2020/07/04 のログ
ご案内:「歓楽街 廃屋となった修道院」にマルレーネさんが現れました。
■マルレーネ > どうやら自分が求めた服装は、こちらの世界でも宗教色の強い恰好らしい。
何度も、私は別の世界で過ごしていたもので、ここの世界の信仰とは関係が無い、ということは伝えているのだが、あまり聞き入れてもらえない。
まあ、遠ざけられるよりはまだマシ、ではあるけれど。
「………ここですか。」
酒の匂いの強い裏通りにひっそりとある建物。
いや、あった建物と言った方が正しいか。
昔は祈りを捧げる場所だったその廃屋の前に、一人ぽつんとたたずむ金髪碧眼のシスター。
今日は、ここを使えるようにしたいというお願いである。
■マルレーネ > 彼女は人は良く、学もあまり無いが………バカではない。
あえてこの場所を、はみ出し者、余所者の自分一人に任せたのかは、推測がつく。
「ま、治安が良くなくて、直っても直らなくてもそこまでダメージにならないんでしょうねー。」
思わず本音が口からぽろり。こういうの慣れてますー、慣れてますけどー。
この試練割と頻繁に来るんですけどー。
るるーるー、と、少し物悲しい気分にはなる。
何かしらの"被害"に遭う可能性を考えれば………行くのは外部の人間ということになる。
肩を竦めて、一つ溜息。
まあ、やるんですけどネ。 古びた扉を開いて修道院の中に入って。
■マルレーネ > 「うっわぁ………」
酷い有様だ。窓ガラスは殆どが割られ、酒の缶や瓶がそこら中に散らばり。
長椅子はおそらく寝泊まりに使われたり、性行為にも使われたこともあるのだろう。様々なものが転がっている。
おそらく薬物だろう、と思われる注射器まで見える場所に転がっていて、聞きしに勝るといえばいいのか。治安の悪さを肌で感じる。
「……いや、一人て。」
思わず虚空にツッコミを入れた。まだ若いですよー、まだ若い淑女一人ですよー。
思う存分心の中で叫んだが返事は無かった。
とはいえ、ここを片付けて綺麗にすることがお願いであれば、……やらなければならない。よし、っと頬を一つ叩いて気合を入れて。
■マルレーネ > 何より、不法侵入ではあるし、犯罪の残り香は感じるものの………それは誰もいなかった建物を都合よく使っただけ。
直す邪魔をしに来る、というわけでもなさそうだ。
「まずはゴミを片付けましてー、っと。」
邪魔な長椅子は、よっこいせ、と担いで一度外に出す。
ついでに「修道院、懺悔・悩み相談・愚痴 なんでも受け付けます」と看板も立てておく。
この手の街の人は、不安・不満を抱えていることが多いのではないか。
そんなことを考えながらも、せっせと長椅子を運び出し。
■マルレーネ > ゴミを掃き集めて、燃えるもの、燃えないものに分けていって。
割れた窓枠は外して、代わりの窓が来るまでは木製の板を丁寧に打ち付けて。
床を拭いて。
壊れた扉の蝶番を直して。
せっせと働きながら、ぽたり、ぽたりと汗が落ちる。
こうやって全力で取り組んでいる時だけは、元の世界のことを忘れられるから。
寄る辺の無い状況で、彼女がすがることができるのは、自分が正しいことをしているという薄っぺらな価値観一つだけだから。
時折、衝動的な不安に襲われながら、そんな小さな木の枝一つでその不安と戦う。
身体の疲れで、精神をなんとか誤魔化しつつ。
ご案内:「歓楽街 廃屋となった修道院」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「歓楽街」に遼河 桜さんが現れました。
ご案内:「歓楽街」に常葉桜 柚依さんが現れました。
■遼河 桜 >
陽が傾き始めた頃の歓楽街
夜に向けてやや活気づき、あちこちで歓楽街の夜の顔が見えはじめる時間帯
「えー、じゃあ今度あそこのお店連れてってぇ♪」
身なりの良い中年の男の腕にしがみつくようにして通りを歩く赤髪の少女?の姿
人懐っこいその様子に男は気を良くしているのか、緩んだ表情のままに約束を取り付ける
──やがて男はタクシー乗り場にたどり着き、少女を誘おうとする、が
「うーん、ごめんねえ…うち門限が厳しくって…また今度、遊んでね、おじさん♡」
頬に軽くキスをして、お別れ
タクシーを見送る少女?の腕には色々と男に買ってもらったであろう紙袋が揺れていた
「──口クサる」
そしてタクシーが見えなくなると、道路にぺっと唾を吐き捨てた
■常葉桜 柚依 > 「ひゃー…この時間、やっぱりなんか不思議な感じだぁ」
そろそろ日も落ちるであろう時間帯、歓楽街に現れる少女。
きょろきょろと辺りを見回しながら歩くさまは、この場所に慣れていない事を物語っていた。
ふと前の方を見れば。見覚えのある姿。確か後輩の――
「さくらちゃん?わー、こんなところで会うなんて思わなかった!買い物帰り?今の人、もしかして…」
彼氏なのかな、と思いつつ反応を待つ。珍しいものを見た、という顔だ。
丁度唾を吐き捨てたところは見えていなかったのだろう、特に気にした様子もなさそうだ。
■遼河 桜 >
「ひーふーみー……5万ってトコか。かー、使えねー…。
アタマより財布緩めとけよ猿がよー」
手提げ袋を確認しつつ舌打ち混じりに呟く少女(?)
