2020/06/21 のログ
■不凋花 ひぐれ > 「…………はて、さて」
パトロールを正常に再開してから通りの中心にて、鞘ありとはいえ刀を揺らす下駄の女学生。腕章を付けていなければ――否、つけていたとしても――袋にされて叩かれそうになる危うさと己は戦っている。
畏怖と怒りと恨み節を利かせた周囲はどこかギラついていて、どうにもこうにも居心地が悪い。
己の異能のせいでチームを組めず、単独で処理しやすく、発動していても基本的に無害な場所であることという条件の下ここに送られたのは何となく分かる。
息巻いていた抗議がどれほど効力を持つのかは分からないし、無視されて次の週も頼むと言われるかもしれない。
なるほど、これが社会の縮図かと思い至り、眼を閉じたままの顔を天に向けた。
浮ついた下駄は少しリズムのズレた音を響かせる。
ご案内:「歓楽街」に九十八 幽さんが現れました。
■九十八 幽 > ゆらり ゆらり
眩く照ったネオンの光を避けるように、影法師のような青年が歩いてゆく
男とも女とも分からない独特な風貌に、客引きも声を掛けようか悩む刹那に
するりするりと視線を躱しながら、腰に差した刀がすれ違う人に当たらぬように
「やあ ここも……うん、賑やか
学生街とはまた異なるけど……ここも色んな人の活力で満ちてるね」
好ましいとも、好ましくないとも言い切れないけれど
そんなことを口にしながら 夜の闇から染み出した様な影は
「やあ こんばんは
見回りの人かな、他の人たちとはずいぶん雰囲気が違うけれど」
この区画では明らかに異物と見做されているらしい少女へと声を掛けた
■不凋花 ひぐれ > ゆらゆらと提灯のように揺れる人だった。その人の周囲は鬼火めいて青白い気配をしていた。
客引きの困惑の音色と共にすん、と鼻を鳴らす。
声を掛けられて相手にまず敵意が無いと判断した彼女は鞘を振る手を止め、瞑目したまま深々とお辞儀をした。
声のする方向へと程なく意識を向けつつ。
「こんばんは。特別学級所属の風紀委員会特別攻撃課、不凋花ひぐれと申します。
……はて、然程特別な装いをしている心算はありませんが、強いて言えば下駄でしょうか」
彼女はまず格好の事だと判断して下駄を鳴らして見せる。
「それとも、以前ここらのパトロールに際して少々乱闘したからでしょうか」
続けて周囲との差異について提言してみた。
■九十八 幽 > おや と少しばかり訝しげに首を傾けて
それから彼女の持つ白杖代わりの鞘に気付けば、そうかそうか、と頷いた
「急に声を掛けてしまってすまないね 盲者の方だとは思わなかったから
ひぐれ ひぐれと言うんだね。特別学級、風紀委員
聞いた事があるよ 学園に通う生徒で構成された 治安維持のための集団だって」
君がそうなんだね と穏やかに目元を綻ばせ
それから思い出したように 慌てて、自分の胸に手を当てて
「もうまもなく常世学園に編入する 九十八 幽というよ
まだ手続きが終わってないそうだから その間にこの島を見て回ろうと思って
そっか、そっか どうにも剣呑な視線が向けられているのは
風紀委員に怯えているから なんだね」
もう少し堂々としていればよいのに、と 視線を通りの影へと向ける
幽と目が合った男が、決まり悪そうにその場を立ち去った
■不凋花 ひぐれ > 「いえ、慣れているのでお気になさらず。こちらもこんなものを白杖変わりにしているので」
動き自体はそれに類似するものの、対戦闘に特化した組織に所属する手前、どうあれ多少は誇張表現をしなければ自分たちはロクな目に合わない。
幸いにも相手は影法師のように頼りなさげだが、こちらのことはしっかりと認識してくれるし、意図も汲んでくれる。
僅かに弧を描いて、引き結んだ口元で笑みを作った。
