2022/11/02 のログ
神樹椎苗 >  
 
「ふふ、ただの専門家ですよ。
 あくまで、今、この瞬間は」

 少女から引きはがした霊たちを従わせて、不敵に無敵に笑う。
 その様子は親玉と言って差し支えなく見えるだろう。

「ふむ、視線に敏感ですか。
 ――ああなるほど、異能の影響ですか。
 なんと言うか、生きづらそうな異能ですね」

 子供相手のような対応をされているが、慣れたもの。
 彼女が学園に提供している異能の情報を、ざっと調べて納得した。

「異能もそうですが――ふむ、本当に憑かれやすい体質見てーですね。
 心当たりでもありますか?」

 場合によっては、椎苗の仕事にも都合がいいし。
 モノによってはいくらか、手助けした方がいい場合もある。
 いずれにせよ、放っておくには少々危なげだ。
 

黛 薫 >  
「生き辛……随分ハッキリ言ぃやがんのな」

しゃがんで目線を合わせたは良いものの、何かに
──恐らくは "視線"に押されてバランスを崩す。
仕方なくベンチに隣り合って座る姿勢で妥協した。

さておき、生き辛さを即座に否定しない態度は
その推測を裏付ける。長い前髪も目深に被った
フードも、視線を避けるためのものだろう。

「心当たりも何も、そーゆー体質だからどーにか
 なんねーかって研究施設で度々診察受けてる。
 抜本的な解決策が見つかってねーから対症療法で
 凌ぐしかねーの」

髪を軽く手でかき上げ、ピアス型に加工された
アミュレットを見せる。霊的存在よりやや広い
『魔力や精気を糧にする存在』への嫌厭効果が
付与されている模様。

異種族の迷惑にならない程度の微弱な効果とはいえ、
低級霊であれば退けられる筈の代物を付けてなお
さっきの有様だったらしい。

神樹椎苗 >  
 
「見たままを言ったまでですがね」

 遠慮も気遣いもない。
 そんな椎苗の視線は、確かに圧迫感のような者はあったかもしれない。
 なにせ本人はやけにやたらと、自信満々なのだし。

「体質、霊媒体質なんですかねえ。
 はぁ――それをつけててこの収穫ですか。
 ――ふむ。
 お前、この後、しいの手伝いでもしませんか?」」

 それだけ引き寄せ、引きつけてしまう体質なのだったら。
 彼女を連れて散歩でもしているだけで、あっという間に『帰らせる』お役目も終われそうだった。

「ああもちろん、報酬は出しますよ。
 クレジットでもいいですし――そのアミュレットよりはマシなモノを用意できないでもありませんし」

 そう言いながら、クレジットで言えば日本円に換算して軽く六桁に載る報酬をさらっと口にした。
 

黛 薫 >  
「手伝……専門家としての仕事とかそーゆーアレ?
 失礼を承知で言ぅと、あーしまだあーたのコト
 何にも知らねーから答ぇよーがねーんだけぉ」

「てか何この金額、ナニ? 怪しさが先に来るが?」

提示された金額を見て冷や汗。露骨なまでに詐欺を
疑っている。この金額でこの反応、裕福な暮らしは
していないと容易に伺えよう。

「アミュレットに関しては、セールストークじゃ
 無くてマジで用意出来そーだから言ってんだと
 思ぅけぉ。研究施設の人らと相談しねーことにゃ
 付けてイィのか判断出来ねーの、あーし自身は。

 あーしの体質、幽霊以外も色々惹きつけるから。
 そーゆーの、全部引っくるめて『専門』の中に
 含まれてんなら、まぁ……って具合」

神樹椎苗 >  
 
「簡単に言えば、悪霊退治ですかね。
 誘因装置にするので、まあ危険手当込みの誠意のつもりでしたが」

 まあ確かに、突然この街で高収入のアルバイトなんて誘われたら、怪しさ満点だ。
 それに確かに、彼女に何一つ教えていないのはその通りだ。

「あーいえ、死霊以外も引き寄せるとなると、しいの守備範囲外ですね。
 しいの専門は、言うなれば、死者と不死者です」

 そう言いながら、侍らせていた霊たちを指先で導けば。
 見る間にその数は減っていき、黒い霧になって消えていってしまうだろう。

「――研究区408研究室所有、特殊備品の神樹椎苗です。
 ここには、帰る気のない、帰り方がわからない、霊魂や不死者の始末をつけるために来ています」

 『学園のデータベースを調べれば詳しくわかりますよ』と付け加えた。
 椎苗の半生は、学園のデータベースに誰でも閲覧できるようにそのほぼ全てが晒されている。
 いつどこで、誰に合ったかまで記録されていたりもするのだった。
 