まぁ当面のメシ代にはなるか、と踵を返して……
「!?」
びっくり
こんな場所で出会うとは思っていなかった顔がそこにあった
確か、えーと、名前は覚えていないが、顔は見たことある…気がする
あまりにも他人のことに興味がなさすぎた
「あ、あれー?なんでこんなところに?
えーっとねぇ、今の人は…──」
さてどう誤魔化そうか…
どこから見られてたかにも寄るが
親の会社の人に送ってもらった…という言い訳が厳しいか、などと色々考える
■常葉桜 柚依 > 「買い物の後送ってくれる人がいるなんて優しいねぇ~
荷物多いからって車でなんて、何だか良いところの人っぽくて~」
発車した先程の車はタクシーだが、そこまで見ていなかったのか記憶力が悪いのか。
小さな先輩は、後輩の腕をこのこの~と拳で軽くぐりぐりしている。
「あたしはねぇ…えへへ、皆がここの話よくするから 夕方からどんな感じなのかなぁって散歩しながら見てた感じ…かな?」
ギャルグループに入っているせいか、歓楽街で遊び歩く友達も多いのだが、今の今まで日和って来られなかったのだ。
一人で見に来たのはちょっとした意地だったりする。
「さくらちゃんはよく来るのぉ?こういうところ」
■遼河 桜 >
「えー、あー、そ、そんなんじゃないよっ。
私彼氏とかいないし…あの人はお父さんの会社の人で、送ってくれただけー」
とりあえず誤魔化せ誤魔化せ、と口から出任せ
──なるほど、こんな場所で…とは思ったけれどそういうことか、と納得
やや、ビジネスがやりづらくなったな…なんて内心思いながら
「そ、そーなんだぁ。一人だと危ないよ?落第街も近いから色んな人がいるし…
んーん、私はたまにこうやって誰かと買い物に来たりするだけー」
もちろんこれも大嘘だ
むしろ夜更けてからこそが本領
夜の街でバカを騙して金蔓にする日々です、なんてことは表にはさすがに出せない
■常葉桜 柚依 > 「あ、そうなんだぁ!親切な人なんだねぇ」
ほんわりと納得の姿勢。あまり深く考えないタイプなのか人を疑わないタイプなのか、それ以上の追及はしないだろう。
「だ、だよねぇ…おっかないところだとは聞いてたんだけど~…他の子に言うと、ビビってるんじゃないかって思われそうでねぇ
そうだ、それならっ」
名案を思い付いた、と顔を上げて。
後輩の手を取ってにこりと笑う。
「さくらちゃん、この後時間ある?ちょっと、歓楽街の案内してほしいなぁ」
なんて、だめかな?と首を傾げている。
■遼河 桜 >
はァーア?イヤに決まってんだろうがお花畑がテメーに時間使ってやるほど暇じゃねーんだよ脳みそパンケーキかァ!?
と言う言葉を必死に飲み込んで笑顔をつくるサクラ
「で、でもそろそろ夜になっちゃうし、ほら歓楽街って大人のマチだし…?
誰もビビってるとかなんかでバカにしたりはしない‥と思うナー…」
女の子二人で歩くのって危なくない?かな?