「……外部からの編入性ですか。これはこれはご丁寧に。
それはとても良い心掛けです。が、ここは少々危ない場所です。酒にたばこ、カジノにパチスロ。
良く分からないおじさんからおにいさんまで様々な人種が入り乱れるので……ええ、九十八さんにとっても害があるかと。
それとも腕に自信がおありなら、私の心配も無用ではありましょう」
もう少し近くに行きたい、と地面を突きながら九十八に近づく。
雄とも雌とも違うような微妙な臭い。声もどちらともつかない音。
少しばかり興味があった。
「はい、ここらは我々が時たま警備しているので、怖い怖いと彼らは口々に垂れるのです。
やましいことをしていなければきっと堂々とできるのだと思います」
悪い事をしてても胸を張れる人はいるけれど、それは開き直りとも言う。
■九十八 幽 > 「ううん ……そうだね、危ないのかもしれない
でも それでも、ここは必要な場所なんだろうね
人がケモノである事を忘れず、それでいてケモノに立ち戻らないよう踏み止まるための場所だ
こういった場所が無いと 息苦しいヒトも居るのだろうからね」
ぐるぅりと ネオンに照らされた町並みを見回す
男も 女も 険のある表情はしているものの それらは決して醜悪であるようには幽の目には映らなかった
このような場所を必要としている者が居る その事実だけが確かに認められるのみ
「腕に自信はないかもだ 刀を持ってはいるけれど、振るう術を学んだ覚えはないからね
ただ どう扱えばどうなる、ということは分かるから
その通りに扱うのだけれど」
腰の打刀を、その柄を 静かに優しく撫でて
こちらへと近付いてきた彼女を優しく見守りながら静かに佇む
その姿はネオンの灯りの下に居てもなお 月光のみに照らされているよう
■不凋花 ひぐれ > 「ケモノに立ち戻らないよう踏みとどまる……。
欲望を解放させる場所ではある、という認識ですが。御心が広いのですね」
己は先刻、この場所が下品だと呟いた。アングラな経営をする店もあれば、健全ではないにせよ届出を出した真面な店もあるのに。
不凋花ひぐれは酒も煙草もやれないしやる心算も無いタイプだ。自然とそういうものが良くないものと思ってしまう。
客引きの為にあでやかな声で誘う女のいる店に、声と顔の良い男が持て成す店まで色々あるものの、その輝きは鈍くも光ってみえる。
「……ちゃんとした使い方を教えてくれる授業もあります。生徒になるのであれば、しっかりと人らしい基礎を身に着けてください。
我々はケモノではないのですから」
朧げな足捌きで九十八に接近。丁度あと4歩ほど近づけば肉薄するというところで立ち止まった。
月光も煌びやかなネオンも、己の閉じた眼下では等しく暗闇に等しい。きっともう少し近づけば辛うじてシルエットだけは分かるのだろうけど。
刀のにおいに、やはりふわふわとした気配。存在感が薄いと形容するのも違う気がして小首を傾げた。
ここの周囲の人間たちとは絶対的に違うにおいというのはすぐに分かった。
嗚呼、あるいはそう。
「……九十八さんは足りないと申しますか、抜けていると申しますか。少しふわっとしている方ですね。嗚呼きっと、素敵な御人に違いありません」
これは貶しているわけではなく誉め言葉です。唇に指を当てながらそう口にした。
■九十八 幽 > 「足りない? そうかしら そうかも
多分その足りなかったり、抜けてたりするところを
どうにか埋めるためにこの島に来たのかもしれない
でも ひぐれの口振りだと無理して埋める必要も無いのかもだ」
うふふ 口元に手を当てて微笑む
その様な所作をしてもなお 男とも女ともつかない青年は
己のすぐ前まで辿りついた風紀委員の少女を見つめる
