2019/02/15 のログ
ご案内:「歓楽街」に鹿波 依月さんが現れました。
鹿波 依月 > 【歓楽街・夜】

「ありがとうございましたー」

歓楽街のコンビニから出る。
ぴゅう、と冷たい風が吹き、先ほどコンビニで買ったビニール袋がカサカサと音を立てた。

「おお。流石バレンタインデー」

なんと無しに見回せば行きかう人には大体相方がいたりする。
かくいう彼女は一人。
単にバレンタインデーと言う事をさっぱり忘れてテスト期間だと言うのに(だからこそか)バイトの緊急出勤で現在に至ると言う事だ。

中には血の涙を流してそうな人もいそうだがまあそれはそっとしておくに限る。

「よっと」

適当に置かれているベンチに腰掛けガサガサと袋の中を漁る。
ホットコーヒーに全く飾り気も何も無い板チョコ。
後ペットボトル入りの水。
バレンタインデー当日だろうが前日だろうが特に市場から消えそうもない何の変哲もない素っ気ない1枚。

パシュ、と音を立ててコーヒーのプルタブを開けばちびりと一口含んだ。

鹿波 依月 > 「ほほーう」

道行く人を適当に観察。
普段は真っ直ぐ帰る所をぼんやりとベンチで時間を潰しているのは。

理由は無かった。
気紛れで見ているだけだ。
カップルもいれば同性同士で遊んでいるのも見かけられる。
流石の不夜城と言う事かな、などとぼんやりと考える。

後は明日もまだある試験勉強から少しでも逃避をしようとしているのかも知れない。
もう詰め込むのは詰め込んだのだ。
多分、きっと。
恐らくは。

補習にはなるまい。
ならないでほしい。
いや、違う、そうちょびっといや全然全く気にしてないけど何かそういう都合のいい神様がいればほんのちょっと当てずっぽうで入れた回答を当ててほしいとか思ったり思わなかったりしながら。

「いやそもそも当てずっぽうじゃないし、根拠あるし」

多分。

板チョコの包装紙をばりばりと捲りながら一人思考に一人で突っ込みを一応小声で入れながら。
パキッと歯で板チョコを砕く。
     イチヤヅケノアンキ
バイトやら試 験 勉 強にはやはり甘いものが効く。
ほう、と息を吐き、またコーヒーを口に含んだ。
口の中でまだ残っていたチョコがコーヒーと混ざり融け合って喉を通り過ぎて行く。
それはそれで何とも安っぽいが美味というヤツだ。

鹿波 依月 > 「合わせまして税込236円が冷えた心とお腹に効く。お財布にも優しい」

うむ、と一人頷いて。
寒さで出る白い息を吐きだして。
ほわあと白い息は上へと上がり、やがて霧散する。
何度かこのまた特に意味の無い息を止めてまた立ち行く人を適当に眺めながら。

さて独り身と言う訳だがクラスには勿論既にちゃっかり相手をGETしており自慢してくる奴も居たし、何故か独り身である事に親近感を持ったのか別にいなくてもいいもんねって同意を求めてくる奴とかも居たり。

自分はどうなのかと思うと微妙な所だ。
何ともこれに関しての答えは出しにくい。
答えを出してしまうと結論にならなかった答えは間違いなのか?などと無為な思考だ。

「まぁまぁ」

どうどう、とループやら無為な考えに到達しようとする脳内を宥めすかせる。
糖分が頭に入って余計な事を考え始めてるのはよくない。
すい、とスマフォを手に取れば適当にぽちぽちと弄り出す。
こういう時は何も考えずに出来るアプリをしてるに限る。
その内無心になって変な方に行こうとする思考も収まるだろうから。

鹿波 依月 > 「……」

無心。
と言う訳ではないがタップをひたすら繰り返す。
そこそこの速度で操作を繰り返す。
繰り返す。
ひたすら繰り―――。

「……やめよ」

普段なら感じない猛烈な虚しさを感じたので中断する。
これこそ無為なのでは?と思考が呼びかけて来るがうるせえ!と頭の中で追い散らしておいた。

「バレンタインデーの魔力と言う奴か……」

この日は魔力とか異能とか何かすごいちからが込められていてそれが人の精神に影響を及ぼすのでは?

……そもそも扇動効果とか何かもう色々ある訳なのだが。

「虚しいと感じる心もまた私の心、か」

ふ……と黄昏るが何か独り言多くない?

―――これもバレンタインデーのせいと言う事にしよう。

「しかしこれはマジで私もバレンタインデーで独り身を恨めしく思ってしまう一人みたいになってないこれ」

パキン、と何口目かの板チョコを口に砕き入れて。
そう思うと何かこの板チョコもコンビニの店員に渡す相手も居ないのに何か焦ってとりあえずチョコを買わなければならないとかヤケクソで買ったとか思われてそうである。

鹿波 依月 > ぐっと残っていたコーヒーを飲み干す。
まだほのかに温かさが残るもののやや冷めたコーヒーはどことなく苦味だけが強い気がする。

「よし、と」

ぽい、と近くにあるゴミ箱へ放り投げ。

カコン、と縁に当たってカラカラと足元へ転がった。

「……」

ベンチから立ち上がり、ゆっくりと近づいて拾い上げ、ゴミ箱へ落とす。
カラン、と寂しい音を立てた。

「よしと」

2回目の同じ言葉。
パン、と軽く手を叩く。
メンタルリセットをするように。
残ったチョコも適当に口へと含み、ペットボトルの水だけを取り出して同じくゴミ箱へ。

「帰ろう。うん」

どことなく寂しい日もあるよね。
そう結論付けてゆっくりと家路へ着く。
明日(既に今日だが)も試験である。

ご案内:「歓楽街」から鹿波 依月さんが去りました。