なんてぶりっこモーションしながら一応のクギを刺すものの…
それ名案だ!って顔で言うことか!?とぐぐっと握り込んだ手に力が入る
でも笑顔は崩さない、スマーイル
■常葉桜 柚依 > 「そ、そうかなぁ?慣れてる子が多いから、あたしもそろそろ頑張らないと…!と思っててねぇ」
実際パパ活をしているような子もいるんだろう、その度胸はないけれど、柚依は見栄を張るタイプなのかもしれない。
そしてそれにつき合う義理は君にはないだろう。断ってもいい。
「危なくなる前に帰ればだいじょうぶだと思うし、あれなら入口近くだけでもいいし…!ね、ね?」
それは果たして案内と言えるのか?ただのおしゃべりになりそうだ。
笑顔のあなたを見れば、頼み込んだら行けるんじゃないかと思っているのだろう。おろか。
■遼河 桜 >
頑張りたきゃソロで勝手に頑張ってチンパンジーどもと仲良くしてろよカスが!
…という言葉はやっぱり必死で飲み込むサクラ
下手に学校で面が割れている、というのが具合が悪い
ナニカあったら叩かれれば埃が立つ身だ
そしてだらだらしていると、本格的に夜の街になってしまう
そうなると何が困るか…というと、サクラの取り巻きの2級学生達が活動を開始してしまう
そうなると色々とややこしい+面倒臭いことになるのだ
「そっかぁ、じゃ、じゃあバス停辺りまで歩こっかあ~」
ストレスフルなこの状況をなんとか脱したいサクラは笑顔を引きつらせないよう頑張って、そう言葉を掛けると先に立って歩きはじめる
■常葉桜 柚依 > 心が読める異能でなくてよかったというべきか、読めた方が良かったのではないか?というべきか。
彼女は何も知らず、知り合いの後輩のお誘いに乗る事だろう。
「危ないところでも、構わず歩けるような力があったらなと思うんだけど。ないものはないもんねぇ」
そうすればここまでお手数かけることもなかったかもしれない。いや、それでも知り合いがいたら誘っていただろうけれど。
さらっと先を歩く後輩と腕を組んで、ルンルン気分で歩いている。
これを振りほどくのは自由だ。
「そういえば、今日は何買ったの?お洋服?」
さくらちゃん、いつもいいところの服着てるもんね~と世間話。
■遼河 桜 >
とりあえずここまで顔を覚えられているなら、マークしておかないとマズい
他人に興味がなさすぎて名前を把握していないがどうやら先輩のようだった
「女の子だもん。誰かに守ってもらって歩けばいいんだよっ♪」
自分で言ってて吐き気のするセリフを宣いながら、さてどう名前を聞き出すかと思案
気がつけば腕を組まれて浮足立って歩く相手にやや辟易しつつも振り解くのもキャラじゃない
「そういえば先輩ーって呼ぶのもなんかだよね。普段どんなニックネームで呼ばれてるの?」
これだ!!とりあえずあだ名がわかればあとはいくらでも調べがつく
あとは他愛ない話をしながらバス停に辿り着けばミッション終了だ
「そうそう、お洋服とかアクセサリーとか香水とか♪」
腕を組んでいるとフローラルな香りが漂う
気品がありつつも落ち着くような、優しい柑橘系の香り
■常葉桜 柚依 > 「名案かも~、守ってくれる人探さないといけないねぇ」
そんな人がいたらいいけどねぇ、彼氏作らないといけないのかな。何て内心を知ることなく無邪気に笑って。
「ゆえ、が多いかなあ。あとは苗字からとっきー、とか、たまに桜って呼ばれたりするかな」
さくらだと被っちゃうね。と結んだ髪を揺らし楽しそうに口にする。
何となく名前の全体像がふんわり把握できるだろうか。
「あ、確かに良い香りする~、あたし甘い香水しか使わないから新鮮かも。
今度お店教えてほしいなぁ」
彼女からはふんわりと、バニラ系の香りが漂うだろう。
混ざりあって不快にならない程度にほんのりと。
■遼河 桜 >
「じゃ、ゆえ先輩って呼ぼうーっと♪」
明るい言葉を返しながら、内心は悪魔の微笑み
ツラは覚えた。身体的特徴と、まぁあだ名がわかればとりあえず探れるだろうと
「うふふ、いいけど高いよ~?」
便利な男(と書いてATMと読む)がいるからこそ利用できる店ばかり
最も歓楽街のお高いお店はだいたいそうかもしれないが…
「つよーい異能者の彼氏なんかいたら、安心だよねえ。
──よかったら今度紹介しようか?お友達に、結構イケメンもいるんだ~」
クス、と口元に笑みを浮かべる
自分の取り巻きの一人に手綱を握らせておく、というのも良いかもしれない
この街での、夜の活動に不都合が出る可能性…その芽は監視しておかなければいけない──
■常葉桜 柚依 > 「わぁい、これからいっぱい名前で呼び合おうねぇ」
そんなことを考えられているとは露知らず。また一人仲の良い後輩のお友達が出来たことを嬉しく思っている。
「うっ、じゃあお小遣いが溜まったら…!それまでのお楽しみにしておこうかなぁ…」
まだバイトをしていない学生に、高いお買い物は難しい…!