「そうだね 人らしい基礎、かあ
嬉しい時に笑って、悲しい時に泣いて、好きな物を好きと言える
そんな風な事だけで、じゅうぶん 人らしいと思えるのだけど」
そういうことじゃないのだろうね、と わずか首を傾げながら囁き
少しだけ上気した頬で夜の街を照らす月を見上げ ほう、と溜息を零して
「素敵だと言ってくれるとうれしいね とてもうれしい
初めて会った人をそう言えるひぐれも 素敵な人だと思うよ」
穏やかに微笑んだまま 臆面もなくそう告げる
■不凋花 ひぐれ > 「そういうふわふわとしている様子を見るに、それが何となくそうしなきゃと思っていても、どちらでも良いかなと思っていたりするのだと思います。
どれも当然正解とは言い切れませんが、学園での生活を通してなるようになれたら良いですね。良い動機付けが出来れば自ずと指針も決まりましょう」
ほんのすこし、見上げる形。
互いのパーソナルスペースを守った状態で毅然と背を伸ばしながら、楽し気なその人の声に当てられてはにかむようにつられて笑う。
「よく考え、よく知識を付け、集団として生活し、時に体を動かしてみる。
色々試して、あっているかあっていないかを確かめるのも、人らしいと私は思うのです。
好きも嫌いも、感情の機微も、犬や猫にも備わっておりましょう?」
だからもう少しくらい合ってもいいのではないか。
「さようでございますか。ありがたいお言葉です」
屈託のない言葉には、流水に流す笹船のように穏やかに返す。
やはりどちらとも分からない推定、青年の君を目視で見ることも触るために接近することも己はしようとしないのに。
……何というか、たぶん嘘はないだろうと思った。
「新しい人をつんけんと対応するワケにも参りません。
あなたが健全に生活をしていれば、よき先輩、あるいは友人、見知った仲として対応します。
どうかその御心が綺麗なままでいてくださいね、素敵な人」
■九十八 幽 > 「そうだね そうだとも
Que Sera, Seraと言うんだっけ、それともHakuna Matataだったかしら
ともかく どのようになるかは、なってみないと分からないものだからね
ありがとう、ひぐれ 肝に銘じておくよ」
ふぅわりと微笑みながら 彼女の笑顔を見据え
「ああ ああ! そうだとも
試行錯誤も人が誇る人の叡智に違いないね
そうだ そうだね 学校でそのことを学んでみるのもとてもとても楽しそう」
楽しみが増えたよ、と心底楽しそうに告げる
表情には出さずとも 声の調子が雄弁に物語る
「うん うん そうだね
きっと1年生から始めるのだろうから、次に会う時はひぐれの後輩 になるのだろうか
素敵な先輩をはじめから持てるだなんて、幸せだろうな 幸せだね」
ありがとう、ひぐれ と笑顔で言う
そうして一度自分の胸に手を置いて、深呼吸をひとつ
うっとりと伏せられた目を静かに空へと向けて
「ああ 早く学校に通えるようにならないかしら
今まで会ったのは素敵な人たちだらけだから きっともっと素敵な人たちに会えるはずだろうに」
■不凋花 ひぐれ > 「どちらとも言えますし、Hakuna Matataの方がニュアンスは近いと言えるやもしれません。
なるようになるさ、悩まずに行こう。
――ええ、はい。とても素晴らしい在り方でしょう」
そうして青年の顔は、未だふわふわしているものではあったのだけど。
わずかばかり熱が上がったような、心底楽しみだと言って仕方ない口振りで語るのだ。
意外な側面というのも烏滸がましいが、彼にも宿るべきものは宿っていたのだと言う当たり前の事実を目の当たりにして穏やかに首肯した。
「まあ、お上手。
私は二年です、一年先輩ですよ。口調も敬称もなくても問題はありませんが」
