2019/02/26 のログ
ツクヨミ > 花ヶ江がゆっくりと切り出した話にはところどころ難しいところもあって
すべてをツクヨミが理解出来たわけではないけれど、
どうやらこの人はほんとうの意味でも待ち合わせ相手では無かったらしい。
何故か花ヶ江がその相手に変わり、この場に現れたのは不思議だった。
いつもなら待ちぼうけて、上級生が回収しに来るまでここで待っているはずだったから。

ぼんやりとした瞳がどうすべきか、逡巡するように揺れ動く。
話に来ただけ、と花ヶ江は言う。安心して、とも。
だがツクヨミが話すべきことはそう多くはないし、安心して、と言う相手に安心できた試しはない。

「ハナガスミ、サエ……」

名乗られた名前を繰り返して、カップを机に置いた。
桃色の瞳に警戒の色が浮かび、少し迷った挙げ句、のろのろと席を立つ。

「……、違うなら、帰る。そう、言われたから……」

上級生が警戒しろと口酸っぱく言っていたような相手なら、
帰ってこないツクヨミを叱るかもしれない。
ガタリとスチールの椅子が音を立て、数歩後ずさりするようにして花ヶ江から距離を置いた。
ちら、と最後に花ヶ江へ一瞥をくれると、そのままぱっと身を翻して駆け去っていく。
後にはほとんど残ったフラペチーノと、花ヶ江が頼んだカップ2つが残っていた。

ご案内:「歓楽街」からツクヨミさんが去りました。
花ヶ江 紗枝 >   
「あ……」

静止の声をかけながら立ち上がるけれど
無理に引き留める事が出来るわけではない。
今の自分に出来る事はこの程度。
助けを求められている訳でもないのだから。

「……そう」

逃げる様に去っていく後ろ姿に
引き留める様にのばしかけた手をゆっくりと降ろし
少し寂しそうにつぶやく。
せめてコートとマフラーだけでも渡してあげられたらよかったのだけれど。
あれではあまりにも寒そうだったから。
それはきっと気温だけではなくって……。

「……駄目ね、私ったら」

自嘲気味の笑みを浮かべて空を仰ぐと笑みを消しゆっくりと歩き始める。
春を迎えるにしては少し冷たい風が吹きつける中を
俯き加減で、けれどどこか遠い世界を想う様な表情で。

ご案内:「歓楽街」から花ヶ江 紗枝さんが去りました。