今は話を聞くだけにとどめておこうと思った。
ウインドウショッピングするにしろ、お金はあるに越したことはないのだ。
「え、本当?嬉しいなぁ、仲良くなれたらいいな」
小さな体に似合わず大きなモノを持った身体だ。
この街に入り浸るような人間には気にいられるとは思うが、後輩の友達が"いい人"だとは限らない。そこまで考えが回らないのが、危機感のない人間だということを如実に物語っているだろう。
そうこう話している間に、バス停が見えてくるだろうか。
今日の偶然の出会いもそろそろお別れの時間のようだ。
■遼河 桜 >
なんの危機感もなく
なんの猜疑心も持たず
『顔を知っている』からといって、警戒せず……
夜の街において、更に落第街においては
そんな女の子は『カモ』と呼ばれる
「ゆえ先輩、きっと気に入ってもらえると思うなー」
男好きのするカラダだし、騙しやすい女は皆大好きだからな
そんな副音声が聞こえてきそうな、内心
「ね、ここまで歩くだけでもイッパイ色んなお店あったでしょ?
まだ開いてないお店もたくさんあるけど、そのあたりは学生のお小遣いじゃ厳しいかなー…」
お酒を出してるお店もあるしね、とバス停に到着すれば、その足を止めて
■常葉桜 柚依 > 今まで明るい世界で生きすぎていた純粋な少女。
海が好きで、友達も多く家族とも仲良く前向きに暮らしていて。
今日、この歓楽街に入って後輩に出会ったことで、穏やかでない日々への扉に手を掛けてしまった。
だが、きっとそれでも彼女は変わらないのだろう。正確には"変わってしまったことに気付かない"のだろうが。
「じゃあ、今度紹介してもらえるの 楽しみにしてるねっ」
合コンのようなものと思っているのだろう、その時は呼んでねと笑っている。
「バイト、考えなきゃかな~…お洋服とか、いっぱい買いたいもんね。お菓子もいいもの食べたいし…!
と、そうだった」
ぐぬぬ、と唸る。社会経験も出来て一挙両得だ。バイトを始めるきっかけにはちょうど良いだろう。
思い出したかのように、バス停に自分の手をピースの形にしてかざす。その光景をスマートフォンで撮影するだろう。後ほどSNSにあげるのだ。イマドキ女子。
「今日は突然だったけど、さくらちゃんありがとうねぇ~!
さくらちゃんも、暗くなるから気を付けて帰ってねぇ」
■遼河 桜 >
「うん、約束ー」
屈託のない、人懐っこい笑顔
ほとんどの男は、女も、騙される、そんな顔
「ちゃんと連絡するー。あ、連絡先交換しておこうね──」
ピンクの手帳タイプのスマホケースを取り出して、手慣れた様子で連絡先を交換する
──これで、鎖も繋がった
「うん。ゆえ先輩も気をつけて──バイト見つけるといいね!」
ひらひらと手を振って、離れてゆく
──やや遠目に確認できる距離になった頃、そっと振り返って…バスを待っているであろう先輩の姿を確認する
「──ま、あーゆー女は小遣い稼ぎに向いてるよなァ」
スマホの連絡先をくるくるとスクロールさせてゆく
その中には、いくつかの違反部活の名前も混じっていて……
「オトコは、ちゃーんと紹介してやるって、そのうちな」
そう呟き、歓楽街の賑わいの中へと姿を消した──
■常葉桜 柚依 > 「ありがとう、またあたしからも連絡するねー!