己の胸に手に手を当て、何となく自信満々といった風に声が強まる。
ころころと楽しそうに上方向から落下してくる声に、もう少し頭を上げて傾聴する。入学を楽しみに待つ小学生のような純粋さは微笑ましくもある。
「早くに通えるようになると良いですね。困ったことがあったら相談に乗りますし。より素敵な人に出会えると良いですね」
両手に持った刀を握り直し、鞘を軸にしてくるりと90度回転する。
その背は青年よりも一回り小さく、しゃらんと鈴鳴りの音と共に肩が揺れた。
「そろそろパトロールも終えますから寮に帰らないといけません。まだ暫くこうして歩いているなら、体には気を付けてください。
今日はお会いできてよかったです、九十八さん」
■九十八 幽 > 「ふふ ありがとう 本当に
今度は生徒として、後輩として会いたいな、ひぐれ
きっと きっと会えるだろうから、それまでひぐれも息災でね」
再び深呼吸 すって、はいて。わずかな不安を吐き出して、期待を取り込む様に吸って
そうして背を向ける未来の先輩へと 穏やかな微笑みを贈りながら
「さようなら 気を付けて
ひぐれに会えたから、今夜はとても とても素敵な夜になったよ」
男か女か 曖昧模糊をそのまま人の形にしたような青年は
絢爛とした照明の下、自然なままの光の様に佇んだまま
少女の背中をある程度まで見送って──
──そうして、明日が待ちきれないと言う様に異なる道を歩き出すのだった
■不凋花 ひぐれ > 「では、またお会いしましょう。良い夜を」
汚れた歓楽街にある純白の人は、月光を受けて煌いていた。一度もその姿を目にすることは無かったし、彼の人物像が声で何となく分かった程度なのではあるけれど。
また再び良き日に出会えることを信じて、己は此度の仕事を終える為に帰路に就くのであった。
ご案内:「歓楽街」から不凋花 ひぐれさんが去りました。
ご案内:「歓楽街」から九十八 幽さんが去りました。
ご案内:「カジノ「蓬莱」」に先駈将騎さんが現れました。
ご案内:「カジノ「蓬莱」」にアージェント・ルーフさんが現れました。
■先駈将騎 > 酒気と、紫煙と、人の熱気が立ち込めたホールの一角。
喧騒からやや離れた部屋の隅に、力なくもたれかかる男がいた。
「……ううむ、うう」
男は片手で顔を覆うようにして俯き、時折指の隙間から呻くような声を漏らしている。
■先駈将騎 > (……入らなきゃよかったかなあ)
時折目の前を横切る扇情的な服装をした女達を極力視界に収めぬように努めながら、男は己の選択を後悔していた。
たまには違う区にでも足を伸ばしてみようと思ったまではよかった。たまたま目に入ったカジノに、そういえば別の世界では非合法な地下闘技場を擁したカジノもあったな――と妙な期待を持って飛び込んだのがよくなかった。
結果は期待はずれ、コロシアムのコの字もない一般的な賭博場でしかなかったのだ。対して用意していなかった賭け金もあっさりとむしり取られ、今は哀れなまでの素寒貧である。
■アージェント・ルーフ > ―眠らない街の自分にとっては目玉と言えるカジノの前に銀の人が一人、重厚感のあるドアの前に立ち、開閉を待つ。
「今日は何にしようかな…」
カネとカネが朝顔の蔦のごと絡み合うこの場では自然と口調も引き締まる。ドアが重々しい音を立てて開き、眩いシャンデリアの晄が眼を突き刺す。
いつも通り、この場においては虎、或いは龍にもなるボクの顔を庇う様キャップを深く被り、俯きながら闊歩している所。悩まし気な呻き声が人々の喧騒、ルーレットの玉の転がる音、コインの音に混ざってボクの耳に届いた。
顔を上げると、顔を隠す様に手を閉じる赤バンダナを巻いた黒髪の男性が重力を壁に任せ立っている…いや、もたれている。
