2022/10/22 のログ
キッド >  
空を切って指先で回転するガンアクション。
虚の宇宙が巻き起こす風圧に衣服と金糸が靡き
吐き出す煙草の煙が舞い上がっていった。

「遺言にしちゃ、冴えねェな」

人だからこそ呪われるとは言うが、こっちは既に満席だ。
無味無臭の煙と戯言が吐き出される中、碧眼が少女の方に向けられた。
今回の裏渋谷に巻き込まれた人物は他にもいた。だが、一歩遅かったようだ。
それを聞かされてる時は、流石に口元も一文字だ。

「……遅刻の言い訳はしねェ、悪かった」

もっと早く駆けつけていば。そんな事を思うのは何百回目なのか。
体制上後手に回りがちと言えど、こんな虚しい思いは何度でもした。
何時か、そんなものに慣れると入ったが、真っ平御免だ。
二本指で煙草を口元から取り、静かに犠牲者に黙祷。
此の痛みを美化するつもりはない。粛々と受け入れる事が、秩序を背負うものの役目だ。

唾液に紛れた革靴を拾い上げるのに躊躇も無い。
落とさないように、せめてと胸に抱くように大事に抱えた。

「なら、コイツ位は持って帰ってやらねェとな。
 ……アンタの方は無事、とは言えないな。可愛い顔が台無しだぜ?」

いつまでもしんみりしているのはガラじゃない。
少しでも気が浮くなら、空気の読めない憎まれ役でも
この軽口に気分をよくするムードメーカーとでも見られるのも構わない。

「エスコートするぜ、レディ。
 残念ながら指輪は先約がいるが、女の手を取るのはフリーハンズなのさ」

何とも歯が浮くような台詞と共に、右手を差し出す。

アリシア >  
「全くだ」

冴えない呪言に辟易する。
騙し討ちしておいて負けたら捨て台詞。
これだから敵対的怪異は苦手だ。

「私が……もっと早く察知していれば…」

悔恨の言葉は誰に許されることもない。
死人は誰を許すこともできない。

「可愛い? お前は私のことを礼儀知らずのガキだと思っているんじゃなかったのか?」
「まぁいい、私の顔は姉様と同じだ。完璧な美を体現している。褒められて悪い気はしないな」

軽口を叩きながら体のあちこちを異能で修復する。
体組織は錬成で埋められても後は自分の治癒力か……
相当、痛い。

「それは有り難いことだな……涙が出る」

彼の手を取って歩き出していく。
やれやれ、短期入院コースだろうか。

振り向くと、全長1メートルほどの蜘蛛が群れてどこかへ去っていっていた。
それは、まさに。

蜘蛛の子を散らすような。

私は彼に手を引かれながら空を見た。
そこには想像の余地を許さない、冷徹で歪んだ……
極彩色の夜空があるだけだった。

ご案内:「裏常世渋谷」からキッドさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」からアリシアさんが去りました。