また学校でね、さくらちゃん!」
ばいばーい、と離れていく後輩に暫く手を振って。
落ち着いた頃に簡単な加工を施して、SNSにアップする。
『初めての歓楽街~!ちょっと緊張した!#後輩と #また来るね』
満足すれば、スマートフォンをしまい。
「いい子だったなあさくらちゃん。今度はもっとゆっくり話したり出来るといいなぁ」
呑気にそんなことを思いながら、バスに乗って学生居住区へと帰っていくだろう。
ご案内:「歓楽街」から遼河 桜さんが去りました。
ご案内:「歓楽街」から常葉桜 柚依さんが去りました。
ご案内:「歓楽街」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 夜の歓楽街。咥え煙草のヨキが、通りの隅に佇んでいる。
雨上がりの週末、往来は活気に満ちていた。
店の客引きにしては、誰かに声を掛ける気配はない。
ナンパ狙いにしては、男も女も平等に目をやっている。
外見の身綺麗さは夜の街に相応しいが、その佇まいはどこかやはり教師然としている。
ヨキを知ってて声を掛けてくる者があれば、目が合った途端に視線を外す者もある。
実際に教えているにせよ、いないにせよ、彼ら彼女らはみなヨキの“教え子”なのだ。
そういう人通りを、ただ眺めている。
ご案内:「歓楽街」に日下部 理沙さんが現れました。
■日下部 理沙 > 「げ……」
露骨に「会ってしまった」という顔をするのは……背中に翼を生やした研究生、日下部理沙。
眼鏡の奥の青い瞳を顰め、後ろで軽く結んだ茶髪を揺らしながら……理沙はその「良く見知った恩師」と目を合わせてしまった。
「あ、あー……お久しぶりです、ヨキ先生」
控え目に、頭を下げる。
何処か気まずそうに。
いや、気まずい事など何もないのだ。
以前より会う頻度は減ったとはいえ、別に全く会わないわけではない。
少なくともお互いの近況をある程度報告できる頻度では会っている。
とはいえ、久しぶりに違いはなかった。
その程度には……以前会ってから間が空いていた。
「相変わらず、見回りですか?」
分かり切った問い掛けをする。
「今日はいい天気ですね」と大差ない。
理沙は自分のボキャブラリーの無さを呪った。
■ヨキ > 「おお、日下部君ではないか」
目が合った。ヨキはその大きな瞳でしっかりと理沙を見つけてしまった。
学生だった理沙と師弟の縁を結んで以来――それが解かれた後も、ヨキは彼のことを気に入っていた。
悪霊めいたヨキの甘い毒から逃れ得た、この日下部理沙という青年を。
気まずそうな理沙に反して、こちらはにこにこと変わらない笑みを浮かべている。
腕を組んで煙草を指先に取り、相手へ被らない方向へ煙を吐き出す。
「そうだ。季節の変わり目には、良いことも悪いことも多いからな。
君の方こそ、斯様な場所で会うとは珍しい。
ついに夜遊びを覚えたか――それとも何か、ゼミの一環か?」
■日下部 理沙 > 「覚えるわけねーでしょ!
相っ変わらず、アンタの冗談は返答に困りますね……!」
露骨に舌打ちをする。理沙はこの教師の前ではあまり素直になれない。
いや、むしろ、こちらの方が自然体とも言えないでもない。
少なくとも、理沙が「アンタ」などと呼ぶ年上はヨキ以外に存在していない。
それくらいには……色々あった相手であり、恩師である。
ヨキが居なければ今の理沙はない。
それくらいには……世話になった。いや、今だってなってる。
とはいえ、それが素直に認められるほどに理沙は大人では無かった。
「……個人的な用事ですよ」
そういって、了承もなく隣に移動して、またしても了承もなく煙草に火をつける。
二人並んで紫煙を吐き出して……理沙は気難しそうな顔で言葉を吐き出した。
「人探しですよ。まぁ、空振り続きですけどね」
■ヨキ > 「くく、ふ、ふふ……いや、失敬。
君も遂に大人になったかと、『先生』としては嬉しくなってしまってな。
真面目な君のままで居るのも、それはそれで好いことだ」
隣り合った理沙の言葉に、ほう、と相手を見る。
「人探しと来たか。
それはまた、この広い島の中では大変そうな仕事だ」
こうして話している間にも、幾人もの人びとが二人の前を通り過ぎていく。
「君の知己か、それとも頼まれごとか?