この場は金が嵐のごとく動き回る所である。その嵐の風に金を持っていかれる者も少なくはない。彼もまたその一人なのだろう。
「大丈夫ですか…?」
この場には相応しくないであろう、少しばかり情を持った声を掛ける。
■先駈将騎 > 「い、いや!ほっといてくれ……ん?」
過激な服装の女給に声をかけられたのかと思い、慌てて目をつぶったところでその声が女のものではないと気付く。
薄目を開けて相手を観察してみれば、まだ年端もいかぬ子供のようである。脂ぎった欲の渦巻く花街には似つかわしくない容姿だ。
「……いや。その……平気だ。少し、人混みに酔っちまって。
しばらくすれば治るさ」
ひとまずは空いたほうの手を軽く振って、心配いらないと身振りで示す。実際、持ち金がないのにここに留まっているのは気分が落ち着くのを待っていたからだった。
男は少々難儀な体質を抱えている。平静を欠くと体が変質してしまう病のようなものを患っているので、心を静めてから外に出ようと思っていたのだ。
■アージェント・ルーフ > 男曰く、平気らしいが顔は青ざめており、百人が百人嘘だと分かる風貌であった。やはり、有り金をこの金の渦に溶かしてしまったのだろう。
「…平気だと思うなら、こんな端くれにはいませんよぉ…っと」
普段のボクであれば既にテーブルに着いている頃ではあるが、今回は情がこの男性に傾いているみたいである。ボクは隣に同じく壁にもたれ、目を合わせるのも酷であろうから虚空を見て話しかける。
「…何でやってしまいました?」
■先駈将騎 > 「……ポーカー」
素直に返事をしたところで、いささか恥ずかしくなって小声で補足をする。
「子供の頃、ゲームでやったのとはなんか勝手が違ってな……よくわからんうちに負けがこんで全部スっちまった」
正直にもほどがある告白を終えた後で、これでは余計格好悪いじゃないかと気付いて口元を押さえる。壁際までシャンデリアの明かりが届いていれば、赤くなった耳元を少年に見られていたかもしれない。
■アージェント・ルーフ > この男の金の出先はポーカー、カジノの定番ともいえる賭事である。が、それ故に当然イカサマも存在するのである。ここでの行われているポーカーはテキサス・ホールデム、そう言った出来レースも当然起こりやすい。今パッと見ただけでも、ディーラーの右手に隠されたジョーカーが眼に入る。
「ちょっと酷な事言うと、ここのポーカーは従来のルールが通用しないんですよねぇ…」
そうは言っても、こんなイカサマに気づくのはカードを使う職に就いている者のみだろう。最もボクにとってはイカサマどころか、演劇に使うための技術として使っているのだが…
「取り敢えず一旦、顔を上げましょうよぉ。熟練者でもない限りこの場は只の金の渦なんですから~」
宥める様口調を何時もの様に緩め、かなり長身の男の肩を腕を伸ばし叩く。
■先駈将騎 > 「いやあ、別に落ち込んでるわけじゃ……ないんだが……」
情けなさが加速していく状況に眉根を寄せるものの、平静を保っていないと女になってしまうから心を落ち着けているんです――などと正直に説明しても変な顔をされるか余計に哀れみを受けるだけだろう。
「というか、詳しいんだな。このカジノのこと」
わざわざ助言めいた言葉を投げかけてくる様子からして、少年は多少なりとも賭場の事情に通じているらしい。見た目は子供とはいえ、この世界ではいかがわしい店に出入りする学生も少なくない。色街の只中にあるカジノに入店してくるあたり少年もその手合いと見てよさそうだ。
「お前、よくここに来るのか?」
相手が背伸びをせずに済むよう少し身を屈めて、お返しとばかりに質問を投げかける。
■アージェント・ルーフ > 「ん、これでも年は十七なんですよぉ!
