここは助けてもらおうかな」

上体を起こして、腕を支えに立ち上がる。

「空論の獣(ジャバウォック)!!」

再び刃翼を錬成して高速機動。
自分に当たりそうな一撃を分解能力でかき消して。
回避を終えて、地面に降り立つと咳と同時に血を吐き出して。

「すまないが私はダメージが大きい、一気呵成に決めよう、乱入者よ」

右手を真上に向けて、異能の力を全開放する。
虚空を丸く切り取ったような、漆黒の球体が真上に発生する。
片膝をつきそうになるのを必死に堪えて。

「スターレス・エンド!!」

牛鬼に向けてそれを投げつけた。

キッド >  
「……やれやれ」

初めから話が通じるとは思っていないが
品のない返事に思わず溜息が出た。
まぁ、それで良い。"獣"を撃ち殺すなら躊躇いを保つ必要がない。
降り注ぐ鬼火を横っ飛びで四連射しながらかき消した。
特製の55口径の鉛玉だ。中途半端な攻撃ならこれで破壊できる。
そのままアリシアの隣にロールすると同時に、胸ポケットの予備弾丸が開いたシリンダーに滑り込む。

「助けに来たんだよ、ゴスロリガール。風紀委員だからな」

こういう事があるから仕事は絶えないが
"誇り"を以て此処にいる。この弾丸は、"悪"を穿つ為のもの。
鋭い碧眼が牛鬼を射抜いたまま、少女の動きに合わせてサイドに駆ける。

「しっかり目を瞑っておきな!」

少女に声を張り上げると同時に、牛鬼の顔面に放り投げられた筒状のナニカ。
瞬間、眩い閃光と共に辺りの景色を染め上げた。閃光手榴弾(フラッシュバン)だ。
その視界を奪うのは一瞬で良い。即座に腰に添え、添え手が高速でハンマーを弾くファニングショット。
シングルアクションの妙技たる早撃ちが、4つの爆音を重なり鉛が牛鬼の"それた"。

外したのか?いいや、狙い通り。
弾丸が周囲の標識やアスファルトを刳りとり、牛鬼周りを取り囲むように落ちていく。
ついでだ。上からも撃ち落とした"瓦礫の実"をプレゼントだ。
逃げ場はない。今度はお前が潰される番だ。

牛鬼 >  
普通だったら回避が間に合った。
女の投げる黒球は負傷で狙いが甘い。
だったのによォ。

「ウヒィ!?」

強烈な閃光に一瞬、視界が揺らいだ。
銃弾が来る!!
足を撃ち抜かれたら終わる!!

だが、相手の銃弾は。

この牛鬼様に……瓦礫と標識を浴びせてきた。
グラインド・エフェクトか!?
こ、こいつ……!!

「ハッ………」

回復した視界の先、黒球が目の前に。

「ウヒィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!?」

スターレス・エンドが直撃して体の大半が蒸発した。
クソ、クソ……どうして…!!

「ニンゲンに……呪い、あれ…」

捨て台詞を言うことしかできない。
黒い靄を残して、消滅していった。

アリシア >  
「負け惜しみに呪言……これだから…」

首を左右に振って。
そして現れた帽子を被った風紀委員に体を引きずりながら近づく。

「ありがとう、助かった……と、言わざるをえないだろうな」
「……行方不明者は…」

牛鬼が吐き捨てた革靴を見て。
表情を歪めた。

「もう喰われていた……」

悔恨の表情でそれを拾いに行って、よろめいた。