どのような経緯があって、その相手を捜しておるのだね。
よかったら、ヨキに話してみんかね。
君の困りごととなれば、黙っては居れんでな」
ヨキはそういう教師だ。
理沙からどんなにつれなくされようとも、見過ごす素振りも見せない。
■日下部 理沙 > 「……」
物凄く、物ッ凄く嫌そうな顔をする。
いや、別に心底嫌なわけじゃない。
むしろ、嬉しいところもある。かなりある。
理沙にとって、ヨキは一度身を離した相手だ。
自立したと言い換えたいところだが……それを堂々と言えるほどの図々しさは、流石の理沙にもなかった。
故に、強いて言語化するなら……「べったり甘えて心酔しないように距離を取った」と言うのが、まぁ、おおむね適切だ。
そんな「失礼」を働きたくなかったからだ。
理沙にとってヨキは恩師だ。何度でもいう。恩師だ。
故にこそ……理沙は、この恩師と「一人の男」として向き合いたいのだ。
いつまでも甘やかされる子供ではカッコが付かない。
いや、そう考える事こそがヨキからすればまだまだ「子供」という事なのだろうが……それにしたって、理沙からすれば申し訳ない。
折角、「教え」を受けたのだ。自立しなければ示しがつかない。
故に、ここでまるきりヨキに頼っては「あんまり」だ。
しかし、行き詰っていることも事実であり……何より
「……学術大会での異邦人の暴力沙汰、知ってますよね」
日下部理沙は、ヨキと話がしたかった。
この懐の深い恩師と。知己の彼と。
話が……したかった。
結局、それには抗えなかった。
……抗うのも違うと思った。
自立する事と、徒に突き放すことは絶対に違う。
だから、出来る限り……「ヨキという個人と話をする」と意識をして、理沙は話をつづけた。
「あの異邦人を……探してるんです」
■ヨキ > 「ああ。異能学会でオークが暴れたという、あの一件か」
ヨキもまた、ニュースでその一報を聞いていた。
「……その異邦人を? それはまたどうして」
興味深そうに目をやる。
口の傍に持ったままの煙草が、香のように煙を細く立ち上らせている。
「あの騒ぎでは、確か怪我人も出なかったろう。
風紀委員会に拘束されたと聞いたが、それきり続報は聞いていないな。
探し当てて、どうするのだね。
そのオークに、何か訊きたいことでも?」
小首を傾ぐ。
■日下部 理沙 > 「……わかんないですよ、それもまだ」
紫煙を燻らせながら、理沙は答える。
視線は揺れていない。曇ってもいない。
だが、そこにあったのは……悔恨のような微かな光だった。
ネオンの反射する歓楽街。
道行く人並みの流れを睨むように見つめながら、理沙は煙草の灰を携帯灰皿に落とす。
「訊きたいことは一杯あるんです。喋ってみたいことも一杯あるんです。
でも、そのどれもが取り止めが無い上に……もう、何となく結果も分かってるんですよね。
きっと、どれも届かない。
きっと、どれも伝わらない。
きっと、どれも……傷付ける」
調査の過程で……理沙はオーク種の特徴についてはある程度詳しくなっていた。
武威に優れる種族であり、実際的な結果を重視する種族。
誇り高く、武に真摯で、『その結末』こそを誉とする。
それが文化によるものなのか、それとも逃れ得ない種族的本能であるのかはまだわからない。
資料が足りない。
いや、何より。
「……彼個人を個人として見れる自信がないんです」
理沙の中の偏見を……理沙はまだ見つめ切れていなかった。
いや、いってしまえば……こうして血眼になって探している時点で、「特別扱い」していることは確かでしかない。それこそがもう立派な偏見だ。
奇異の目を向けていると言われても全く否定が出来ない。
しかも……よりによって、行動動機は理沙個人の義憤と学術的興味とやるせなさが源泉だ。
どれもこれも……礼節のある動機とは言えない。
どれもこれも……まるで相手に寄り添ってない。
言い訳すらできない。
そう、言うなれば。
「……俺の『偏見』が、彼を『探せ』といってるんですよ、多分」
全て、己のワガママ。
しかも、恐らくは最低な類。
「自分は頑張りました」と自分や周囲に言いたいだけ。
……理沙には、そう思えてならなかった。
「見苦しいなって……自分で思ってやめられないんだから、始末に負えないですよ」
零れた言葉は……悔しさに満ちていた。
■ヨキ > 理沙の瞳の奥を見据えるような視線。
見守るでも、引き出すでもなく、彼自身の内側から言葉が沸き上がってくるのを待つように。
「…………。
確か、壊されたのは『階段の手摺』だったな」
彼の言葉をすべて聞いてから――ぽつりと、口を開く。
「この島の学術大会と言えば、風紀委員の警備体制も万全だ。
あの場に入れる立場の者が、そのような騒動を起こすなど。
ヨキには、何らかの悲鳴に思えてならない。
誰をも傷付けず、『手摺だけを』破壊する。
ヨキはそこに、かのオークの理性と理知を思った。
そして、そうすることでしか『何か』を訴えられなかった、異邦人としての混乱を」
煙草をひと吸い。煙を吐き出して、一拍。
「そのオークを『騒ぎを起こしたオーク』としてしか見られないのなら、捜すのは止した方がいい。
彼の内面を『こうであろう』と想像するなら、その考えにはブレーキを掛けた方がいい。
君のやりたいことは、“取材”か? それとも“対話”か?