…そうですね、ここにはよく来ますね~。あまり大きな声で言えないんですけど、職業柄稼ぎやすいんですよぉ」
この身長から年端もいかない少年だと思われたのかカジノの事をよく知る事を不思議がられたため念の為釘を刺しておく。一応気にしていることなので語気が強くなってしまったけど…
そしてここへの来る頻度を聞かれたが、正直、自分の技能を振り回して稼ぎに来ているという自覚はあった。その為、技能を使いこんな所に食い扶持として稼ぎに来ているボクにセルフで喝を入れる。
「まぁ、ここに来れるのもこの技があるお陰なんですよね…」
そう言いながら、取り出すのは一枚のコイン。コインを手に持ち、相手によく見せながら死角を使い、一枚袖からカードを取り出し、隠し持つ。そしてそのカードを手に持つコインと即座に―入れ替える。
これにより相手から見るに急にコインがカードに変わっているように感じられるだろう。そしてそのまま―
「という感じで、職業はマジシャンなもので…、イカサマにも対抗できるんですよね~」
この金の渦の中、ボクがそれに逆らえる巨大なサメであるという理由をマジックで証明する。
■先駈将騎 > 「十七?」
やっぱり子供じゃないか、と思ったが語気を強めた口調に彼なりのプライドを感じ取ったので口にするのはよしておいた。十代の若者にとって一歳の差は非常に大きいものだ。
「……ふうん、手品か。道理で詳しいわけだ」
瞬く間にすり替わったコインを見て、感心したように呟く。表向きはイカサマを禁じておきながら、その実胴元が無粋な小細工をして賭け金を巻き上げることなどよくある話だ。
賭場の不文律を理解したところで知っているだけでは泣き寝入りするほかない。駄々をこねるようにイカサマだと喚き散らすのではなく、相手の手口を正確に見破る術を持たなければここで稼ぐのは難しいのだろう。
「場違いだったみたいだな、俺は」
己の愚かさ加減を再確認し、やれやれと頭を振る。
《危険察知》を使えばイカサマを仕組まれているのに気付けたかもしれないが、生憎その機能は普段切っている。
たいした策もなく身一つで乗り込んだのではどうぞカモにしてくださいと葱を背負って宣言しているようなものだ。切った張ったが絡まない場所ではやや警戒心が甘くなる癖は直さねばなるまい。
■アージェント・ルーフ > 「場違い…、まぁ一応ここはここでイレギュラーな場所ですから…」
そう言って、男を気休めに慰める。
(渡せるような金も無いしなぁ…)
金を溶かし、稲穂のごとく首を垂れる男に施しを、とも思ったがこちらも賭けに来ているため所持金を減らす真似はあまりしたくない…
―そこで一つのテーブルが眼に入る。そこの机の上には二組のカードがいくつか並べられている。
「そうだ、ブラックジャックとかはどうです?一回自分やってみるんで、後ろから見ていて下さい~。ルールは流れで大体分かるはずですよ~」
そう言いながら男を手招きし、テーブルの方向へと誘う。
■先駈将騎 > 「えぇ?いや、俺は……」
手招きする少年につられて、テーブルのほうを見る。テーブルには数人の客と、その横で酒を振る舞うバニーガールがいる。心をかき乱しかねない重大な脅威だ。しかし誘われている以上、無下にするのもなんだか失礼である。
「見るだけ……見るだけだぞ。もう賭け金はないし……」
極力女を視界から外すように目をそらして、ぎこちない足取りでテーブルへ歩み寄る。
■アージェント・ルーフ > 男が後ろに立ったのを確認し、席に着き、掛け金を模したコインを横に置く。
この場にいるこれから始まるどす黒いゲームを共にする参加者に一礼する。殺し合いの開始ともとれるカードの配布、周りを見るにディーラーはイカサマをしてこない鴨であるが…二つ隣、左手が変な形をしている。間違いない、イカサマだ。このまま行ったら当然この場の金は奴のところに流れ込む…
そんな所で配られた手札はKが書かれたカードが二枚、合計20であり、勝利はほぼ確実…しかし、イカサマしている者が居るとなると話は別である。
「全賭けで…あとスプリットで」
後ろから見ているであろう男にとっては自分が気がふれた行動をしていると思っている事だろう。しかし、こちらはマジシャンである。そこらの技法を齧ったやつとは違うと自負しているため、達観して椅子にもたれる。
■先駈将騎 > 「……?」
少年の選択に、何か引っかかるものを感じて目を細める。
賭場に疎くてもブラックジャックのルールは知っている。J以上の絵札は10になるはずだ。K2枚の手札で負けることはそうそうない。
相手がブラックジャックを出しさえしなければ、の話だが――
(確実にAを引く自信でもあるのか?)