黛 薫 >  
名乗りと所属を聞いて、半透明のホロタブレットを
起動。軽く検索をかけるだけで虚偽がないと簡単に
分かったは良いものの。

「……どーの口で生き辛ぃとか言ってたんだ」

『備品』という所属、プライパシーのプの字もない
監視履歴の数々。久方ぶりに常世学園の暗い部分を
垣間見てしまった気分。

「……『黛 薫(まゆずみ かおる)』。
 異能研第40-00分室、特殊体質研究室1K-2A、
 風紀委員会特定怪異対策課、並びに生活委員会
 復学補佐課預かりの監視対象。等級は本人にゃ
 伏せられてっから知らねーけぉ」

「詐欺じゃらねーらしーので、お仕事お受けします」

とはいえ、名乗られれば名乗り返さねばならない。
不本意ながら相手の監視状況をしっかり確認して
しまったので、此方の監視状況も付け加える。

目の前の彼女ほど仔細な監視ではないものの、
黛薫の同行を知るには十分過ぎる情報の開示。
お返しにとそこまで詳らかにしてしまう辺り、
彼女の生き辛さは異能だけに起因するとは
言い切れなさそうだ。

神樹椎苗 >  
 
「意外と不便しねーんですよ、道具ってやつも」

 大人しくしていれば、しっかり手入れもしてくれるのだから。
 もちろん、従順でいる事が大前提だけれども。

「ふむ、しいよりも長い肩書ですね。
 なかなか苦労してるみてーですね、『過敏症』
 これは働き次第で、ボーナスも出してやらねーといけませんね」

 受けると答えられれば、右手を差し出す。
 その手は、やたら細くて肉が少なく、老婆のように骨ばっているけれど。

「――お前が良ければ、仕事前に夕食でもごちそうしましょうか。
 このあたりに、なかなかいい店もあるんですよ」

 そう、仕事を受けてくれた彼女に、誘いをかける。
 

黛 薫 >  
「えー……話し方からしてソレっぽくはあるけぉ、
 図太……ふてぶてし……あー、精神強ぇえのな」

思わず素直な感想が口から漏れ、ほぼ手遅れだが
着地点を修正する。殆ど前髪に隠れているにも
関わらず、辟易の表情が手に取るように分かる。

差し出し返した手には消えない自傷の痕と手当ての
痕跡、そして少しばかりの生傷がある。今の傷より
過去の傷が目立つのは自制の証だろう。

精神不安を感じさせる痕や乱暴な口調とは裏腹に、
繋いだ手からは臆病なまでの繊細さと気遣いが
感じ取れた。仕事に際して手を引かれる側なのに
労わるような、それでいて不安を孕む幼子のよう。

「……割り勘でなら、お受けします」

報酬への反応から懐事情が明るくないのは確認済み。
それでも断固として "奢りなら断る" という意思表示。
借りを作りたくないというよりは甘えるのに慣れて
いないのだろう。つくづく生き辛そうな性格だ。

神樹椎苗 >  
 
「ふふ、誉め言葉と言う事にしておきましょう。
 それでは、今夜一晩、お願いしますね」

 なんて、聞く人によれば誤解もされそうな言い方を敢えてして。
 握った手にしっかりと温かさを感じると、少し名残惜しそうに手を放す。
 そのどことなく妙な感覚に、一度首を傾げた。

「――いいですね、正直で。
 わかりました、それなら『安くて美味い店』を教えてやりますよ」

 彼女の答えにとても満足そうに返すと。
 ひょい、と椅子から降りてしまう。
 早速その店に向かうつもりなのだろう。
 そして、小さいくせにエスコートでもしようと言うのか、彼女へと左手を差し伸べた。
 

黛 薫 >  
再度差し出された手の意図を一瞬図りかねて瞬き。
しかし "エスコート" だと理解が及べば薄く笑みを
漏らして手を委ねた。

姉妹ほどの身長差、本来なら手を引かれる妹側が
先導する不釣り合い。年上なのに手を離せば惑って
しまいそうな臆病さ。手を引かれ、案内される側に
似合わない労り。全てがちぐはぐで、それでいて
どこか安心感のある道のり。


──結論から言うと『悪霊退治』の仕事は大成功。
濡れ手で粟を掴むように、練り歩いた範囲の霊は
見事に吸い寄せられ、労せず業務を終えられた。

『専門家』のお陰で何事もなく終えられたとはいえ、
本来は危険が伴う業務。にも関わらず餌役を担った
黛薫は神樹椎苗に連絡先を渡し、必要があればまた、
と言い残して別れるのだった。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から黛 薫さんが去りました。