止めることが出来ないのならは、まずは冷静に見据えることからだ」
■日下部 理沙 > 「……それも、自信をもってまだ答えられません」
“取材”か? それとも“対話”か?
口先ではいくらでも答えられる。
対話がしたいと。話を聞きたいと。その悲鳴の理由を教えて欲しいと。
だが……それが本当に『対話』だろうか?
「俺は言葉を使わなければ……相手の事なんてわかりません。
いや、使ったってわからない。表層が少し攫えるだけです。
普段はそれでいいんだと思います。
この社会は……会話を前提に作られているから」
言葉が万能でない事など誰もが知っている。
同じ言葉、同じ単語、同じ会話ですら……擦れ違う事などそれこそ日常だ。
そう、いうなれば……常識だ。
そして、その常識は……前提が違えば容易に偏見へと様変わりする。
「だけど、彼はその言葉を放棄したんです。
放棄してまで『伝えたかった事』があるんです」
それを……理沙はまだ察することが出来ていない。
想像くらいはできる。
だが、その想像が偏見でしかない事もまた、理沙にはわかっていた。
……言葉を用いようとする時点で、もうコミュニケーションは取れないのではないか?
相手がそれを……望んでいないのだから。
「……それを言葉で暴こうとすること自体、もう冒涜じゃないかって」
それは……強制だ。
ただの暴力だ。中でもいっとう始末が悪いものだ。
まだ、剣を振るって敵として前に立つ方がマシなくらいだ。
「……そこまで、わかっても、いや、わかったつもりになっても……」
理沙は……歯を食いしばる。
それしかできない。
「……手も足も、止まらないんです」
今、『こう』しているように。
「冷静に考えるって……どうするんでしょうね、ほんと」
■ヨキ > 吸い終えた煙草を、携帯灰皿へ。
二本目を取り出すことはしない。
身体は正面の往来へ向けたまま、顔だけで理沙を見る。
「……異邦人は、この地球の言葉が通じぬことが殆んどだ」
周囲は喧騒に満ちている。
人びとの話し声。店舗から流れるBGM。スピーカーから流れる音声。
「発声される言語、身振り手振り。
それらが伝わらないことは、今の我々にはそれなりの覚悟と想像が出来る。
真に恐ろしいのは、『伝わりそうで伝わらないこと』だ。
それはまるで、怪物とでも相対したような恐怖さえ起こさせるだろう。
そのオークはきっと、少なくとも二度傷付いている。
一度目は、この常世島へやってきたその日に。
二度目は、学術大会へ出席するほどにこの社会へ交ざりながら、力でしか訴えることが出来なかったときに。
……異邦人は、誰しも多かれ少なかれ傷を負っている。
地球人に出来ることは、その傷と如何にして寄り添っていくかだ。
近付くだけで毒となり得ることを覚悟しながら、それでも。
ヨキはそれでたくさん傷付いたし――地球人の心を傷付けたもした。
冷静に考えるとは、手段と対策を講じ、それらが通用しなかったときも別の術を思い付けること。
覚悟を決めるとは、いっときの興味ではなく、人生と時間を掛けて相手と付き合っていくこと」
目を伏せる。
「自分の手段が相手を傷付けると想像するなら、相手が有利になる手段をもまた講じることだ。
たとえば、君がオークの言葉を解し、相手が話し易い場を作るなどしてね」