己がイカサマをやるのか、あるいは他者のイカサマを突くつもりか。いずれにせよ少年の腕前を測る良い機会だ。
斜め後ろから覗き込む形で静かに事の成り行きを見守る。
■アージェント・ルーフ > 二枚目のカードが配られる、それを覗くに…5と6が配られた。本来ならば大ピンチの状況ではあるが、こちらも技法を使う。前や横にいる参加者、果てには後ろの男にも見えない様にカード二枚を懐から取り出したA二枚と入れ替え、真の配られたカードを手に自然な形を意識しつつ隠し持つ。この間の時間は一秒にも満たない。
カードの開示の時間である。肝心なイカサマを行ったものの手札の合計は20、そのカードの状態で下卑た笑いを浮かべている為、心の中でほくそ笑む。そして自分の手札の開示、ボクは堂々と本来ならば合計が15,16と負けが確定する手札をゆっくりと表にし…
「二組ともブラックジャック…ボクの勝ちですね~」
自分の特徴である間延びした声を、参加者が唖然しており静かになった場に響かせる。
■先駈将騎 > (2枚ともAを……!)
開示された手札に思わず息を呑む。一見すれば少年のまぐれ勝ちにしか思えない。が、先程の早業を見たためにイカサマだと察しを付けることはできる。
あくまで「察するだけ」だ。ディーラーや周りの客の手元にも注意していたとはいえ、どのタイミングでイカサマが行われたのかはまるで見当がつかなかった。
(何が「大体わかる」だ。イカサマを見抜かせる気なんてないじゃないか)
少年の鮮やかな手口に内心舌を巻きながらも男の口元は自然と吊り上がっていた。手品に関しては全くの門外漢とはいえ、この少年の腕前が相当なものであることは間違いない。男の胸中には技を極めた猛者を前にした時の尊敬と興奮と、子供の抱くそれに似た目映い憧れが込み上げていた。
■アージェント・ルーフ > 後ろの方からも驚きと憧憬の眼差しを向けられるのを感じ、少しだけ恥ずかしさを覚える。やはりこの時の快感と言うのは底知れない。特に今回はイカサマ師を含んだ(最も、自分もイカサマ師であるのだが)試合では猶更である。
試合を回していき数刻、ボクは先ほど形容していた『金の渦』になっていた。自分の正体がバレない様、ある程度は負けてはいるものの、総合的に俯瞰すれば自然に一つの場所に金が集まっている。きっと他の参加者も、後ろに立つ男と同じく只の少年がここに鎮座しているとでも思っているのだろう。
■アージェント・ルーフ > だが実際、そこに佇むは金の渦をはい回る巨大な鮫…自然とボクの横に真ん中に1000と書かれたコインのタワーが高く積み上がり、ただでさえキャップで隠している自分の顔を更に隠すように座する。
「有難うございました~」
泥の試合が終わり、社交辞令を述べる。しかし、口調とは裏腹に手に持つは黄色のコインの束。ボクは後ろを振り返り、
「さて、離れましょうか~」
内心ボクも嬉しかったのだろう。声のテンションを上げつつ、男を先導するよう再び二人が落ち合った人気のない壁へと誘う。
ご案内:「カジノ「蓬莱」」に先駈将騎さんが現れました。
■先駈将騎 > 「おう」
促されるままに壁際に戻り、誰かが後をつけてきていないことを確認しながら話しかける。
「すごい勝ち方だったな。見てて気持ちいいくらいの大盤振る舞いだった」
目線を合わせるように膝を折った男の目は、無垢な子供と変わらぬ輝きを宿している。先刻の大勝負で少年への認識が「場慣れした客」から「凄腕の手品師」に改められたのだろう。
■アージェント・ルーフ > 「有難うございます~」
自分の技が認められ、少し頬を染める。先程の勝ち方もこの店の警戒リストに入っているであろう者の行動としてはなかなかに危ないものであったが、何も咎めは無し。眼前の男が煌々と輝く目を向けてきている手前ではあるが、安堵の溜息を吐く。
「あっ、そうだ…こちらをどうぞ~」
得意種目の一つであるブラックジャックをやった一つの理由、情が入ったこの男に何とか施しをしようとする為である。先刻は所持金が減るのを危惧していたが、今となってはその金が数倍に膨れている為、施しが可能となった。
ボクは綺麗にまとめられたコインの束から二枚のコインを手に取り、男の手に置いた。
■先駈将騎 > 「ん?これって……」
手渡されたコインに目を瞬かせる。
手本を見せてやったからこれで賭けてみろ、という意図ではあるまい。となると少年なりの慈悲といったところか。
「いや、気持ちはありがたいが……いいよ。どうせ大した金は持ってなかったし」
善意からの申し出であったとしても、差し出されたコインを受け取るのはなんとなく気が引けた。元々夕飯代くらいのはした金しか持っていなかったし、その程度の金額だったから止める間もなく泡のように溶けてしまったのだ。
男が心を静めようとしていた要因は、負けたショックではなくもう少し賭けてみないかと猫なで声のバニーガールにしなだれかかられたことへの動揺が大部分を占めていた。
「それに、今日はいいものを見せてもらったからな。負けた分を引いても十分すぎるくらいお釣りは来る」
バンダナの上からがしがしと頭を掻くと、男は歯を見せて笑う。闘技場で肩慣らしという目論見は外れたが、卓越した技を持つ漢に会えた。それだけで晴れ晴れとした心持ちになれるほど男は単純であった。
■アージェント・ルーフ > 「そうでしたか…まぁこれからはカモられないよう気を付けて下さいね?最も、今のイカサマを見せてしまった人からの発言じゃないんですけどね…」
返された金を受け取りながら、心配である、と目で語り掛ける。この場で金を巻き上げた者の台詞でないが、こう見えてもヒトがヒトであるが所以の感情は必要以上に持ち合わせている気である。そうして、コインをもう一度束に戻したところで中央にある時計を見て、もう遅い時間であることに気づく。
「もうそろそろ時間も遅いですねぇ…お別れとしましょうか」
そう言いながら、名前を聞くのを忘れていたというのを思い出す。そう考え、人気のない壁際で礼儀に倣う為帽子を外し、ここのカジノでは恐れられているであろう銀の髪と銀眼を露わにする。
「自己紹介が遅れた…というにはかなり遅れすぎましたかね~、ボクの名前はアージェント・ルーフ、ちょっとだけ技が使えるマジシャンですよ~」
最初で会った時とは違い、ボクの口調を全開にして自分の名前を相手に伝える。
■先駈将騎 > 「はは、肝に銘じておくよ」
親切な忠告に眉尻を下げて頬を掻く。闘技場がないとわかった以上、軽い気持ちでこのカジノに足を踏み入れることはもうないだろう。それでも行く動機があるとすれば――この少年とまた会ってみたくなった時くらいか。
「アージェント、だな。俺は将騎だ。先駈将騎。異邦人街のほうに住んでる」
簡潔に名を述べて、右手を少年の前に差し出す。施しではなく、敬意と親愛を示す証だ。
■アージェント・ルーフ > 「先駈将騎さん、ですかぁ、また今度出会った時には宜しくです~」
ボクは差し出された少しだけ日焼けした手と自分の色素が薄い手を合わせ、固い握手をする。その固さは僅かな時間で結ばれたものか、はたまた、感謝の気持ちで結ばれたものか。否、気持ちが通っている場ではそれを考えるのも無粋なのだろう。
「ではでは、また会った時には笑顔で顔合わせ出来る様に願っていますよ~」
ボクはそう言って、男―将騎さんに比べたら小さかった手を振りながら出口の方へ歩を進めていった。
ご案内:「カジノ「蓬莱」」からアージェント・ルーフさんが去りました。
■先駈将騎 > 「おう!また会おうぜ!」
固い握手を交わして、去り行く少年に元気よく手を振る。
(……さて。俺も帰るか)
ふう、と一息ついてから厳めしい大扉をくぐって通りへ出る。少し長居しすぎたのか歓楽街にはすでに夜の帳が下りて、あちらこちらで目映いネオンが灯り始めていた。
空の掌に少しばかり視線を落とすと、男は片手をポケットに突っ込んで夜の街を歩きだす。思いがけぬ縁の名残を残した右手をぶらつかせながら、男は上機嫌に口笛を吹いていた。
ご案内:「カジノ「蓬莱」」から先駈将騎さんが去りました。